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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科51巻1号

2023年01月発行

雑誌目次

特集 脳神経外科医が知っておきたい—てんかんのすべて

Editorial

著者: 川合謙介

ページ範囲:P.7 - P.7

 てんかんは3大神経疾患の1つで,患者数が多く日常診療で遭遇する機会が多い.また,てんかんの病態はきわめて多様であり,多くの患者が抗てんかん発作薬で発作が消失する一方で,薬剤抵抗性となる患者,てんかん外科で根治できる患者,いくつもの治療を組み合わせて何とか発作減少に漕ぎ着ける患者など,さまざまである.患者の社会的背景も多様であり,高度に知的な職業に就いている患者もいれば,幼少時から発達障害を来す患者もいる.世界保健機関は2022年5月の総会で,epilepsy and other neurological disordersを世界的な保健課題として選定し,具体的な目標を定めて2023年からの10年間でその解決を図るよう決議した.
 本特集では,てんかん診療に関わる可能性のあるすべての脳神経外科医の役に立つよう,てんかんの適切な診断と類縁疾患の除外,特に高齢発症てんかんや脳卒中後てんかんの診断と治療,新規抗てんかん発作薬の使い方,外来における自動車運転や就労,福祉制度などのてんかん指導,開頭手術後を含めた急性症候性発作の予防や対策,てんかん重積に対する救急対応など,てんかん専門医でなくとも知っておきたいてんかん診療の要点について解説している.

Ⅰ 脳神経外科医が知っておきたいてんかんの診断と検査

てんかんの適切な診断

著者: 飯田幸治

ページ範囲:P.8 - P.16

Point
・初回非誘発性発作後のてんかんの実用的臨床定義が提唱されている.
・てんかんの適切な診断には,急性症候性(誘発性)発作と非誘発性発作を鑑別することが重要である.
・見逃されやすいてんかん発作に,近年増加している高齢者てんかんの意識減損発作がある.

てんかん発作症候学と大脳皮質の機能解剖

著者: 前澤聡 ,   石﨑友崇 ,   齋藤竜太

ページ範囲:P.17 - P.28

Point
・発作時の意識障害に関与する皮質・皮質下の意識システムが明らかとなっている.
・発作時運動症状には一次体性運動感覚野に限局するものから,前頭運動連合野皮質に関与して多様な症状を示すものまである.
・発作時の非運動症状は前兆と合わせての理解が必要である.
・SEEGや焦点切除の知見によりさまざまなネットワークの関与が報告され,島回など深部構造の役割も明らかになりつつある.

▼コラム 新たなてんかん分類,てんかん発作分類との付き合い方

著者: 大沢伸一郎 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.29 - P.32

Point
・新たなILAE分類は旧分類と一見して異なるが,改善された部分に目を向け,慣れることが重要である.
・てんかん診断は時系列に沿って臨床情報が充実し,updateされていくものと捉え,「発作型」「てんかん病型」「てんかん症候群」の3つのレベルで行う.
・治療方針および発作予後に密接に関連するため,どの段階でもてんかんの病因に対する推察,考察をもち,診療にあたることは重要である.

脳波検査の基本

著者: 臼井直敬

ページ範囲:P.33 - P.42

Point
・脳波は大脳皮質の錐体細胞に出現する興奮性シナプス後電位の総和である.てんかん性放電の発生機構は突発性脱分極変位である.
・脳波判読では,正常脳波,正常波形,正常亜型,アーチファクト,発作間欠期てんかん性放電の特徴について知っている必要がある.
・診断で最重要なのは病歴,症状であり,臨床的文脈を踏まえて脳波を判読することが大切である.

てんかんの画像診断

著者: 白水洋史

ページ範囲:P.43 - P.57

Point
・てんかん外科にかかわる画像診断には,MRIを中心とした形態画像と,脳機能を反映する機能画像がある.
・てんかん外科の対象となる器質病変は,MRIでも微細な所見しか認めないものもあり,診断には熟練を要する.
・外科治療の対象となる病変(機能異常部位)は,MRIで認められる器質病変のみでないことも多く,機能画像やその他のモダリティを含め,総合的に判断する必要がある.

Ⅱ 脳神経外科医が知っておきたいてんかんと病態

高齢発症てんかんと脳卒中後てんかん

著者: 國枝武治

ページ範囲:P.59 - P.67

Point
・世界的に患者数の多い「高齢発症てんかん」では,実臨床での診断の難しさが示され,個々の症例に合わせて診察に工夫が必要である.
・治療は発作型に合わせた内服治療が中心となり,高齢者においては,薬物動態だけでなく,併存症にも配慮した「抗てんかん発作薬」の選択が求められる.
・病因として頻度の高い「脳卒中」では,てんかん病態につながる危険因子を探索することで,予防的投与につなげる可能性はうかがえるが,確立はしていない.
・ガイドライン上,全例に予防的投与を行うことは推奨されていないが,急性期に用いられていることは多く,特に高齢者では検討されることがある.

