icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科51巻6号

2023年11月発行

雑誌目次

特集 神経救急—初期診療から集中治療までエキスパートの暗黙知に迫る

Editorial

著者: 横堀將司

ページ範囲:P.957 - P.957

 “Time is Brain”.神経救急を表現するものとして,言い得て妙な言葉ですね.脳卒中や外傷,けいれん重積,遷延性意識障害,中枢神経感染症など,脳神経救急疾患はまさに時間との戦いです.当然ながら救急医療の現場では患者は突然,病院にやってきます.
 私たちは病苦を訴え命の危険にある救急患者を眼前に,失いそうになる命を的確な蘇生で繋ぎ止め,診察と治療を進めていきます.刻一刻と変化する患者の容態を常に気にかけつつ,同時に休まず手を動かし,頭の中の知識の引き出しを片っ端から開け続け,かつ冷静に鑑別診断を熟考し,診断の確定に至ります.常に時間や情報が限られ,治療順序や術式決定に迷う状況下にあっても迅速な決定を迫られる「待ったなし」の救急医療の現場では,「できること」や「知っていること」の数こそが患者救命の可能性に直結すると換言できるでしょう.単純知識の蓄積のみならず,経験の共有が必要であることは言うまでもありません.

Ⅰ 病院前救護

病院前診療活動と神経救急

著者: 藤田浩二

ページ範囲:P.958 - P.967

Point
・病院前診療活動の目標は,早期の治療開始(早期医療介入)と至適医療機関への傷病者の搬送(早期医療搬送)である.
・ドクターヘリとドクターカーは早期医療介入,早期医療搬送のために重要な手段である.
・脳主幹動脈閉塞に対する急性期血栓回収療法が可能な脳卒中センターへ搬送するためには,病院前脳卒中スケールが有効である.
・ドクターヘリやドクターカーの有用性を発揮するには,地域ごとの特性に合わせた医療体制の整備が重要である.

Ⅱ 初期診療の基本

救急蘇生のテクニック—気道・呼吸・循環

著者: 大貫隆広

ページ範囲:P.969 - P.984

Point
・確実な気道確保の適応を理解する.
・困難気道の対応を理解する.
・救急蘇生に必要な薬剤の使い方を理解する.
・標準的な蘇生法を理解する.

小児神経救急

著者: 荒木尚

ページ範囲:P.985 - P.999

Point
・小児神経救急疾患の初期診療において,最もよく認められる症状はけいれんと意識障害である.
・救急室へ搬入される十数秒で,気道開通性,意識レベル,概観を観察し重篤度を直観的に判断する.
・小児神経救急疾患は,成長発達を考慮した初期評価と蘇生,最適な抜本的治療が行われることにより最良の転帰が期待される.

多発外傷の初期診療

著者: 山田哲久

ページ範囲:P.1000 - P.1008

Point
・「重症度」よりも「緊急度」を,「解剖学的異常」よりも「生理学的異常」を重視した対応を行う.
・多発外傷はどんなに優れていても一人の医師では対応が困難であり,多職種による外傷診療チームによる診療が必要である.
・防ぎ得た外傷死の回避と二次性脳損傷の回避あるいは軽減のために,気道管理,呼吸管理,循環管理が重要である.

意識障害の鑑別と対応—昏睡患者へのアプローチ

著者: 小畑仁司

ページ範囲:P.1009 - P.1020

Point
・急性期の意識障害は,覚醒障害が主体である.
・気道,呼吸,循環の迅速な安定化と焦点を絞った神経学的検査を同時進行で行う.
・意識レベルと神経学的所見を的確に評価し,時宜を得た治療介入を行う.

Ⅲ 疾患別の初期診療

脳出血の初期診療—先入観にとらわれず原因検索を

著者: 中村光伸 ,   藍原正憲

ページ範囲:P.1022 - P.1032

Point
・脳出血患者に対して,脳卒中以外の重篤な疾患と同様に,まずは気道,呼吸,循環の評価を行い,安定化を図る必要がある.
・脳出血の原因精査を行い,その原因に対して最適な治療を選択する必要がある.
・抗血栓療法に伴う脳出血では,その薬物にあった血液製剤・中和薬を投与し,血腫の増大を防ぐ必要がある.

