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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻2号

1977年02月発行

雑誌目次

脳神経外科医への期待

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.101 - P.102

 人間の性格や考え方は環境によって大きく影響されます.見も知らぬ人でもしばらく一緒にいると,どうも同業者らしいと職業によっても何か共通した雰囲気があるようです.また医師はその専門科により,あるいは卒業した大学や籍を置いた教室によって似通った何かが感じられます.この点脳神経外科医は一般に変わり者が多いと医師仲間から思われているようです.理屈っぽく,目立つことが好きで,人の言うことなどには耳を借さぬ,つき合いがたい人種だとあまり芳ばしくない評価です.しかし一方,あの難解な脳をいじり,長時間ねちねちと手術をするタフな奴と尊敬とも軽蔑ともつかぬ目で見られているのもたしかのようです.脳神経外科医に対するこんな評価は世界的な傾向のよりに思われます.
 脳神経外科医は,小さな脳の中に全生命を,全人格を,そして人間としての種々な機能を自分の手で局限まで追求せねばなりません.このためにきびしい論理の積み重ねと,全体的な方向の正しい把握と,そして時機を失することのない冷静な決断と実行が要求されます.このように人間の管理中枢に自分の責任でメスを加えるということから,脳神経外科医は物事に対していつも第三者的な態度を取り,発言をするようになったのではないでしょうか.こんなところが独善的だ,いじわるだ,冷たいとかの芳ばしくない評価の根拠だと思います.

総説

特発性脳内血腫—小血管奇形に関連して

著者: 斎藤義一

ページ範囲:P.103 - P.112

Ⅰ.緒 言
 脳内血腫の原因は多数あげられるが,外傷を除くと高血圧性が最も多く1,16,20),50%あるいはそれ以上で,動脈瘤,動静脈瘤がこれに次ぎ,主要な手術対象となる.一方,血腫原因不明例は特発性脳内血腫と総称されるが,その呼称は諸家により用語内容を異にし,広義には外傷以外を包含し,狭義には全くの原因不明例を意味し,中間的には外傷,動(静)脈瘤を除くなどの注釈もつけられる.近年原因不明脳出血例にしばしば微細な血管奇形small angiomatous malformation(SAMと略す)のあることが知られ,SAMあるいはこれを仮定した原因不明例も含めて,狭義の特発性脳内血腫を報ずる研究者が本邦においても増えている26-30)
 歴史的にはHawthorne7)(1922)が小児,若年者の特発性脳内血腫を報じ,Craigら4)の報告もあるが,SAMによる出血,血腫に明確な概念を与えたのは,Margolisら12)といわれ,その特徴をつぎのように述べた.

手術手技

側頭骨内顔面神経減荷術

著者: 柳原尚明

ページ範囲:P.113 - P.120

はじめに
 顔面神経は人体末梢神経のうちで,最も長く骨管内を貫通する神経であるため外・内因性の圧迫(extrinsic and intrinsic compression)を蒙りやすく,麻痺の頻度の最も高い神経である.顔面神経は内耳道底より側頭骨内の顔面神経管(facialcanal, fallopian canal)に入り,内耳,中耳などの重要な器官と接して走り,茎乳突孔(stylomastoid foramen)より側頭骨外に出る,手術顕微鏡を使用できなかった時代には,聴力や平衡機能を障害することなく顔面神経管を開放できる範囲はそのごく一部に限られていたが,マイクロサージャリーの発達により,顔面神経管の全域にわたって,後遺障害なく,これを開放し,神経修復を行うことが可能となり,手術の適応範囲も拡大されて来たので,その手技と手術の適応,意義などについて解説したい.

診断セミナー

"Locked-in"症候群

著者: 萬年徹

ページ範囲:P.121 - P.124

"Locked-in"症候群とは
 この症候群はPlum & Posner(1966)1)により提唱されたもので,最初の記載によるとその定義は以下のごとく要約される.
 自分自身のこと,周囲の境環について十分承知しているにもかかわらず四肢麻痺,下位脳神経麻痺のために身振りあるいは発語が不可能となり,意志疎通の手段として,垂直方向の眼球運動か,まばたきが残されているだけの状態を指すものである(意識は障害されていない場合もあるし,障害されている場合もある).

