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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻8号

1977年07月発行

雑誌目次

Good Patient Careと病歴

著者: 角家暁

ページ範囲:P.795 - P.796

 私どもの大学病院が約3年前に発足した時,基本姿勢の1つとして打出されたのが臨床患者よりの情報を有機的に管理して診療内容の向上をはかろうということであった.この基礎として「病歴の中央管理」と「1患者1ファイル方式」が提唱され,更に1969年Dr.Lawrence Weedによって創始されたProblem Oriented System(POS)をおしすすめることになり,私もこの計画推進の一員として加わることになった.
 現在の臨床医学が,幾多の先人によってなされた緻密な症例検討の上に築きあげられてきたし,将来もまたこの遺産の積み重ねの上にたって発展してゆくであろうことは間違いない.そしてこの基礎になるものは一人一人の患者の詳細な記録である.しかし,いかほど正確,かつ微にわたったカルテでも,その中におさめられてある情報の管理が杜撰であれば利用することがむずかしく医学の発展に寄与することは少ない.このためにカルテは貴重な財産とされ,その整理,保存,資料の取出しにはそれぞれ独自の工夫のもとに細心の注意をはらって取り扱われているが,多くの所では各診療科,教室単位のDepartment Oriented方式で,病院全体の立場にたって病歴にふくまれている多種多様な情報を総合的に利用しようとする管理方式は理想とされながらもなかなか現実のものになりにくかった.

総説

神経放射線治療の実際

著者: 亘理勉 ,   赤沼篤夫

ページ範囲:P.797 - P.803

Ⅰ.はじめに
 放射線治療の有用性については今日疑いのないところで,高エネルギー放射線治療装置の普及と共に広く行われているが,その治療方法,内容が画一化してどこでも同じように行われているとはいえず,今後に課せられた問題も少なくない.本稿では脳神経外科の専門医の方々に放射線側からの要望を含めて,制がん剤など薬物療法には言及せず,主として放射線治療の実際について述べてみたい.

手術手技

Enlarged Skull Fractureの手術

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.805 - P.813

Ⅰ.はじめに
 乳幼児の頭蓋骨骨折がしだいに開大し,その部に腫脹を認める病変をWashsende Schadel Fractur(Piaら195314),進行性骨折:北村ら19647)),Enlarged fracture(Steinら197217),拡大性骨折:森安ら197411))といい,乳幼児頭蓋骨折例の0.7%(Guigni 1963)5)−0.03%(Arseni 1966)1)の頻度にみられる.1816年Howship6)の最初の報告以来,適切な治療法を求めるために,骨折線が開大する機序が検討されてきた.歴史的に本症をmeningocele spuria(Billroth)2),traumatic cephalhydrocele(Conner)3),leptomeningeal cyst (Penfieldら12),Taverasら18))と命名された事実よりみても,骨折線の開大そのものよりも,骨折下に存在する脳・硬膜・軟膜の病変が本症の原因として治療の対象となってきたのである.
 本症の発生条件として,(1)乳幼児に頭蓋骨折が発生し,(2)骨折線直下の硬膜が穿破され,この部にくも膜嚢腫ないしは瘢痕化した脳脱出(Penfieldら1941,Lendeら1961,Steinら1972)が骨折線に嵌入し,(3)さらに骨折縁に限局性頭蓋内圧の拍動が作用し,骨の二次的栄養障害も加わり,骨縁の破壊が促進され,骨折部が開大していくとされてきた.

診断セミナー

Horner症候群

著者: 平山恵造 ,   福田真二

ページ範囲:P.815 - P.821

Ⅰ.はじめに
 Horner症候群は眼に向う頸部交感神経が障害されて起こるもので,縮瞳,瞼裂狭小,眼球陥入を3主徴とし,他に副症状として顔面同側の無汗症,眼球トーヌスの低下,虹彩異色症などを伴うことがある.
 本症候群は1869年スイスの眼科医,Hornerが人での臨床的記載をなしたのに始まる.Horner以前にも頸部交感神経障害に際して,顔面の自律神経症状とともに縮瞳のみられた報告はあるが,眼症状に主点を置いての報告ではない.しかし動物での頸部交感神経について実験的研究は既に1727年Pourfour du Petitによりなされ,その後さらにClaude Bernard(1852)が追試・大成させたもので,それにちなんでClaude Bernard-Horner症候群とも称される.本症候群は眼へ向う頸部交感神経の走行の中で,どの場所で障害されてもひき起こされるので,原因となる疾患は多様である.

