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雑誌目次

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Neurological Surgery 脳神経外科51巻4号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 下垂体腫瘍診療の新フェーズ—変革期の疫学・診断・治療における必須知識

Editorial

著者: 黒住和彦

ページ範囲:P.569 - P.569

 下垂体腫瘍の診療は,内科治療薬の進歩に加え,経鼻内視鏡手術の登場により,近年目覚ましい発展を遂げています.下垂体腫瘍にはさまざまな腫瘍があり,治療する上では正常解剖や視床下部下垂体系の理解が必要です.また,外科的治療はそれぞれの腫瘍に対して手術手技,器具,アプローチの違いがあります.さらに,最近の特筆すべき話題としては,国際的に「pituitary adenoma,下垂体腺腫」の名称の変更が行われ,2023年後半〜2024年前半に発刊予定のWHO 2022 Endocrine Tumorsにおいて,pituitary adenomaからPitNET(pituitary neuroendocrine tumor)へ変更され,「下垂体腺腫」の名称は一般名「下垂体前葉腫瘍」,公式名「下垂体神経内分泌腫瘍・下垂体NET(PitNET)」へ変更されます.この大幅な変革期,新フェーズにおいて,一度下垂体腫瘍について疫学・診断・治療についてまとめる必要があると考え,本特集を企画しました.
 第1章は「下垂体の正常解剖と生理」と題しました.下垂体腫瘍の治療に必要な下垂体,トルコ鞍部の解剖学的構造について解説し,発生についてもまとめました.さらに,視床下部下垂体系の生理について解説しました.視床下部と下垂体の関係や視床下部における制御,下垂体前葉,後葉機能,ホルモンについて理解が深まることを期待します.

Ⅰ 下垂体の正常解剖と生理

下垂体の正常解剖

著者: 大山健一

ページ範囲:P.570 - P.576

Point
・術前にCTなどを用いて,蝶形骨洞の含気の状況や骨性隔壁の位置をあらかじめ確認する.
・下垂体への灌流枝である上・下下垂体動脈の走行および灌流様式を理解する.
・海綿静脈洞内の各種脳神経および内頚動脈の走行位置,形態を理解する.

視床下部下垂体系の生理

著者: 藤尾信吾 ,   川出茂 ,   花谷亮典

ページ範囲:P.577 - P.585

Point
・視床下部と下垂体は,ホルモンを介した綿密な連携で生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.
・ホルモンデータを解釈する際は,検査値に影響を与える因子を理解しておく必要がある.

Ⅱ 下垂体腫瘍の疫学・遺伝・病態

下垂体部腫瘍の疫学・遺伝・病態

著者: 阿久津博義

ページ範囲:P.587 - P.592

Point
・下垂体部腫瘍のほとんどが下垂体神経内分泌腫瘍だが,そのほかラトケ囊胞,頭蓋咽頭腫,髄膜腫,胚細胞腫瘍,下垂体炎などさまざまである.
・病変によって治療方針や予後がまったく異なるため,正確な診断の確定が必須である.

下垂体神経内分泌腫瘍(下垂体腺腫)の疫学・遺伝・病態

著者: 鈴木幸二 ,   田原重志

ページ範囲:P.593 - P.606

Point
・2017年以降のWHO脳腫瘍分類の改訂や高齢化などの時代背景の影響も加味しながら,下垂体神経内分泌腫瘍の疫学に関して概説した.
・分子病理学的研究が進むにつれ,下垂体神経内分泌腫瘍は3つの転写因子(PIT1,Tpit,SF1)に基づく系統分類が可能になった.
・下垂体神経内分泌腫瘍の発生原因としての分子病理学的背景は非常に多様性に富んでおり,症例の多くは依然として発症機序が不明である.

頭蓋咽頭腫の疫学・遺伝・病態

著者: 堀口健太郎

ページ範囲:P.607 - P.614

Point
・頭蓋咽頭腫は頭蓋咽頭管から発生する良性上皮性腫瘍(WHO grade 1)であり,病理学的にはエナメル上皮腫型と扁平上皮乳頭型に分けられている.
・頭蓋咽頭腫のエナメル上皮腫型と扁平上皮乳頭型では,おのおの異なる遺伝子異常の関与が報告されている.
・頭蓋咽頭腫は,視機能障害,下垂体機能障害,視床下部障害,認知機能障害など多様な症状を呈する.

下垂体腫瘍の分子病理学的メカニズム

著者: 植田良 ,   戸田正博

ページ範囲:P.615 - P.623

Point
・下垂体腫瘍における分子病理学的メカニズムが解明され,その病理分類は組織学的分類から分子遺伝学的分類にシフトしている.
・下垂体腫瘍治療においても,個々の分子生物学的特徴に基づき薬物治療や集学的治療を行う個別化医療の可能性が示されつつある.
・新たな腫瘍分類の提唱,治療開発がまさに進行しており,脳神経外科医も最新の分子病理学的知識に精通することが求められている.

