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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科52巻4号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 髄膜腫の現在—最新の知識を活かした最善の治療のために

Editorial

著者: 大宅宗一

ページ範囲:P.673 - P.673

 髄膜腫は,その多くが組織学的には良性であり緩徐に増大する腫瘍であるが,治療対象としてみると実に多様性に富む疾患である.第一に,経過観察が適切なものから非常にリスクが高く手術不可能なもの,そしてリスクがあっても摘出が望ましいものまで存在し,治療すべきかどうかの判断に悩むことも多い.また,発生部位によって症状や治療リスクが大きく異なり,近年は部位の違いが腫瘍細胞の増殖能に関連することもわかっている.こうした発生部位の違いは多種多様な手術法にも関連しており,脳神経外科医には多くの手術アプローチに精通することが要求される.そして,摘出後の挙動もまちまちである.残存した腫瘍が何十年も変化しないこともあれば,再発を繰り返し最終的に頭蓋内播種や体腔への転移を来すことすらある.再治療を要する過程で,麻痺が生じ,言葉が出にくくなり,高次脳機能が低下し,論文内の単なる“無再発期間”では語れないさまざまな負担が患者を苦しめる.
 手術技術の標準化や手術成績の均てん化が叫ばれる現代である.しかし,あえて誤解を恐れずに私見を述べれば,髄膜腫は術者間・施設間に治療成績の差が依然として残る領域の1つではないだろうか.そのような中で,腫瘍としての生物学的特性の理解の促進,新規手術関連デバイスへの習熟,そして発展著しい血管内治療や放射線治療の併用などにより,髄膜腫の多様性の多くが克服されつつあり,全体の治療成績は確実に向上しているとも感じている.

Ⅰ 病理

髄膜腫の病理診断と遺伝子異常

著者: 湯澤明夏

ページ範囲:P.674 - P.683

Point
・髄膜腫は多彩な組織像を示すため,発生部位や境界,造影効果,浮腫の有無などの臨床画像情報や既往歴が病理診断の上でも重要である.
・髄膜腫の病理診断にも遺伝子情報が必要になり,gradeに寄与しないものの予後と相関する遺伝子異常も複数報告されている.
・一部の遺伝子異常の検出方法として免疫組織化学が有用であるが,今後の遺伝子解析を見据えた適切なホルマリン固定が重要である.

Ⅱ 髄膜腫の疫学・自然歴・画像診断

髄膜腫の疫学と自然歴・増大リスク

著者: 山田修平 ,   木嶋教行 ,   貴島晴彦

ページ範囲:P.684 - P.698

Point
・髄膜腫は最も頻度が高い原発性脳腫瘍であり,近年無症候性病変の指摘が増加しているため,治療マネジメントの重要性が増している.
・多くの無症候性病変に対しては慎重な経過観察が第一選択であるが,増大しやすい髄膜腫の特徴を把握することが必要である.
・増大速度や増大パターンなどを確認し,治療介入のタイミングや必要性を考慮することが重要である.

髄膜腫の自然経過の画像予測

著者: 出口彰一 ,   三矢幸一 ,   齋藤竜太

ページ範囲:P.699 - P.704

Point
・近年,無症候性髄膜腫の成長型の分類が確立されてきた.
・髄膜腫の腫瘍増大を予測する画像所見がわかってきた.
・髄膜腫の腫瘍増大の停止を予測する画像所見がわかってきた.

髄膜腫の注意すべきmimickersと鑑別

著者: 千葉英美子 ,   藤井裕之 ,   森墾

ページ範囲:P.705 - P.717

Point
・髄膜腫は日常遭遇する頻度の高い腫瘍であるが,多種多彩な画像所見を呈するため,他の疾患との鑑別を要することがある.
・腫瘤性病変の鑑別としては,神経鞘腫,孤立性線維性腫瘍,硬膜転移,組織球症などがある.
・硬膜肥厚を呈する病態の鑑別としては,肥厚性硬膜炎(特発性,ANCA関連疾患など),真菌感染,IgG4関連疾患などがある.

