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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科50巻2号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 水頭症—脳脊髄液動態への理解と治療に迫る

Editorial

著者: 喜多大輔

ページ範囲:P.263 - P.263

 脳脊髄液の産生・循環・吸収における“bulk flow theory”は,あたかも「天動説」が「地動説」に置き換わるかのような刷新を迫られています.シャント手術,神経内視鏡による第三脳室底開窓術などの水頭症に対する優れた治療法も,「天動説」を基盤として確立してきたと言えるかもしれません.パラダイム・シフトが生じている今日,脳脊髄液の産生・吸収の不均衡の結果生じてくる水頭症,およびその周辺の病態に対して,新たな知見に基づいて,診断や治療を見直してみることが必要と思われます.
 本特集は「水頭症—脳脊髄液動態への理解と治療に迫る」と題しました.これから水頭症治療にあたる専門医前後の医師にとって必要不可欠となる病態への理解と治療のスタンダードを示すことを目的に企画しましたが,もちろん既に豊富な知識をお持ちの先生方にとっても知識のアップデートを図る上で有用な内容になると思います.

Ⅰ脳脊髄液の生理と解剖

脳脊髄液の産生・吸収機構と脳室拡大の解剖学的メカニズム

著者: 山田茂樹

ページ範囲:P.264 - P.275

Point
・脳脊髄液(CSF)は主に脳内から排出される間質液から生成され,脈絡叢から産生されるCSFはホメオスタシス維持の重要な役割を担っている.
・CSFはくも膜顆粒を介して静脈洞から吸収されるのではなく,硬膜リンパ管から主に吸収される.
・CSFが増加すると,脈絡裂を中心に臨時のCSF交通路が開いて,側脳室と脳底槽・シルビウス裂が一体となって拡大する.

脳脊髄液分布における水チャンネルの局在と機能

著者: 林康彦

ページ範囲:P.276 - P.286

Point
・脳脊髄液の産生,吸収による分布には水チャンネルが関与している.
・水チャンネルのアクアポリン4(AQP-4)が吸収に,アクアポリン1(AQP-1)が産生に主に関与している.
・脳内に存在するglymphatic systemは脳脊髄液を吸収,組織中の老廃物を除去するリンパ系機構である.

水頭症治療に必要な脳室系の解剖

著者: 渡邉督

ページ範囲:P.288 - P.297

Point
・脳室解剖では全体を立体的に把握することが重要であり,その上で神経,血管,脈絡叢などの相互関係を理解する.
・低侵襲で深部観察に優れた神経内視鏡は,脳室内腫瘍に対する手術に有効な手段であり,実際の手術写真とイラストで解剖の理解を深める.
・脳室周囲の重要構造物はわずかな損傷でも症状を呈する場合があり,解剖の熟知,愛護的な操作が重要である.

Ⅱ特発性正常圧水頭症

特発性正常圧水頭症(iNPH)の診断

著者: 中島円 ,   川村海渡

ページ範囲:P.298 - P.308

Point
・『特発性正常圧水頭症(iNPH)診療ガイドライン第3版』(GL 2020)では,iNPHの診断を症候,画像所見とタップテスト判定を中核にし,シャント治療が有効な患者群を抽出している.
・GL 2020の診断アルゴリズムは,iNPHの症状に類似する疾患との鑑別プロセスが含まれていないため,アルゴリズムに含まれない検査は詳細な疾患病態や併存疾患の程度を捉える目的で実施される.

特発性正常圧水頭症(iNPH)の疫学と遺伝性水頭症

著者: 伊関千書

ページ範囲:P.309 - P.317

Point
・日本の複数地域からの報告より,高齢人口におけるiNPHの有病率は1.6%で,山形県コホートにおける発症率は1.2/1,000人年であった.
・日本のガイドラインのpossible iNPH with MRI supportでは地域に潜在するiNPHを拾い上げられるものの,病院受診率は依然数%である.
・遺伝性水頭症,iNPHのリスク遺伝子により水頭症の病態解明が期待される.

特発性正常圧水頭症(iNPH)と鑑別すべき神経疾患

著者: 大道卓摩 ,   徳田隆彦

ページ範囲:P.319 - P.330

Point
・アルツハイマー病と特発性正常圧水頭症(iNPH)の鑑別には,脳脊髄液リン酸化タウ濃度が有用である.
・パーキンソン病・レヴィ小体型認知症とiNPHの鑑別には,MIBG心筋シンチグラフィーが有用である.
・iNPHの鑑別疾患となり得る神経変性疾患は,iNPHと臨床診断できる症例に併存している場合もある.

Ⅲ水頭症の治療

シャントデバイスの原理と選択のエビデンス

著者: 喜多大輔

ページ範囲:P.331 - P.347

Point
・差圧バルブはバルブ両端の圧較差によって開閉する.
・シャント設置後の頭蓋内圧は頭蓋外環境に連動して変化する.
・抗サイフォンデバイスとして流量調整機構と重力バルブ機構がある.
・抗菌カテーテルには使用を推奨するエビデンスがある.
・常時モニタリング可能な次世代シャントが開発中である.

