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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻10号

1977年09月発行

雑誌目次

薩摩における医学教育

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.1001 - P.1002

 各地に医大新設が続いているが,わが鹿児島大学もいよいよ中年に達する.鹿大は既設の高等学校,師範学校,農林・工業・水産・医学の各専門学校が,戦後,結合・改組され法文・理・教育・農工・水産・医の7学部と教養部を擁する新制大学として発足した.それから30年を閲して男子としても「立つ」年齢に達したといえよう.近く歯学部の設立を加えて,8学部の堂々たる綜合大学となる.
 鹿大医学部は昭和17年(1942)建議,翌18年開設の医学専門学校に端を発し,医大,医学部と発展し,49年,現キャンパスに研究棟・病院ともに新築移転した.本年で開学33年を迎える.33年の歴史といえば短いようでもあるが,実は,薩摩には,時代の動乱のあおりを雲ともに受けた変転きわまりない医学教育の歴史があった.

総説

聴神経鞘腫の神経放射線学的診断

著者: 伊藤寿介 ,   原敬治 ,   谷村憲一 ,   井上啓一 ,   中井昴

ページ範囲:P.1003 - P.1020

Ⅰ.はじめに
 神経放射線学,神経耳科学,Microneurosurgeryの進歩によって聴神経鞘腫の早期診断,早期手術が行われうるようになったが,必ずしも患者が早期に受診するとは限らず,かなり大きな腫瘍となってはじめてわれわれの所へ送られて来る場合も少なからずあるというのが現状である.
 聴神経鞘腫の診断における神経放射線学の果たすべき役割は,腫瘍が非常に小さい場合にはその存在を確認することであり,臨床的に腫瘍の存在が明らかな場合には周囲脳組織との関係,腫瘍への血液供給の関係を明らかにし,手術操作の決定に寄与することであると考えられる.前者の目的で内耳道撮影およびcerebello-pontine cistern,internal auditory canalのpositive meato-cisternographyが行われ,後者の目的のためにvertebralangiographyが行われることになる.ゆえにcontrast studyの適応としては,臨床的に第8神経のみが侵されていればpositive meato-cisterno-graphyがfirst choiceであり,第8神経以外の脳神経が侵されていたらvertebral angiographyがfirst choiceで,それで確診がつかなければpositive meato-cisternographyを行うべきであると思われる.

手術手技

Hemangioblastomaの手術

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.1021 - P.1026

 脳のhemangioblastomaは稀な腫瘍で,脳腫瘍の1-2%を占めるにすぎない.しかしながら,hemangioblastomaは良性腫瘍で,しかもその大部分は小脳半球内に存在し,嚢胞を形成することが多く,手術摘出術も容易なものが多く,全摘出が可能で,神経学的脱落症候を残さずに永久治癒の可能性の多い腫瘍である.しかしながら少数の,脳幹とくにarea postremaを中心にみられるhemangioblastomaは,実質性で嚢胞を形成せず,脳幹から切離する操作もむずかしく,たとえmicrosurgeryによっても,神経学的脱落症候を残さずに全摘出することができる例は稀れである.
 脊髄のhemangioblastomaは,選択的脊髄動脈撮影法の普及とともにその診断も正確となり,手術による摘出術が行われる例も増えてきた.

診断セミナー

Exophthalmos(眼球突出)・1

著者: 諌山義正

ページ範囲:P.1027 - P.1032

Ⅰ.眼球突出のterminology
 眼球突出には,exophthalmosとproptosisの2つの用語がある.Proptosisは,外傷によって起こる眼球突出を意味し,exophthalmosは腫瘍などによって起こるものと区別されていたが,19世紀後半からは,両者ほぼ同義に使用されるようになった.

研究

外側型脳出血の機能予後—神経放射線学的作図法

著者: 藤津和彦 ,   藤野英世 ,   山下俊紀 ,   桑原武夫 ,   小田正治 ,   金一宇

ページ範囲:P.1033 - P.1040

Ⅰ.緒言
 外側型脳出血の麻痺の予後を決定する最も重要な因子は内包後脚の破壊の程度である.内包後脚への血腫の進展の程度の目やすとしては,従来から脳血管撮影前後像における外側線条体動脈の内側偏位が重視されている.しかしながら,血腫がmass effectとして内包を変形,伸展,破壊する要素は注目されていない.たとえばFig.1左に示すごとく,外側線条体動脈の内側偏位が同じであっても,mass effectの大きい方が内包後脚に対して強い影響を与え,破壊も当然大きくなることが予想される.反対に,Fig.1右に示すごとく,線条体動脈の内側偏位が同程度であっても,血腫のmass effect1皮質側に存在する方が,内包に対して影響が少ない.したがって,血腫の進展による外側線条体動脈の偏位のほかに,mass effectが内包後脚に与える影響を考慮に入れることが,麻痺の予後を判定するうえに重要であると考えられる.
 そこで我々は,上記,両者の要素を考慮に入れて,内包後脚の破壊の程度を知るため,以下に述べるような方法を考案した.すなわち,血腫の内包後脚への直接進展の程度を外側線条体動脈の内側偏位でとらえ,mass effectによる内包後脚の伸展,変形は内包後脚外縁の仮想線を作図することにより,とらえた.この両者の位置的関係により,Grade I-Vの5段階に分類した.

