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雑誌目次

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Neurological Surgery 脳神経外科50巻3号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 一生使える頭蓋底外科の“知”と“技”—〔特別付録Web動画付き〕

Editorial

著者: 森田明夫

ページ範囲:P.495 - P.495

 頭蓋底外科手術は,脳神経外科領域では1980年頃から盛んに取り入れられるようになった手術技術である.脳のretractionを極力排して頭蓋底部や脳中心部にアクセスし,それまでは手術をためらわれていた病変にも対応する武器を外科医に与えた.神経解剖学・生理学,そして病理学的検討の進歩も相まって,大きな熱をもって受容されてきた.
 一方で,さまざまな代替え治療の発展や,多くの頭蓋底外科手術の経験から学んだpitfallに基づいて,現在では以前のように長時間かけて骨を削って行う大規模な「いわゆる」頭蓋底外科手術の頻度は低くなりつつある.ただ,現時点でも根治や症状改善のために頭蓋底外科手技が必要となる症例も多く存在し,通常または低侵襲の小開頭手術においても頭蓋底外科手技が重要な局面で必要となる.さらに,新たな分子生物学的知見やロボティクスのような技術も生まれつつあり,これらを頭蓋底外科疾患の治療に応用することも重要である.これまで頭蓋底外科手術から得られた解剖や病態の知見,神経や血管を安全に温存する術,脳への低侵襲コンセプト,新しい知識や技術を積極的に取り入れていく姿勢などは,次世代にしっかりと伝承していかねばならない.

Ⅰ頭蓋底外科の歴史と展望

頭蓋底外科の歴史と展望

著者: 森田明夫

ページ範囲:P.496 - P.507

Point
・頭蓋底外科の歴史は外科学や技術の進歩,経験の蓄積に伴い,大きく5つの段階に分けられる.
・海綿静脈洞や錐体・斜台部疾患へのアプローチの開発は,大きく頭蓋底外科を進歩させた.
・経験の蓄積・新しい技術や知識の導入により,頭蓋底外科は「脳への侵襲の低減」という本来の目的を達成すべく展開している.

Ⅱ頭蓋底外科手術に必要な解剖・生理・病理の知識

海綿静脈洞・傍鞍部と眼窩の手術に必要な解剖知識

著者: 名取良弘

ページ範囲:P.508 - P.515

Point
・海綿静脈洞,傍鞍部の解剖では,膜構造の理解が手術に重要である.
・前床突起・optic strutと内頚動脈の関係を3Dで理解することが重要である.
・眼窩では,筋円錐内・外の理解が手術に重要である.

側頭骨錐体乳突部の微小手術解剖

著者: 鰐渕昌彦

ページ範囲:P.516 - P.524

Point
・錐体乳突部の上面:三叉神経第3枝,椎体骨縁,大浅錐体神経と内頚動脈水平部,弓状隆起で囲まれた四角形の範囲を骨削除し,内耳道と後頭蓋窩の硬膜を露出する.
・錐体乳突部の背側面:endolymphatic sacに相当する硬膜の陥凹を頂点として硬膜を翻転し,頚静脈球や前庭に注意しながら内耳道を開放する.
・錐体乳突部の外側面:頬骨弓基部,mastoid tip,asterionで囲まれた範囲を削除し,sigmoid sinus,mastoid antrum,顔面神経管,三半規管を同定し,硬膜を露出する.

後頭蓋窩・頭蓋頚椎移行部の解剖

著者: 安部洋 ,   井上亨

ページ範囲:P.525 - P.534

Point
・後頭蓋窩には重要な構造物が複雑かつ密に存在している.
・解剖の知識を習得するために,骨,硬膜,神経組織,血管などの構造を関連づけることが重要である.

内視鏡下頭蓋底手術・鼻腔解剖

著者: 讃岐徹治 ,   角谷尚悟

ページ範囲:P.535 - P.543

Point
・鼻副鼻腔の役割は,呼吸路,吸気の加温・加湿・フィルター,嗅覚,共鳴腔などである.
・前頭洞,前後篩骨洞,蝶形骨洞を開放して,腫瘍基部とともに篩骨天蓋切開を行い,頭蓋内へアプローチする.
・蝶形骨洞と上顎洞開放を組み合わせることで内視鏡下に翼口蓋窩へアプローチすることが可能となる.
・有茎鼻中隔粘膜弁は,前頭蓋底腫瘍だけではなく,翼口蓋窩や蝶形骨洞などあらゆる欠損部位に利用可能な再建材料である.

