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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科52巻6号

2024年11月発行

雑誌目次

特集 脳神経外科医が知っておくべき生活習慣病の最新治療

Editorial フリーアクセス

著者: 間瀬光人

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 生活習慣病(食事や運動,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣が深く関与し,それらが発症の要因となる疾患の総称)は,脳血管疾患の危険因子であるのみならず,脳神経外科の診療においても常に対応しなければならない疾患です.具体的には高血圧,2型糖尿病,脂質異常症,高尿酸血症,肥満などですが,これらの疾患の治療の進歩は目覚ましく,常に知識をアップデートすることは,脳神経外科の日常診療においても極めて重要と考えます.
 そこで本特集では,生活習慣病についての最新の知見や治療について,それぞれのご専門の先生方にご解説をお願いし,脳神経外科医が知っておくべき,あるいは日常診療で行うべきという視点でまとめました.

Ⅰ 総論

—座談会—脳神経外科で扱う生活習慣病

著者: 西原哲浩 ,   間瀬光人 ,   木村和美 ,   中根一

ページ範囲:P.1107 - P.1112

 生活習慣病は認知症や脳卒中の危険因子であるため,脳神経外科医として押さえておくべきポイントは多岐にわたると言えます.本座談会では,脳神経外科で生活習慣病を有する患者を診る際に留意すべき点,マネジメントのポイント,専門科へコンサルトする際の判断基準,さらに今後の脳神経外科医に求められることなどについて,エキスパートの先生方にお話しいただきました.(2024年9月11日収録)

認知症と生活習慣病の関係

著者: 嶋﨑亮介 ,   栗原正典 ,   岩田淳

ページ範囲:P.1113 - P.1122

Point
・生活習慣病は認知症の発症に関与しており,特に中年期からの予防やコントロールが重要である.
・一部の降圧薬(ジヒドロピリジン系カルシウムチャネルブロッカー,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬など)や,血糖降下薬(グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬,ナトリウム/グルコース共輸送体2阻害薬など),スタチンは認知症の発症を抑制する可能性がある.
・社会全体として早期から認知症の発症抑制も意識した生活習慣病の管理を行うことが重要である.

脳卒中と生活習慣病の関係

著者: 沓名章仁 ,   木村和美

ページ範囲:P.1123 - P.1134

Point
・生活習慣病と脳卒中の発症には関連があり,特に高血圧,糖尿病,脂質異常症と脳卒中発症との関連は大きい.
・時代背景の変化とともに生活習慣も変化しており,糖尿病,脂質異常症,肥満・メタボリックシンドロームは増加傾向にある.
・生活習慣病の早期診断・早期治療・指導により,脳卒中発症リスクを大幅に低減することができる.

Ⅱ 主な生活習慣病の最新治療

高血圧

著者: 北川一夫

ページ範囲:P.1136 - P.1143

Point
・高血圧は,脳梗塞,脳出血両者の危険因子である.
・高血圧性脳血管病変は,白質病変,ラクナ梗塞を代表とする脳小血管病に反映される.
・高血圧に対する降圧療法は脳卒中発症,再発予防に有効だが,特に厳格な降圧療法は脳出血予防に有用である.

2型糖尿病の薬物療法

著者: 大塚英明 ,   長峯朋子 ,   岩部真人

ページ範囲:P.1144 - P.1154

Point
・糖尿病治療の目標は合併症の発症,増悪を防ぎ,糖尿病がない人と変わらない寿命とQOLの確保であり,そのなかで血管障害の発症・進展の抑制は重要である.
・合併症予防のための目標HbA1c値は7%未満だが,年齢や罹病期間,低血糖の危険性,臓器障害,サポート体制など,患者の病態や社会的背景などを考慮した個別の設定が望ましい.
・患者の糖尿病の病態,および糖尿病薬の最新の知見を基に,患者一人ひとりに合わせた治療の選択が重要である.

脂質異常症に対する診断・治療の進め方

著者: 横田千晶

ページ範囲:P.1155 - P.1166

Point
・脂質異常症の治療の原則は,一次予防としてまず生活習慣の改善,次に薬物療法を考慮し,二次予防として生活習慣の是正とともに薬物療法を考慮する.
・急性冠症候群,糖尿病,アテローム血栓性脳梗塞を合併する二次予防では,LDLコレステロール < 70mg/dLが目標となる.
・未治療時LDLコレステロール ≧ 180mg/dL,黄色腫,早期性冠動脈疾患の家族歴は家族性高コレステロール血症を疑い,専門医に紹介する.
・原疾患合併による続発性脂質異常症を疑う場合は,原疾患治療を優先し,内科医(専門医)に紹介する.

