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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科50巻4号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 STA-MCAバイパス術—日本が世界に誇る技を学ぶ

Editorial

著者: 森岡基浩

ページ範囲:P.711 - P.711

 浅側頭動脈(STA)-中大脳動脈(MCA)バイパス術は,脳神経外科にとって基本的な手術手技の1つです.そして,それは単に脳虚血性疾患に対する治療のみならず,脳腫瘍手術や一般脳神経外科手術の不慮の事態に対する緊急処置としても必要な手技です.また,この手術手技をきちんと習得することにより脳循環に対する理解を得ることができ,さらに難易度の高いバイパス術に向かうために必要なステップにもなりますので,本来は脳神経外科手術の術者となる者全員が経験し,習得しておくべきものであると言っても過言ではありません.
 しかしながら,世界的にはこの手術に対する効果が否定的となり,適応が狭められていることから術者が減少しているのが現状です.一方で日本においては,世界的なランダム化比較試験で手術成果に否定的な結果が報告されているにもかかわらず,多くの脳神経外科医がその安全性と効果を実感しています.このように,本手術の日本の成績は誇るべきものと思いながら,それを世界に発信することがまだできていないのが現状ではありますが,将来のために私たちはこの手術を守り,伝えていく必要があります.

鼎談

バイパス術の将来—内科・外科の立場から

著者: 平野照之 ,   岩間亨 ,   森岡基浩

ページ範囲:P.713 - P.718

 新薬の開発など内科的治療の発展により,脳卒中治療における浅側頭動脈(STA)-中大脳動脈(MCA)バイパス術の適応は減少傾向にあります.そのようななかで,いざというときにどう備えるか,またよりよい治療をめざし脳卒中内科医とどう協働するか,脳神経外科医にとって今日の大きな課題と言えます.本鼎談では,先達から受け継いだバイパス術のエビデンス,最新の脳卒中治療,自身の手技の磨き方,STA-MCAバイパス術の今後の可能性について,エキスパートの先生方にお話しいただきました.(2022年3月18日収録)

Ⅰバイパス術の適応

脳循環代謝検査

著者: 上野育子 ,   佐々木真理

ページ範囲:P.719 - P.726

Point
・STA-MCAバイパス術の適応決定には定量的脳循環代謝検査による評価が必要である.
・指標として,慢性脳虚血の重症度を反映する酸素摂取率,脳血液量,血管反応性などが用いられる.
15O-PETやアセタゾラミドSPECTが標準であり,CT,MRIの意義は十分確立していない.

対象疾患

著者: 堀江信貴 ,   岡崎貴仁

ページ範囲:P.727 - P.734

Point
・これまでのランダム化比較試験の結果からは症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞,狭窄症に対するバイパス術は十分なエビデンスが確立されていない.
・最終発作から3週間経過した後の脳循環測定にて安静時脳血流が正常値80%未満,かつアセタゾラミド血管反応性10%未満に対してはバイパス術の有効性が期待される.
・周術期管理が重要であり,血圧変動に伴う脳虚血や術後過灌流に留意する.
・もやもや病においては虚血発症だけでなく,出血発症に対してもバイパス術の効果が期待される.

STA-MCAバイパス術のエビデンスⅠ:その歴史と海外の論文

著者: 吉田和道

ページ範囲:P.735 - P.744

Point
・閉塞性脳血管障害に対する慢性期STA-MCAバイパス術の有効性は,米国で行われた複数の無作為化比較試験(RCT)により否定され,世界的には手術数が減少した.
・わが国で実施されたJET Studyでは有効性が示されており,また,診断と治療の質が担保されたバイパス術の有効性を再評価する海外の研究も散見される.
・現時点では,適応を熟慮した上で経験を積んだ多職種チームと術者により行われるSTA-MCAバイパス術は,妥当な慢性期再発予防治療と言える.
・現在進行中のRCTや,現時点においてエビデンスの少ない急性期バイパスの有効性など,今後の研究に期待される.

