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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻9号

1977年08月発行

雑誌目次

近頃想うこと

著者: 橋場輝芳

ページ範囲:P.907 - P.908

 最近脳神経外科の領域はRIスキャナー,CTスキャナーなど頭蓋内疾患診断に有力な機器類が開発されることによって手術の決定や,予後の判定に関して著しく医師をして勇気づけるものがある.かつて気脳写,気室写,脳血管写などが開発されて頭蓋内変化の情報をうることができて脳神経外科領域が驚くほど進歩した時以来の快挙である.
 ただ最近こんなことが取沙汰されている,それは医療とは元来,医師と言う一人の人間と患者と言う一人の人間との間の信頼感にたつものであるにもかかわらず科学の進歩にともなって機械が医師と患者の間に介入してきて,著しくその信頼感を稀薄なものにしつつあると言うのである.言いかえれば医師はしだいに患者をデーターと見なしがちになり,患者は医師の診察をうけたと言う実感を失いつつあると言うのである.

総説

中枢神経系の感染症に対する抗生物質

著者: 由良二郎 ,   西秀樹 ,   柴田清人 ,   高木卓爾

ページ範囲:P.909 - P.918

Ⅰ.緒言
 中枢神経系感染症を大別16)すると,脳膿瘍,硬膜外膿瘍,硬膜下膿瘍,髄膜炎が一般的でその病原菌は,化膿菌による場合がほとんどであるが,時に真菌性髄膜炎の発症もみられ困難な治療に一層拍車をかけているのが現状である.膿瘍の治療に関しては,当然,外科的療法が主体で,化学療法は二次的となるため,他誌17,26,37,51)に譲ることとし,ここでは,脳外科領域における術後感染の種類と,その起炎菌について述べ,更に最も頻度の高い髄膜炎の抗生物質療法を抗生剤の髄液移行の問題にも触れつつ検討してみた.

手術手技

頭蓋形成術—即硬性レジン法について

著者: 中沢省三

ページ範囲:P.919 - P.924

Ⅰ.はじめに
 頭蓋形成術(cranioplasty)とは頭蓋の変形および頭蓋骨欠損部に対する骨形成手術である.これらのうち頭蓋骨欠損部をなんらかの硬性材料で補填しようとする試みは既に16世紀に始まり,高価な金の板を用いる補填術が好んで行われていた事実があげられている1),更に,1670年Meekren2)は,補填材料として犬の骨を採取し,人体頭蓋骨欠損部への無菌的移植に成功した.しかし,この移植骨は宗教上の理由から間もなくとり除かれる結果となったのは残念であった.
 その後,消毒法の進歩に伴う近代医学の発展とともに,頭蓋形成術の分野にも著しい進歩発展がもたらされ,様々な工夫と種々の材料の選定による多くの研究がなされてきた.特に,おびただしい戦傷者を出した第2次世界大戦を契機に,頭蓋形成術の必要性は急速に高まり,補填材料に関する研究と経験が積まれたが,更に近代産業の発展に伴う労働交通災害の激増により,その需要はいやが上にも高められ,現在に至っている3-12)

診断セミナー

Meniere症候群

著者: 上村卓也

ページ範囲:P.925 - P.930

Ⅰ.メニエール症候群VSメニエール病
 この両者の区別,そしていずれを用いるべきかという問題を論ずるためには,その出発点としてメニエールの報告までさかのぼる必要がある.
 Prosper Meniere注)(1799-1862)の論文のうち,最も有名な「卒中型脳充血症状を示す内耳障害に関する報告」Mémoire sur des lésions de I'oreille interne donnant lieu a des symptômes de congestion cérébrale apoplectiforme(Gaz.Med.Paris,3:16,1861)の内容を要約すると以下のようである.

研究

悪性脳腫瘍患者の細胞性免疫—とくに髄液リンパ球のsubpopulationに関する研究

著者: 植村正三郎 ,   和田伸一 ,   児玉万典 ,   松角康彦

ページ範囲:P.931 - P.939

Ⅰ.はじめに
 化学発癌物質(methylcholantrene)を用いたKlein10)らの実験以来,腫瘍特異的移植抗原(tumor specific transplantation antigen, TSTA)に関する研究5,6,17,22)は急速に進歩し,さらにそのTSTAに対して免疫監視機構(immunological surveillance)が働いている事実を裏づける報告も多くみられる.腫瘍免疫(tumor immunity)において,発癌過程,担癌状態における免疫機構の解析も注目されているが,一方,免疫担当細胞であるリンパ球のT-cell(thymus dependent cell),B-cell(bone marrow dependent cell)のsubpopulationが明らかにされ33,34)個々のpopulationの機能分化,共同作用の解析もすすんでいる.
 細胞性免疫(cellular immunity)が関与する腫瘍抵抗性の成り立ちは,TSTAに対する特異免疫により,腫瘍細胞が破壊されることが最も大きな要因と考えられる7,31)が,とくにそのeffecter cellとしてT-cellが大きな役割をはたしているといわれる.またB-cellが関与する液性抗体(humoral antibody)の細胞障害性抗体としての役割は,特殊な場合を除いて,むしろ少ないといわれている.