Ⅲ 下垂体腫瘍の診断

下垂体腫瘍に必要な内分泌検査

著者: 寺坂友博 ,   稲垣兼一

ページ範囲:P.625 - P.633

Point
・下垂体腫瘍を認めた場合には,機能性下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)および下垂体機能低下症の可能性を考慮し,内分泌基礎値を評価する.
・下垂体機能異常(機能性PitNETおよび前葉機能低下症,中枢性尿崩症)は,指定難病の定める要件を満たせば,医療助成対象となる.
・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性クッシング症候群の鑑別診断には,血管内カテーテルを用いた下錐体静脈洞サンプリングが有用である.

下垂体腫瘍の画像診断

著者: 黒﨑雅道

ページ範囲:P.634 - P.641

Point
・成長ホルモン(GH)産生下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)は,下方に進展することが多い.Densely granulated typeでは,腫瘍がT2WIで低信号域となることが多い.
・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生PitNETの微小腫瘍の検出には,造影T1強調像(SPGR法)が有用である.
・プロラクチン(PRL)産生PitNETのカベルゴリンによる治療効果判定には,T2WI所見が有用である.

下垂体腫瘍のWHO組織分類

著者: 西岡宏

ページ範囲:P.642 - P.653

Point
・WHO 2022では,下垂体腺腫から下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)へ名称が変更された.
・前回の分類から下垂体転写因子の免疫組織化学が組織診断に導入されたが,WHO 2022では転写因子(PIT1, TPIT, SF1)を基本とした分類になった.
・下垂体細胞腫など後葉腫瘍の4組織型は,下垂体細胞(pituicyte)由来の腫瘍として統一された.

Ⅳ 下垂体腫瘍の治療

内視鏡下経蝶形骨手術の基本手技

著者: 天野耕作

ページ範囲:P.655 - P.662

Point
・下垂体部腫瘍に対する内視鏡下経蝶形骨手術の進歩は目覚ましい.
・内視鏡の利点,欠点を熟知した上で,より安全確実な経蝶形骨手術の基本手技を習得しなければならない.

頭蓋底腫瘍に対する内視鏡下経鼻手術—拡大経蝶形骨手術

著者: 石井雄道 ,   大村和弘

ページ範囲:P.663 - P.671

Point
・拡大経蝶形骨手術は,基本的な開窓方法に加えて疾患ごとの工夫が必要である.
・頭蓋底の閉鎖は構造を意識した閉鎖が必要である.

頭蓋咽頭腫に対する外科手術

著者: 後藤剛夫

ページ範囲:P.672 - P.678

Point
・頭蓋咽頭腫は,放射線治療を併用しても長期の腫瘍制御が非常に難しい疾患である.
・腫瘍制御のためには初回手術が非常に重要である.
・年齢,患者背景を考えた外科的治療戦略が重要である.

頭蓋底脊索腫の外科治療—神経内視鏡手術を中心に

著者: 辛正廣

ページ範囲:P.679 - P.687

Point
・脊索腫は,斜台を中心とした頭蓋底に発生する極めて稀な悪性腫瘍である.
・肉眼的に摘出するのみでは高率に再発するため,浸潤した辺縁骨組織を含めた切除が必要である.
・近年,神経内視鏡技術の進歩により,鼻腔を利用しての切除が可能となり,侵襲性の低減と手術単独での治癒率が向上している.

開頭・経鼻内視鏡同時併用手術の工夫

著者: 小泉慎一郎 ,   鮫島哲朗 ,   劉祉彤 ,   黒住和彦

ページ範囲:P.688 - P.696

Point
・開頭・経鼻内視鏡同時併用手術では,互いの死角となる部分を補いつつ,さらに両術者が相互の術野を共有することができ,安全に腫瘍の摘出を進めることができる.
・開頭・経鼻内視鏡同時併用手術では使用する器材が多いが,手術室内の器材の配置を工夫することで,手術に関わるスタッフがストレスなく自身の役割を遂行できる.
・修復医用材料を用いて,多層性に再建することで,自家組織を使用する必要がなく,低侵襲で,手術時間の短縮,術後ストレスの軽減,在院日数の短縮が得られる.

下垂体腫瘍の術後管理と髄液漏の防止法

著者: 竹内和人

ページ範囲:P.697 - P.705

Point
・傍鞍部腫瘍術後では,下垂体機能低下や尿崩症など疾患治療に特有の問題点が存在する.
・特に尿崩症治療は過度な介入により低ナトリウム血症などの新たな合併症を生じ得るため,注意が必要である.
・再建時には各層に役割が存在するため,これを理解して順に閉鎖することで髄液漏発生を抑制できる.

機能性下垂体神経内分泌腫瘍(functioning PitNET)の薬物療法

著者: 長峯朋子 ,   福田いずみ

ページ範囲:P.706 - P.715

Point
・下垂体神経内分泌腫瘍の治療の第一選択は経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術であるが,プロラクチノーマのみドパミンアゴニストによる薬物療法が第一選択となる.
・手術により寛解が得られない場合は,薬物療法や放射線療法などを組み合わせて腫瘍の進展抑制と生化学的な寛解を目指す.
・年齢,合併症,副作用,費用対効果などを踏まえて個々の症例に応じた治療を選択する.