研究

"いわゆる正常圧水頭症"に対して髄腔内灌流法を利用した検査法について

著者: 山崎駿 ,   平山昭彦 ,   江原一雅 ,   佐藤倫子 ,   佐藤博美 ,   苧坂邦彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.823 - P.831

Ⅰ.はじめに
 脳脊髄液の循環動態,特に脳脊髄液の産生率と吸収率をクリアランスの原理を応用して定量化しようと試みたのは1962年Pappenheimerら22)の山羊における脳室灌流法の実験である.1963年Bering and Sato3)は正常犬および水頭症犬にこの実験方法を用いて,その病態を追求した.一方,1966年Rubinら23,24)は臨床的にはじめて抗癌剤の髄腔内灌流による投与と併用してアイソトープをtracerとして脳脊髄液の動態を調べている.
 1965年Adamsら1)によって提唱された"正常圧水頭症"は,その病態を主に脳脊髄液の吸収能の障害という面から捕えられているが20),いまだ,脳脊髄液の循環動態金てが明確化されたとはいえない27).そこで"いわゆる正常圧水頭症"の症例に対して,髄腔内灌流法を利用した検査法の臨床的応用を試みたので,その方法および結果を述べ,若干の考察を加えた.

脳腫瘍におけるComputerized Axial Tomographyの診断力—特にその多発性の診断と脳血管撮影および脳スキャンとの比較

著者: 大井静雄 ,   Joseph H.

ページ範囲:P.833 - P.840

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内腫瘍において続発性腫瘍のみならず,原発性脳腫瘍においてもそれが(播種性)転移によるものであるにせよ多発性に病巣が見られることは決してまれなことではない25).脳神経外科の領域において腫瘍が多発性か否かの診断,そしてさらにその病巣の数,部位,およびその特徴を知ることはその手術適応,手術方法さらには術後の治療方針を決定するうえできわめて重要なことである.
 この診断に際しては,神経放射線学的補助診断法が最も信頼できる検査として用いられているのはいうまでもないが,1969年より開発の進められたComputerized Axial Tomography1,13,21)(以後CT scanと略)の導入により従来の神経放射線学的診断法の手順大きな変化がみられている6).そしてCT scanが臨床に応用されて4年が経過し,多くのearly evaluation4,5,9,14,15,17,18)が報告された今,CT scanの診断力の正確な評価と従来の検査法のそれぞれの特徴の再認識が要求される時点にある,Fig.3は左前頭葉に発生した一塊の神経膠腫(膠芽腫)でCT scanでの診断は多発性転移脳腫瘍とされた例である.CT scanのaxial viewの分析という特徴は逆に上下の構造分析においての弱点でもある,ここに自験の多発性の脳腫瘍24例(67病巣)につき,その個々の特徴とCT scanを中心としたその神経放射線学的診断力とを比較検討した.

高位頸椎方穿刺法

著者: 細田浩道 ,   中島麓 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.841 - P.843

 Mullanらにより開発された経皮的コルドトミーのための高位頸椎側方穿刺法は,簡単かつ安全に行えることが,欧米では良く知られているが,本邦では充分にこの穿刺法の良さが認識されていないようである.筆者らが過去8年間に行った50例以上の経験をもとに,その手技の詳細,適応,本邦例20名の穿刺部より,くも膜下腔までの長さについて,それぞれ検討し,考察を加えて報告する.
 適応は通常の腰椎穿刺法では,くも膜下腔に到達しえない時が主であるが,これらを列挙すると,①広範囲の腰仙部のくも膜炎,癒着および腰仙部後方固定術後の症例,②腰仙部硬膜内外の占拠性病変,③以前施行のミエログラフィーでブロックが存在し,その病変の上限の範囲を知る必要のある時,④頭蓋牽引中の急性,亜急性脊髄損傷例へのミエログラフィー,⑤高度な脊椎管狭小例,⑥放射性同位.元素による脳槽シンチグラフィーへの応用,⑦気脳写への応用,⑧分析用髄液の採取,などである.

