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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科50巻6号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 小児脳神経外科—エキスパートはこうしている

Editorial

著者: 埜中正博

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 小児脳神経外科領域の手術は,近年症例が大学病院や専門病院に集約化されていく傾向があります.さらには少子化の影響もあることから,一般病院で小児の手術を実施する機会が減少してきています.そのため,一般の脳神経外科医にとって小児の患者を診療することのハードルが上がっていますが,脳ヘルニアを起こしかけているような緊急度の高い状況の患者さんに遭遇した場合や,地理的要因などのさまざまな制約によりその施設で手術を実施しなければならない状況が生じることも時としてあります.
 そこで,小児の手術経験が乏しい脳神経外科医であっても,短時間のうちにどのような手術を実施したらよいのかについて,さっと頭に入れられるような内容をまとめた特集を目指しました.本特集では学術的な内容より,「実際に小児患者を診療する際にどのようにしたらよいのか」という視点で,小児脳神経外科の臨床に現在直接携わっている経験豊富な先生方に,手術時の写真を多く取り入れ,直感的に手術を感じることができるように解説していただきました.ご寄稿いただいた原稿を読むと,経験のない先生方の参考になる内容にとどまらず,経験のある先生方にとっても他施設がどのような治療を行っているのか,大変勉強になる内容になっているように思います.

Ⅰ小児の周術期管理と鎮静

小児脳神経外科の周術期管理

著者: 國廣誉世

ページ範囲:P.1132 - P.1140

Point
・小児の周術期輸液の基本は,4-2-1ルールに従って行う.小児脳神経外科疾患では,病態に応じて,脱水や電解質に注意して輸液管理を行う.
・小児脳神経外科手術の予防的抗菌薬の投与は,開頭術,シャント術どちらもセファゾリンを第一選択とし,投与期間は24〜48時間以内が基本である.
・小児,特に乳児の重症頭部外傷例は,早期に抗てんかん薬の予防投与が推奨される.抗てんかん薬の適応,特徴,副作用について理解しておく必要がある.
・小児脳神経外科の各疾患ごとに,周術期管理の注意すべき点を理解しておく.
・小児の血液検査は,正常値が成人の値と異なることや,年齢ごとの検査値の変化を理解し,採血時の状況なども注意して判断する必要がある.

小児の鎮静MRI検査にまつわる諸問題と今後の方向性

著者: 下川尚子

ページ範囲:P.1141 - P.1149

Point
・鎮静処置には呼吸不全や心停止の危険があり,「リスクのない鎮静はない」と認識しなければならない.
・「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」はあるべき姿を示している.熟知しよう.
・鎮静MRI検査を安全に実施するとともに,薬に頼らない鎮静(無鎮静)で検査できるように努める.

Ⅱ小児水頭症

オンマヤリザーバー設置術・脳室ドレナージ術

著者: 井原哲

ページ範囲:P.1150 - P.1157

Point
・オンマヤリザーバー設置術および脳室ドレナージ術は,一時的水頭症治療の代表的手技である.
・オンマヤリザーバー設置術の対象病態には,未熟児脳室内出血や脊髄髄膜瘤に伴う水頭症などがあり,髄注薬剤の投与経路として用いられることもある.
・脳室ドレナージ術の対象病態には,脳腫瘍などで急性水頭症を来した場合や,頭蓋内圧管理を要する重症頭部外傷などがある.

VPシャント—新規症例

著者: 伊地俊介

ページ範囲:P.1158 - P.1171

Point
・頭部から腹部までのシャントルートについて,子どもを術前に十分観察し,バルブの位置や種類,皮切の置き方などを検討する.
・小児のVPシャントにおいて,カテーテルは伸長に伴って必ず抜けてくるため,将来の成長を見越した手術の工夫が必要である.

VPシャント—シャント不全時の対応と留意点

著者: 加藤美穂子

ページ範囲:P.1172 - P.1181

Point
・水頭症とは完治する疾患ではなく,何らかの方法で管理され続けなければならない疾患であることを認識する.
・小児では脳室サイズが小さいにもかかわらず,頭蓋内圧亢進を呈する状態が存在する(slit like ventricleからのシャント不全).
・シャント不全は反復すると難治化することがある.患児の将来を見据えたシャント不全治療が重要である.

