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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻7号

1977年06月発行

雑誌目次

手術の上手下手

著者: 千ケ崎裕夫

ページ範囲:P.697 - P.698

 脳神経外科の手術は多数の人々の協力によって進行するのは当然であるが,ある段階にまで至ると,たとえば開頭術の際は硬膜を切開し脳実質の操作に至った時は,重要な手術操作が術者一人の手で大部分が行われる場合が多い.この意味で術者は孤独である.彼自身の判断,手術操作が全手術の可否を決定するような感じをあたえる.したがって以前は脳外科手術の成功の鍵は術者一人の能力に左右されることが多く,おのずからいわゆる名人という人が世評にのぼり,そのような入の技術は一種の芸術のようなもので,他人に伝授することは不可能のように思われてきた.
 しかし医療の問題で特別の人だけしか成功しないような手術法は本当は科学的学問の対象とならない邪道であり捨てさらなければいけない.今日は脳外科手術でこのような一般に普遍性のない手術は1つもないといってよい.問題はいかにしてこのような高度な技術を必要とする手術手技を修得していくか,教育していくかというtraining systemの確立にある.

総説

側頭葉てんかん

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.699 - P.706

はじめに
 てんかんは有害刺激noxious stimuli,Noxeに対する脳の反応の特異的な様式のひとつである.有害刺激の作用している部位が脳のある領野に限局している場合には,その領野の機能解剖学的特性に基づいた症候,すなわち発作症状を呈する.有害刺激の作用する部位を明確にすることができて,さらに有害刺激の性状すなわち病理学的変化を知りうれば,その有害刺激を除去することを意図して,てんかんの外科的治療の可能性が生ずる.
 側頭葉てんかん(Temporal lobe epilepsy以下TLEと略記する)は限局性てんかんの代表的なものであり,側頭葉は有害刺激の作用しやすい部位であること,てんかん性の反応を呈しやすい領野を含んでいること,複雑な機能解剖学的特性を有していること,さらに重篤な神経脱落症状をもたらさないような切除が可能であるといった要件を満たしているので,てんかん外科の好個の治療対象となってきた.

手術手技

Parasagittal meningiomaの上矢状洞形成術—腫瘍の全摘と上矢状洞の保存をめざして

著者: 益澤秀明

ページ範囲:P.707 - P.713

Ⅰ.はじめに
 傍矢状洞髄膜腫parasagittal meningiomaは傍上矢状静脈洞部を占拠し,上矢状静脈洞壁に附着・浸潤する髄膜腫であり(Fig.1-a),high convexity meningioma(Fig.1-b),falx meningioma(Fig.1-c)とは区別される.大部分は片側性であるが,時には両側性に発育することもある2)
 Parasagittal meningiomaの手術が問題になるのは,本腫瘍の附着部を含めた全摘出が困難で,そのため,良性腫瘍にもかかわらず術後の再発率が高いことである10,15).本腫瘍を再発の憂いなきように全摘出するためには,附着部の上矢状静脈洞壁を含めて摘除すれば良い6)のであるが,中1/3,後1/3の上矢状洞,もしくは,中心静脈流入部から後方の上矢状洞を切除することの危険性は,つとに先人の指摘したとおりである10,11,12).もちろん,上矢状洞が完全に閉塞していることをsinography17)などで確認すれば,安全に切除することも可能であるが,危険性なしとは言えない5)

診断セミナー

側方共同偏視と側方注視麻痺

著者: 高橋昭 ,   祖父江逸郎

ページ範囲:P.715 - P.724

Ⅰ.はじめに
 共同眼球運動conjugate eye movementとは,左右の眼球のいくつかの外眼筋が協調的連合運動を起こすことであり,両眼視を目的とした共同眼球運動はとくに注視gazeと呼ぶ.これは,大脳皮質の高位中枢,脳幹の中間中枢,外眼筋支配神経核などの間にある緊密な調整機構と,これに対して前庭,小脳,脊髄など,ほとんど全神経系からの自働的,反射的調節をうける生体制御系としての眼球運動系oculomotor systemによって神経支配をうけている.
 眼球運動系の障害の代表的徴候が,共同偏視conjugate deviation of the eyesと注視麻痺gazepalsyである.

