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雑誌目次

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Neurological Surgery 脳神経外科51巻2号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 新時代を迎えた脳血管内治療—文献レビューで学ぶ進歩とトレンド

Editorial

著者: 宮地茂

ページ範囲:P.191 - P.191

 脳血管内治療が本邦に導入された当時は,適応は従来の観血的治療に比べ極めて狭く,治療成績も決して芳しいものではありませんでした.しかし40年の時を経て,以前できなかったような症例の治療が可能になり,安全性,根治性も向上してきました.現在多くの領域の外科治療において,従来の観血的治療から血管内治療へシフトしてきていますが,脳神経外科領域でも,特に脳動脈瘤と頚動脈狭窄は半数以上が血管内から治療が行われています.さらに,脳塞栓に対する血栓回収療法の需要は有効性の認知とともに勢いを増して伸びており,脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻の治療についても,塞栓物質の進歩や治療技術の進化により根治率が一層高まり,新しい時代を迎えています.新規デバイスや治療法が出るたびに,従来法との比較による有用性が,さまざまなランダム化比較試験(RCT),臨床治験,登録研究などによって明らかになり,積み上げられた実績データをもとにガイドラインではエビデンスレベルの高い推奨が行われ,しかもそれは最近でさえも刻々と変わりつつあります.このレビューのまとめや理解を一人でやっていては,効率も悪くまたすべてをカバーできません.
 そこで本特集では,膨大な文献資料について,疾患別に,また網羅的に分担で整理し,現時点で専門医が身につけておくべき知識としてまとめました.

Ⅰ 総論

わが国の脳血管内治療医養成の体制

著者: 宮地茂

ページ範囲:P.192 - P.200

Point
・日本脳神経血管内治療学会専門医は,筆記・口頭・実技試験の審査により認定される,基本診療領域の専門医をベースとした技術認定資格である.
・専門医取得のためには,認定研修施設などにおいて一定のカリキュラムをこなし,資格認定に必要な知識と経験を積むことが求められる.
・日本専門医機構の定義では,専門医は十分な知識・経験をもち,標準的な医療の実践と情報提供ができる医師とされ,指導医は専門医に教育指導ができることとされている.
・学会認定としての指導医には,専門医への技術,戦略に関する助言や指導に加えて,脳血管内治療学を極め,学会の発展への貢献や学術活動におけるリーダーシップをとることも求められる.

Ⅱ 出血性病変

未破裂脳動脈瘤〈適応と成績編〉

著者: 石橋敏寛

ページ範囲:P.201 - P.212

Point
・未破裂脳動脈瘤は原則無症候性疾患であるため,治療適応の見極めが大切である.
・治療の目的は破裂予防と患者の精神的負担の軽減である.そのため,手術適応の1つの指標は医師-患者間の良好な関係を築くことが大前提である.また,脳血管内治療は再発・再治療の可能性がある治療のため,長期的に患者をフォローできることが必要である.
・脳血管内治療が「可能」であることと「向いている」ということは相違するため,根治的な視点で治療方針を決定する必要がある.

未破裂脳動脈瘤〈手技とデバイス編〉—未破裂脳動脈瘤に対する新しいデバイス

著者: 大石英則

ページ範囲:P.213 - P.229

Point
・脳動脈瘤の発生原因は親動脈壁損傷や先天的脆弱性であり,囊状・紡錘状拡張部分の物理的閉塞では根治は得られにくい.
・今後の血管内治療は低侵襲性だけでなく根治性も求められ,親動脈壁に修復機転をもたらすデバイスの開発が求められる.
・フローダイバーターや瘤内フローディスラプターは新生内膜形成を惹起し,親動脈壁に修復機転をもたらすことが期待される.

破裂脳動脈瘤〈適応と成績編〉

著者: 東登志夫

ページ範囲:P.230 - P.238

Point
・破裂脳動脈瘤に対する外科的治療介入は,頚動脈結紮などを経て,クリッピング術やコイル塞栓術(血管内治療)へと発展してきた.
・ISATやBRATなどの大規模臨床試験では,早期および長期成績においてコイル塞栓術が優位性を示した.リスクは少ないが,再出血や再治療はコイル塞栓術のほうがやや多かった.
・これら臨床試験の結果はガイドラインに反映されてきたが,治療方針を決定する際は,個々の臨床所見や脳動脈瘤の特徴を十分に検討し,最適な治療を選択する必要がある.