成人シャント手術—腰部くも膜下腔腹腔シャント(L-P shunt)のTIPS

著者: 鮫島直之 ,   桑名信匡 ,   渡邊玲 ,   久保田真由美 ,   関要次郎

ページ範囲:P.348 - P.357

Point
・脳への穿刺を必要としない腰部くも膜下腔腹腔シャント(L-P shunt)は低侵襲な手術として最近注目されてきている.
・高齢者が対象のため合併症の回避が重要である.L-P shuntは腹腔側チューブが逸脱しやすいので,腹直筋貫通法にZ縫合を加えるなどさまざまな手技の工夫を習得する.
・術後もシャントの効果が最大限に得られているか注視していく姿勢が大切である.

成人シャント手術—脳室心房シャント(V-A shunt)のTIPS

著者: 陶山大輔

ページ範囲:P.358 - P.365

Point
・脳室心房シャント(V-A shunt)では術後のシャント機能不全は少ないが,オーバードレナージに注意する必要がある.
・心房カテーテルは胸鎖乳突筋の筋線維を縦割して頚静脈へアプローチすると,小さな傷で挿入可能である.
・V-A shuntは方法やデバイスが普及していないが,患者要因に左右されにくい手技である.

内視鏡的第三脳室開窓術の理論と実際

著者: 西山健一

ページ範囲:P.366 - P.375

Point
・内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)は髄液拍動のエネルギーをくも膜下腔に伝え,脳室壁を介して脳実質に与えていた拍動の負荷を軽減させる.
・稀ではあるが脳底動脈を損傷した際は,脳圧制御下に洗浄して止血を待つのが肝要である.
・ETVは閉塞し得るので術後フォローが必要である.

小児水頭症に対する治療戦略

著者: 亀田雅博

ページ範囲:P.376 - P.386

Point
・水頭症は病態としては増悪進行することが一般的であり,治療介入によって停止性の病態に持ち込む必要がある.
・内科的治療で小児水頭症の根治を得るのは難しく,脳室腹腔シャント術や内視鏡的第三脳室底開窓術(ETV)±脈絡叢焼灼術(CPC)といった外科的治療が行われる.
・小児水頭症では,術後慢性期であってもシャント機能不全などを発症することがあるため,定期フォローアップ環境の構築と維持が重要である.

青壮年期発症の水頭症の特徴と治療

著者: 村井尚之

ページ範囲:P.387 - P.392

Point
・先天的または発達の早期から脳室が大きくても,成人になってから遅れて水頭症症状を発症する場合がある.
・成人発症の水頭症には交通性と非交通性との場合があり,治療法の決定には病態の確認が必要である.
・第三脳室底が膨隆していることが多く,主に第三脳室底開窓術の適応となるが,橋前槽が狭いこともあり注意を要する.

長期シャント患者における合併症と治療法

著者: 朴永銖

ページ範囲:P.393 - P.410

Point
・シャント手術の合併症として,術後早期にはシャント感染が問題となるが,その後長期にわたりさまざまな合併症が生じるリスクがある.
・シャント機能不全による水頭症の急速な進行悪化は,時に生命予後にかかわることを忘れてはならない.
・孤立性脳室やスリット脳室は特殊なシャント関連病態であり,その治療は容易ではない.
・近年,神経内視鏡的第三脳室底開窓術を併用したシャント離脱(抜去)が試みられるようになっているが,適応は慎重に検討すべきであり,綿密な治療計画が求められる.

くも膜下出血後続発性水頭症の治療

著者: 山城重雄

ページ範囲:P.411 - P.418

Point
・くも膜下出血後の慢性期水頭症の頻度はおおむね30%で,重症例ほど頻度が高い.
・クリッピング術後とコイル塞栓術後で,水頭症発生に有意差はみられない.
・抗血小板薬投与下でのシャント術は可能であるが,出血リスクに留意する.

脳室内出血および脳出血後水頭症の病態と急性期治療

著者: 山本拓史

ページ範囲:P.419 - P.428

Point
・脳室内出血は脳内出血の独立した予後不良因子であるとともに,脳室内血腫の増大も脳室内出血の予後不良因子となり得る.
・脳室内出血の治療は頭蓋内圧のコントロールと速やかな血腫除去が中心となる.
・血栓溶解薬を用いた血腫除去は死亡率を有意に改善させる.
・神経内視鏡による血腫除去術は血栓溶解薬よりも効率的に血腫除去が可能だが,エビデンスに乏しい.

脳室内腫瘍に合併する水頭症の治療

著者: 鈴木智成

ページ範囲:P.429 - P.440

Point
・脳室内腫瘍による水頭症は髄液循環路の閉塞のほか,髄液の吸収障害や産生過多によって生じ,その原因を正しく判断することが重要である.
・腫瘍の組織型はさまざまであり化学療法や放射線治療に感受性のよい腫瘍もあるため,水頭症治療と同時に生検を行うメリットは大きい.
・頭蓋内圧が高い症例への脳室ドレナージや脳室腹腔シャントは,上行性ヘルニアを生じる危険があり注意を要する.