高血圧性脳内出血に関する研究(第1報)—CTスキャンによる血腫の進展と消長

著者: 三浦直久 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.845 - P.854

Ⅰ.はじめに
 高血圧性脳内出血の血腫の局在,進展を臨床的に的確にとらえる手段として従来,脳血管撮影が唯一のものであった.computerized tomography(CT)の導入により,全く侵襲がなく血腫の部位,進展方向および深さが得られ,また血腫に続発して出現する浮腫をはじめ種々の頭蓋内病変や解剖学的変化をきわめて明確に描出することができるようになった.さらに経時的追跡により血腫および浮腫の消長を追うことも可能である.この方法を用いれば脳室内血腫存在の有無も容易に確認でき,高血圧性脳内出血患者の手術適応と予後の判定,手術方法などに関する多くの情報がきわめて短時間に得られる.
 著者らは昭和50年8月にCT(EMI scanner)が当科に導入されて以来,昭和51年2月までの約5か月間に高血圧性脳内出血患者25名をEMI scanで追跡する機会を得た.本論文では,これら症例を呈示しながら高血圧性脳内出血の病態像,特に血腫の進展とその消長について新たな検討を加えてみたい.

破裂脳動脈瘤における線溶動態の研究(第1報)—SK-euglobulin溶解時間,FDP測定による抗線溶療法のmonitoring

著者: 渡辺博 ,   千ケ崎裕夫 ,   石井昌三

ページ範囲:P.857 - P.863

Ⅰ.はじめに
 我々は従来より破裂脳動脈瘤に対し原則として,①isolation and sedation,②drug-induced hypotension,③antifibrinolytic therapyの組合せを骨子とする保存療法をまず行い,いわゆるintentional delayed surgeryの立場を取っておりきわめて良好な成績を得ている,しかし,上述の療法をすべての症例に画一的に行うことは好ましくなく,各症例毎にその状態を正しく把握し最適の方法を選ぶべきである.これら療法の1つである抗線溶療法に関しては,それが再出血の予防に有効であるとする報告が多いが1,2,6,7,8,11,13,14),抗線溶剤の使用に際しては再出血を予防し,かつ血栓形成などの副作用を起こさない必要にして十分な投与量の決定,脳血管攣縮時の投与法,さらにはreboud fibrinolysisなどいまだ解決すべき多くの問題が残されている.
 本報告は破裂脳動脈瘤の抗線溶療法に際して,抗線溶剤の適切な投与量や持続期間を決めるために我々が行っている簡便なmonitoringの方法と,その結果が各症例にいかに反映されているかについて述べる.

症例

Carboquone,FT-207,Radiationの3者併用療法が著効を呈した再発悪性脳腫瘍の1症例

著者: 森照明 ,   府川修 ,   佐藤智彦 ,   堀重昭 ,   和田徳男

ページ範囲:P.865 - P.869

Ⅰ.はじめに
 現在癌化学療法剤はcell cycle specilic agent(CCS)とcell cycle non specific agent(CCNS)に大別体系づけられ,その投与法,量,期間,および併用療法などにcell kineticsに基づいた用い方がなされている.CCNSであるニトロソウレア系のBCNU(1.3-bis (2-chloroethyl)-1-nitrosourea),CCNU(1-(2-chloroethyl-3)-cyclohexyl-1-nitrosourea)に関しては近年数多くの報告がみられ40%前後の有.効成績をおさめてきている6,7,9,10,11,17,18,19,24,27,28,29,30,31)
 今回,我々はCCNSとして新しく開発されたCarboquone4)(2.5-bis(1-aziridinyl)-3-(2-carbamoyloxy-1-methoxyethyl)-6-methyl-benzoquinone)を脳腫瘍の治療に用いた.proliferating cellおよびnon-Proliferating cellの両者により有効的な殺細胞効果を期待してCarboquoneをbaseとしたFT-207,radiationの新しい組合わせによる3者併用療法を実施し,再発悪性脳腫瘍患者で著効を呈した症例を経験した.

細菌性脳動脈瘤の1例

著者: 種村廣巳 ,   坂井昇 ,   山森積雄 ,   山田弘

ページ範囲:P.871 - P.875

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の発生原因は通常,先天性,動脈硬化性,細菌性,外傷性などに分けられているが,そのうち細菌性脳動脈瘤は,その発生頻度が2.5-6.2%8,15)といわれ比較的稀で,抗生物質の進歩とともにさらに減少しつつある.まだ一般の先天性要因に基盤をおく脳動脈瘤と異なって,基礎疾患の存在,好発部位,好発年齢などの点で種々の特性があり,その治療方針も抗生物質の大量投与のみで動脈瘤が消褪するという報告4)もあり,必ずしも外科的治療のみを推奨する音ばかりではない点など興味深いところが多い.
 最近,我々は臨床所見および摘出動脈瘤壁の病理組織所見からみて,リウマチ性心内膜炎に合併したと悪われる,左中大脳動脈のprecentral cerebral artery末梢に発生した細菌性脳動脈瘤の1例を経験した,本邦における最近の細菌性脳動脈瘤の報告例は,これまでに我々が集計しえた限りでは,自験例を含め9例であり,それらを含めて文献的考察を加えたい.