研究

脳神経外科領域におけるstress ulcer—とそのwarning data

著者: 大井静雄 ,   大井美行 ,   玉木紀彦 ,   苧坂邦彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.125 - P.132

Ⅰ.はじめに
 上部消化管山血の中枢性要因については,1841年Rokitanski18)によりはじめて指摘され,さらに1931年Cushing4)の発表で,大きくその研究が進展するに至った.そして,数多くの実験に基づいて,高位中枢の刺激が上部消化管出血を生ぜしめることが実証され4,6,7,13),Selye19)の1948年のgeneral a(laptation syndrolneと名づけた一連のstressの学説も加わり,今日では上部消化管出血は,情動ストレスと関係した代表的な心身症の1つとされている.
 一方,脳神経外科領域において,術後あるいは手術と関係なく,脳疾患を有する患者に,上部消化管出血がみられることもけっして稀でなく,しばしばその予後を左右する要因にもなっている.そして,これについては,脳疾患そのものの局在性や手術侵襲,副腎皮質ホルモンの投与,消化性潰瘍の既応,などの見地から主に検討されてきたが2-4,6,7,9,13,14,17,18,21),実際に臨床面では,それを未然に予測することは,いまだに困難である.われわれはこの観点より,自験例を文献的考察を加えて検討した.

頭蓋内クモ膜下腔におけるDimer-X®(第2報)—Electrocorticographic Study

著者: 西川方夫 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.133 - P.136

Ⅰ.はじめに
 水溶性造影剤を用いて脳室造影術が行われる際,時にあやまって造影剤がクモ膜下腔に注入されることがある.この時,重篤な痙攣発作が発現することがあり,患者は稀ならず死に至る.
 前回の実験で,我々は現存する水溶性造影剤のうち最も安全といわれているDimer-X®(以下DXと略する)においてもその毒性はかなり強いものであることを指摘し,合併症を防ぐには次の処置が必要であることを結論として述べた.すなわち,
 1.クモ膜下腔へ注入しないこと.

抗生物質の髄膜内移行に関する臨床的研究(第2報)—Sodium Cephalothin-Mannitol併用による静脈内投与について

著者: 滝本昇 ,   渡部優 ,   金城孝 ,   堀正治 ,   黒田良太郎 ,   最上平太郎 ,   奥謙 ,   長谷川洋 ,   森信太郎 ,   魚住徹

ページ範囲:P.137 - P.143

Ⅰ.緒言
 脳神経外科手術後の頭蓋内感染症は,脳浮腫の増悪,脳循環の障害をも引き起こす重篤な合併症である.この予防を目的として,今日,比較的大量の抗生物質の投与が行われており,また諸種抗生物質の髄液内移行に関しても多数の研究がなされ報告されている5-21)
 正常な髄液動態下で,Chloramphenicol,Tetracycline以外の日常汎用されている大多数の抗生物質は,血液—髄液,(血液—脳)関門のためにその髄液内移行が強く制限されるという8,18)(Table 1)このため手術後髄膜炎予防のための抗生物質投与には,まだ問題点が存在している.

脳腫瘍のIsocount scanningによる診断—Multilevel analysisによるRI-uptakeの数値的表現法

著者: 山本昌昭 ,   吉田滋 ,   門脇弘孝 ,   今永浩寿 ,   竹山英二 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.145 - P.151

I.緒言
 1948年,Moore11)によりisotope encephalometryの基礎が築かれて以来,幾多の機器の開発・改良,および新核種の応用などを経て,今日は脳疾患の診断上,RIscintigraphyは重要な地位を占めるに至っている1,2).ことにdynamic studyを可能としたscinticameraの開発は,脳疾患における核医学的診断の流れを大きく変化し,最近ではscintiscanningよりむしろscinticameraが普及しつつある3,10,14).しかし,いずれの方法にしろ,表示される1枚1枚のscintigramが,より正確で信頼しうるものであることは当然要求される.この点では,我々はscinticameraはscintiscanningにはおよばないものであると考えている.static studyとしてのscintiscanningによるscintigramも,決して捨て去られるべきものではない.
 この観点より,著者らはIsocount scanningおよびその新しい表示方法としてMultilevel analysisを開発し4,5,6),1973年1月以来臨床応用して良好な結果を得ている.その原理の詳細,および臨床成績の一部は既に発表しているが7,8,14,15,17,18),本稿では,脳腫瘍におけるIsocount scanningの成績を述べる.

症例

脳動静脈奇形および脳動脈瘤を合併した—高血圧性脳出血の1例

著者: 山口克彦 ,   西坂利行 ,   丹治裕幸 ,   比嘉恒治 ,   古川冨士弥 ,   出羽和

ページ範囲:P.153 - P.156

Ⅰ.はじめに
 Arteriovenous malformation(以下A.V.Mと略す)と脳動脈瘤の合併は比較的まれである.Perret & Nishioka10)の集計によると,脳動脈瘤3,265例中A.V.Mを合併しているのが37例(1.1%)で,逆にA.V.M490例中37例(7.6%)に脳動脈瘤の合併がみとめられる.片麻痺痺,意識障害をきたした我々の症例もA.V.Mおよび脳動脈瘤の合併例である.しかしその卒中発作はA.V.Mまたは脳動脈瘤の破裂ではなく,高血圧性脳出血によって起こったものと考えられ,その病態を考える際興味深く,臨床的にも問題を提起するものとして報告する.なお,本例のように同時に3つの脳血管病変が合併した症例は我々の調べた限りでは本邦文献上には見られなかった.