脳神経外科領域におけるglucocorticoid投与法の検討(第2報)—glucocorticoid髄液内濃度に関する臨床的研究

著者: 吉本尚規 ,   森信太郎 ,   松村茂次郎 ,   大田正博 ,   沖修一 ,   鮄川哲二 ,   日比野弘道 ,   石川進 ,   魚住徹 ,   松本圭史

ページ範囲:P.941 - P.946

Ⅰ.緒言
 脳神経外科領域において,脳浮腫の予防・治療に副腎皮質ホルモンが使用されるようになったのは1960年代初期からである.
 1961年GalicichとFrench2)が脳浮腫の治療に初めてDexamethasoneを使用し,その有効性を報告,ついで1962年,RasmussenとGulati11)は下垂体腫瘍,頭蓋咽頭腫の手術症例を内分泌学的見地より詳細に分析し,その結果から,これらの脳腫瘍の死亡率はglucocorticoid使用後著しく減少し,このglucocorticoidの効果は元来のglucocorticoidの生体維持作用を代償した効果のみでなく,むしろその非特異作用,すなわち脳のcrucial partでの脳浮腫をglucocorticoidが防止,抑制する効果が主体であるものと考え,更に焦点性てんかん患者の側頭葉切除症例にglucocorticoidを投与し好成績を得たと報告している.

脳血管同時3相厚層断層撮影法—第2報 円軌道移動方式による臨床応用

著者: 乙供通則

ページ範囲:P.947 - P.954

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内占拠性病変に対しては,血管が豊富で腫瘍陰影としてあらわれる場合を除けば,主要血管の偏位などから,間接的に病変の存在,位置,拡がりを知ることが多く,脳内血腫,嚢腫性腫瘍などを透亮像として捉えることはむずかしい.脳内血腫の場合,従来は脳シンチグラフィーによりその拡がりを知りえた.そしてまた近年はComputed tomographyの出現により,その病巣の把握は一層容易かつ確実となった.しかし,いずれの検査法でも血管(特に手術に際して重要な流出入血管)との関係を同時には示しえない.
 著者はこの目的に適うよう脳血管撮影の装置と手技の工夫を試み,基礎実験を行い,その可能性を示しすでに報告した16).今回は臨床に応用し,脳血管と同時に血腫を透亮像として描出しえたので,その結果につき検討する.

破裂脳動脈瘤急性期のComputed Tomography

著者: 片田和広 ,   神野哲夫 ,   佐野公俊 ,   柴田太一郎 ,   シヤーM.Y. ,   藤本和男 ,   戸田孝 ,   古賀佑彦

ページ範囲:P.955 - P.963

Ⅰ.はじめに
 X線診断学上の革命と言われているcomputed tomography(以下CT)が,脳出血,脳硬塞などの脳血管障害の診断上有用であることは既に報告されている5,6,8,11,13).しかるに,現時点では,CTで診断可能な非破裂動脈瘤は,径2cmを越すもののみで,それ以下の動脈瘤の診断は困難とされている,しかし,いったん動脈瘤が破裂した場合,CTによって得られる情報の診断的価値は高くなる.
 今回著者らは,15例の脳動脈瘤症例のCTを経験したが,そのうち10例の破裂急性期例を中心として,その診断および予後判定上,CTの有用性を検討した,その結果,若干の知見を得たのでここに報告し,諸家の御批判をあおぎたい.

小児第4脳室腫瘍の遠隔成績

著者: 森照明 ,   高久晃 ,   峯浦一喜 ,   堀重昭 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.965 - P.972

Ⅰ.はじめに
 小児においては天幕上の腫瘍に比し天幕下の後頭蓋窩腫瘍が多く,小児脳腫瘍の50-77%を占めている1,19).しかも小児の後頭蓋窩腫瘍ではその半数をcerebellar astrocytomaとmedulloblastomaが占め6,16,18,24),extracerebellarのtumorは少なく,その多くが第4脳室に関連した腫瘍または脳橋などの脳幹部のgliomaである.これらの腫瘍の中でpontine gliomaはその局在上,手術以外の補助療法に頼らざるを得ず予後もあまり期待できない.しかし小脳半球のastrocytomaは手術のみによってもある程度の遠隔を期待しうるものである.一方第4脳室に発生する腫瘍となると手術は困難ではあるが,必ずしも不可能な症例ばかりでなく,またradiationなどの補助療法でもある程度の効果を期待できる場合も多いので,その治療法の取捨選択にはなお多くの問題がある.しかしなお満足すべき治療成績は得られてはいない.そこで今回はこれら小児第4脳室腫瘍の自験例の遠隔調査を行い,特に年齢,病悩期間,脳室底浸潤の有無組織像,手術方法,放射線療法などとの関係について検討を加えたので報告する.