STA-MCAバイパス術のエビデンスⅡ:本邦のデータから

著者: 菱川朋人 ,   伊達勲

ページ範囲:P.745 - P.751

Point
・貧困灌流を呈する前方循環の症候性脳主幹動脈閉塞・狭窄の脳梗塞再発率は高い.
・JET Studyでは貧困灌流症例に対しSTA-MCAバイパス術の脳梗塞再発予防効果が示された.
・STA-MCAバイパス術を行う上で定量的脳循環測定の正確な評価と周術期合併症発生の低減が重要である.

Ⅱバイパス術の実際

STA-MCAバイパス術のバリエーション

著者: 折戸公彦 ,   森岡基浩

ページ範囲:P.752 - P.758

Point
・STA-MCAバイパス術の手術方法について全国主要病院へアンケートを行った.
・手術方法にさまざまなバリエーションが存在し,一部で地域差も認められた.

手術手技の流派を知るⅠ:スタンダード手技—上山式STA-MCAバイパス術

著者: 瀧澤克己

ページ範囲:P.759 - P.766

Point
・バイパス術で最も重要なのは「長期のpatency」であるが,「虚血合併症の回避(遮断時間の短縮)」も同様に重要である.
・術野設定を含めた吻合操作前の準備が,バイパス術成功のカギとなる.
・すべてのステップで完璧な手技を行うことを意識し,確認を怠らないことが重要である.

手術手技の流派を知るⅡ:スタンダード手技—STA-MCAバイパス術の基本手技

著者: 髙木康志

ページ範囲:P.767 - P.772

Point
・硬膜はしっかりと止血し,硬膜外からのたれ込みもないようにセッティングを行うことが重要である.
・もやもや病では内腔を強拡大で確認しながら,縫い込みがないように吻合を進める.
・吻合の手の動きをoff the job trainingでマスターしておく.

手術手技の流派を知るⅢ:バリエーション手技—緊急血行再建にも耐え得る,STA-MCAバイパス手術手技

著者: 井上智弘 ,   小原健太 ,   小野秀明

ページ範囲:P.773 - P.778

Point
・STA採取時,小枝はSTA本幹側に熱損傷が及ばないよう丁寧に凝固する.
・Donorおよびrecipientのサイズのバランスに配慮し,縫合時は全層かつ内皮をしっかり貫く.
・塞栓摘出時は,横切開が再建時に縫合しやすく有効である.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

若手脳神経外科医のための実践的なバイパス訓練

著者: 笹ケ迫知紀 ,   片岡大治

ページ範囲:P.779 - P.787

Point
・若手脳神経外科医は今後限られた症例数の中で,良好なバイパス手術成績を維持する必要がある.Off-the job trainingでの血管吻合練習は,質の高い血行再建術を行う上で不可欠である.
・卓上顕微鏡ではガーゼやシリコンチューブ,人工血管を用いて練習する.施設によっては,ラットを用いた血管吻合訓練でより実践に近い訓練を行うことができる.
・継続的な練習が最も重要である.日々の業務の合間には卓上顕微鏡を用いて,休日に時間を設けてラットの血管吻合を行うなど,自身のスケジュールに応じて練習メニューを組むことが望まれる.

バイパス術のピットフォールとリカバリー

著者: 髙橋淳

ページ範囲:P.788 - P.796

Point
・創部壊死を防ぐポイントは,① 血流孤立部位を作らないデザインと ② 外力による阻血(皮弁縁の頭皮クリップ)の回避である.
・もやもや病のMCA壁は鑷子で把持しない.鑷子を添えてcounter forceを与える,閉じた鑷子で壁を押す,などの操作は必要である.
・吻合部血栓を確認したら,全身ヘパリン化を躊躇しない.強固なフィブリン血栓になる前に対処することが肝要である.

Ⅲ特殊なバイパス術

動脈硬化性主幹動脈病変に対する急性期STA-MCAバイパス術

著者: 渡部寿一 ,   大里俊明 ,   本庄華織 ,   進藤孝一郎 ,   上山憲司 ,   中村博彦

ページ範囲:P.797 - P.805

Point
・急性期アテローム血栓性脳梗塞が進行性に悪化した場合,STA-MCAバイパス術が有効となる可能性がある.
・治療適応を慎重に検討すれば,5〜7割の患者がmRS 0〜2の自立生活,7〜9割の患者がmRS 0〜3の自立歩行可能なレベルを獲得できる可能性がある.
・急速悪化症例における急性期バイパス術には限界があり予後不良例が多い.