Ⅳ脳脊髄液漏出症と特発性頭蓋内圧亢進症

脳脊髄液漏出症の疾患概念と診療方針の現状

著者: 守山英二 ,   石川慎一

ページ範囲:P.441 - P.454

Point
・脳脊髄液漏出症は特発性低髄液圧症候群のみならず,難治性むち打ち損傷関連障害(WAD),小児若年者の起立性調節障害(OD)から体位性頻脈症候群(POTS)などを含む幅広い病態である.
・診断では,脊髄MRIによるスクリーニング,硬膜外持続注入による症状改善の確認,CT脊髄造影検査による診断確定の順に進むのが効率的である.
・従来知られていた髄液漏出部位に加えて,椎骨動脈硬膜貫通部からの漏出の可能性を念頭に診断・治療にあたる必要がある.

特発性頭蓋内圧亢進症の診断と治療

著者: 柴田靖

ページ範囲:P.455 - P.466

Point
・頭蓋内に腫瘤,血管病変,水頭症などがなくても頭蓋内圧が亢進する病態を特発性頭蓋内圧亢進症と呼ぶ.
・頭痛,嘔気,視神経乳頭浮腫を呈し,妊娠可能な肥満女性に多い.
・病態は未だ不明であり,髄液循環障害,静脈還流障害,代謝障害などが研究されている.
・治療は体重減少のための生活・食事指導,薬物治療,外科治療が報告されているが,エビデンスは低い.

解剖を中心とした脳神経手術手技

解剖を基礎にした片側顔面けいれんの手術

著者: 藤巻高光 ,   氏原匡樹 ,   平田幸子 ,   高畠和彦 ,   脇谷健司 ,   小林正人

ページ範囲:P.467 - P.479

Ⅰ はじめに
 脳神経減圧術(microvascular decompression:MVD)によって治療される2大疾患は,三叉神経痛(trigeminal neuralgia:TN)と片側顔面けいれん(hemifacial spasm:HFS)である.この2つの手術は同じ「小脳橋角部」にアプローチする手術であり,共通点もあるがまったく異なる手術であると認識して臨む必要がある.本稿では,HFSのMVDを行うにあたって知っておくべき要点を皮膚切開(皮切)から開頭,頭蓋内操作,閉頭と順に述べる.なお,TNについては本誌36巻7号1)にて述べておりこれもご一読いただきたい.この2つの手術の大きな相違点は,TNは小脳の上外側からのアプローチを行う手術であるのに対し,HFSは小脳の下外側からの手術であるという点である.筆者はキーホールアプローチ(キーホールとしてはやや大きめ,直径2.8 cm)のためこの2つの開頭はかなり異なったものとなるが,読者諸氏が大きめの開頭を行うことで開頭部にそう差異がない場合でも,このアプローチの違いは意識して手術を行っていただきたい.
 なお,本稿では読者諸氏が比較しやすいように,すべて右側の手術を想定して図を提示する.一部左側の症例は左右反転した図を掲示する.

連載 海外での手術経験から学ぶ—手術環境・道具・技術そして心の重要性

vol. 3 外国での手術経験から日本の若手脳神経外科医に伝えたいこと

著者: 栗田浩樹

ページ範囲:P.480 - P.485

はじめに
 中堅以上の脳神経外科医になり,基幹施設(大学)に所属して専門分野(subspecialty)の手術経験が蓄積されてくると,連携・関連施設から手術の依頼を受けることが多々ある.このような手術依頼は外科医として嬉しいものであるが,筆者はこのような「出張手術(いわゆるお座敷オペ)」をしないことを脳神経外科医としての誇りにしてきた.無論,医療過疎地で患者の搬送が困難である場合など,やむを得ない場合もあることは十分承知しており,筆者も手術の指導医として関連病院の手術に参加することはあるが,術前・術後に患者の状態を自分で把握・管理できない手術を自身で執刀することは,医師の倫理に反すると考えてきたからである(責任の所在があやふやな手術はしない.術前・術後の説明,術後のfollowは必ず自身で行う).よって,今まで国内で出張手術をした経験は筆者にはない.しかしこのpolicyは,自分の手術が必要な患者には遠方からでも大学に来てもらうことを前提としており,時に患者や家族に多大な負担を強いていることは否めない.
 外科医としてのpolicyを変えた訳では決してないが,最近は,発展途上国で手術する機会が比較的増えた.それは,それだけの価値があると考えているからである.本稿では,今までの外国での手術経験から,その「価値」について,日本の若手脳神経外科医に伝えたいことを述べたい.

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目次

ページ範囲:P.258 - P.259

欧文目次

ページ範囲:P.260 - P.261

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.487 - P.487

次号予告

ページ範囲:P.488 - P.488

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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