icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科51巻5号

2023年09月発行

雑誌目次

特集 臨床脳神経外科医にとってのWHO脳腫瘍分類第5版

Editorial

著者: 園田順彦

ページ範囲:P.759 - P.759

 WHO脳腫瘍分類第5版は2021年に発刊され,約2年が経過し徐々に実臨床においても普及しつつあります.しかしながら,本邦において,保険収載の問題などから確定診断がきわめて困難な疾患が存在するのも事実です.そこで本特集は「臨床脳神経外科医にとってのWHO脳腫瘍分類第5版」と題し,実際に脳腫瘍を治療する専門医前後の医師にとって,WHO脳腫瘍分類第5版の中から必要不可決である疾患を取り上げ,知識・理解を深めることを目的に企画しました.
 第1章は総論として「WHO脳腫瘍分類第5版の概要」と題しました.まず,成人・悪性良性脳腫瘍,小児脳腫瘍について,WHO脳腫瘍分類第5版における分類法・診断に関する概略をまとめました.また,2022年WHO内分泌腫瘍・神経内分泌腫瘍で分類されるようになった下垂体前葉神経内分泌腫瘍に関しても,トルコ鞍部腫瘍の中で取り上げました.

Ⅰ WHO脳腫瘍分類第5版の概要

成人型悪性神経膠腫の分類・診断

著者: 大野誠 ,   杉野弘和

ページ範囲:P.760 - P.770

Point
・成人型悪性神経膠腫は,WHO脳腫瘍分類第5版でastrocytoma, IDH-mutant, oligodendroglioma, IDH-mutant and 1p/19q-codeleted, glioblastoma, IDH-wildtypeの3つに分類された.
・成人型悪性神経膠腫において,形態学的所見と分子診断マーカーを組み合わせた診断基準が明確に定義された.
・分類困難な腫瘍に関しては,年齢,腫瘍部位,腫瘍摘出度,画像所見などを加味して総合的に判断し,治療法を検討することも重要である.

良性脳腫瘍の分類と分子診断

著者: 吉本幸司

ページ範囲:P.771 - P.777

Point
・良性脳腫瘍において特徴的なゲノム変異が発見されている.
・髄膜腫では,悪性度を評価するために,TERTプロモーター変異とCDKN2A/Bのホモ接合性欠失の検出が必要になる.

小児脳腫瘍の分類・診断

著者: 金村米博

ページ範囲:P.778 - P.788

Point
・小児脳腫瘍の分子遺伝学的特徴が明らかになり,WHO脳腫瘍分類第5版では小児脳腫瘍の分類に多数の分子遺伝学的知見が組み込まれた.
・Diffuse gliomasに関して,adult-typeとpaediatric-typeに区別した分類が策定された.
・遺伝子変異,コピー数変異に加え,DNAメチル化プロファイルに基づく分類法が随所に採用され,分子診断の重要性が今後さらに増すと考えられる.

トルコ鞍部腫瘍の分類・診断

著者: 西岡宏

ページ範囲:P.789 - P.798

Point
・臨床病理学的見地から,下垂体腺腫は下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)へ名称が変更された.
・PitNETの組織分類の基本は,下垂体転写因子(PIT1, TPIT, SF1)の免疫組織化学になった.
・腫瘍増殖能の指標(Ki67指数)の有用性や,特定の組織型の腫瘍がaggressiveな臨床経過を呈しやすいことは示されたが,PitNETのgrade分類は提示されなかった.
・エナメル上皮腫型と乳頭型の頭蓋咽頭腫は,おのおのCTNNB1変異とBRAF変異を呈する独立した個別の組織型になった.
・下垂体細胞腫,顆粒細胞腫などTTF1陽性の4型の後葉(神経下垂体)腫瘍は,下垂体細胞(pituicyte)由来腫瘍として統一された.

Ⅱ 成人悪性脳腫瘍

星細胞腫,IDH変異型

著者: 有田英之

ページ範囲:P.800 - P.810

Point
・WHO脳腫瘍分類の改訂により,星細胞腫,IDH変異型の定義が変更され,以前より臨床的に明確な腫瘍の一群となった.
・星細胞腫,IDH変異型は治療において,手術による摘出の重要性が明確になってきている.
・分子分類導入に伴い,疾患分類が変更になったことを踏まえて,治療のエビデンスを再考する必要がある.