内視鏡下第三脳室底開窓術

著者: 下地一彰

ページ範囲:P.1182 - P.1194

Point
・閉塞性水頭症に対して,第三脳室底開窓術は有効な手術方法である.
・脳室内操作も重要であるが,脳室穿刺のプランニングや特に小児水頭症では髄液漏を防止する対策も同じように重要である.

Ⅲ二分脊椎症

脊髄髄膜瘤修復術

著者: 栗原淳

ページ範囲:P.1195 - P.1202

Point
・出生後48時間以内の修復術が望まれる.
・変成した皮膚,皮下組織を十分に切除するとともに脊髄後根の損傷に注意する.
・確実に十分な硬膜形成を行う.
・閉創は無理をせずに形成外科医に相談をする.

終糸脂肪腫

著者: 吉藤和久

ページ範囲:P.1203 - P.1211

Point
・脊髄終糸の脂肪腫(異所性脂肪組織)はMRI上しばしば認められるが,多くは無症候で低位脊髄円錐を呈さず,病的意義はない.
・症候性例が手術適応であることに異論はなく,無症候で低位脊髄円錐を示す例への予防的手術の適応は意見が分かれている.
・手術リスクは比較的小さいが,神経生理学的手技のもと確実に行うことが大切である.

脊髄円錐部脂肪腫の手術

著者: 林俊哲 ,   君和田友美

ページ範囲:P.1212 - P.1220

Point
・手術は解剖学的な構造を把握することが重要であり,脂肪腫の発生学的な背景を推察することで疾患の理解が深まる.
・手術は,① 脊髄係留解除,② 脂肪腫の可及的摘出と癒着剝離,③ 神経/脊髄損傷の予防,④ 再癒着の予防(軟膜縫合,硬膜形成)が基本である.
・手術後は脊髄再係留により神経症状が出現することは稀ではないため,長期にわたるチーム医療による経過観察が重要である.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月まで)。

Ⅳ頭蓋骨縫合早期癒合症

従来法—Conventional cranioplasty

著者: 赤井卓也

ページ範囲:P.1221 - P.1229

Point
・頭蓋骨縫合早期癒合症における頭蓋拡大形成術式の1つに従来法がある.
・従来法は,骨延長法に比べ手術侵襲は大きくなるが,繊細な頭蓋形成が可能である.
・頭皮縫合の際にtensionがかかるため,頭蓋拡大距離に制限があり,術後に前進させた骨の後戻りが起こることがある.

頭蓋骨縫合早期癒合症に対する内視鏡支援下縫合切除術と術後ヘルメット治療

著者: 原田敦子 ,   久徳茂雄

ページ範囲:P.1230 - P.1236

Point
・骨の柔らかい乳児期前半の単縫合癒合が最もよい適応である.
・皮膚切開が小さく整容的に優れるが,輸血を要することもあり,決して低侵襲とは言えない手術方法であることを認識する.
・頭蓋形態を整え,凹凸のない骨形成誘導を行うため,術後半年〜1年間のヘルメット装着が必須である.

頭蓋骨縫合早期癒合症に対する骨延長法を用いた頭蓋拡大形成術

著者: 千葉泰良

ページ範囲:P.1237 - P.1246

Point
・骨延長法は複数回の手術が必要であるが,頭皮をゆっくり引き伸ばすことで十分な頭蓋拡大が得られる.
・FOA手術のポイントは眼窩上縁骨の骨切りであるが,線鋸を用いることで安全かつ簡便に骨切りが行える.
・BPE手術では,頭蓋底に近い部分まで骨切りを行うことで,頭蓋容積を十分に増大させることが可能となる.

Multidirectional cranial distraction osteogenesis(MCDO)法

著者: 五味玲 ,   須永中

ページ範囲:P.1247 - P.1255

Point
・MCDO法は,タイル状に分割した頭蓋骨を頭部に装着したフレームに接続し,多方向に延長する独自の骨延長法である.
・少ない延長距離でも十分な容積拡大が可能で,頭蓋形態をみながら延長方向をアレンジできるという利点がある.
・骨のギャップが少ないため保定期間が短く,延長器を外す手技も容易であるという利点もある.