もやもや病に対するバイパス術Ⅰ:その特殊性,成人例に対する私の手術法

著者: 黒田敏

ページ範囲:P.806 - P.818

Point
・診断と適応決定,手術デザイン,周術期管理がバイパス術の成否を決める.
・確固たる技術的・心理的自信をもって手術に臨む.
・術者は長期間の経過観察に責任を有する.

もやもや病に対するバイパス術Ⅱ:その特殊性,小児例に対する私の手術法

著者: 藤村幹 ,   伊東雅基

ページ範囲:P.819 - P.825

Point
・もやもや病は東アジアに多い原因不明の頭蓋内動脈狭窄症で,小児ならびに若年成人の脳卒中の原因として重要である.
・虚血症状を呈するもやもや病に対しては脳血行再建術が推奨され,特に直接間接複合バイパス術が有効である.
・小児例ではバイパス術後急性期の脳循環が成人例と異なるため,小児例に特徴的な術後病態を勘案した周術期管理が重要である.

もやもや病に対するバイパス術Ⅲ:もやもや病の脳虚血に対する間接バイパス術

著者: 原祥子 ,   成相直

ページ範囲:P.826 - P.838

Point
・間接バイパス術では創傷治癒反応とグラフト-脳表間の灌流圧較差により動脈新生(arteriogenesis)が誘導される.
・間接バイパス術は脳虚血部位への開頭とグラフトの縫着を原則とし,多様な手技手法が存在する.
・もやもや病への間接バイパス術は内頚動脈系から外頚動脈系への移行を促進する.
・諸外国では動脈硬化性疾患にも間接バイパス術が施行されつつある.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

Ⅳ各病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫 Short Topics

長崎大学におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 出雲剛

ページ範囲:P.839 - P.841

 当科における浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術の工夫と特徴について以下に述べる.

STA-MCAバイパス術の工夫—切開縁吊り上げ法:血管開口部を立体的に開大させるために

著者: 村田英俊

ページ範囲:P.842 - P.844

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術をはじめとした脳血管バイパス術は,重要な基本手技の1つである.しかし,もやもや病などの極めて菲薄化した血管や0.8 mm以下の細い血管では,血管裂傷や裏縫い,血栓形成のリスクが高まり,吻合の難易度は増す.そのような血管に対して,recipientの切開縁を吊り上げる「吊り上げ法」(lifting method)を施行している.同方法の手技を紹介し,その効果を検証した.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

岐阜大学医学部附属病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—線状切開下ダブルバイパスにおける皮膚切開の工夫

著者: 榎本由貴子 ,   吉村紳一

ページ範囲:P.845 - P.846

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術は皮弁血流を犠牲にして脳血流を増加させる治療であるため,周術期創部合併症のリスクは不可避である.STA剝離後の皮弁血流は帽状腱膜や骨膜,後耳介動脈などSTA以外の外頚動脈枝から供給されるため,これら周囲の代替血流源の進入路を温存する皮膚切開法が好ましい.
 皮弁血流温存を第一に考慮すれば線状切開法が最も適しているが,通常はSTA頭頂枝のみのシングルバイパスに用いられる術式であり,STA前頭枝と頭頂枝の両方をdonorとするダブルバイパスの場合にはSTA前頭枝の採取長が不足しがちである.STA前頭枝の分岐高位・走行は個人差が大きく,時には採取できない場合や,長く採取しようとしてT字に切り込むと中央部の創部癒合不良を来す可能性がある.STA-MCAバイパス術後の創部合併症は難治であることが多く,時には皮弁壊死,骨弁感染など再開頭を要する重篤合併症となる可能性があるため,これらの発生を回避しつつ,吻合に足る十分な長さのSTA前頭枝を採取し得るデザインが必要である.