Ⅲ 髄膜腫の遺伝子・分子異常解析と予後予測

髄膜腫の遺伝子・分子異常解析と予後予測のいま

著者: 岡野淳

ページ範囲:P.718 - P.724

Point
・髄膜腫の発生に関わる遺伝子変異,メチル化ステータスなどの研究が進んできた.
・分子生物学的知見を利用した統合分類は従来のWHO gradingよりも予後の予測が正確である.
・今後,分子標的治療薬への応用や,放射線感受性マーカーの開発などが期待される.

Ⅳ 髄膜腫—部位別の手術法

円蓋部・傍矢状洞部・大脳鎌髄膜腫

著者: 松田真秀

ページ範囲:P.726 - P.735

Point
・円蓋部・傍矢状洞部・大脳鎌髄膜腫の摘出において,必要とされる基本的手術手技や手術戦略は共通している.
・内減圧によって生じたスペースに集めるように腫瘍を牽引することで,周囲脳を牽引することなく腫瘍を剝離することが可能となる.
・術後の静脈灌流障害を避けるために,皮質静脈や架橋静脈の温存に留意した手術を心掛ける必要がある.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

傍鞍部髄膜腫

著者: 花北俊哉

ページ範囲:P.736 - P.748

Point
・傍鞍部髄膜腫は,視機能低下を主訴に指摘されることが多い.無症候性の症例に対する予防的切除の適応は,症例ごとに慎重な検討が必要である.
・硬膜内操作を開始する前に皮弁,側頭筋などの軟部組織の移動,頭蓋底骨削を行い,腫瘍への栄養動脈遮断と腫瘍摘出スペースを生み出す.
・脳ベラをうまく用いてスペースを生み出し,両手操作が行えると,細血管剝離や深部での止血操作が安全に遂行しやすくなる.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

小脳橋角部・錐体斜台部髄膜腫に対する手術アプローチ

著者: 森迫拓貴 ,   後藤剛夫

ページ範囲:P.749 - P.761

Point
・小脳橋角部や錐体斜台部に位置する髄膜腫の外科切除では,脳損傷,神経血管障害,脳幹損傷などを回避しながら摘出度を向上させることが求められる.
・手術到達法は最小前後合併経錐体到達法,前経錐体到達法,外側後頭下到達法などが挙げられるが,おのおのの利点や欠点を理解することは重要である.
・合併症回避のためのアプローチ選択,各アプローチにおける解剖や手術手技について実際の症例を中心に提示し解説する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

頭蓋底正中部髄膜腫—経鼻内視鏡手術の視点から

著者: 長谷川洋敬

ページ範囲:P.762 - P.771

Point
・経鼻内視鏡手術は頭蓋底正中部髄膜腫に対する低侵襲かつ効果的な到達法である.
・頭蓋底正中部髄膜腫に対する経鼻内視鏡手術では,開頭手術に比して神経損傷のリスクを低減し得る.
・内視鏡手術に不慣れな術者ではリスクも伴うため,習熟度や到達限界を理解し手術法を選択する.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

頚静脈孔・大孔部髄膜腫

著者: 渡邉健太郎

ページ範囲:P.772 - P.781

Point
・髄膜腫の発生部位,血管支配と各種手術アプローチの方法を考え,適切なアプローチを選択する.
・静脈洞が存在する後頭蓋窩の手術は,狭い術野で安全に手術を遂行するための解剖学的知識,術前準備が重要である.
・合併症回避のための各ステップにおけるtipsを学ぶ.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

Ⅴ 髄膜腫に対する集学的治療

髄膜腫に対する放射線治療の位置付け

著者: 川端信司 ,   柏木秀基 ,   野々口直助 ,   古瀬元雅 ,   髙見俊宏 ,   宮武伸一 ,   鰐渕昌彦

ページ範囲:P.782 - P.793

Point
・髄膜腫の再発リスクに関する層別化が進められ,髄膜腫においても分子診断が重要な役割を果たすようになってきた.
・放射線治療の役割は層別化に応じてより明確になっていくが,髄膜腫における放射線治療の臨床的な位置付けは未だ不明確である.
・放射線照射の標的領域の設定は治療成績を左右し得るが,PET画像などの腫瘍特性を反映した照射計画が試みられている.
・ホウ素中性子捕捉療法は生物学的に細胞レベルで治療ができることから,髄膜腫においても効果が期待されている.