Ratにおけるcompression cerebral ischemia—その1.pathophysiology

著者: 川上千之 ,  

ページ範囲:P.1041 - P.1046

Ⅰ.はじめに
 従来より脳は低酸素状態および虚血に対して非常に抵抗性の低い器管といわれており,Weinbergerら26),Kabatら13)は十分な機能の回復しうる脳虚血の時間は3-4分であると報告している.しかしながら最近Hossmannら9,10)が実験的脳虚血において1時間にわたる長時間の虚血後にも良好な電気生理学的および生化学的回復を認めて以来,脳の虚血に対する抵抗性について再検討がなされつつある.実験的にはすでに多くの脳虚血モデルが報告され.生化学的,生理学的,病理学的知見が集積されつつあるが機能的回復の機構や限界についてはいまだ明らかにされてはいない.
 筆者らは従来報告されているモデルの内,手術が簡単で,小動物にも用いうるモデルとしてcompression ischemiaを白鼠に行い,生理学的,生化学的および局所脳循環の観点から検討を加えた.筆者らはこの一連の実験において他のモデルの場合と同様に全身的な条件が脳虚血後の機能回復に重大な影響をおよぼすことを見出した.筆者らの採用した実験モデルにおいては人工脳脊髄液を大量に大槽内に注入するため著明なoverhydrationをきたし,それと頭蓋内圧亢進開始期のvasopressor responseとが相まって重篤な呼吸循環系の障害をきたし,致死的な経過をとる場合があるので,筆者らは高張液による腹膜灌流法を用いてこのモデルの欠点を改善した.

ヒト胎芽における脳脊髄液循環路の発達

著者: 苧坂邦彦 ,   松本悟 ,   安田峯生

ページ範囲:P.1047 - P.1055

Ⅰ.はじめに
 従来脳脊髄液は主として脈絡叢より産生され,くも膜顆粒より吸収されると信じられ,水頭症の分類さらに治療もこの考えにそって進められてきた.しかし最近,灌流法またはアイソトープを用いた研究などによって脳脊髄液は脈絡叢以外からも産生され,くも膜顆粒以外の場所でも吸収されるとの考えが有力になってきている1,12,13,16,19,21).脳脊髄液産生および吸収場所ならびにその機序に関してはすでに膨大な研究がなされてきたが,この問題に対して発生学的見地から考察を加えた研究はほとんどない.脳脊髄液循環路の胎生学的研究は,脳脊髄液産生吸収機転の解明に有力な手段となるのみならず,Gardnerのhydrodynamic theorys8,9)など中枢神経系奇形発生機序の理解にも必要不可欠である.

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第9報)—髄液中PRL濃度について

著者: 松村茂次郎 ,   森信太郎 ,   吉本尚規 ,   大田正博 ,   魚住徹 ,   滝本昇 ,   渡部優 ,   最上平太郎 ,   宮井潔 ,   大西利夫 ,   熊原雄一

ページ範囲:P.1057 - P.1063

Ⅰ.緒言
 radioimmunoassayを用いた下垂体ホルモンの測定と視床下部ホルモンの臨床応用は間脳下垂体疾患の診断,病態の解明に飛躍的な進歩をもたらした.我々も1972年2月に下垂体およびその近傍腫瘍症例に対する下垂体ホルモン測定を中心とした内分泌学的検討を開始して以来,これまでに得られた知見を順次報告1,2)してきた.
 しかし,これまでに我々が行った検討をも含めて従来の報告は主に血中の下垂体ホルモン濃度を測定して得られたものであり,頭蓋内の主要なcomponentのひとつである脳脊髄液に含まれる下垂体ホルモンに関する知見は数少なく,その臨床的意義も明らかにされていない.

症例

頭部外傷に起因する一次性両側動眼神経麻痺の1例

著者: 藤野秀策 ,   深井博志 ,   梅田昭正 ,   筒井純

ページ範囲:P.1065 - P.1069

Ⅰ.はじめに
 頭部外傷に由来する眼筋障害,眼球運動神経.麻痺には直達外力により受傷直後に発生する一次性障害と,脳ヘルニヤなどに起因する続発性の二次性障害に分けられる.これらの多くは内眼筋,外眼筋,あるいは眼瞼挙筋.眼輪筋などの片側性の部分もしくは複合障害であり,両側性のものはまれである.
 一次性両側眼球運動神経障害は少ないものであるが9,10,12,18),とりわけ両側性動眼神経麻痺が頭部外傷の一次性損傷としてみられたとの報告はまれである2,8,10,12,18)

眼前暗黒発作と視力障害のみを自覚症状とした両側内頸動脈,左椎骨動脈閉塞症の1例

著者: 高良英一 ,   清水隆 ,   門脇弘孝 ,   小林直紀 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1071 - P.1077

Ⅰ.はじめに
 脳血管閉塞性疾患が脳血管障害のうちで占める頻度はきわめて高く,とくに高齢者に好発し,脳神経外科医もしばしば遭遇する.症状は,年齢,基礎疾患,閉塞部位および側副血行路のいかんにより,無症状のものから突然の死に至るものまで多彩である4,6,1,19)
 われわれは,40歳の女性で頭蓋外において両側内頸動脈および左椎骨動脈が完全に閉塞を起こしているにもかかわらず,左眼の眼前暗黒発作のみを症状とした症例を経験した配本症例は,脳血管撮影所見より稀な,かつ多彩な側副血行路を有し,また右椎骨動脈にも閉塞を疑わせる所見を有していた.本症例におけるよく発達した多彩な側副血行路,およびその発生原因について若千の考察を加えて報告する.

