icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻13号

1977年12月発行

雑誌目次

はてしない進歩のささえ

著者: 岩淵隆

ページ範囲:P.1309 - P.1310

 中枢神経系,ないし頭蓋脊柱管内の病変,異常を何とかして外科的に治療しようと試みた時代,脳神経外科を独立した専門分野として確立しようと努力した時代もいつしか過ぎ,それまでの労苦もむくわれ,その地歩はようやく自他ともに認められるところまできたのが今日わが国の脳神経外科の姿であるように思える.なるほど,歴史のより長い他の分野に較べれば,脳神経外科医の数は,まだ多いとはいえず,医師国家試験の問題も,外科の一部として出題されてはいるが,主要基幹病院に脳神経外科がないようなことは,もはや考えられもせず,術前の患者達も,一般外科の場合以上の危惧感をもつこともなく,海外の権威ある専門誌,国際学会にも日本人の名がみられないことのほうが珍らしい今日を考えれば,わずか20年前と較べて見ても,まさに昔口の感を深くする.
 脳神経外科には何となく進歩の可能性に乏しいような嘆きを耳にしたこともあったように思うが,そのあとの変革の何と目覚しいことであったろうか.19世紀末のある有名な物理学者の言に,物理学は19世紀で完成した.今後は今までの教科書の復習に終わるであろう,というのがあるそうであるが,20世紀に入ってからこそ,驚天動地の進歩がもたらされたのと軌を一にするものがある.もちろん悪性腫瘍の治療となると,結果的には20年前とあまり変わっていないかも知れないが,試みられつつある方法の数と,模索の域を脱しつつあるその構成とを見れば昔日の比ではない.

総説

中枢神経の伝達物質—グルタミン酸を中心に

著者: 高垣玄吉郎

ページ範囲:P.1311 - P.1317

Ⅰ.はじめに
 脊椎動物に関しては,末梢神経の伝達物質の大部分はアセチルコリンとノルアドレナリンによって説明できるのは周知なことである.しかし中枢神経では,この2つの物質によって伝達されるシナプスは全体の10%程度であろうと言われる.残りのうち,半分が抑制性シナプスであるとして,GABAが主な伝達物質であることはますます確かなものとなりつつある10).グリシンもまた主要な抑制性伝達物質であろう6,7)
 一方,興奮性伝達物質のほうは確かなことはほとんどわからないながらも,グルタミン酸とアスバラギン酸が最も有力な候補とされている8).大塚正徳(医歯大・薬理)ら6,12)は,substance Pが脊髄の一次知覚ニューロンの伝達物質であるという多くの根拠をあげた.Substance Pは分子量1340のペプチドであり,従来から知られている伝達物質(候補)がすべて分子量100-200であることと際立った相異である.中枢神経の伝達物質(候補)のうちでは,ゲルタミン酸の濃度が著しく高い.グルタミン酸が伝達物質であることの確証を実験的研究によってうることが困難であるのは,このためであるように思われる.

手術手技

松果体部腫瘍の手術

著者: 半田肇 ,   山下純宏

ページ範囲:P.1319 - P.1324

Ⅰ.はじめに
 日本においては諸外国に比べ,松果体部腫瘍が多い関係もあり,以前よりこれらの腫瘍に対する直達手術に対する熱心な努力が重ねられて来た1,24).組織学的には,松果体部腫瘍にはgerminoma,teratomaなどのいわゆるgermcell tumorの他にglioma,cystic lesion(dermoid,epidermoid, non-neoplastic cyst)などが含まれる.稀にはhemangiopericytoma,meningioma,vein of Galen aneurysmなどの報告がある.
 解剖学的には,松果体部は正中線上で脳のほぼ中心部に位置し,背側は脳梁のspleniumとtelachoroideaに境され,腹側は四丘体に接している.前方には第3脳室後半部が,後方には小脳虫部が位置している.側方からは視床枕と両側大脳半球内側面に挾まれている.