けいれん性てんかん重積と非けいれん性てんかん重積

著者: 貴島晴彦

ページ範囲:P.68 - P.75

Point
・てんかん重積にはけいれん性と非けいれん性があり,救急の現場では特に高齢者での非けいれん性てんかん重積を念頭に置く必要がある.
・てんかん重積の診断は容易ではない場合もあるが,症状や脳波から迅速に行わなければならない.
・てんかん重積の治療は第一段階から順に行うが,迅速に症状が改善しない場合には神経機能障害が残存する可能性がある.

Ⅲ 脳神経外科医が知っておきたい外科的手法による局在診断

焦点切除術における慢性頭蓋内脳波と術中脳波

著者: 稲次基希 ,   折原あすみ ,   前原健寿

ページ範囲:P.77 - P.84

Point
・焦点切除術の切除範囲決定および脳機能マッピングに,慢性頭蓋内脳波記録による発作時皮質脳波記録が行われる.
・皮質脳波では頭皮脳波よりも5〜20倍の感度で測定が可能で,wideband analysisが可能である.
・焦点切除術中脳波測定の有用性は確立されていないが,多くの施設で行われている.ただし,麻酔薬の影響を考慮する必要がある.

▼コラム ロボット支援による定位的頭蓋内脳波(SEEG)

著者: 石下洋平

ページ範囲:P.85 - P.89

Point
・定位的頭蓋内脳波(SEEG)は,ロボット技術の発展により欧米を中心に急速に普及しており,今後本邦での普及も予想される.
・SEEGでは,電極留置範囲の決定にあたり,てんかんのネットワークを意識した「仮説」を術前に立てることが重要である.
・SEEGは,電極留置における侵襲性の軽減のみならず,その後の外科治療の侵襲性の軽減や新たな治療選択肢の発展にも寄与し得る.

▼コラム ヒト神経科学への頭蓋内電極の貢献

著者: 國井尚人

ページ範囲:P.90 - P.93

Point
・皮質電気刺激は脳機能局在や領域間の機能結合の評価に利用される.脳機能修飾への応用も期待される.
・皮質脳波には,低周波帯から高周波帯にわたる脳律動活動が含まれており,多様な脳機能を対象として時空間動態解析が行われてきた.
・頭蓋内電極によるブレインマシンインターフェースの実用化に向けた研究が進んでいる.

Ⅳ 脳神経外科医が知っておきたいてんかん治療

抗てんかん薬治療の基本

著者: 花谷亮典

ページ範囲:P.95 - P.104

Point
・適切な薬物治療によって60〜70%の患者で発作が消失する.
・抗てんかん薬の服用はしばしば長期に及ぶため,発作型だけではなく,副作用を含めた各薬剤の特性と患者のライフサイクルを念頭に置いた薬剤選択を行う.
・新規抗てんかん薬は,従来薬に比べて薬物相互作用や長期内服に伴う副作用が軽減している.

内側側頭葉てんかんに対する外科治療—手術に必要となる解剖学的理解を中心に

著者: 宇田武弘 ,   國廣誉世 ,   田上雄大 ,   児嶌悠一郎 ,   川嶋俊幸 ,   馬場良子 ,   宇田裕史 ,   高沙野 ,   後藤剛夫

ページ範囲:P.105 - P.114

Point
・内側側頭葉てんかんに対する海馬扁桃体摘出術は有効な外科治療である.
・手術アプローチには前側頭葉切除,経シルビウス裂到達法,経皮質到達法などが用いられる.
・海馬硬化がなく記銘力が保たれている優位側例では海馬多切術も有効である.

脳梁離断術

著者: 小野智憲

ページ範囲:P.115 - P.125

Point
・脳梁離断術は薬剤抵抗性の主に全般起始発作を有するてんかん患者が対象で,転倒発作の有無は問わない.
・てんかん発作の緩和目的で行われることが多いが,迷走神経刺激治療よりも治療効果は高い.
・特に小児においては,治療効果や認知面での改善が期待でき,脳梁離断症状が問題となることはほぼない.

大脳半球切除術と大脳半球離断術

著者: 岩崎真樹

ページ範囲:P.126 - P.132

Point
・大脳半球離断は,脳梁離断と内包に向かう投射線維の離断の2つの要素から成る.
・シルビウス裂側からアプローチする水平法と,半球間裂からアプローチする垂直法がある.
・てんかん外科においては稀だが,発作抑制効果が高く重要な手技である.

▼コラム 小児てんかん手術

著者: 宇佐美憲一

ページ範囲:P.133 - P.136

Point
・小児の脳は発達過程にあるため,てんかん発作が続くことによる発達の停滞・退行を防ぐべく早期に手術を検討する.
・小児の脳は可塑性があり,術後に機能喪失が想定される手術においても部分的な機能回復が期待できる場合がある.
・小児てんかん手術の目的は,発作の抑制だけでなく発達を維持・改善させ,本人や保護者のQOLを向上させることにある.