頭蓋内osteochondromaの1例

著者: 氷室博 ,   鈴木均 ,   竹山英二 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1079 - P.1083

Ⅰ.はじめに
 頭蓋および頭蓋内に発生するchondromaあるいはosteochondromaはまれな腫瘍である.
 Russellによるとその多くは頭蓋穹窃隆部より発生するという.本邦でのこの腫瘍の報告は最近になって坂田ら10),斎藤ら9)によりはじまり現在までに10数例を数え,比較的頭蓋底部より発生する方が多いようである.われわれは8年の経過をとり,手術により組織学的に確認された右傍鞍部osteochondromaの症例を経験したので報告する.

浅側頭動脈—中大脳動脈皮質枝の吻合手術後に起こった小脳内血腫

著者: 江口恒良 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.1085 - P.1088

Ⅰ.はじめに
 浅側頭動脈(STA)—中大脳動脈皮質枝(cortical MCA)のbypass surgeryはcerebral ischemiaの治療において,今や確固たる位置を占めている.このbypass surgeryは,我々のクリニックでは,1967年の10月以来(Yasargilによる最初の手術10))今日まで,76の症例に行われ,世界では,その数500以上を数える2).そしてこの手術に関する利点がこれまで数多く報告されてきた.手術死亡率は非常に低いと言われ(3%以下)11),術後合併症が少ないこともまた良く知られていることである.
 最近我々のクリニックにおいて,bypass surgeryの術後合併症として,小脳内血腫(剖検にて確認)を起こし,術後2日以内に死亡した2例を経験したので,ここに報告し,あらためて,この種の合併症に注意を換起したいと思う.というのも,小脳内血腫は,迅速適確な診断,手術処置により治療できるものがあるからである7)

造影剤のextravasationにより診断された急性後頭蓋窩硬膜下血腫の1例

著者: 若井晋 ,   青木信彦 ,   水谷弘 ,   高良英一 ,   金井清次

ページ範囲:P.1089 - P.1094

Ⅰ.はじめに
 外傷性後頭蓋窩血腫は比較的まれなものとされてきたが最近,本疾患群に注目が払われるようになり,報告例も増加してきた.しかしそれでも硬膜下血腫は,硬膜外血腫に比べてよりまれなものとされており,Ciembroniewicz1)によると全硬膜下血腫の0.57%,McKissock8)によると0.5%,Munroら12)によると1.1%の頻度であると報告されており,我々が通常経験する天幕上硬膜下血腫に比べるとはるかに少ないと言わざるを得ない.ちなみに硬膜外血腫はMcKissockら9)によると後頭蓋窩血腫中,硬膜下血腫の約10倍の頻度で発生するという.
 本邦では現在まで著者らの知りえた範囲では,剖検例も含め16例であった5,6,11,13,14,15,18).これまでの報告では急性,亜急性,慢性例が一括して扱われてきたが,急性例と亜急性,慢性例では,症状,臨床経過,治療などの点で明らかな相違があり,我々はこれらを別々に論ずべきであると考えている.最近我々は,外傷後3時間で昏睡となり5時間で呼吸停止をきたし,椎骨動脈写にて造影剤のextravasationを見,術前に硬膜下血腫の診断のもとに手術し,救命しえた急性後頭蓋窩硬膜下血腫の1例を報告するとともに,急性例の特徴を自験例と文献報告例に基づいて論じたい.なお,後頭蓋窩硬膜下血腫で,血管写上造影剤のextravasationを見た例は内外の文献例にはなく,本症例がはじめてである.

巨大な石灰化をきたした松果体部腫瘍の1例

著者: 森信太郎 ,   鮄川哲二 ,   西田正博 ,   吉本尚規 ,   松村茂次郎 ,   大田正博 ,   梶原四郎 ,   日比野弘道 ,   石川進 ,   魚住徹 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   松本翌史

ページ範囲:P.1095 - P.1103

Ⅰ.緒言
 松果体腫は頭蓋内腫瘍のうちで最も照射療法の有効な腫瘍の1つでこの腫瘍の深部局在性による直達的手術療法の困難性から照射療法がfint choiceとして用いられることが多くその治療的診断がひろく行われている1,2)
 この腫瘍の日本人における高い発生頻度,多彩な臨床症状,組織学的問題点および治療上の問題点から本腫瘍は頭蓋内腫瘍のうちで特異な位置を占めている3)

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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