診断セミナー

Parinaud症候群

著者: 村井由之

ページ範囲:P.1325 - P.1328

はじめに
 Parinaud症候群は神経学における多くの症候群の中で最もpopularな症候群の1つであるが,その定義は人によってまちまちで,多くの混乱をひき起こしている.その原因は,Parinaud症候群に関する歴史そのものにあるが,後藤4)は混乱の原因となっている本症候群の歴史を詳しく述べているので参照されたい.まずその歴史を簡単に要約する.
 Parinaudは中枢性の眼球運動障害に興味をもち,いろいろの型の注視麻痺を記載したが,その中に垂直方向の運動麻痺の症例が含まれている7,8).しかしながら,上方注視麻痺はParinaudより以前,1864年Henoch5)によってすでに記載されており,その責任病巣として四丘体が考えられていた.Wernicke16)も四丘体の軟化によって垂直注視麻痺を来たした症例を報告している.Parinaud症候群と言う呼び名は,最初Grasset(1905)4)によって側方注視麻痺に対して用いられたが,その時は垂直注視麻痺は含まれていなかった.その後いろいろ異なった症候の組合せがParinaud症候群の名によって報告されたが,しだいに上方注視麻痺を中心とした症候の組合せに用いられるようになり,下方注視麻痺を加えるか否か,輻輳麻痺を加えるか否かが主として問題になった.また,それに瞳孔反射の消失を含めるか否かも問題で未解決のままである.

研究

外減圧術における除去骨弁の保存について(第2報)

著者: 中島孝之 ,   染田邦幸 ,   山内康雄 ,   松村浩

ページ範囲:P.1329 - P.1333

Ⅰ.緒言
 昭和50年11月,我々が摘出頭蓋骨弁の大腿皮下埋没保存法を第1報として本誌上に表してから,年余の月日が経過した.前報にも述べたように,これまで個々の症例の頭蓋欠損部補填にあたって,種々の材質や方法の中から適当なものを選び出しても,頭蓋の形状となじまなかったり,冷凍保存骨弁が環納後早期に吸収されてしまうなど,術後の結果に満足しえない場合を少なからず経験している.
 これら従来の方法に対し,昭和49年以来,大腿皮下に埋没保存した骨弁による頭蓋形成症例において,その後中可能な限り追跡を行い,かなりの長期間を経過したので,昭和49年に骨弁摘出を行った2症例,およびその後経験した小児症例について報告する.

後頭蓋窩epidermoid cystの臨床学的考察

著者: 藤田勝三 ,   江原一雅 ,   野田真也 ,   平山昭彦 ,   松本悟 ,   千原卓也

ページ範囲:P.1335 - P.1341

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内epidermoid cystは,頭蓋内腫瘍の0.7%−2.5%を占め,現在までMahoney16, King14)およびRand22)らによる詳細な報告がみられる.また本邦においても1906年の山村ら27)の報告以後かなりの症例報告17,26)が散見されており,もはやまれな腫瘍ではないが,後頭蓋窩epidermoid cystについての,診断ならびに外科的治療などの臨床的考察が加えられた報告はまだ少ない.われわれは,三叉神経痛発作を主症状とした興味ある症例1例を含む,後頭蓋窩epidermoid cyst 5症例を経験したので,後頭蓋窩epidermoid cystについての文献的考察を加えながら,臨床所見,および外科的治療を中心にして報告する.