日本大学病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 大谷直樹

ページ範囲:P.847 - P.850

1.はじめに
 当院での浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術における術中操作の工夫(皮膚切開とSTA剝離,硬膜切開と縫合操作)について述べる(Video 1).さらに,創部癒着不良などの創部トラブルに対する高気圧酸素治療(hyperbaric oxygen therapy:HBO)の有用性を紹介する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

埼玉医科大学国際医療センターにおけるバイパス術の工夫—ORBEYETMを用いたSTA-MCAバイパス術の現状と展望

著者: 前田拓真 ,   栗田浩樹

ページ範囲:P.851 - P.853

1.はじめに
 近年,外視鏡手術が脳神経外科臨床にも導入され,その有用性が報告されている.当科でも2021年から全脳血管外科手術を原則的に外視鏡手術化するprojectが進行している.当科におけるORBEYETM(オリンパス)を用いた浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術のsettingやpitfallについて概説する.

STA-MCAバイパス術の工夫—術野展開と基本手技

著者: 鳥橋孝一

ページ範囲:P.854 - P.857

1.はじめに
 バイパス術のコンセプトは確実な吻合を行うことであり,環境や条件を整える必要がある.吻合手技については成書に委ねることとし,本稿では術野展開,吻合の環境づくりに主眼を置いて報告する.

埼玉医科大学総合医療センターにおけるSTA-MCAバイパス術の工夫—創部の整容性向上を中心として

著者: 大宅宗一

ページ範囲:P.858 - P.860

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)—中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術における皮弁の血流低下による術後の癒合不全や感染は,患者の円滑な社会復帰を妨げるとともに整容上の問題となる.頭蓋内血流の十分な確保と皮弁の血流の保持を両立するために,当科で心がけている主に皮膚切開に関する工夫について概説する.

東海大学におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—裏縫い予防のためのCross stay法

著者: 反町隆俊

ページ範囲:P.861 - P.863

1.はじめに
 バイパス手術で,対側壁を一緒に縫合する裏縫いはバイパス閉塞の原因となり,裏縫いした糸の切断と縫合のやり直しが必要であるが,中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)遮断時間が長くなり,MCA血管壁損傷の原因にもなる.われわれはstay sutureの後に両脇中央部を縫合するcross stay法を用い,MCA開口部を広くし対側壁が縫合部から離れることで裏縫いを防いでいる.吻合に際しての注意点について,手技をFig. 1-3の3つに分け図解する.

中京病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 坂本悠介 ,   前田憲幸 ,   竹本将也 ,   秋禎樹 ,   池澤瑞香 ,   藤田王樹 ,   左合史拓 ,   宗宮大輝 ,   池田公

ページ範囲:P.864 - P.866

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパスは直達術を志す術者にとって習得すべき必須手技である.本稿では当科の同手術の特色を紹介する.

奈良県立医科大学におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 山田修一

ページ範囲:P.867 - P.867

 成人に対する頭蓋内・外バイパスは動脈硬化性変化に伴う頭蓋内血管狭窄あるいは閉塞に対して行われることが多いと思われるが,その場合レシピエントとなる浅側頭動脈も同様に動脈硬化性変化を来していることが予想される.動脈硬化性変化を来した血管は手術操作により簡単に解離を起こすことがある.バイパス術において解離を起こした血管の外膜のみを縫合してしまうと血流再開時に解離を広げることになり,バイパス血管の閉塞を来すことになる.これを避けるために,浅側頭動脈の動脈硬化性変化が強いと予想される際には,吻合前に浅側頭動脈の解離予防策を講じている.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

三之町病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—Doppler血流計の原理の理解とその有効利用の工夫の再考

著者: 小澤常徳 ,   倉部聡

ページ範囲:P.868 - P.869

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術の術中の血流評価方法はindocianin green(ICG)が標準的となっている.Micro-Doppler血流計(以下,Doppler)も用いられるが,補助的に使われることが多い1).しかし,Dopplerは簡便で無侵襲かつリアルタイムの反復評価が可能で,その原理を理解して用いることで,単なる血流音の確認だけでなく,血流動態の定量的評価が可能となる.Dopplerは,① recipient選択,② 吻合確認,③ 吻合後の血流評価などで使用されるが,それぞれにおけるわれわれの工夫について紹介する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

佐々総合病院におけるナビゲーションを用いたSTA-MCAバイパス術—脳梗塞急性期STA-MCAバイパス術の手技と工夫

著者: 鈴木遼 ,   福田直 ,   橋本秀子 ,   高橋祐一 ,   稲津哲治 ,   田中智章 ,   湯本茂智 ,   佐々木裕太 ,   薄井直 ,   那須美香