神経線維腫症を合併したSpontaneous Extracranial Vertebral A.V.M.

著者: 川崎嶺夫 ,   三浦直久 ,   小林直紀 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.877 - P.882

Ⅰ.緒言
 Spontaneous extracranial vertebral arteriovenous malformation(Newton5))(以下S.E.V.-A.V.M.と略す)は,稀な疾患である.1950年Norman9)が乳児の本症を報告して以来,文献的に23例の報告を見るにすぎず,本邦ではいまだ報告をみない.またneurofibromatosisにmesodermalな発生奇形であるS.E.V.-A.V.M.の合併した報告は見当らない.著者らは,多発性胸椎髄膜瘤を伴うneurofibromatosisに,椎骨動脈を主な導入動脈とする頸部動静脈奇形を合併したきわめて稀な症例を経験した.本稿では,この症例を中心に,当疾患に文献的考察を加え,その成因および病態に若干の検討を加えて報告する.

巨大脳底動脈瘤に対する椎骨動脈結紮の一経験

著者: 鎌野秀嗣 ,   花村哲 ,   天野数義

ページ範囲:P.883 - P.887

Ⅰ.はじめに
 近年,脳動脈瘤の治療は,直接手術の普及が著しく,内頸動脈結紮手術のような間接的手術を行うことは少なくなっている.ことに椎骨脳底動脈系の動脈瘤に対し,近位動脈結紮を行う手術は従来も決して多くはなされていなかった.しかし最近Drake6)が巨大椎骨脳底動脈瘤に対し,近位動脈結紮を行った21例の報告は注目に価する.後頭蓋窩の動脈瘤は巨大になるものも多く6,8,9),またことに椎骨動脈合流部附近の動脈瘤は側頭経路でも後頭下開頭でも接近不可能な部位である19).直接手術法としては,経斜台法16)が考えられるが,巨大動脈瘤に対して十分な視野をうることはむずかしいと思われる.Hammon9)は乳様突起まで達する後頭下斜接近法を提唱しているが巨大動脈瘤ことに後方へ向うものでは困難と思われる.
 著者らは,巨大な椎骨動脈合流部動脈瘤の1例を経験し,椎骨動脈結紮術を行い,好い結果をえたので報告する.

先天性頭蓋外動静脈奇形—1例報告と文献的考察

著者: 高橋慎一郎 ,   古橋信之 ,   甲州啓二

ページ範囲:P.889 - P.893

Ⅰ.はじめに
 頸動脈および椎骨動脈を流入血管にもつ頭蓋外の動静脈奇形(以下AVMと略す)あるいは動静脈瘻(以下AVFと略す)は,頭蓋内のそれと比較し稀なものである.
 ここで言うAVMおよびAVFの定義は次のように理解している.動脈と静脈が直接交通しているものがAVFであり,動脈と静脈の間にmalformed vesselsの介在するもの,すなわち血管写上にていわゆるcapillary portionとして造影される部分を有するarteriovenous lesionがAVMと定義される17).しかし文献的にはAVM,AVFをともにAVMとして記載しているものや5),AVMをふくめてAVFと記載しているものなど1,10)いろいろあり,まぎらわしい.そこで著者らは,以下に記すAVMをAVFをふくめた広義のAVMとして述べることにする.

前交通動脈瘤をともなった一側内頸動脈完全欠損の1例

著者: 鶴田潤介 ,   宮崎雄二

ページ範囲:P.895 - P.900

Ⅰ.はじめに
 最近,著者らは12歳女子のくも膜下出血例において,脳血管撮影および開頭手術によって前交通動脈瘤を有するとともに左側の内頸動脈が欠損していることを確認しえたが,本例のような一側内頸動脈欠損例は文献上33例にすぎなく,しかも先天性脳動脈瘤との合併例は6例にすぎないので本例を報告するとともに文献的考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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