乏突起膠腫,IDH変異かつ1p/19q共欠失

著者: 松谷智郎

ページ範囲:P.811 - P.820

Point
・乏突起膠腫はWHO脳腫瘍分類改訂第4版以後,IDH変異と1p/19q共欠失を伴う,より均一な予後良好な腫瘍として分類されるようになった.
・しかし推奨治療は,形態診断時代に行われた臨床試験の結果により提唱されている.
・これら過去の臨床試験のもつ意味を正しく理解しつつ,今後明らかとなる臨床試験結果を見据えた治療戦略が求められる.

膠芽腫,IDH野生型

著者: 柴原一陽 ,   隈部俊宏

ページ範囲:P.821 - P.828

Point
・WHO脳腫瘍分類第5版で膠芽腫の定義が変更となった.
・MRI画像から膠芽腫と確定診断することは必ずしも容易ではない.
・膠芽腫治療におけるがん遺伝子パネル検査および分子標的薬の役割は期待できる.

Ⅲ 成人良性脳腫瘍

髄膜腫

著者: 佐々木光

ページ範囲:P.829 - P.836

Point
・WHO脳腫瘍分類第5版における髄膜腫の病理診断は,基本的に組織所見に基づく.ただし,退形成性髄膜腫の基準には遺伝子情報が追加され,従来の組織所見の基準に加えて,TERTプロモーター変異,あるいはCDKN2A/CDKN2Bホモ欠失を認めれば,退形成性髄膜腫と診断される.
・髄膜腫には,NF2変異(および染色体22番欠失)を主なドライバー遺伝子変異とするNF2/Chr22髄膜腫と,non NF2/Chr22髄膜腫があり,後者ではAKT1SMOTRAF7KLF4などの遺伝子に変異が認められる.
・各ドライバー遺伝子は相互に排他的に存在し,髄膜腫の発生部位やsubtypeと密接に関係する.
NF2/Chr22髄膜腫は円蓋部,傍矢状洞部に多く,組織型では線維性,移行性,砂粒腫性髄膜腫が多い.Non NF2/Chr22髄膜腫は頭蓋底に多く,組織型では髄膜皮性髄膜腫が多い.

非髄膜上皮系の間葉系腫瘍

著者: 大宅宗一 ,   村上千明

ページ範囲:P.837 - P.844

Point
・孤立性線維性腫瘍/血管周皮腫という名称が廃止され,孤立性線維性腫瘍(SFT)となった.
・SFTは核分裂数と壊死によりgrade 1〜3に分類される.
・遺伝子異常によって規定される3つの新たな原発性頭蓋内肉腫の診断名が導入された.

神経鞘腫,神経線維腫症2型,神経鞘腫症

著者: 長井健一郎 ,   藤井正純

ページ範囲:P.845 - P.857

Point
・WHO脳腫瘍分類は版を重ねるごとに分子診断の必要性が上がっているが,神経鞘腫に関して分子診断は必須ではなく,改訂第4版(WHO 2016分類)と第5版(WHO 2021分類)で大きな変化はない.
・WHO 2016分類でメラニン性シュワン細胞腫とされていた腫瘍は,WHO 2021分類からは悪性黒色神経鞘腫となり,神経鞘腫とは別のものとして扱われることになった.
・WHO 2021分類発行後の2022年に神経線維腫症2型(NF2)はNF2関連神経鞘腫症へと名称が変更され,NF2関連以外にも神経鞘腫症はSMARCB1LZTR1関連神経鞘腫症など名称が加わった.
・NF2に対するベバシズマブの有効性は以前から言われており,本邦で多施設共同二重盲検無作為化比較試験(BeatNF2 trial)が施行され,近日中に結果が公表される予定である.

Ⅳ 小児脳腫瘍

髄芽腫

著者: 山口秀 ,   藤村幹

ページ範囲:P.858 - P.866

Point
・髄芽腫は分子生物学的分類による分類が診断の主体となった.
・WHO脳腫瘍分類第5版における髄芽腫の4型分類は,① WNT群,② SHH-TP53野生型,③ SHH-TP53変異型,④ non-WNT/non-SHH群(Group 3,Group 4)である.SHH群はTP53変異の有無により②,③に分けられている.
・分子分類によって,髄芽腫の臨床的特徴や予後が明確に異なることを理解する.