後頭蓋窩硬膜動静脈奇形—ファイコン栓塞術を用いた治験例

著者: 井沢正博 ,   間中信也 ,   名和田宏

ページ範囲:P.157 - P.162

Ⅰ.はじめに
 近年,硬膜動静脈奇形に対する関心が高まるにつれ,多数の報告がみられるようになった.種々の血管撮影による詳細な検索,手術所見および病理学的検討により,本疾患の病態が徐々に解明されつつある1-3,8,9,11,12,13,15).しかし,その治療方法に関しては症例により異なるが,様々な意見があり16,20),はっきりと確立された治療法は少ない.今回著者らは,クモ膜下出血で発症し約6カ月後の脳血管撮影で左後頭蓋窩硬膜動静脈奇形と診断し本症に対して,流動性合成樹脂であるPhicon®(ψ con)5)を用いた人工栓塞術を施行,良好な結果を得た.今回はその治療方法を中心に述べる.
 なお,著者らの渉猟しえた範囲では,本症例はこの方法を施行した初報告例である.

石灰化硬膜外血腫—頭部外傷後16年を経過した1例

著者: 坂井昇 ,   山森積雄 ,   種村廣己 ,   山田弘 ,   下川邦泰

ページ範囲:P.163 - P.167

Ⅰ.はじめに
 外傷性硬膜外血腫は通常その経過がきわめて速やかでかつ致命率が高いことは周知の事実である.しかし,少数ながら慢性の臨床経過を示す症例が知られている7,10,11).これらのうち,頭部単純写にて石灰沈着像が認められた例ははなはだ稀有のようである.
 最近われわれは,頭部外傷後16年を経て,頭部単純写にて石灰沈着像を認めえた硬膜外嚢水川腫(陳旧性血腫)の1例を経験したので報告する.

くも膜下出血後水頭症に対する髄液短絡術後にみられた硬膜下血腫の2例

著者: 山崎駿 ,   大井美行 ,   白滝邦雄 ,   苧坂邦彦 ,   藤田稠清 ,   松本悟

ページ範囲:P.169 - P.173

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血後の急性期および慢性期に出現する水頭症に対して,髄液短絡術が盛んに施行されるようになり,その手術効果もきわめて良好であると評価されてきた11,16,21,22).一方,症状が軽減されたとしても,短絡管は一般にはかなり長期にわたり留置されることが多く,その経過中に思わぬ合併症に悩まされることがある.最近私どもは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後水頭症に対して髄液短絡術を施行し,術後の経過が良好であったが,軽度の外傷により症状の増悪をみた硬膜下血腫の2例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.
 私どもが1975年10月までの過去3年間に脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後水頭症に対して髄液短絡術を施行したのは24例であり,この内,髄液短絡術後に硬膜下血腫がみられたのは2例で約8%に相当していた.

頭蓋内髄膜腫,脳動静脈奇形,脳動脈瘤を合併した1例

著者: 府川修 ,   田中輝彦 ,   竹川鉦一

ページ範囲:P.175 - P.181

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科領域においては,脳腫瘍,脳動静脈奇形,脳動脈瘤は,通常経験される疾患である,しかしこれらの疾患の合併については,脳動静脈奇形と脳動脈瘤の合併例が比較的多く報告されているものの,脳腫瘍と脳動静脈奇形,脳腫瘍と脳動脈瘤の合併についての報告はまれであり,さらにこれら3疾患の合併例は,著者らが文献を渉猟しえた範囲ではまだみられない.
 我々は最近,同一患者に髄膜腫,脳動静脈奇形,脳動脈瘤を合併した1例を経験し,手術により確認したので,その検査所見を呈示しながら若干の文献的考察を加えて,この稀有な症例を報告する.

Incidentally-discovered Aneurysmの経験

著者: 上野一義 ,   馬渕正二 ,   越前谷幸平 ,   井須豊彦 ,   後藤聡 ,   高村春雄

ページ範囲:P.183 - P.188

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤治療の理想は,脳動脈瘤が近接する脳神経を圧迫し麻痺症状を呈するか,または破裂してくも膜下出血を起こす以前に,直接手術を行うことであると思われる.しかし,無症状の脳動脈瘤を発見することは,現在のところ偶然の機会によるしかないであろう.我々は他疾患の血管写による検索中,偶然脳動脈瘤を8例に発見し,うち原疾患の予後が良好と思われる3例に直接手術を行った.脳血管写の注意深い観察により,偶然脳動脈瘤を発見することは稀有ではない印象を受けたので,皆干の文献的考察を加えてり症例を報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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