植え込み型電気刺激療法

著者: 菅野秀宣

ページ範囲:P.137 - P.144

Point
・植え込み型電気刺激デバイスによる神経調節療法は,有効な第三のてんかん外科治療である.
・迷走神経刺激療法はクローズドループ刺激を併用できるようになった.
・脳深部刺激療法や反応性神経刺激療法の導入により,てんかん治療の幅が拡がる.

Ⅴ 脳神経外科医が知っておきたいてんかん指導

自動車運転と福祉制度

著者: 大谷啓介 ,   川合謙介

ページ範囲:P.146 - P.155

Point
・道路交通法第66条は,正常な運転ができないおそれがある状態の運転を禁止しているが,てんかんにおいては運転免許資格の法的基準が設けられており,その基準に則って判断すれば法的には問題ない.
・てんかんがあっても,覚醒中に意識や運動が障害される発作が2年以上ない場合は運転免許の拒否は行われない.
・てんかん患者に対する福祉制度として,医療費関連,手帳関連,年金補助金関連に大別される.患者の疾病および障害を把握した上で適切な制度を提示することが必要である.

生活指導

著者: 髙橋章夫

ページ範囲:P.156 - P.165

Point
・患者の自立した生活と良好な社会参加のために,発作のリスクを減ずるための生活指導は重要である.
・てんかんはlife-long diseaseであり,患者や家族の生活に与える影響は長期に及ぶため,患者とその家族が診療に積極的に参加する雰囲気を醸成しなければならない.そのためには,主治医だけでなくメディカルスタッフも加えたチームによる対応が必要である.

総説

腸内細菌と脳卒中

著者: 殿村修一 ,   猪原匡史

ページ範囲:P.169 - P.176

Ⅰ はじめに
 ヒトの口腔内や腸内にはさまざまな微生物が表層に定着し,常在細菌叢を形成する.特に腸内に生息する細菌は1,000種類以上・約100兆個とされており,個人差や高い多様性が認められる1).腸内細菌叢が安定したバランスを有することで,栄養の消化吸収を促進し,ビタミン類の産生,腸管免疫の調節作用などの有益な作用がある一方で,さまざまな要因で細菌種のバランスが崩れるディスバイオシス(dysbiosis)の状態になると,さまざまな疾患の病態に影響を及ぼすことが明らかにされている2)
 本総説では,前半で脳卒中のリスクとなる加齢,高血圧,糖尿病といった生活習慣病と腸内細菌叢との関連について述べ,後半では脳卒中に関して共生細菌叢との関連を先行研究および関連する動物実験の内容を示し概説する.最後に国立循環器病研究センターで実施している脳卒中マイクロバイオーム研究に関して紹介する.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第3回 印象に残る論文とは?

著者: 森下登史

ページ範囲:P.177 - P.181

論文の見栄えをよくするには?
 前回は論文の種類についてお話ししました.今回はどうしたら見栄えのよい論文になるかということについて説明したいと思います.一般的に英文誌の質は“Impact Factor(IF)”という指標で評価され,IFの高いジャーナルに掲載してもらうには質の高い研究である必要があります.ただし,若手が質の高い研究を行うには段階を踏んでいく必要があります.連載第3回となる本稿では,「無作為対照試験をどのようにデザインするか」というような話ではなく,「持ち合わせの材料でどうやって論文の見栄えをよくできるか」ということについて説明したいと思います.
 印象に残りやすい論文には目を惹くタイトルや図が用いられていることが多いです.多くの査読者は,まずタイトルを見て内容を予測します.次に抄録(Abstract)と図表を見てから本文を読みます.大切な情報は文章説明の補足目的に図や表を用いる場合が多いためです.図や表の質が低いと,文章を読むときにすでに負のバイアスがかかった状態で論文を読み進めることになります.私自身,査読者として,タイトルや図表をどのように改善すべきかをコメント内で提案することも少なくありません.今回はタイトルと図について触れたいと思います.

書評

—著:河野 道宏—聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍の手術とマネージメント

著者: 森田明夫

ページ範囲:P.167 - P.167

より良い手術のために
 本書は河野先生がライフワークと定めて経験を積み重ね,2,000例を超える聴神経腫瘍・小脳橋角部の腫瘍に対する手術を経験して,その症例から得られた知識と技を余すところなく記載された名著と言える.
 内容は聴神経腫瘍や後頭蓋腫瘍の診断から治療適応,治療の判断・根拠,他の治療の利点欠点,様々なアプローチと決定,術中のモニタリング,治療における道具の使い方,細かい手術上のテクニック,予期せぬ事象に関する対応,術後の対応,顔面神経麻痺に対する治療など多岐に及んでおり,聴神経腫瘍や小脳橋角部の腫瘍や病変に対する治療についての知識が余すことなく,また外科医として専売特許と言える秘技も含めて記載されている.また21世紀の書籍に相応しく,88ものビデオを含むDVDやオンラインコンテンツなどMulti-mediaを駆使された構造になっており,読むだけではなく,実際の手術やコツをビデオから見て学べるようにもなっている.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.5

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.183 - P.183

次号予告

ページ範囲:P.184 - P.184

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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