髄膜腫に対する血管内腫瘍塞栓術

著者: 五月女悠太 ,   杉生憲志 ,   平松匡文 ,   春間純 ,   胡谷侑貴 ,   木村颯 ,   枝木久典 ,   川上真人 ,   藤田淳太郎 ,   田中將太

ページ範囲:P.794 - P.804

Point
・大型や頭蓋底部髄膜腫に対する術前塞栓術は,開頭術の補助的手術として有用である.
・開頭術者と十分な術前検討を行った上で,戦略的な塞栓術を行うことが肝要である.
・目的に応じた塞栓物質を選択し,合併症を起こさない塞栓術を心掛ける.

3次元画像を用いた髄膜腫摘出術の手術シミュレーション

著者: 吉野正紀

ページ範囲:P.805 - P.813

Point
・髄膜腫手術における基本は4D(detachment,devascularization,debulking,dissection)である.
・4Dを検討する上で,3次元画像を用いたシミュレーションは有用である.
・ただし,元画像で描出できないものは3次元画像上でも描出はできないことを忘れてはならない.
*本論文中、[Video]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月まで)。

Ⅵ 最近話題の髄膜腫の未解決問題

再発髄膜腫に対する再摘出術の意義とピットフォール

著者: 江口盛一郎

ページ範囲:P.815 - P.824

Point
・再発しやすい髄膜腫の分子遺伝学的背景が明らかになってきている.
・再発髄膜腫に対する再摘出術の意義は,① 腫瘍制御,② 腫瘍の病理診断,分子遺伝学的情報の取得である.
・再発を繰り返す高悪性度髄膜腫では,手術の目的を患者,家族と共有しておく.
・再摘出術では,癒着にいかに対処するかが鍵となる.

髄膜腫に対する薬物療法

著者: 田村亮太

ページ範囲:P.825 - P.838

Point
・髄膜腫に対する包括的遺伝子解析や微小環境解析の結果,さまざまな分子標的薬や免疫療法の可能性が報告されている.
・未だ顕著な治療効果を示す薬物療法は認めないため,各種併用療法や遺伝子解析に基づく個別化医療の発展が望まれる.
・ウイルス療法や遺伝子療法などの新たな治療戦略の開発にも期待したい.

放射線治療が悪性転化を惹起するか

著者: 中洲敏

ページ範囲:P.839 - P.845

Point
・良性髄膜腫の悪性化は2.98/1,000 patient-yearsで起こり,頭蓋底腫瘍では頻度が低い.
・定位放射線治療後の悪性化はそれより低いが,母集団構成が異なっており比較できない.
・放射線治療に伴う二次癌や腫瘍悪性化率は,遺伝性腫瘍疾患では個別に考慮する必要がある.

髄膜腫摘出術前塞栓術の腫瘍再発抑制効果

著者: 秋本大輔 ,   中居康展

ページ範囲:P.846 - P.850

Point
・髄膜腫に対する腫瘍塞栓術は主に術中出血量の低減目的で行われるが,長期的にみると再発を抑制する効果も有している可能性がある.

髄膜腫の臨床研究における課題

著者: 渡邉真哉

ページ範囲:P.851 - P.858

Point
・髄膜腫の臨床研究では,治療に対する有効性評価に他のがん研究領域で用いられるような標準的な基準がないことが解決されるべき課題である.
・2014年に手術および放射線治療抵抗性髄膜腫における有効性評価に関するレビューが報告され,2019年に髄膜腫の臨床試験における奏効評価とエンドポイントの提案が提唱されている.
・近年の髄膜腫の第Ⅱ相臨床試験における有効性エンドポイントの分析では,無増悪生存率,奏効割合,無増悪生存期間,全生存期間の順で設定されていた.