ページ範囲:P.870 - P.873

1.はじめに
 当院では前方循環主幹動脈の閉塞または高度狭窄を背景とした急性期脳梗塞に対して,浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術を施行することで頭蓋内循環動態の不安定性を軽減し,術後早期から急性期リハビリテーションを開始し機能予後の向上を図っている.脳梗塞急性期にSTA-MCAバイパス術を行う際の「確実」「低侵襲」「短時間」を意識した手術手技と工夫を報告する.
 1)確実:血行動態が不安定な症例を対象とし,手術により早急かつ確実に血行動態を安定化させることが必須である.
 2)低侵襲:脳梗塞急性期は抗血栓薬を使用していることが多く,術中術後出血のリスクが高いため皮膚切開,筋肉切開,開頭などを最小限にすることが望ましい.
 3)短時間:脳梗塞急性期かつ血行動態が不安定な症例に手術をするにあたっては,吻合時の遮断時間のみならずskin to skinでの手術時間短縮が望ましい.

関西医科大学附属病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—STAのpreparationを中心に

著者: 吉村晋一 ,   亀井孝昌 ,   武田純一 ,   淺井昭雄

ページ範囲:P.874 - P.876

1.はじめに
 浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術は脳神経外科医にとって最も基本となる顕微鏡手技の1つであり,一つひとつの操作を安全,確実に行う必要がある.今回はJET study(Japanese extracranial-intracranial[EC-IC]bypass trial)のinclusion criteriaを満たす血行力学的脳虚血症例に対して自身が行っているSTA-MCAバイパス術,特にSTAのpreparationを中心に解説する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

京都府立医科大学におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 丸山大輔 ,   橋本直哉

ページ範囲:P.877 - P.878

1.はじめに
 本稿で紹介する浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)バイパス術の手技は,筆頭著者が国立循環器病研究センター脳神経外科で当時の部長の飯原弘二先生(現 同病院長)と髙橋淳先生(現 近畿大学脳神経外科主任教授)からご指導いただいた内容を基本とし,京都府立医科大学と京都第二赤十字病院での臨床経験を経て工夫したものである.

済生会滋賀県病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫

著者: 岡英輝 ,   日野明彦 ,   横矢重臣

ページ範囲:P.879 - P.881

1.はじめに
 当院はドクターヘリ,ドクターカーを運用する三次救命救急センターを併設し,脳神経内科とともに12床の脳卒中ケアユニット(stroke care unit:SCU)を運用している.もやもや病に対するバイパス手術はもとより,虚血発症の頭蓋内主幹動脈閉塞症に対するバイパス術を多く手がけている.抗血栓薬を継続したまま手術を行う症例や,比較的高齢者の症例が多いため,開頭は可能な限り小さくし,手術時間の短縮,術後の患者の負担軽減に努めている.

小田原市立病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—通常の開閉頭術におけるSTA,OA再建の有用性:若手教育の観点から

著者: 山中祐路

ページ範囲:P.882 - P.884

1.はじめに
 脳動脈血行再建術において,浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)や後頭動脈(occipital artery:OA)の剝離による術後の皮膚の血行障害が問題になることがあるが,通常の開頭術においても高齢や糖尿病など創傷治癒に不利な条件下では,STAやOAの凝固離断による皮膚の虚血耐性低下が起こり得るため,理想的には血行再建に努めることが望まれる.
 上記観点より,当院では血管障害や腫瘍摘出術などの通常の開閉頭術においても,将来的な頭皮血流環境の温存を目的に可及的にSTA-STA端々吻合,OA-OA端々吻合を施行してきた.これにより頭皮動脈の再建が得られ,創傷治癒促進,感染予防,特に高齢者での遅発性皮膚菲薄化防止などの有益性が高いと考えている.また副次的な意義として,若手のバイパス手技の技能習得,修練の効果も期待できる.本稿では,若手教育に焦点を絞り上記手技につき述べる.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年8月まで)。

中村記念病院におけるSTA-MCAバイパス術の工夫—血管保護における4%リドカイン塩酸塩の使用について

著者: 渡部寿一 ,   大里俊明 ,   本庄華織 ,   進藤孝一郎 ,   上山憲司 ,   中村博彦

ページ範囲:P.885 - P.887

1.はじめに
 当院は,バイパス血管の保護の目的で,4%リドカイン塩酸塩を浸した綿片を使用している.動脈瘤の穿通枝剝離操作などの際も,機械的刺激によるspasmをリリースする目的で使用してきた.この度の「STA-MCAバイパスに関するアンケート」(2021年7月本誌実施)にて,パパベリン塩酸塩を用いる施設が多かったことを踏まえ,当院のリドカイン塩酸塩の使用経験に関し報告する.