脳腫瘍の器官培養—走査電子顕微鏡による培養態度の観察

著者: 氷室博 ,   熊田徹昭 ,   久保長生 ,   上条裕朗 ,   喜多村孝一 ,   沖野光彦

ページ範囲:P.1343 - P.1348

Ⅰ.はじめに
 Rubinsteinら5),Sipeら6)により1973年,glioblastomaとcerebellar astrocytomaのorgan culture法による組織培養がなされ,その組織像について光顕,電顕所見が報告された.彼らによると器官培養法の利点は,originalの組織構造が維持されやすいこと,in vitroでの細胞の形態がin vivoでの形態を忠実に再生すること,fibroblastの遊走,増殖が抑制されることなどである.
 著者らもthree dimensional matrixとしてgelfoam(gelatin sponge foam)を使用し,gelfoam organ cultureとして脳腫瘍の各組織型について培養を行い,良好な結果を得てきており,この方法が脳腫瘍の形態学的研究にすぐれた実験モデルになりうることを評価してきた1,2).著者らは,腫瘍組織がこのthree dimensional matrixに培養維持される状態,gefloam内へ浸潤増殖してゆく態度を立体的に観察したいと考えた.そしてこのたび経験したいわゆるgiant-celled glioblastomaをこのgelfoam organ culture法で培養し,30日間維持してこれを走査電子顕微鏡で観察することができたので,培養態度について2, 3の所見を述べてみたい.

症例

左前頭蓋窩を占拠した後部副鼻腔Pyoceleの1治験例

著者: 長沢史朗 ,   佐藤慎一 ,   伴貞彦 ,   長久雅博 ,   犬塚楢夫 ,   山本豊城 ,   尾形誠宏

ページ範囲:P.1349 - P.1355

Ⅰ.はじめに
 後部副鼻腔,すなわち後部篩骨洞および蝶形洞は外界と隔離されているためか,あるいは解剖学的構造が複雑なためか,前部副鼻腔に比較して炎症性疾患も少なく,またそこに原発する疾患も少ない.しかし,後部副鼻腔に病変が発生しても,洞そのものよりの症状は少なくかつ潜在化し,隣接諸組織に影響が及んで初めて顕在化するので,診断が困難な場合が多い.またその際,病変の進展方向が変化に富んでおり耳鼻科,眼科,脳外科の境界領域をなすために,その病態の把握にも困難な場合が少なくない.
 我々は今回,左眼球突出を主訴とし精査の結果,左眼窩,左前頭蓋窩に進展していた左後部副鼻腔pyoceleを経験した.症状が興味深く,かつ耳鼻科,眼科,脳外科の境界領域の疾患として鑑別診断上重要と思われたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

乳児脳膿瘍の1例

著者: 宇佐美卓 ,   末松克美

ページ範囲:P.1357 - P.1361

Ⅰ.いとぐち
 乳児期においては頭蓋内感染症は決してまれではないが,それが脳膿瘍を形成することは珍しく,Arseni, et al.2)の報告では全脳膿瘍例542例中,乳児脳膿瘍例は3例,0.6%,Schulze and Tucht33)の報告では全脳膿瘍例71例中,乳児脳膿瘍例は1例であり,1.4%を占めているにすぎない.また,著者らが文献上調査しえた4カ月未満の脳膿瘍報告例は内外あわせてわずか45例にすぎない.
 著者らは最近生後55日の乳児脳膿瘍を経験したので報告し,あわせて文献上得られた4カ月未満の脳膿瘍報告例45例を中心として,早期乳児脳膿瘍について検討を加える1-3,8-11,13-17,19-21,25-29,31,33-35)

脳膿瘍を合併したmycotic aneurysmの1例

著者: 作田善雄 ,   佐藤智彦 ,   高久晃 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1363 - P.1369

Ⅰ.はじめに
 1885年,Oslar18)が動脈壁の細菌感染に由来する動脈瘤をmycotic aneurysmと命名して以来この名称が一般に用いられるようになったがこれは比較的まれな疾患であり,そのほとんどがendocarditisに合併する.最近われわれは先天性疾患であるsupravalvular aortic stenosisを有する患者の右中大脳動脈に発生したmycotic aneurysmと同時にbrain abscessを合併した症例を経験した.これら両者はendocarditisの合併症として知られているが同時発生例の詳細な報告はいまだみあたらない.mycotic aneurysmの手術適応については見解のわかれるところであるが,われわれはこの症例を手術的に治癒せしめえたので若干の文献的考察を加えて報告する.