頭蓋底の血管解剖

著者: キッティポンスィーワッタナクン

ページ範囲:P.544 - P.553

Point
・頭蓋底の血管解剖には一定の法則がある.これを理解し,さまざまなバリエーションに対応する.
・塞栓術の際,注入条件などですべての吻合が観察できるわけではないこと,一部は病変を介した吻合も存在することを意識する.

頭蓋底外科手術の神経モニタリング

著者: 大石誠 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.554 - P.563

Point
・頭蓋底部の手術,とりわけ腫瘍の摘出術では,各種脳神経モニタリング法のセットアップおよびデータの解釈を適切に行い運用することが重要である.
・顔面神経機能をはじめとした運動神経のモニタリング法として,運動誘発電位(MEP)の記録が有用である.
・脳神経に直接アプローチする場合は神経マッピングと持続モニタリングの意義を見極め,筋電図free-runningの観察も含めて,用途に応じ適宜併用した運用を行う.

髄膜腫WHO grade 1/2/3の最新知見

著者: 大宅宗一

ページ範囲:P.564 - P.571

Point
・髄膜腫のWHO分類に分子診断が重要な役割を果たすようになってきている.
・外科治療は依然として髄膜腫治療における第一選択である.
・外科治療が困難なWHO grade 2/3髄膜腫への新規治療法の開発が進んでいる.

神経線維腫症2型の分子生物学的背景

著者: 宮脇哲 ,   寺西裕 ,   齊藤延人

ページ範囲:P.572 - P.577

Point
・神経線維腫症2型(NF2)は両側の聴神経腫瘍,多発神経鞘腫,多発髄膜腫を特徴とした難治性疾患である.
・NF2の半数は家族性に発症することが知られており,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の遺伝形式をとり,患者はNF2遺伝子のgermline mutationを有する.
NF2遺伝子のgermline mutationが認められない症例の大部分にNF2遺伝子の体細胞モザイクがかかわっていると考えられている.
NF2遺伝子の遺伝子型は生命予後や機能予後と関連する.

悪性頭蓋底疾患に対する頭頸部外科での常識—脳神経外科の非常識

著者: 朝蔭孝宏

ページ範囲:P.578 - P.585

Point
・脳神経外科,耳鼻咽喉科・頭頸部外科,形成外科の3科のチームワークが重要である.
・腫瘍を露出させず健常組織に包むような形で切除することが何よりも重要である.

頭蓋底再建手術の基本的コンセプト

著者: 田中顕太郎 ,   岡崎睦

ページ範囲:P.586 - P.594

Point
・頭蓋底再建手術のコンセプトは欠損する頭蓋窩の部位(前頭蓋窩か,中頭蓋窩か)により異なる.
・頭蓋底再建手術の術式は有茎局所皮弁術と遊離組織移植術の大きく2つに分けられる.
・術式選択の際には再建手術の目的を考慮することが重要で,目的の数が多いほど遊離組織移植術の適応となる可能性が高い.

Ⅲ基本的頭蓋底手術アプローチの概要とコツ—代表的症例の手術ビデオとともに

Dolenc approach—前床突起削除・海綿静脈洞への硬膜外アプローチ

著者: 森健太郎

ページ範囲:P.595 - P.604

Point
・Dolenc approachでは,側頭葉内側の固有硬膜を海綿静脈洞外側壁から剝離することがポイントとなる.
・硬膜外からの視神経管開放や前床突起削除によって,視神経や内頚動脈の可動性が得られる.
・側頭葉を硬膜ごと後方へ移動し,中頭蓋窩前方のスペースから頭蓋底中心部へのアプローチが可能となる.

Combined petrosal approach

著者: 後藤剛夫

ページ範囲:P.605 - P.613

Point
・必要最低限の骨削除でcombined petrosal approachを行うための解剖の理解
・手術手技に合わせた側頭骨解剖の理解
・テント切開とメッケル腔開放の重要性の理解

Anterior transpetrosal approach

著者: 堀口崇 ,   𠮷田一成

ページ範囲:P.614 - P.624

Point
・中頭蓋窩底の膜構造を組織学的に理解し,大錐体神経を温存した硬膜外剝離によって錐体骨先端部を露出する.
・錐体骨先端部の削除は,正確な解剖学的知識に基づき,後頭蓋窩の硬膜を確認してから斜台の方向へ向かうと効率がよい.
・テント切開においては滑車神経,三叉神経,上錐体静脈に注意するが,特に腫瘍の場合は正常解剖が偏移していることを念頭に置く.