Sodium Nitroprussideによるdeliberate deep hypotension—94例のテント上脳動脈瘤・脳動静脈奇形の直達根治手術への使用経験について

著者: 増沢紀男 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.973 - P.978

Ⅰ.はじめに
 手術中に動脈血圧を降下させて出血量を最少限にとどめようとする試みは脳神経外科領域においても行われてきた.髄膜腫の手術に際して無血手術を目的としたarteriotomy,血液の除去・再注入などの工夫もされた.薬物使用によるものとしてはganglioplegicsによる動脈血圧の降下を期待して,1950年Enderbyによってはじめてpentamethonium iodideが外科手術に導入され,ついで翌年にEnderbyら,Guiotらによってganglioplegicsの1つであるhexamethoniumの使用が報告されている.ganglioplegicsの範疇に入る薬物としては上に述べたhexamethonium,pentamethoniumの他に,tetraethylammonium,phenactropium,trimethaphan(Arfonad)などがある.
 脳動脈瘤手術中にWiklund29)は28例にhexamethoniumを,AndersonとMcKissock1)は9例にArfonadを試みている.最近になりganglioplegic actionのない新しい低血圧誘発剤であるsodium nitroprussideが脳動脈瘤手術に使用されてきた5,19,20,26).われわれもArfonad使用に際しての種々の不都合さの経験より,Hamby11)によってもすでに推奨されていたsodium nitroprussideを応用するようになった.

頭蓋内圧測定装置の試作—Pressure Indicating Bagの応用による硬膜外圧の測定

著者: 秋岡達郎 ,   藤本俊一郎 ,   久山秀幸 ,   西本健 ,   二宮一彦 ,   松本皓 ,   西本詮

ページ範囲:P.979 - P.984

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内圧測定には従来,種々の装置が用いられ,(1)ventricular drainageやsubdural spaceへcannulationを行うopen tip method,(2)頭蓋内へballoonを挿入し圧変動を測定するclosed method,(3)頭蓋骨に設けたburr holeに直接pressure transducerを固定して測定する方法などに大別される.しかし,実際の使用にあたっては,持続的測定ならびに頭蓋内圧の絶対値の測定が可能であること,感染や生体内漏電の危険がないこと,故障が少なく廉価であることなどの条件を備えていることが重要である.なかでもballoon法による頭蓋内圧の測定は,簡単に施行しうるため,動物実験および臨床例において広く用いられてきたが,(1)balloon自体の持つ張力による測定値の誤差,(2)頭蓋内圧亢進によるballoonの体積の減少と内容の漏出,(3)圧測定中の零点調整が不可能であることなどの欠点を有している.そこで今回,私どもはこれらの欠点を補うために沼本のpressure indicating bag(PIB)の原理を応用して,新しい頭蓋内圧測定装置を試作したので報告する.

症例

Parkinsonismを呈した穹窿部髄膜腫の1例

著者: 西村謙一 ,   大関潤一 ,   小穴勝麿 ,   西城健 ,   金谷春之

ページ範囲:P.985 - P.989

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍患者の経過中にparkinsonismを呈する例があることは,今井,平山4)によれば,既に1920年代から知られており,日常,臨床においてこのような症例に遭遇することは決してまれなことではないと思われるが,わが国における症例報告は意外に少なく,まだわずか数例に過ぎない1,3,4,6,7,12)
 われわれは最近,parkinsonismを呈した大脳穹窿部髄膜腫の患者で腫瘍摘出によりparkinsonisinが治癒した例を経験したのでここに報告する.

術中の血管損傷に起因した脳動脈瘤の1症例

著者: 宮原郷士 ,   鄭九龍 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.991 - P.994

Ⅰ.緒言
 外傷性脳動脈瘤は,外傷と脳動脈瘤発生との因果関係を疑問視する意見もまぬがれず,報告例は稀である.
 最近,われわれは髄膜腫の摘出術をうけた症例に,術後の血管撮影ではじめて脳動脈瘤を認め,再開頭によってそれを確認する機会を得た.これは,術中の血管損傷による外傷性脳動脈瘤と考えられるので,ここに報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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