上衣腫

著者: 齋藤竜太

ページ範囲:P.867 - P.875

Point
・上衣腫は他の悪性脳腫瘍とは異なり,点変異がほとんど確認されず,遺伝的およびエピジェネティックに特徴的な疾患である.
・最新のWHO脳腫瘍分類第5版では,組織学的,分子遺伝学的情報,腫瘍部位に基づき,上衣腫を予後と生物学的特徴をより反映する10個の分類に細分化した.
・正確な分類にはDNAメチル化プロファイリングなどの高度な遺伝子解析技術が必要になることが課題で,診断にはサロゲートマーカーが必要である.

小児型びまん性悪性グリオーマ

著者: 棗田学

ページ範囲:P.876 - P.883

Point
・小児型びまん性悪性グリオーマは,WHO脳腫瘍分類第5版で定義された新しい疾患カテゴリーである.
・診断確定には病理学的検索および遺伝子変異解析のみならず,融合遺伝子解析やメチル化解析が必要な場合がある.
・特にdiffuse midline glioma, H3 K27-alteredは予後不良で,新しい治療法の開発が急務である.

限局性星細胞系膠腫

著者: 林弘明 ,   岩下広道 ,   立石健祐

ページ範囲:P.884 - P.891

Point
・WHO脳腫瘍分類第5版では,新たに限局性星細胞系膠腫が加わった.
・限局性星細胞系膠腫には,毛様細胞性星細胞腫,多形黄色星細胞腫をはじめとする6つの腫瘍型が含まれる.
・限局性星細胞系膠腫の多くでMAPK経路の遺伝子異常が認められる.

胚細胞腫の分子生物学的特徴と臨床的意義

著者: 髙見浩数

ページ範囲:P.892 - P.900

Point
・半数以上の症例でRTK,MAPK,PI3K経路の遺伝子変異を有するが,構造異常は現在解明が進んでいる.
・ジャーミノーマはゲノム全体にわたる低メチル化が特徴で,起源細胞とされる始原生殖細胞と類似する.
・ジャーミノーマにおける腫瘍細胞含有率とノンジャーミノーマにおける12p gainは予後と相関し,今後の治療層別化因子になり得る.

Ⅴ 血液系腫瘍

中枢神経系原発悪性リンパ腫

著者: 佐々木重嘉

ページ範囲:P.901 - P.909

Point
・中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は,脳腫瘍の分類であるWHO脳腫瘍分類,血液腫瘍の分類であるWHO血液腫瘍分類,ICCなど複数の分類でそれぞれカバーされている.
・WHO血液腫瘍分類は第5版で分類が大きく改訂され,今後のWHO脳腫瘍分類におけるPCNSLの分類にも影響が予想される.

Ⅵ 間脳・下垂体疾患

下垂体神経内分泌腫瘍

著者: 黒﨑雅道

ページ範囲:P.910 - P.916

Point
・WHO内分泌腫瘍・神経内分泌腫瘍分類第5版において,pituitary adenomaの名称がPitNET(pituitary neuroendocrine tumor)に変更された.
・PitNETの組織亜型は,PIT1,TPIT,SF1などの転写因子と各種前葉ホルモンの発現により分類されているが,これはWHO内分泌腫瘍分類第4版と基本的に同じである.
・PIT1系統(GH-PRL-TSH群),TPIT系統(ACTH群),SF1系統(LH, FSH群),系統分化を示さないものの4群に分類される.

頭蓋咽頭腫—ドライバー遺伝子の解明による新時代の幕開け

著者: 藤尾信吾 ,   花谷亮典

ページ範囲:P.917 - P.928

Point
・頭蓋咽頭腫はドライバー遺伝子が解明され,WHO脳腫瘍分類第5版では,エナメル上皮腫型,扁平上皮乳頭型がそれぞれ独立したチャプターとして取り扱われるようになった.
・扁平上皮乳頭型頭蓋咽頭腫に対するBRAF・MEK阻害薬の前向き臨床試験にて良好な治療成績が示された.
・頭蓋咽頭腫に対する外科的治療のあり方が問われる時代になっている.