髄膜腫被膜摘出の必要性

著者: 菅原貴志

ページ範囲:P.859 - P.864

Point
・髄膜腫周囲の厚い結合組織として認識できる膜様組織(被膜)には,腫瘍細胞浸潤を認めることが多い.
・腫瘍周囲のくも膜の肥厚と区別がつきにくい膜様組織には,腫瘍細胞浸潤を認めることがあり,再発の可能性は否定できないが,再発の頻度は高くはない.
・被膜摘出は脳損傷のリスクと再発のリスクを検討し,方針を決める.

総説

アカデミック脳神経外科医の育成

著者: 堀江信貴

ページ範囲:P.867 - P.875

Ⅰ はじめに
 トランスレーショナルリサーチの概念は,21世紀初頭に国際的な研究トレンドとして導入された.本邦の医学研究においても研究成果を臨床現場に迅速に適用することの重要性が認識されるようになり,2000年代当初より日本政府や学術機関は,トランスレーショナルリサーチの推進に力を入れ始め,科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency:JST)や厚生労働省などの公的機関が基礎研究から臨床応用までのプロセスをサポートするプログラムや資金提供を開始した.また,多くの大学や研究所ではトランスレーショナルリサーチセンターやプログラムが設立され,基礎科学者と臨床医との間の協力を促進する体制が整えられた.これらの整備により,本邦においても新しい治療法や診断法の開発が加速したと言える.国際的な研究連携も重要な要素であり,本邦の研究者は世界中の研究機関や企業との共同研究を通じて,グローバルな研究ネットワークを構築することが推進されている.このような公的機関の取り組みによりゲノム編集技術やiPS(induced pluripotent stem)細胞(人工多能性幹細胞)などの革新的な技術を活用したトランスレーショナルリサーチが活発に行われていることは周知のとおりであり,個別化医療や再生医療など,次世代の医療を牽引する分野での応用が期待されている.
 一方で,本邦における学術的競争力が世界的に低下していることは大きな懸念事項である(Fig. 1)1).Nature誌でも“Numbers of young scientists declining in Japan”という記事を載せており,特に中小研究施設における基礎研究への研究資金拡充の必要性を述べている2).脳神経外科領域においてもこのトレンドは顕著であり,海外のそれとは大きく異なる本邦の脳神経外科医の研修システム,業務内容についての特異性が影響しているものと考えられる.特に大学病院などアカデミックセンターの医師は,診療だけでなく明日の医療を開発するための研究や次代を担う医師・医療従事者を育成するための教育をその役割として担っている.現在進行形の医師の働き方改革による診療を主対象とする労働時間の削減によって,結果的に研究や教育を行う余裕が減り,本邦の医学研究・医学教育の質が低下することは避けねばならない.脳神経外科の父と言われているHarvey Cushing(1869〜1939年)はacademic surgeonについて7原則(Table 1)を示しているが,その内容は現在においても異論を唱える者は少ないと思われる.すなわち,生体の内部,疾患の患部を直接観察でき,自分のスキルにより病変を治療できるのは外科医のみの特権であり,それ故に自分のスキルの向上は言うまでもなく,その上にアカデミズムを重ねることで,より高次元の外科医になれると言える.
 本稿では,臨床医におけるアカデミズムの意義について,特に本邦における脳神経外科医の現状を踏まえ,今後の課題につき概説する.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第12回 原著論文の書き方⑤

著者: 森下登史

ページ範囲:P.876 - P.879

原著論文を実際に執筆してみよう
 前回はケースシリーズの書き方の基本的な流れについて説明しました.ケースシリーズの書き方はどの臨床原著論文においても骨組みとなる大切な部分ですから,しっかりと身につけましょう.今回はもう少し原著論文の着想部分と,質を上げるための工夫について説明します.

書評

—監修:日本神経学会 編:「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会—多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023