脳梗塞の初期診療

著者: 木村尚人

ページ範囲:P.1033 - P.1039

Point
・rt-PA静注療法や血栓回収療法などが脳梗塞においてやるべき治療となり,さらに後方循環,広範囲脳梗塞の治療へと適応が拡大した.
・救急隊からの連絡を受け,患者の情報収集からCT,採血などを効率よく行うことでスムーズにrt-PA静注療法や血栓回収療法の適応の決定が可能となる.
・血栓回収療法の際には,機器やデバイスを準備する時間の短縮を図ることにより,トータルとしての時短を図ることが必要である.

頭部外傷の初期診療

著者: 田中達也 ,   末廣栄一 ,   松野彰

ページ範囲:P.1040 - P.1050

Point
・頭部外傷の診療では,初期診療の標準化コース(JATEC)や『頭部外傷治療・管理のガイドライン』などの標準化されたアプローチが確立されており,防ぎ得た外傷死を回避するために初期診療が重要である.
・近年,頭部外傷患者の高齢化,抗血栓薬服用者の増加,死亡率は低下しているものの転帰良好の割合も低下している.
・頭部外傷患者は凝固線溶異常を伴うことが多く,早期のトラネキサム酸の投与,適切な抗凝固薬の中和療法を行う.

頚椎損傷・頚髄損傷の初期診療

著者: 佐々田晋 ,   金恭平 ,   安原隆雄

ページ範囲:P.1051 - P.1061

Point
・頭部外傷を扱う脳神経外科では,頚椎・頚髄損傷を診察する機会も多い.
・頚椎・頚髄損傷で生じ得る神経症状を知り,症状の程度のスケールを知る必要がある.
・頚椎・頚髄損傷で気をつけるべき画像のポイントを知る必要がある.
・頚椎・頚髄損傷での手術療法は,固定術を選択することが多い.

くも膜下出血の初期診療

著者: 中江竜太

ページ範囲:P.1062 - P.1068

Point
・くも膜下出血(SAH)は再破裂が予後に大きく影響するため,再破裂を起こさないように初期診療を進めることが重要である.
・SAHを疑った場合,降圧や鎮静,鎮痛などにより,根治手術を終えるまで再破裂予防を行う.
・脳動脈瘤に対するクリッピング術とコイル塞栓術の治療選択は,患者背景や動脈瘤の部位,大きさ,形状,術者の技術などから総合的に判断することが重要である.

てんかん重積状態の初期診療

著者: 稲次基希 ,   前原健寿

ページ範囲:P.1069 - P.1077

Point
・てんかん重積状態は不可逆的な脳損傷を防ぐために,可及的速やかなコントロールが重要である.
・初発のてんかん重積状態では何らかの背景疾患が存在している可能性が高く,速やかな診断と治療が必要である.
・非けいれん性てんかん重積状態の診断や,治療効果判定には,持続脳波モニタリングが有用である.

Ⅳ 集中治療

心停止後症候群への対処

著者: 櫻井淳

ページ範囲:P.1079 - P.1088

Point
・心停止蘇生後は4つの病態があり,心停止後症候群(PCAS)と呼ばれている.
・そのなかで最も転帰に影響するのが,心停止後脳障害(PCABI)である.
・PCABIの対処は,血圧,酸素化,体温を正常値に保つ(過剰に高い,低いとしない)ことがよいとされつつある.

神経集中治療—頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアへの対処

著者: 藤原大悟 ,   江川悟史

ページ範囲:P.1089 - P.1103

Point
・頭蓋内圧管理はmultimodality monitoringと(病態)生理学の知識が必要である.
・Stepwise protocolを用いて頭蓋内圧管理を行う.
・二次性脳損傷を防ぐことが重要である.

神経集中治療—体温管理療法

著者: 河北賢哉

ページ範囲:P.1104 - P.1111

Point
・体温管理療法は頭蓋内圧コントロールが可能であり,重症頭部外傷や脳卒中に応用できる.
・脳神経救急疾患に伴う発熱は,神経学的転帰不良因子であり,発熱管理を行うことは重要である.
・発熱管理は単にデバイスを稼働させるだけではなく,二次性脳損傷を予防するための神経集中治療の一環として行う必要がある.