総説

脳動脈瘤を例に炎症を考える

著者: 栢原智道 ,   井谷理彦 ,   青木友浩

ページ範囲:P.931 - P.940

Ⅰ 炎症とは
1 急性炎症と慢性炎症
 炎症反応は,生体の防御反応の1つであり,組織や細胞を含む生体が内因性ないし外因性に何らかの刺激を受けた際に生じる.これら刺激は,熱や圧といった物理的なものや,酸といった化学的なものなどさまざまな性質のものを含み,由来も細菌感染や外傷など多岐にわたる.また,これら刺激はほとんどの場合には,生体に何らかの害を起こすいわゆる侵害刺激である.炎症反応は,刺激に呼応した生体防御反応として惹起された後に急速に強度を増し,発赤,疼痛,腫脹,熱感を主要症候として形成される.このような炎症反応を,急性炎症反応と呼称する.急性炎症反応は防御反応である一方で,活性酸素種や蛋白分解酵素の過剰産生などのために組織破壊を生じることにより,さまざまな疾患で発症や増悪過程における急性期病態を形作る.その後,侵害刺激の終息や炎症反応の後に炎症に拮抗する抗炎症経路の誘導などにより,炎症反応は急速にその強度を低下させる.
 一方,詳細が明らかとなっていない部分も多いが,炎症が長期間継続し慢性炎症反応を形成する場合がある.急性炎症反応が慢性炎症反応に転換されるためには,炎症が慢性化するための特異的機構が誘導されることが必須である.これには,刺激の長期化,抗炎症経路の抑制,正のフィードバック経路の形成をはじめとする炎症反応の増幅経路の誘導,細胞浸潤や分化による炎症局面構築の変容,獲得免疫の誘導などの複数の機構が含まれる.慢性炎症は,このように単に急性炎症の時間軸で延長したものではなく,質的に異質なものである.また,炎症の程度は低いことが通常であるとともに,種々の細胞種の参加や線維化などの組織構築の変容など急性炎症反応に比しはるかに複雑な反応であり,多くの現象が同時並行的かつ相互作用する反応であると理解されている.慢性炎症は,多くの慢性経過をたどる疾患,例えば癌,耐糖能異常,神経疾患,動脈硬化を含む血管病などに共通の病態形成基盤となっている.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第7回 症例報告の書き方③

著者: 森下登史

ページ範囲:P.942 - P.947

読者目線で原稿を見直してみよう
 前回(第6回,Vol. 51 No. 4)と前々回(第5回,Vol. 51 No. 3)では症例報告の書き方について,テーマの選び方と執筆の概要をお伝えしました.前回触れたようにCase Report(CARE)guidelines1)に則って執筆すればある程度体裁は整いますが,今回は特に,査読者の視点から気をつけるべき点を補足していきたいと思います.

書評

—著:福武 敏夫—神経症状の診かた・考えかた 第3版—General Neurologyのすすめ

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.930 - P.930

繰り返し読み続けたい,エキスパートの診かた・考えかた
 著者の福武敏夫先生は脳神経内科領域のオーソリティとして,誰もが認める存在である.私は先生と本書の大ファンで,本書は初版から繰り返し読み続けている.病歴聴取と神経診察の実例を通して,一貫したエキスパートの診かた・考えかたを学ばせていただいた.まさに第2版の帯に書かれていた「傍らに上級医がいる」ような感覚になるテキストである.関心のある項目から読み始めてもよいが,本書を持ち歩き,私のように繰り返し読むことをお勧めしたい.きっと先生方の血肉になると思う.
 内容は第Ⅰ編では日常的によく遭遇する症状(頭痛,めまい,しびれ,パーキンソン病,震え,物忘れ,脊髄症状など)を,第Ⅱ編では緊急処置が必要な病態(けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞)を,そして第Ⅲ編では神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールを,いずれも具体的な実例を基に解説されている.私は「どうしたらこれほど具体的で豊富な事例を記載できるのですか?」と尋ねたことがあるが,福武先生は「一日の終わりに診療した患者のことを思い出し,ノートにつけて勉強している」と答えられ,合点がいくと同時に先生の不断の努力に改めて尊敬の念を抱いた.

--------------------

目次

ページ範囲:P.754 - P.755

欧文目次

ページ範囲:P.756 - P.757

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.949 - P.949

次号予告

ページ範囲:P.950 - P.950

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?