うっ血乳頭を伴う脊髄腫瘍

著者: 佐藤秀次 ,   稲葉憲一 ,   末松克美

ページ範囲:P.1371 - P.1376

Ⅰ.はじめに
 うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進症候は通常頭蓋内占拠性病変の存在を示唆するが,まれには脊髄腫瘍が本症候を伴って発症することがある.後者の場合,頭蓋内圧亢進症候とともに脊髄病変の存在を示唆する局所症状が併存する時には,その診断にはさほどの困難はないが,頭蓋内圧亢進症候が前景に立ち,かつ脊髄症状が軽微であったり,あるいは全く欠如している場合には脊髄レベルの病変に思いが至らず,開頭手術が行われたり,診断が著しく遅延して,適切な治療開始時期を逸することが少なくない.
 著者らはこのような脳圧亢進症候を主景として発症した脊髄腫瘍を経験したので報告するとともに,文献例を検討し,この特異な発病様式を示す脊髄腫瘍に対する早期診断の手がかりを述べ,さらに本症例における脳圧亢進症候の発生機転につき若干の文献的検討を加わえた.

思春期早発症を示した松果体部絨毛上皮腫の1治験例

著者: 大橋威雄 ,   三宅幾男 ,   島村裕 ,   原田泰弘 ,   大本堯史 ,   西本詮 ,   高原二郎

ページ範囲:P.1377 - P.1383

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内に原発する生殖細胞由来の腫瘍のうち,松果体部germinomaは,特に本邦に多くみられる脳腫瘍であるが3,11,17,20),絨毛上皮腫はまれで,現在まで約47例の報告がみあたる程度である1,2,3,5,6,9-12,15,24,26,27).しかし本腫瘍はhuman chorionic gonadotropin(HCG)産生;思春期早発症をきたす興味深い腫瘍で,脳性思春期早発症の原因の1つとしての腫瘍分泌説をうらづけるものでもある1,2).他方本腫瘍は臨床的に悪性で,既報告例はすべて早期に死亡しているが,産婦人科領域などにおいては,これら絨毛性腫瘍に対する化学療法はほぼ確立されており,良好な結果が得られている8,13,19,22).我々は松果体部に原発した絨毛上皮腫でHCG異常高値,思春期早発症を示した12歳男児例を経験し,手術,化学療法および放射線療法を行い長期の寛解が得られたので若干の考察を加えて報告する.

著明な側方伸展をきたしたprolactin分泌性下垂体腺腫の1例

著者: 森信太郎 ,   石原博文 ,   松本陽 ,   松村茂次郎 ,   原田廉 ,   児玉安紀 ,   日比野弘道 ,   石川進 ,   魚住徹 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   松本圭史 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.1385 - P.1393

Ⅰ.緒言
 下垂体腺腫の発育方向にはいろいろの方向のものが報告されているが実際には鞍横隔膜を挙上伸展し鞍上部に向けて発育するいわゆる鞍上部伸展がほとんどで,これ以外の方向,すなわちparasellar extension, frontal extension, temporal extension, posterior infratentorial extensionおよびPharyngeal extensionは比較的まれである.
 われわれは最近中頭蓋窩に巨大な腫瘤を形成し血腫を伴ったprolactin分泌性下錐体腺腫の1例を経験したので報告する.

縫針穿刺による外傷性脳幹障害の1例

著者: 石井惟友 ,   梅崎博敏 ,   向井健悟

ページ範囲:P.1395 - P.1398

Ⅰ.はじめに
 脳幹部障害の原因は,血管障害,腫瘍,炎症,脱髄疾患その他があげられるが,外傷による脳幹実質障害を起こし,存命する例はまれである.われわれは縫針を大後頭孔より,橋・延髄部正中に穿刺し,多彩な神経症状を呈した外傷性脳幹障害例を経験したので,症例を報告し病巣部位と臨床徴候との関連について若干の考察を加えたい.

--------------------

「Neurological Surgery 脳神経外科」第5巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?