Ⅴもやもや病

乳幼児もやもや病

著者: 君和田友美 ,   林俊哲 ,   白根礼造 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.1256 - P.1263

Point
・乳幼児もやもや病は進行が早いこともあり,可及的早期の血行再建術が望ましい.
・周術期の激しい啼泣や脱水は可能な限り回避する.
・乳幼児期血行再建術による長期的脳出血予防効果は不明である.

Ⅵ乳幼児硬膜下血腫

開頭術・ドレナージ術

著者: 朴永銖

ページ範囲:P.1264 - P.1285

Point
・乳幼児急性硬膜下血腫の治療においては,乳幼児特有の病態を理解する必要がある.
・成人症例とは異なった手術コンセプトと術後管理が求められる.
・手術における要点は,出血点の処置の対応,急激な脳腫脹の回避,骨片を安易に外さない,に集約される.
・術後の集中治療管理において最も大切な点は,大脳半球の広範に生じる二次性脳損傷と,その後の急速な脳萎縮をいかに防ぐかである.

Ⅶ硬膜下血腫以外の乳幼児の頭部外傷

開頭術・ICPセンサー

著者: 荒木尚

ページ範囲:P.1286 - P.1300

Point
・乳幼児は前頭部や後頭蓋窩に静脈性硬膜外血腫を形成することが多く,保存的治療で軽快することが多いが,血腫増大に伴う開頭血腫除去に即応できる集中治療室(PICU)のような環境で観察しなくてはならない.
・開放性陥没骨折では,髄液漏の原因となる硬膜破損を確認し修復する必要があるため,絶対手術適応である.陥没部近傍の硬膜静脈洞の位置を確認することが重要である.
・穿通性頭部外傷では,3D-CT angiography等による血管損傷の評価が必須である.
・外傷による頭蓋内圧亢進に対する集中治療において,頭蓋内圧センサーによる脳実質圧の絶対値は,生理学的モニタリングの重要なパラメータとして有用である.

Ⅷ小児脳腫瘍

後頭蓋窩腫瘍

著者: 荻原英樹

ページ範囲:P.1301 - P.1313

Point
・小児後頭蓋窩腫瘍は,閉塞性水頭症を伴い診断から手術的加療までを速やかに行う必要があるものが多い.
・代表的な腫瘍として,髄芽腫,上衣腫,毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)が挙げられ,それぞれの特性を理解し,治療を進めていく.

テント上腫瘍(鞍上部以外)—小児テント上腫瘍手術のコツと注意点

著者: 石田穣治 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1314 - P.1322

Point
・小児脳腫瘍手術においては,開頭から閉頭に至るまで丁寧な手術を行い,手術以外の治療もスムーズに進行させるための計画を行う.
・特に術後は髄液トラブルが多いため,それを予防するtipsが存在する.
・後療法,複数回手術や,その後の成長を見据えた開頭,閉頭を行う.

小児鞍上部腫瘍—経鼻内視鏡

著者: 森迫拓貴 ,   後藤剛夫

ページ範囲:P.1323 - P.1331

Point
・近年,高精細な内視鏡システムの普及や周辺機器・器具の開発向上に伴って,鞍上部や斜台正中部の腫瘍に対しても経鼻内視鏡手術が中心となってきている.
・特に小児鞍上部腫瘍の代表である頭蓋咽頭腫では,長期の腫瘍制御のために記銘力や視機能を温存して腫瘍を積極的に摘出することが重要であり,経鼻内視鏡手術では腫瘍の発生部位,視床下部,視交叉下面などが広く観察できる利点が生かされる.
・本稿では,小児経鼻内視鏡手術における手術セッティングやデバイス,手技の実際について解説する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月まで)。

小児鞍上部腫瘍—開頭法

著者: 大江直行

ページ範囲:P.1332 - P.1339

Point
・小児鞍上部腫瘍に対する開頭法は,広い術野が得られる.
・脳の圧排を軽減するため,髄液の排出が重要である.
・腫瘍の部位や進展方向でアプローチが選択される.