外側後頭下開頭とfar lateral approach—神経鞘腫・髄膜腫・類上皮腫手術のための術野拡大

著者: 松島健 ,   河野道宏

ページ範囲:P.625 - P.633

Point
・浅く広い術野を作るよう,体位・皮膚切開・筋層剝離を行う.
・Far lateral/transcondylar approachなどの開頭範囲の拡大の際は,アプローチの名称にとらわれることなく,症例に応じて大孔の開放や顆窩・頚静脈結節・後頭顆の削除などの手技を組み合わせる.
・側頭骨内部の解剖を十分に理解し,Meckel腔・内耳道後壁・頚静脈孔上壁の骨削除を行う.
・主要血管を温存しつつ脳裂の可及的剝離を行うことで,効果的な小脳の牽引が可能となる.

拡大経鼻内視鏡手術—基本解剖手術手技とピットフォール

著者: 亦野文宏 ,  

ページ範囲:P.634 - P.643

Point
・術前MRI,CTで腫瘍と神経,血管の関係を十分に検討,理解する.
・内視鏡解剖における内頚動脈,脳神経の走行と鼻内構造物の位置関係を理解する.
・可能な限り鼻内構造を削除せず構造物を保つアプローチを選択すべきである.

Ⅳ頭蓋底外科short topics

頭蓋底外科での止血と剝離

著者: 松島健 ,   河野道宏

ページ範囲:P.645 - P.649

Point
・「① どこから」「② どの程度」出血しており,「③ どのような周囲の構造物」に注意し,「④ どれほど迅速に」止血しなければいけないかにより止血法を選択し,精度の高い手技を心がける.
・神経周囲では「青ダマ」,静脈洞の大きな損傷にはゴアテックス®シートパッチが有効である.
・Semisharp dissectionを中心にsharp/blunt dissectionを使い分けるとともに,SS鑷子のような多様な動作が可能な器械を頻用する.

頭蓋底外科手術におけるハイスピードドリルと超音波吸引器の使い方

著者: 森迫拓貴 ,   後藤剛夫

ページ範囲:P.650 - P.654

Point
・脳神経外科手術では,多種多様な手術器具・機器が日々開発され,その進歩は手術戦略に影響を与え,手術精度の向上に寄与している.
・特に頭蓋底外科手術においては,ハイスピードドリルや超音波吸引器は安全で確実な病変の摘出に大きく寄与しており,これらの特性を習熟し適切に使いこなすことが肝要である.
・本稿では頭蓋底外科手術におけるハイスピードドリルの安全な使い方,超音波吸引器の吸引および骨切モードの使い方について解説する.

綿片の使い方

著者: 大畑建治

ページ範囲:P.655 - P.662

Point
・綿片の使い方
・脳ベラの使い方
・脳挫傷の予防

深部硬膜縫合のポイントとピットフォール

著者: 鈴木幸二 ,   田原重志

ページ範囲:P.663 - P.670

Point
・経鼻下垂体手術の歴史は術後の髄膜炎をいかに少なくするかの手術法改良の変遷とも言える.
・頭蓋底再建法の改良の中で多層再建法に加え,主に本邦において深部硬膜縫合法が提唱されている.
・深部硬膜縫合法のポイントとピットフォールに関して動画を用いて詳細に記述する.

顔面神経麻痺の神経再建手術

著者: 林明照

ページ範囲:P.671 - P.674

Point
・陳旧性顔面神経麻痺後遺症では,神経再建手術が有効な場合がある.
・舌下神経—顔面神経間神経移植術(クロスリンク法)では,腓腹神経を2カ所の端側神経縫合で移植する.
・端側神経縫合では,神経上膜開窓法や神経部分切除(切開)法が用いられる.

Web付録

頭蓋底外科手術ビデオコーナー

ページ範囲:P.676 - P.679

本号では,トップランナーの先生方による頭蓋底外科の代表的症例の手術ビデオをオンラインコンテンツとして供覧します.本PDF最終ページ(p679)に掲載のURLもしくは二次元コードからご覧ください.