研究

意識障害患者における前庭眼反射の診断学的意義についての検討

著者: 斎藤武志 ,   大和田隆 ,   矢田賢三 ,   徳増厚二

ページ範囲:P.725 - P.731

Ⅰ.はじめに
 近年,神経耳科学の進歩発展に伴い,平衡機能検査が,中枢神経疾患の検査法の1つとして広く利用されるようになり,その診断学的意義も明らかになりつつある.
 1910年,Rosenfeld15)は温度刺激による前庭眼反射検査を意識障害患者に実施し,本反射が意識レベルとの間に相関性のあることをはじめて指摘した.さらに1952年,Klington8)は昏睡患者における本反射を調べ,病理所見とともに報告した.Klingtonの報告後,いくつかの報告がなされている1〜4,12).いずれも種々の原因による意識障害患者に対してice waterあるいは冷水注入法による前庭眼反射検査を行い,4ないし5種類の反応型が認められることを指摘している.しかしこれらの反応型とくわしい意識レベルとの相関性に関しては全く検討されていない.今回,著者らは,本検査の反応型が(1)意識レベルの客観的指標となりうるかどうか,(2)予後を推定する指標となりうるかどうか,を明らかにすることを目的として,種々の原因による意識障害患者に対して前庭眼反射検査を行い検討した.

松果体部腫瘍症例における脳シンチグラム検査の意義

著者: 武本本久 ,   有光哲雄 ,   植田清隆 ,   久山秀幸 ,   三宅幾男 ,   石光宏 ,   松本皓 ,   西本詮

ページ範囲:P.733 - P.739

Ⅰ.緒言
 今日,pinealoma(組織学的にはtwo-cell pattern pinealoma)の治療としては,髄液短絡術を施行した後に放射線照射療法がもっぱら行われ,その有効性については多くの報告があり,疑問をはさむものはない.したがって,松果体部腫瘍の症例において,その腫瘍の組織学的性状ひいては予後の推定が前もって把握できれば,治療方法を決めるうえで大いに役立つと思われる.また,pinealomaの症例では放射線照射療法後その効果判定ならびに経過観察をしてゆくうえで,患者に侵襲を与えず,手軽に反復施行しうる検査法が必要である,このたび,私どもは,これらの目的のために99mTc-pertechnetate(以下99mTcO4-)を用いた脳シンチグラム検査をとりあげ,松果体部腫瘍症例における本検査法の有用性について検討を加えたので報告する.

脳動脈瘤直達手術後の精神症状の評価—とくにContingent negative variationの応用

著者: 坪川孝志 ,   片山容一 ,   小谷昭夫 ,   西本博 ,   森安信雄

ページ範囲:P.741 - P.748

Ⅰ.緒言
 脳動脈瘤の破裂ないしはその直達手術後に,Korsakoff症候群1,11,12,14,16,17),akinetic mutism3),情動,性格の変化1,11,12,14,17,23)ほどの精神症状が出現することがあると報告されている,しかし,その発生頻度は報告者により著しい差があり1,4,11,12,14,17,20,23),精神症状を発現せしめる要因についても,動脈瘤の位置,破裂の状況,発作の重篤度など手術前の状態1,11),手術手技1,12,22)が挙げられ,なお明確にされていない,また観察期間や診断時期1,11,12)によっても精神症状の出現状況は異なっている.
 その最も大きな理由の1つは,精神症状のとらえ方と評価法に画一性を欠き,さらには健忘,性格変化,作業能力の低下など精神機能の低下ともいうべき状態の客観的評価法が確立していないことに求められる.

急性頭部外傷—特に頭蓋内血腫のCT scannerによる評価

著者: 河村弘庸 ,   天野恵市 ,   伊関洋 ,   谷川達也 ,   宮崎崇 ,   上条裕朗 ,   喜多村孝一 ,   小林直紀

ページ範囲:P.749 - P.760

Ⅰ.はじめに
 急性頭部外傷,とくに急性頭蓋内血腫の診断には,脳血管撮影が絶大な偉力を発揮することはいうまでもない.しかしながら急性期重症頭部外傷患者を扱う際には,限られた時間内に十分な脳血管撮影の許される余裕がないことが多く,したがってcombined hematomaの適確な把握,さらには脳内血腫と脳挫傷に伴う限局性浮腫との鑑別はかならずしも容易でない.
 さて,著者らは,EMI社で開発されたcomputerized tomography(CT),"EMI scanner"1,7)が当脳神経センターにおいて1975年8月下旬より臨床応用に供されたのを機に,急性頭部外傷,特に急性頭蓋内血腫の本装置による診断を行ってきた.