破裂脳動脈瘤〈手技とデバイス編〉

著者: 大川将和 ,   石井暁

ページ範囲:P.239 - P.250

Point
・現在でも破裂脳動脈瘤閉塞治療の主体はコイル塞栓術であるが,より複雑な症例は限界がある.
・WEB(MicroVention/Terumo)などの瘤内留置デバイスは,今後主要な治療の1つとなる可能性があるが,現時点ではファーストラインとはなっていない.
・種々の親水性コーティング技術は抗血小板薬の使用を低減できる可能性があり,血豆状動脈瘤や大型動脈瘤などの限られた症例で用いられる可能性がある.

脳動静脈奇形〈適応と成績編〉

著者: 清末一路

ページ範囲:P.251 - P.264

Point
・脳動静脈奇形(BAVM)の自然歴における脳出血年間発生率は未破裂例で約2.2%,破裂例で約4.5%程度とされる.また,出血の危険因子としてはAVMの存在部位(深部/テント下),流出静脈(単一の静脈流出,深部静脈流出のみ,静脈狭窄,流出静脈径 > 5 mm),動脈瘤合併などが挙げられている.
・血管内治療は術前塞栓術から根治的塞栓術,また姑息的塞栓術など,さまざまな目的で行われ,BAVMの治療の中で重要な役割を果たしている.
・血管内治療の治療成績やその有用性は,BAVMの病態の複雑性と疾患の希少性,血管内治療デバイスの変化,治療目的と方法の違い,術者の経験値など,さまざまな要因に影響を受けることから,いまだ明確でない.
・上記を踏まえて,個々の症例におけるその適応は,術者・施設の合併症率などの治療のリスクと疾患のリスクを合わせて考慮されるべきである.

脳動静脈奇形〈手技とデバイス編〉

著者: 長谷川仁

ページ範囲:P.265 - P.277

Point
・脳動静脈奇形(AVM)塞栓術に使用する液体塞栓物質には,OnyxTMとNBCAがある.両者の特徴や違いを十分に理解し,適切に使用することで安全かつ有効な塞栓が可能である.
・経動脈的塞栓術が基本であるが,より根治的な方法として,経静脈的塞栓術が報告されており,安全に適用するためのポイントをおさえておく必要がある.
・未解決の問題点として,外科治療との棲み分けと塞栓術の位置付け,未破裂AVMの対処法,high-grade AVMに対する有効な治療法などがある.

硬膜動静脈瘻〈適応と成績編〉

著者: 鈴木有芽 ,   当麻直樹

ページ範囲:P.278 - P.288

Point
・硬膜動静脈瘻は,静脈流出パターンで分類される.
・皮質静脈逆流,出血,NHNDの有無により治療介入を検討する.
・OnyxTMが治療適応となることで,経動脈的塞栓術の治療が進歩した.

硬膜動静脈瘻〈手技とデバイス編〉

著者: 泉孝嗣

ページ範囲:P.289 - P.293

Point
・硬膜動静脈瘻の塞栓術は,経動脈的塞栓術(TAE)と経静脈的塞栓術(TVE)とに大別される.
・硬膜動静脈瘻の塞栓術では,OnyxTM(日本メドトロニック),コイル,ヒストアクリル®(ビー・ブラウンエースクラップ)が主な塞栓材料である.

Ⅲ 虚血性病変

頚動脈狭窄〈適応と成績編〉

著者: 佐藤徹

ページ範囲:P.295 - P.304

Point
・頚動脈ステント留置術(CAS)のエビデンスは頚動脈内膜剝離術(CEA)との比較で示されてきた.術者基準の妥当化,脳保護デバイス(EPD)の使用,そして手技およびデバイスへの習熟によりその安全性が確立した.
・『脳卒中治療ガイドライン2021』では,症候性および無症候性の高度狭窄において,CEAの代替療法としてCASを考慮することは妥当とされている.
・わが国では,術者の質の担保,EPDのほぼ全例での使用に加え,術前プラーク診断による適応決定がCASの好成績につながったと考えられる.