Ⅴ 脳神経外科医として押さえておきたい知識

慢性期の高次脳機能障害と社会による支援

著者: 秋元秀昭

ページ範囲:P.1113 - P.1121

Point
・地域には高次脳機能障害に対するさまざまな社会的支援がある.行政の窓口と連携して支援を提供する.
・家族会・当事者会も大きな支援となる.
・脳神経外科医が社会的支援をどれくらい知り,どのように関わるかは,今後の課題である.

神経疾患のリハビリテーション治療—急性期を中心に

著者: 青柳陽一郎 ,   齊藤彬 ,   岩沢達也 ,   大橋美穂

ページ範囲:P.1122 - P.1129

Point
・高度急性期の病床機能の明確化が進むなかで,早期リハビリテーションが重要視されるようになってきた.
・脳損傷後,原則48時間以内に多職種がチームとして総合的な早期離床・リハビリテーションを行うことが推奨される.
・バイタルサインと意識状態を適宜確認しながら安全を担保した上で,高頻度の介入が推奨される.

総説

血管内治療におけるflow diverterの現状

著者: 尾崎友彦

ページ範囲:P.1133 - P.1148

Ⅰ はじめに
 Flow diverter(FD)は,本邦では2015年4月にPipelineTM Flex(Covidien,現Medtronic)が薬事承認され,その治療の歴史がスタートした.以降,『頭蓋内動脈ステント(脳動脈瘤治療用Flow Diverter)適正使用指針 第3版』1)に基づき治療が行われている.2023年現在,3種類のFDが使用可能となっており,FD導入前には治療困難であった大型動脈瘤や後方循環動脈瘤に対しても,安全に治療が行えるようになってきた.さらに近年,エビデンスの蓄積2-4)により,動脈瘤のサイズも10 mm以下の瘤にまで適応拡大されている.
 しかし,克服すべき課題も残されている.まず,母血管内に金属量の多いFDを留置することによる血栓性塞栓症,さらにそれを防止するための長期にわたる抗血小板薬内服の必要性が挙げられる.また,動脈瘤治癒までには数カ月を要するため,FD留置後の動脈瘤破裂,いわゆる遅発性破裂(delayed aneurysmal rupture)も課題である5).さらに,大きな分岐血管をもつ動脈瘤などの,FD留置後も瘤内血流停滞を得にくく瘤が治癒しないFD不応例にも考慮が必要である6)
 本稿では,FDの治療適応を含めた基本情報と,これまでのエビデンスに基づいた現状,さらには今後の展望に関して報告する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩先端部へ伸展する鼻副鼻腔悪性腫瘍に対する拡大眼窩内容全摘術—頭蓋内解剖と手術手技

著者: 菅原貴志 ,   前原健寿

ページ範囲:P.1149 - P.1158

Ⅰ はじめに
 頭頚部悪性腫瘍の治療は頭頚部外科主体の集学的治療が行われることになるが,外科的切除が必要な際には,脳神経外科,頭頚部外科,形成外科による3科合同頭蓋底手術が必要となる1).その際,頭頚部外科は顔面側,側頭下窩,鼻腔内,口腔内などの下方や側方から,脳神経外科は開頭による頭蓋内での上方,側方からの操作を担当し,形成外科は摘出腔に対する再建を担当する.本稿では,この3科合同頭蓋底手術のなかでも最も複雑な操作が必要となる手術の1つである「眼窩先端部に伸展した鼻副鼻腔悪性腫瘍に対する拡大眼窩内容全摘術」において,脳神経外科が担当する頭蓋内手術手技に関して解剖を中心に解説する.なお,硬膜内伸展している場合は脳を合併切除することで腫瘍を露出せずに摘出可能と判断した際に一塊切除を行うことがあるが,本解説では頭蓋内伸展があっても硬膜内伸展のない病変を想定して解説する.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第8回 原著論文の書き方①

著者: 森下登史

ページ範囲:P.1160 - P.1163

症例報告の次は原著論文に挑戦!
 前回までで一通り,症例報告の書き方について説明しました.今回からいよいよ原著論文(original article)の書き方について説明します.原著論文は,研究者としての評価では非常に重要です.論文の数は大切ですが,症例報告をどれだけ書いていても原著論文を発表していなければ,研究者としては認められません.特に,多くの大学で学位取得には原著論文発表が義務づけられています.大学院でのテーマは基礎研究の場合が多いと思いますが,本連載では臨床研究について説明します.