総説

膜構造から考えた頭蓋底良性腫瘍の手術摘出術

著者: 渡邉健太郎 ,   村山雄一

ページ範囲:P.681 - P.694

Ⅰ はじめに
 良性腫瘍手術は非常に特殊であり,マクロ,ミクロの視点から膜構造を理解することで,合併症を回避することが非常に重要である.解剖学的に考察し理解を深めることはどんな手術にも不可欠である.基本的な腫瘍から複雑な頭蓋底腫瘍の手術にまで通ずる手技,コンセプトを示す.
・良性腫瘍手術における基本的手技
・腫瘍発生機序と腫瘍の性質についての考察
・腫瘍膜構造の理解と周辺構造との関係
 この3つを考え,コンセプトを理解することが手術戦略を立てるために役に立ち,手術合併症を少なくすることができると考えている.
 良性腫瘍の手術治療は,腫瘍の占拠性の病変による周囲の脳または神経,血管への影響や,経時的な腫瘍の増大による将来的な影響を考慮して行われる.腫瘍の増大速度は多くの場合ゆっくりであり,決して急いで手術をするべきではないことが多い.また多くの場合無症候,または症状がある場合でもその進行は緩徐であり,生命を脅かす腫瘍ではない.
 したがって手術を行う場合,未破裂の脳動脈瘤の手術と同様,決して手術後に新たな症状を起こしてはならないというのが前提であり,機能温存を最優先として手術を行うべきである.しかし,腫瘍の一部が残った場合には再発してくるのも事実であり,腫瘍を可及的に摘出することが重要である.
 髄膜腫,神経鞘腫,下垂体腺腫は代表的な頭蓋内発生の良性腫瘍であり,これらの腫瘍はすべて周囲組織との境界がある.もちろん周囲との癒着がある場合があるが,基本的な構造は腫瘍との周囲に明らかな「境界」があり,その隔たりを生み出すための薄い膜の層がある.この膜は,腫瘍が周りと自分との間に細胞を増殖するための境界であり,いわゆる「腫瘍被膜」として捉えることができる.筆者はこの腫瘍被膜の膜構造と周囲の正常組織との関係性から,いかに手術合併症を減らすかを考え手術を行っている.本稿では髄膜腫,神経鞘腫,下垂体腺腫それぞれの腫瘍被膜を組織学的に評価し,その膜構造と実際の手術でみられる構造との比較を行った.

連載 海外での手術経験から学ぶ—手術環境・道具・技術そして心の重要性

vol. 4 開発途上国における脳神経外科手術の経験

著者: 出雲剛

ページ範囲:P.696 - P.701

はじめに
 開発途上国では脳神経外科医が少なく,モータリゼーションの悪循環を背景に交通外傷を中心とした頭部外傷患者の緊急手術に多くの時間が割かれています.そのため,脳血管障害,脳腫瘍,機能的外科の手術などには十分に手が回らないのが現状です.また,高度な手術を施行するための手術環境,手術器具,そして手術技術は未だ十分ではありません.その一方で,現地の若い医師の手術技術習得に対する熱意は大いに感じられ,手術を必要とする患者も多数存在します.筆者は2017年12月のケニアでの手術をはじめとして,これまでに延べ7カ国において合計13例の手術を経験する機会を得ました.これらの経験をもとに開発途上国における脳神経外科手術の現状を報告し,現地での手術における注意点について述べるとともに,日本の脳神経外科医が現地の脳神経外科医療の発展に対して今後いかに貢献できるのかを考察したいと思います.
 私の開発途上国における手術経験はまた日が浅く,前述したように2017年12月のケニア・モンバサから始まり,これまでに延べ7カ国において合計13例(脳動静脈奇形4例,破裂巨大前交通動脈瘤2例[急性期1例・慢性期1例],破裂慢性期中大脳動脈瘤1例,破裂急性期前大脳動脈遠位部動脈瘤1例,下垂体腫瘍2例,小脳グリオーマ1例,小脳橋角部髄膜腫1例,三叉神経痛1例)の手術に携わってきました.2019年12月にケニア・ニエリを訪れて以降は,新型コロナウイルス感染症流行の影響により,海外での手術貢献の実績は停止しています.つまり,わずか2年間にかなり密度の濃い経験をしました.経験症例数は少ないのですが,それらを経験した上での手術の注意点について記したいと思います.

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目次

ページ範囲:P.490 - P.491

欧文目次

ページ範囲:P.492 - P.493

動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.654 - P.654

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.703 - P.703

次号予告

ページ範囲:P.704 - P.704

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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