総説

4K3D外視鏡を用いた脳神経外科手術

著者: 木嶋教行 ,   貴島晴彦

ページ範囲:P.889 - P.901

Ⅰ はじめに
 脳神経外科手術は1960年代に手術用顕微鏡が導入されたことで飛躍的な進歩を遂げ,現在も不可欠な手術機器となっている.手術用顕微鏡の導入により,これまで直視下でしか脳組織や脳血管を観察できなかった環境から拡大した立体的術野を得られるようになり,微細な手術を行うことが可能となった.さらに手術用顕微鏡の導入後の進歩も目覚ましく,血管を観察するためのindocyanine green(ICG)や腫瘍組織を観察する5-aminolevulinic acid(5-ALA)などの蛍光法,さらにはナビゲーションシステムとの連動など,種々の進歩があり,現在に至っている.こうした意味で手術顕微鏡はそれまでの時代にはなかった考え方を脳神経外科手術にもたらしたパラダイムシフトを引き起こした手術機器であると言える.
 ただ,顕微鏡の欠点としては,
 1)焦点深度が浅い
 2)術野が狭く,頻回に顕微鏡の位置の調整が必要である
 3)器械自体が大きくスペースをとる
 4)術野の観察角度が制限される
 5)コストが高い
 6)術者の眼がeyepieceに固定されるために,姿勢が限られ疲労感が強くなる1, 2)
ことなどが挙げられ,こうした意味では改良点がある手術機器である.
 このような顕微鏡の欠点を踏まえた上で,近年さらに新しいコンセプトで脳神経外科手術に変革をもたらす可能性がある神経外視鏡(exoscope)の臨床現場への導入が始まっている.当初の神経外視鏡は立体視が不可能であったが,その後立体視が可能になったことで飛躍的に進歩し,2017年のORBEYETM(Olympus)導入により画質も4Kとなった.この4K3D外視鏡ORBEYETMの導入により,脳神経外科手術にもたらしたパラダイムシフトを起こす可能性が示唆されている.
 本総説では,①4K3D神経外視鏡の特徴,②手術用顕微鏡に対する4K3D神経外視鏡の利点,③4K3D神経外視鏡の手術への応用,④4K3D神経外視鏡の人間工学的な利点,⑤4K3D神経外視鏡の手術教育への応用の可能性などを中心に述べる.

連載 海外での手術経験から学ぶ—手術環境・道具・技術そして心の重要性

vol. 5 海外での手術経験から学んだ3つの教訓

著者: 後藤剛夫

ページ範囲:P.902 - P.907

はじめに
 今回は筆者が海外での手術経験を通じて学んだことについて具体例を交えて紹介する.あくまで個人的な経験談となるため,なんの科学的根拠もない話になるが,これから国際交流や,海外での手術を経験される機会のある若手の先生に役立つ話を述べたいと思う.
 海外での手術経験を通して私が特に学んだことは,
 1)私の専門とする頭蓋底外科手術は手術器機および治療チーム依存性が高く,決して個人の力でよい成績が出ているわけではない.
 2)現地での手術教育が目的のため,発展途上国では日本で行っているとおりの頭蓋底手術法にこだわらず,現地での手術器機を用いて,今後も現地で行うことが可能な手術方法に変更する.
 3)患者に対して日本と同様の治療責任を負っていることを自覚する.
の3点である.それぞれについて具体的にエピソードを交えて紹介する.

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目次

ページ範囲:P.706 - P.707

欧文目次

ページ範囲:P.708 - P.709

ご案内 動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.709 - P.709

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.911 - P.911

次号予告

ページ範囲:P.912 - P.912

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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