下垂体腫瘍の放射線治療—最新の知見から

著者: 長谷川洋敬

ページ範囲:P.716 - P.724

Point
・放射線治療モダリティは多種多様であり,状況に応じて適切に選択する必要がある.
・下垂体腫瘍では基本的に手術(病理診断)・薬物治療が優先され,再発・残存例に放射線治療が行われることが多い.
・機能を落とさないように配慮した手術に放射線治療を加えることで,患者アウトカムを最大化できる可能性がある.

最新の神経内視鏡機器—神経内視鏡手術における機器の進歩

著者: 渡邉督

ページ範囲:P.725 - P.733

Point
・内視鏡下経鼻手術は画質の改善と手術器具の発展により進歩した.
・内視鏡は画質の改善に加え,蛍光観察,3Dに対応したカメラ,高精細モニターの登場でさらなる発展が期待される.
・3D外視鏡の登場により,神経内視鏡手術に変化がもたらされた.
・内視鏡手術専用の器具の登場でより,精密で安定した手術操作が可能となった.

下垂体腫瘍とロボティクス

著者: 武藤淳 ,   廣瀬雄一

ページ範囲:P.734 - P.742

Point
・Da Vinci Xiを用いた経口アプローチでは,下垂体領域から第二頚椎まで操作可能である.
・脳神経外科手術でロボットを用いる目的は,① 手術精度向上,② 手術技術向上,③ 手術補助の3つである.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第6回 症例報告の書き方②

著者: 森下登史

ページ範囲:P.745 - P.749

論文を実際に書く
 前回は症例報告を執筆するための題材選びについてお話ししました.今回は,より直接的に論文執筆に関する内容を取り上げます.

書評

—著:小林 啓—医療者のスライドデザイン—プレゼンテーションを進化させる,デザインの教科書

著者: 吉橋昭夫

ページ範囲:P.744 - P.744

伝わるプレゼンテーション
医療者のためのデザインガイド
 本書は,プレゼンテーションを効果的に行うためのデザイン手法を誰にでもわかりやすく紹介したものである.プレゼンテーションは受け手と知見を共有し新たな行動を促すものであり,そのためには適切なデザインが必要である.私は「情報デザイン」の分野で長く教育研究に携わってきたが,本書は情報デザインのエッセンスを凝縮してスライドデザインに投入したものであり,伝えたいメッセージや情報をスライドとして具体化するために必要な内容が存分に盛り込まれている.
 以下は,各Chapterの概要である.

—原著:Suzette M. LaRoche,Hiba Arif Haider 訳:吉野 相英—脳波で診る救命救急—意識障害を読み解くための脳波ガイドブック

著者: 久保田有一

ページ範囲:P.750 - P.750

まさにICU脳波モニタリングのバイブル
 待ちに待っていた一冊が出た.神経救急や神経集中治療を行う者にとっては,バイブルの一冊である.私は2009〜2011年の米国クリーブランドクリニックてんかんセンター留学中に多くのICU脳波を判読していた.このころは,米国においてICU脳波モニタリングが爆発的に広がっているときであった.そのときには教科書もなく,意識障害の患者の脳波が多様で判読に難渋していた.帰国後の2012年に『Handbook of ICU EEG Monitoring』の初版が発売となった.本邦でまだ一般的でなかったICU脳波モニタリングを実施する必要性に迫られた私にとっては,求めていた全てのことがこの一冊に書かれていた.この本には「ACNS Standardized Critical Care EEG terminology 2012」が引用され,ICU脳波モニタリングにおける代表的な波形パターンが紹介されており,ようやく救急脳波の分類化が始まったことを感じさせた.その後,さらなるICU脳波モニタリングのエビデンスがさまざまな施設から発表され,2018年に第2版が出版された.本書は,この第2版の日本語訳版である.しかも本書を手に取ってみると,なんと2021年にACNSから出された「ACNS Standardized Critical Care EEG terminology 2021」までもが本書の最後に附録として含まれている.本書を全て読むことで,ICU脳波モニタリングを全て学習することが可能である.
 訳者の吉野相英先生は,防衛医大の精神科学の教授である.精神科の教授でありながら,救命救急の本を訳されたというのも大変驚きである.一見そう感じる読者もおられると思うが,至極当然で,吉野先生はてんかん・脳波については大変造詣が深く,すでにそれらに関する著書も執筆されている.また,訳者まえがきにあるように,精神科医として薬物中毒の患者に伴うNCSE(非けいれん性てんかん重積状態)など多くの意識障害の患者の診療に当たっており,脳波を積極的に施行し判読されてこられた.われわれからみても,吉野先生が本書を日本語訳されるに最も適している先生であろうと思う.

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目次

ページ範囲:P.564 - P.565

欧文目次

ページ範囲:P.566 - P.567

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.751 - P.751

次号予告

ページ範囲:P.752 - P.752

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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