脳血管神経支配に関する実験的研究—視床下部障害における脳動脈壁の組織化学ならびに電子顕微鏡学的検索

著者: 村上寿治

ページ範囲:P.761 - P.770

Ⅰ.緒言
 脳動脈壁の神経線維については,形態学的に鍍銀染色法,組織化学的螢光法などによって豊富な神経線維の分布が確認され,今日では電子顕微鏡の導入によりその終末構造まで詳細に検討されている.そして,生理学的研究では脳血管における神経線維の役割の重要性を強調する報告も多く,Folkow12)は神経終末からの一定のノルアドレナリン(NA)の放出が脳血管のtonicityを維持しているであろうと述べ,その他,脳循環の自己調節作用に対する神経機構の存在の報告23)や,実験的に視床下部後部の破壊が脳血管ーヌスを変化させたという報告14)は注目に値する.
 そしてそれら脳動脈壁に分布する神経線維について,Peerlessら29)はくも膜下出血などによリアドレナリン性神経線維の螢光が消失したと報告し,金谷ら19)は,脳内の病変により脳動脈壁の神経線維が形態的に変化をきたしていた事実を観察している.そこで著者は,脳内の種々病態における脳血管神経線維を組織化学的および電顕的に検索することは,脳血管神経支配ならびに脳循環における神経性因子の意義についての理解を更に深めるものと考え,前述の報告などよりまず視床下部と脳血管神経支配との関連に注目し,実験的にイヌの視床下部を破壊し,脳主幹動脈の動脈壁を組織化学および電顕的に検索を進め興味ある知見を得たので考察を加える.

非イオン性水溶性造影剤Amipaque(Metrizamide)による脳室造影—動物実験および臨床応用

著者: 鈴木重晴 ,   川口進 ,   伊藤建次郎 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.771 - P.778

Ⅰ.はじめに
 水溶性造影剤による脳室撮影には多くの利点があり,主として60%Conrayを用いて行われているが,反面,副作用として痙攣性の症状を呈する場合もあり,より安全性の高い造影剤の出現が望まれていた.先に,我々はDimer-X(methylglucamine iocarmate)の脳室撮影への応用を動物実験および臨床例によりて行ったところ,既存の同種薬剤の中では最も安全性が高いが,痙攣誘発能も決して看過しきれないという結果を得た13)
 近年北欧において開発され,既に商品化されている新水溶性造影剤Amipaque(Metrizamide)は従来の水溶性造影剤と異なり,非イオン性のものでその毒性に関しても北欧諸国および西欧の一部において既に多くの研究が行われており,1973年のActa Radiologica(supplementum 335)に特集として掲載されているが,きわめて高い安全性を有するという結論がなされている.我々も,ごく最近Amipaqueを入手する機会を得たので,脳室造影剤としての有用性を動物実験で確認し,更に臨床例にも応用した結果,他剤との比較においても優れた安全性を有するという結論を得たので報告する.

症例

興味ある経過を示したcavernous sinusitisの1症例

著者: 森山忠良 ,   藤田雄三 ,   小野博久 ,   森和夫 ,   吉田卓郎

ページ範囲:P.779 - P.784

Ⅰ.はじめに
 海綿静脈洞部の炎症により海綿静脈洞症候群(cavcrn-ous sinus syndrome)を示した症例の報告は少なく,またそのほとんどが剖検所見の記載に止まっている.
 我々は左側の非拍動性眼球突出にて発症し,経過中両側のcavernous sinus syndromeを示した1症例において,数回にわたり頸動脈撮影を行い,一側内頸動脈の完全閉塞のほかに,他側においては,内頸動脈の海綿静脈洞部(cavernous portion)に裏状動脈瘤様のopacificationが認められた.X線所見と剖検所見を主に報告し,あわせて考察を加える.

Wallenberg症候群を呈した椎骨動脈瘤の1例

著者: 長木淳一郎 ,   山口武典 ,   上田一雄 ,   尾前照雄 ,   山下正文 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.785 - P.789

Ⅰ.はじめに
 椎骨脳底動脈領域の動脈領瘤は頭蓋内動脈瘤の5%前後を占めるとされており10,14),くも膜下出血で発症する場合と,後頭蓋窩腫瘍の症状をもって発症する場合がある.しかし近年椎骨動脈撮影の普及に伴って,この部の動脈瘤が発見される機会が増加している.
 一方,Wallenberg症候群は,比較的高齢者に多く,閉塞性血管性障害によるものが大部分である.我々は,20歳の男性に1血管性障害と考えられる様式で発症し,椎骨動脈撮影により右椎骨動脈瘤が発見された同症候群の不全型を経験したので,その症例を呈示し本例における同症候群の発症機転について考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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