高尿酸血症

著者: 久留一郎

ページ範囲:P.1167 - P.1178

Point
・高尿酸血症は,痛風のみならず臓器障害を合併するために,尿酸代謝異常症という病態として捉える.
・脳疾患は尿酸値と臓器障害との関連から,痛風型,神経変性型,慢性腎臓病・心血管疾患型に分類される.
・高尿酸血症の治療は,病型分類に従って適切な尿酸降下薬を選択し,至適な血清尿酸値レベルにコントロールする.

肥満・メタボリックシンドローム・脂肪肝

著者: 阪口雅司 ,   窪田直人

ページ範囲:P.1179 - P.1186

Point
・日本における肥満症は,BMI 25以上の患者に特定の健康障害を伴う場合に診断され,メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積と複数の代謝異常を併せ持つ状態を指す.
・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や新たに提唱されたMASLDは,肝臓に脂肪が蓄積し,代謝異常と強く関連しており,心血管疾患や肝癌のリスクを高める.

不整脈

著者: 草野研吾

ページ範囲:P.1187 - P.1196

Point
・超高齢社会を迎え,心房細動患者が増加しており,適切な抗凝固療法による脳塞栓予防と薬物・非薬物治療によるリズムコントロール,レートコントロールの選択が重要になってきている.
・従来,症状を取り除くために開発された心房細動に対する非薬物治療(カテーテルアブレーション)が,生命予後を改善することが明らかとなった.
・カテーテルアブレーション法の進化が著しく,従来の高周波からバルーンを用いたもの,さらに合併症発生が極めて少ないPFA(pulsed field ablation)が登場してくる予定であり,大変期待されている.

心不全に関する最近の話題

著者: 瀬尾由広

ページ範囲:P.1197 - P.1205

Point
・本邦では超高齢社会の進行に伴い心不全患者が急増し,心不全パンデミックが現実化している.
・心不全は生命予後に深刻な影響を及ぼすため,早期診断,病期ステージ分類に基づき,日々進歩する治療法の導入が重要である.
・心不全の治療には,循環器専門医を中心とした多職種チームによるアプローチと,地域医療機関との連携が不可欠である.

慢性腎臓病関連の最新の研究と治療

著者: 山下純平 ,   田中真司 ,   稲城玲子

ページ範囲:P.1206 - P.1214

Point
・多くの慢性腎臓病特異的因子と非特異的因子が相互に作用し,慢性腎臓病患者における大脳の構造的および機能的変化に寄与している.
・逆に神経から腎への影響として,迷走神経刺激が急性腎障害の軽減につながることがわかってきている.
・近年登場した新規薬剤としては,慢性腎臓病に対してSGLT2(sodium/glucose cotransporter 2)阻害薬が,2型糖尿病を合併する慢性腎臓病に対してミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンが,腎性貧血に対して低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素阻害薬がそれぞれ適応となった.

Ⅲ その他の生活習慣病と周辺疾患の基礎知識

アルコール性肝障害をめぐる最近の話題

著者: 嘉数英二 ,   考藤達哉

ページ範囲:P.1215 - P.1223

Point
・本邦における肝硬変の成因割合でアルコール性肝硬変が第1位となった.
・代謝異常に着目した新しい脂肪性肝疾患の診断基準である代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)が提唱され,そのなかにアルコール性肝障害も加えられた.

脳神経外科診療で遭遇する慢性呼吸器疾患

著者: 柳生洋行 ,   原悠 ,   金子猛

ページ範囲:P.1224 - P.1233

Point
・本邦は超高齢社会を迎えており,慢性呼吸器疾患は増加傾向にあり,日常診療で遭遇する機会が増えてきている.
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)と気管支喘息はcommon diseaseであり,成人の2割近くがいずれかの疾患に罹患している可能性があり,周術期合併症を減らすためにも両疾患の病態の理解と適切なマネジメントが必要である.
・本稿では,COPDと気管支喘息の病態や治療,周術期に注意すべき事項について解説する.

歯科疾患(齲蝕・歯周病)と生活習慣病,脳血管障害への影響

著者: 殿村修一 ,   猪原匡史

ページ範囲:P.1234 - P.1241

Point
・齲蝕・歯周病は,細菌感染症としてだけではなく,生活習慣病としての側面を有する.
・歯科疾患(齲蝕・歯周病)と生活習慣病との間で「負のサイクル」が形成される.
・齲蝕・歯周病は,それぞれ特異的に脳血管障害と関連する.
・歯科疾患による脳血管障害齲蝕原性菌・歯周病菌を含む口内細菌フローラに着目し概説する.

