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総説
産学連携における最新の動向
著者: 中川敦寛1234 原田成美17 大田千晴18 志賀卓弥1 角南沙己4 新妻邦泰9 遠藤英徳3 張替秀郎10 冨永悌二11
所属機関: 1東北大学病院産学連携室 2東北大学病院臨床研究推進センターバイオデザイン部門 3東北大学大学院医学系研究科神経外科学分野 4東北大学病院未来医療人材育成寄附部門 5 6 7東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野 8東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野 9東北大学大学院医工学研究科神経外科先端治療開発学分野 10東北大学病院 11東北大学
ページ範囲:P.213 - P.225
文献購入ページに移動産学連携の「産」とは,民間企業やNPO(Non-Profit Organization)など広い意味での商業的活動をする集団をいい,研究開発を経済活動に直接結びつけていく役割を果たす.「学」とは,大学,高等専門学校などのアカデミックな活動集団をいい,新しい知の創造や優れた人材の養成・輩出,知的資産の継承という役割を担う.すなわち,産学連携とは産学が連携し,新技術の研究開発,新事業の創出,新しい知の創造を行い,連携活動を通じて人材教育や時に経営に変化をもたらすことである1).
米国では,1980年に連邦政府の資金提供を受けて行われた研究開発の成果物としての発明であっても,その権利を大学などに帰属させることを可能とした「1980年特許商標法修正法」(バイ・ドール法[Bayh-Dole Act])により,技術移転機関の設置も進み,産学連携が活発化した2).これに対して,わが国では,1960年代の大学紛争などさまざまな要因もあり,産学連携が欧米に比べて遅れをとっている状況であった.1990年代に入り,欧米の強力な特許保護政策によってわが国の経済が次第に力を失い,産学官連携と知的財産の活用による経済振興政策を国策とする必然性が生じた.結果,国策として「科学技術基本法」,「大学等技術移転促進法(TLO法)」,「日本版バイ・ドール法(産業活力再生特別措置法第30条)」などの法律の制定,公的資金の学への投入,また,研究成果の社会還元が大学の使命の1つとして明記されたことなどにより,産学連携の活性化に向けて動き出した(Table 1).
その一方で,産学にはそれぞれ克服すべき課題も多い.アカデミアでは,研究成果は基礎研究や学術的な研究段階のものが多く,領域も多岐にわたることから,事業化までに相当の期間,研究開発費を要することが多い.これを乗り越えるべく,パートナーシップ,資本を含めてさまざまな試行錯誤がなされているのが実情である.また,産業側では,テクノロジーが日進月歩に進化し,価値も多様化するなか,成功確率の低下,研究開発費の高騰も相まって,一企業ではすべてを網羅することが困難となった.
こうした問題を解決するため,創薬・医療機器企業は自社による基礎研究を自社の得意分野に絞り,スタートアップや学のシーズを導入して開発を行う,オープンイノベーションの方向に舵を切り,できる限り資源を開発後期の臨床試験に集中投資させるのが潮流となっている.こうした背景から,新規医療技術の創出に関してアカデミアの役割は非常に大きなものとなっており,わが国が有する高い潜在的能力を生かして,シーズを育成し,実用化に結びつけ,産業としての成果を十分に発揮することが求められる.そのため,産官学が一体となり文部科学省によって実施された「橋渡し研究支援推進プログラム」(平成19年[2007]度),「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」(平成24[2012]年度),「橋渡し研究戦略的推進プログラム」(平成29[2017]年度)など,橋渡し研究を推進する取り組みをはじめ,さまざまな取り組みがなされてきた3, 4).わが国ではバイオベンチャーを介したエコシステムの構築がまだ途上であると理解されるが,これら政策や事業の成果により,大学を起源とする研究成果を企業へと導出するという事例も認められつつある.オープンイノベーションの環境についても徐々に構築されてきてはいるものの,今後さらにこの流れを加速させていくことが重要である.
本稿では,産学連携のアウトプットである,新技術の研究開発,新事業の創出,新しい知の創造,優れた人材の養成・輩出,経営について,世界の代表的な医療機関の事例を紹介する.さらに,イノベーションプロセスを,①課題を探索し定義付けるニーズ探索フェーズ,②コンセプト創出,プロトタイプのテストを含めた開発フェーズ,③事業化やその後のスケーリングまで含めた実装フェーズに分け,それらを推進するためのインフラ,人材,ノウハウ,オープンイノベーション,パートナーシップ,資本,教育の観点2, 5)から考察する.産業と合理的かつ適切な形で連携することで,医療機関を診断,治療の場から課題解決に向けた共創(コクリエーション)の場とすることにより医療機関の新たなビジネスモデルの構築を目指す,東北大学病院の取り組みについても言及する.
参考文献
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