頚動脈狭窄〈手技とデバイス編〉—頚動脈ステント留置術デバイス選択の実際

著者: 平戸麻里奈 ,   津本智幸

ページ範囲:P.305 - P.313

Point
・頚動脈ステント留置術施行においては,周術期合併症をいかに減らすかが命題であり,症例ごとに適したデバイス選択を行えるかが重要となる.
・遠位塞栓防止デバイスの変遷や複数のステントが存在する現在におけるデバイス選択について解説する.

脳塞栓〈適応と成績編〉

著者: 早川幹人

ページ範囲:P.314 - P.327

Point
・経動脈的血栓溶解療法や主にMerciリトリーバー®(Concentric Medical)を用いた血管内再開通療法は,内科治療に優る転帰改善効果を示すことができなかった.
・主にステントリトリーバーを用いたMR CLEAN以降の試験結果より,NIHSS ≧ 6の内頚動脈/中大脳動脈M1部閉塞で,ASPECTS ≧ 6の症例に対する発症6時間以内の血栓回収療法は標準治療となった.
・DAWN,DEFUSE 3の結果から,発症6時間以降の神経症状と虚血コアにミスマッチのある前方循環主幹動脈閉塞例に対する血栓回収療法の有効性も確立した.
・ASPECTS 3〜5の広範梗塞例や,PC-ASPECTS ≧ 6の脳底動脈閉塞例に対する血栓回収療法の有意な転帰改善効果が報告されている.

脳塞栓〈手技とデバイス編〉

著者: 榎本由貴子

ページ範囲:P.328 - P.336

Point
・多様なデバイス,多様なテクニックが存在し,実際に行われている血栓回収手技は一様ではない.
・国内ではcombined techniqueがmajorityであるが,単独療法と比べて患者転帰を改善させるエビデンスは存在しない.
・おのおのの特徴をよく理解し選択することが重要である.

脳塞栓〈医療体制編〉

著者: 山上宏

ページ範囲:P.337 - P.346

Point
・脳主幹動脈閉塞例を効率的に脳卒中センターへ救急搬送する目的に,病院前脳卒中スケールが考案されている.
・直接搬送と転院搬送は,医療資源の密度や脳卒中センターへの距離など,地域の状況に合わせてシステムを構築する必要がある.
・院内診療体制として,転送例では直接血管造影室へ搬入して血栓回収療法を行うことの有用性が示されている.
・日本脳卒中学会により一次脳卒中センターの認定が進められ,脳卒中・循環器病対策基本法に基づいて医療体制の整備を行う必要がある.

総説

WHO脳腫瘍分類第5版(WHO CNS5)—改訂のポイントと現状

著者: 市村幸一

ページ範囲:P.349 - P.363

Ⅰ はじめに
 2021年に出版されたWHO(World Health Organization)脳腫瘍分類第5版(WHO Classification of Tumours 5th Edition Central Nervous System Tumours:WHO CNS5)1)は,前版である改訂第4版にて初めて導入された分子診断がさらに取り入れられ,グリオーマを中心に分類が大きく再編された.WHO CNS5では,病理組織所見のみならず好発年齢や部位なども考慮され,より腫瘍の生物学的特性に即した分類となった上,遺伝子型に基づいた診断基準が多くの腫瘍型で明記されており,診断基準がさらに明確になった.一方で,脳腫瘍の診断に分子検査がより必要となり,分子診断をどのように実臨床に取り入れていくかはより切実な問題となった.
 WHO CNS5の前書きにも率直に記載されているように,脳腫瘍の分類にはさまざまな歴史的経緯があり,TumourとTumorなど英米の綴りが混在していることにもその名残がうかがえる(本稿ではWHO CNS5のオリジナルの記載を用いている).すなわち,WHO脳腫瘍分類は,いまだ発展途上であり,WHO CNS5はより完全な分子診断に向けた移行期の段階であるとも言える.本総説では,WHO CNS5の基本的な考え方や主な変更ポイントを解説するとともに,その問題点について筆者の考えを述べたいと考える.WHO CNS5を理解するにあたり,David Louisの総説2)は必読である.
 本稿は主たる読者を一般の脳神経外科医と想定し,主に分子分類の見地から書かれている.WHO CNS5に記載された腫瘍を体系的にカバーすることや病理診断の詳細に踏み込むことは本稿の意図ではなく,紙数からも不可能である.総論では今回の改訂の趣旨を解説し,各論では特に改変が著しかったグリオーマ系腫瘍についてのみ述べることとする.他の腫瘍については原著を参照されたい.また,解釈については筆者の個人的な意見が反映されていることをあらかじめご承知いただきたい.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第4回 論文執筆において守るべきルール