著者: 楠進

ページ範囲:P.866 - P.866

最新知見を網羅したMS・NMOSD診療のバイブル
 多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経障害を引き起こす代表的な自己免疫疾患であるが,その疾患概念は21世紀に入って大きく変化した.従来はMSの1つのサブタイプと考えられていた視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)が,NMO-IgGすなわちアクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)抗体が見いだされたことにより病態の異なる疾患と考えられるようになり,さらにAQP4抗体陽性症例の臨床像が多様であることから視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)という疾患概念が生まれた.また,中枢神経のミエリンを構成するミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)に対する自己抗体の関連する疾患として,MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease:MOGAD)も類縁する疾患として確立されてきた.これらの中枢神経の炎症性疾患に対する治療も,従来のステロイド,血漿交換,免疫グロブリン製剤や免疫抑制薬に加えて各種の分子標的薬が導入されるようになっている.本書はこうしたMS,NMOSD,MOGADの最新情報を中心とし,それに加えて急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)やバロー同心円硬化症(Baló concentric sclerosis:BCS)も対象として,日本神経学会が主体となって作成された診療ガイドラインであり,『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』の改訂版である.前の版の出版からこれまでの間に多くの進歩がみられたが,特に新規治療薬の導入は数多く,知識の整理が必要であり,今回の改訂はまさに時宜を得たものといえよう.
 本書は3つの章から成り立っている.第Ⅰ章は,中枢神経系炎症性脱髄疾患診療における基本情報であり,それぞれの疾患の概要から診断,治療について詳細に記載されている.この第Ⅰ章を通読するだけで,稀少疾患であるMS,NMOSD,MOGAD,ADEM,BCSについて,要領よく理解することができるであろう.また免疫性神経疾患の治療薬について,まとまった知識を得るにも最適の教材と考えられる.第Ⅰ章の最後には,医療経済学的側面および社会資源の活用として,診療において重要な検査や治療の保険適用,法律や制度,療養や就労の支援などについて述べられていて,日常診療に役立つ内容となっている.

—監修:濱 敏弘 編:青山 剛,池末 裕明,内田 まやこ,佐藤 淳也,高田 慎也,土屋 雅美—がん化学療法レジメン管理マニュアル 第4版

著者: 佐藤温

ページ範囲:P.880 - P.880

相性抜群の『がん診療レジデントマニュアル』との併用がお勧め
 第3版発刊より3年半を経て,『がん化学療法レジメン管理マニュアル』が第4版として発刊された.「がん化学療法で役立つ情報を凝縮したマニュアル(相棒)」が売り文句の本書は,がんエキスパートの薬剤師らが,がん化学療法に携わる薬剤師のために作成したマニュアルなのだが,この書評を書いているのは,腫瘍内科医師であるということにまず気が付いてほしい.薬剤師はもちろんのこと,がん化学療法に携わる全ての医療者にとって,実に便利かつ完成度の高いマニュアル(相棒)である.掲載されているレジメンは111本と増え,それぞれに支持療法を含む投与スケジュール,投与の注意点,減量・中止基準,副作用の発現率,発現時期,その評価観察と対策などのポイント,さらに薬剤調製,監査の他,ケアに関することまで,がん化学療法に必要なほぼ全ての情報が簡潔にわかりやすくまとめられている.
 お勧めの使い方は,仕事場の目につく所に,同じ医学書院から発刊されている『がん診療レジデントマニュアル 第9版』と一緒に並べておくことである.『レジデントマニュアル』で疾患の概要とエビデンスに基づいた治療方針を確認する.そして,化学療法が選択された場合は,引き続き本書で実際の投与スケジュール,副作用管理の方法などを確認できる.これは非常に便利である.両書籍ともに同じサイズで不必要に場所をとらず,類似のデザイン同じ紙質とビジュアル的にも映える.これ以上相性の良い本もないだろうと思う.もちろん,当科の病棟の電子カルテ端末の上および外来診察室にも2冊ずつ並んで置かれている.外来では各診察室に置くようにしてはいるものの,時々定位置から持ち去るやからがいるので,見栄えは悪いけれど,油性マジックで診察室の名称を表紙に書いている.これもお勧めである.本来であれば,白衣のポケットに入れていつでもどこでも使えるようにすべきなのだろうが,惜しむらくは,ポケット版にしては常にポケットに入れて持ち運ぶには少し重いし,厚みがかさばる.だからこそ,私的には,仕事場の複数箇所に置いておくことでうまく活用できている.

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目次

ページ範囲:P.668 - P.669

欧文目次

ページ範囲:P.670 - P.671

ご案内 動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.671 - P.671

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.881 - P.881

次号予告

ページ範囲:P.882 - P.882

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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