脳室内腫瘍—神経内視鏡—小児脳室内腫瘍における神経内視鏡手術

著者: 香川尚己

ページ範囲:P.1340 - P.1352

Point
・小児期に発生する脳腫瘍は,側脳室や第三脳室内に発生する腫瘍が多く,水頭症の合併頻度も高く,内視鏡手術のよい適応である.
・脳室内腫瘍に対する内視鏡下腫瘍生検術および腫瘍摘出術は,技術の向上や機器の開発により,正確で低侵襲に行うことが可能である.
・合併する水頭症に対しても,第三脳室底開窓術や透明中隔開窓術などの手技を同時に行い,髄液循環や頭蓋内圧を改善させることができる.

Ⅸ機能外科

痙性麻痺に対するバクロフェン髄注療法

著者: 宇佐美憲一

ページ範囲:P.1353 - P.1360

Point
・バクロフェン髄注療法は,重度の痙性麻痺で内服加療の効果が不十分な場合や内服の副作用が強い場合に適応となる.
・全身麻酔下に,投与量の調節が可能な電池内臓のポンプを腹部に留置し,充塡されたバクロフェンを持続投与する.
・約3カ月に1度程度の間隔で薬液の補充を行い,また,6〜7年に1度ポンプ交換手術が必要となる.

総説

脳脊髄の微小血管解剖を可視化する

著者: 平松匡文 ,   杉生憲志 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1361 - P.1372

Ⅰ はじめに
 近年の画像診断技術の進歩に伴い,脳主幹動脈の描出に関して,MR angiography(MRA),CT angiography(CTA),digital subtraction angiography(DSA)といった各画像の間で大きな差異は認められなくなってきており,より侵襲性の低い検査方法によるスクリーニングや診断,経過観察が行われている.一方で,外科的治療を行う上では,合併症なしで最大限の治療効果を得るように治療計画を立てるため,より詳細な画像を基にした術前診断が求められる.画像診断は客観的で再現性があり,画像診断により微小血管解剖を可視化できれば,最適な治療結果につながる有用なツールとなる.
 当科では,脳脊髄の血管病変における微小血管解剖の可視化,さらには血管と周囲構造物との位置関係の可視化とその臨床応用に取り組んできた.本稿では筆者がかかわった研究を中心に紹介しながら,微小血管解剖の可視化を重視した画像診断手法を示す.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第2回 論文で日常診療の「なぜ?」について書こう

著者: 森下登史

ページ範囲:P.1374 - P.1377

どこから手をつけるか?
 前回,論文を書くことの大切さについてお話ししました.今回は,論文執筆をどこから始めたらよいかなど,論文執筆における一般的な重要事項について説明させていただきます.

書評

—監修:木村 彰男 編:辻 哲也 編集協力:水野 勝広,村岡 香織,石川 愛子,川上 途行—リハビリテーションレジデントマニュアル—第4版

著者: 山口智史

ページ範囲:P.1373 - P.1373

いまだから必要なリハビリテーションが凝縮された一冊
 神経疾患,整形外科疾患,内部疾患,悪性腫瘍など多種多様な疾患において,どのようなリハビリテーションが必要なのか? 最良のリハビリテーションを提供するには,どのような知識が必要なのか? 本書では,そういった不安や疑問を,日本のリハビリテーション医学・医療を牽引してきた慶大リハビリテーション医学教室に携わるリハビリテーション専門医が明確にポイントを示しながら,図表とともにわかりやすく解説している.
 監修を務める木村彰男先生が序文で述べられているように,近年の医学・医療では,医療制度の改定により,疾患ごとの治療法や治療期間が制限され,画一的な医療が提供されるようになった.これはリハビリテーション医学・医療においても同様であり,日常生活動作の早期獲得のみを目的とした,生活動作の反復練習を主体としたリハビリテーションを目の当たりにすることがある.当然,生活動作の反復は重要であり,日常生活の自立度を高めるために必要である.しかしながら,リハビリテーション医学・医療の治療は,動作反復だけでよいのだろうか?

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目次

ページ範囲:P.1126 - P.1127

欧文目次

ページ範囲:P.1128 - P.1129

動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.1129 - P.1129

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1379 - P.1379

次号予告

ページ範囲:P.1380 - P.1380

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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