著者: 森下登史

ページ範囲:P.366 - P.371

論文執筆ではルールを守ろう
 前回は手持ちの材料でどのように見栄えをよくするか,ということについてお伝えしました.今回は「論文執筆において守るべきルール」について書きます.論文執筆における違反はその後のキャリアにも大きく影を落としかねません.悪意はなくとも知らず知らずのうちにルールを逸脱している可能性もあるため,しっかりと「何が違反か」を知っておきましょう.今回は,何が問題になりやすいかを中心にお話しします.論文執筆や投稿の過程で迷うことがあれば,先輩医師にも相談しつつきちんと学んでいきましょう.

書評

—著:田中 和豊—問題解決型救急初期診療—第3版

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.347 - P.347

「この本メチャメチャ売れています!」ってホント?
◆何を指標に選ぶか?
 2020年代以降は救急のマニュアル本が非常に充実しています.研修医は数十冊以上の中から何を買うか迷ってしまうでしょう.上級医だってオススメ本を知る必要があります.数あるマニュアル本から皆さんは何を指標に選んでいますか?
 「先輩研修医に聞く」「書店で読み比べる」「Amazonの★の数」いずれも悪くありません.しかし,私のオススメは「増刷数の多いものを選ぶ」という戦略です.

—編:神田 隆—末梢神経障害—解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで

著者: 三苫博

ページ範囲:P.364 - P.364

末梢神経障害の診療に,真に役立つ画期的な成書
 神田隆先生(山口大神経・筋難病治療学講座特命教授)が編集された本書は,末梢神経障害を,病態生理学を踏まえて包括的に理解し,実践の診療の役に立てることができるという点で,この分野のマイルストーンとなる成書です.神田教授の構想に従い,全国のエキスパートの先生方が分担執筆されています.
 末梢神経疾患は,約1000万人の患者さんがいると推定され,日常高頻度で遭遇するcommon diseaseの一つです.common diseaseといえば,典型的な症状,明解な検査所見から,診断が比較的しやすいというイメージがあるかと思います.しかしながら,末梢神経障害は,診断,治療のアプローチが大変に難しい疾患です.神田教授は,「末梢神経障害は,AがあればBの診断,そして治療Cの実施という一直線の思考では対処できないためである」と,その特徴を喝破しています.

—監訳:中島 芳樹 訳者代表:上村 明—小児と成人のための超音波ガイド下区域麻酔図解マニュアル

著者: 鈴木玄一

ページ範囲:P.372 - P.372

画像とイラストが豊富で実際の手技を行う際に大変便利
 この本は第3版で,このたび初めて日本語版が出版された.著者は区域麻酔を超音波ガイド下で施行することにより,成功率が向上し,より正確に必要な部分のみのブロックが可能になり,新生児から高齢者まで恩恵を受けたと述べている.その他,新生児などに対する超音波ガイド下の内頚静脈カテーテル留置法を解説し,さらに区域麻酔以外に超音波ガイド下での肺・気道・視神経管・胃噴門部エコーについて簡潔な概要にも触れている.区域麻酔以外に麻酔科医が覚えておいて大変役に立つことだろう.
 超音波の基本的な原理の理解は当然として,p. 19に記載された超音波ガイド下神経ブロックのコツは,ぜひとも目を通していただきたい.

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目次

ページ範囲:P.186 - P.187

欧文目次

ページ範囲:P.188 - P.189

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.373 - P.373

次号予告

ページ範囲:P.374 - P.374

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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