書評

—編:飛驒 一利,小柳 泉—脊椎・脊髄疾患の外科 第2版

著者: 花北順哉

ページ範囲:P.1131 - P.1131

脊髄・脊椎外科の聖地から出された教典のごときテキスト
 この度,私の長年の畏友であった故岩﨑喜信北海道大学名誉教授と飛驒一利先生の編集により,2006年に出版された『脊椎・脊髄疾患の外科』の第2版が,飛驒一利・小柳 泉両先生の編集により,装いも新たに出版された.本書の初版は,脊椎・脊髄分野における基本的テキストとして多数の医師や医学生に広く好評のうちに迎えられていた.
 北海道大学脳神経外科学教室は,初代教授の都留美都雄先生が教室のメインテーマとして,脊髄・脊椎分野をわが国の脳神経外科として初めて取り上げられた.それ以降,2代目の阿部 弘先生・3代目の岩﨑喜信先生と,この伝統が連綿と引き継がれており,この分野の臨床・基礎研究の両方面において,わが国のパイオニア,そしてオピニオン・リーダーとして数々の業績を蓄積してこられた.また,あまたの人材を輩出してこられ,脊髄・脊椎分野での聖地となっている誠に優れた教室である.

—編:久留 聡—筋疾患の骨格筋画像アトラス

著者: 青木正志

ページ範囲:P.1159 - P.1159

各疾患の画像的特徴をまとめた本邦初の筋画像アトラス
 筋疾患はどれも頻度が低い希少疾患に分類されます.しかしながら時々臨床現場で遭遇し,すぐに診断して治療を改善することで,治療効果が期待できる多発筋炎などの炎症性筋疾患と遺伝性筋疾患を見分けることはとても重要です.
 私たち脳神経内科医はまず,患者さんから詳しく病歴を聞き,神経診察を行います.筋疾患では全身の筋の筋力を徒手筋力テストなどで確認し,それと同時に筋萎縮の有無を確認していきます.最も重要なのは近位筋優位か遠位筋優位かですが,どこの筋が萎縮しているかの「罹患筋分布」を確認するだけで例えば筋緊張性ジストロフィーや封入体筋炎はすぐに診断ができるようになります.この罹患筋分布の確認に筋CTあるいはMRIを用いることは,有力な手段となります.このテキストはその標準撮像法(ルチン撮像法)の読影の仕方から始まっています.カラーでそれぞれの筋を示した模式図はとてもわかりやすいです.

—原著:Suzette M. LaRoche,Hiba Arif Haider 訳:吉野 相英—脳波で診る救命救急—意識障害を読み解くための脳波ガイドブック

著者: 松本理器

ページ範囲:P.1164 - P.1164

ER/ICUでの持続脳波モニタリングのバイブルとしてお薦めします
 近年ICUでの脳波モニタリングにより,集中治療期患者の転帰が改善するなどの報告がなされ,持続脳波モニタリングをはじめとした神経集中治療は欧米で注目されています.それに伴い,本邦でもICUにおける脳波モニタリングの重要性が少しずつ認知されるようになってきています.ただ,本邦ではこれらICUにおける脳波所見の判読やそれに対する治療アプローチなどに関して,包括的な日本語の教科書はいまだない状況でした.
 そのような状況の中で登場した本書は,英語の教科書として有名であった『Handbook of ICU EEG Monitoring』第2版の待望の日本語訳です.本書は,日本で集中治療や急性期疾患の治療に携わる脳神経内科医,脳神経外科医,集中治療医だけでなく,生理検査技師や看護師などのコメディカルの方々にも有用で,集中治療期患者の脳波所見や治療のみならず,脳波測定の方法やモニタリングユニットにおけるメディカルスタッフを含めた脳波測定の運用の仕方まで含めた包括的な情報を提供しています.

--------------------

目次

ページ範囲:P.952 - P.953

欧文目次

ページ範囲:P.954 - P.955

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1165 - P.1165

次号予告

ページ範囲:P.1166 - P.1166

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?