骨粗鬆症

著者: 齋藤琢

ページ範囲:P.1242 - P.1249

Point
・骨粗鬆症は,運動量の低下や薬剤など,さまざまな要因で引き起こされる.
・骨粗鬆症治療開始は,骨密度や骨折の既往によって判断する.
・効果の高い治療薬が充実しており,適切な評価と治療介入によって骨折のリスクを軽減することができる.

脳卒中・循環器疾患とサルコペニア・フレイル

著者: 渡邉輝 ,   直井為任 ,   田中亮太

ページ範囲:P.1250 - P.1258

Point
・高齢者におけるサルコペニアやフレイルは,脳卒中や循環器疾患などの急性期疾患を含むあらゆる疾患の予後に影響する.
・サルコペニアやフレイルの正しい病態の理解と,早期の評価と適切な支援・対策が脳卒中・循環器疾患の予後改善に重要である.

睡眠障害

著者: 鈴木圭輔 ,   樋田良太郎 ,   森戸紀昌

ページ範囲:P.1259 - P.1270

Point
・睡眠障害には不眠症,睡眠時無呼吸症候群,レム睡眠行動障害,ナルコレプシーなどがある.
・脳血管障害に睡眠障害が併存することは少なくない.
・不眠の訴えがみられた場合,睡眠薬を投与する前にさまざまな睡眠障害の鑑別を試みることが重要である.

胃食道逆流症と機能性ディスペプシア

著者: 星川吉正 ,   岩切勝彦

ページ範囲:P.1271 - P.1276

Point
・胃食道逆流症は,文献や人によって定義が異なる.難治性の場合は,専門施設での精査が望ましい.
・機能性ディスペプシアには多数の病態が関わっている.初期治療に抵抗性の場合,治療に難渋することが多い.
・これらの疾患は,悪性腫瘍などの器質的疾患がないと判断してから,診断されるべきである.

総説

脳卒中後てんかんと脳血管性認知症

著者: 田中智貴 ,   猪原匡史

ページ範囲:P.1279 - P.1290

Ⅰ はじめに
 近年,脳神経外科治療,血栓溶解療法や脳血管内治療の飛躍的な発展により,脳卒中死亡率は劇的に改善してきている.一方,超高齢化社会,食生活の欧米化に伴い,脳卒中の罹患者は依然として多く,脳卒中生存者の後遺症,合併症の負担の軽減は重要な課題となっている1).脳卒中後てんかんは,後天的に発症するてんかんのなかで脳神経外科医が最も高頻度に遭遇するてんかんであり,脳卒中生存者の重要な合併症の1つである.近年の報告では,高齢者のてんかんの原因の約半数を占めるという報告もある2).また,血管性認知症(vascular dementia:VaD)も近年のアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)のアミロイドβ抗体療法と相まって,その病態の理解は脳神経領域では必須のものとなっている.
 本稿では,脳卒中後てんかん,VaDそれぞれにおける必須の知識について解説する.

医療デジタルトランスフォーメーション

著者: 黒田知宏

ページ範囲:P.1291 - P.1301

Ⅰ デジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か
 StoltermanとFors1)が,“Information Technology and the Good Life”の中で“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.”(情報技術が人間の生活のあらゆる側面に引き起こす,あるいは,影響を与えることでもたらされる変化)と極めて客観的に「定義」したとされるデジタルトランスフォーメーション(digital transformation:DX)という言葉は,経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」2)の中で,IDC Japan社3)の定義を引用する形で「企業が外部エコシステム(顧客,市場)の破壊的な変化に対応しつつ,内部エコシステム(組織,文化,従業員)の変革を牽引しながら,第3のプラットフォーム(クラウド,モビリティ,ビッグデータ/アナリティクス,ソーシャル技術)を利用して,新しい製品やサービス,新しいビジネス・モデルを通して,ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し,競争上の優位性を確立すること」である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」であると再定義され,わが国のさまざまな経済産業政策立案の軸足となっている.実際,経済産業省を中心にさまざまな施策が実施され,医療分野においても自由民主党から提案された「医療DX令和ビジョン2030」4)に基づいて,厚生労働省を中心に,医療DX推進政策が推し進められている.
 上記の経済産業省の定義は極めてわかりにくいが,StoltermanとForsの定義を顧みると,DXとは本質的にはデジタル(情報)技術を用いて社会や組織の有り様を変革すること,すなわち「情報革命」であると解釈できる.

連載 熱血! 論文執筆コーチング—中堅脳神経外科医が伝えたい大切なこと

第14回 総説の書き方②

著者: 森下登史

ページ範囲:P.1305 - P.1309

総説の質
 前回,ナラティブレビューを中心に説明しましたが,総説としての質は新規性(novelty)の有無に左右される部分が大きくなります.教科書は知識を読者と共有するためのものですので,そこに著者の意見は必ずしも必要ではありません.基本的に,執筆した文章を論文として出版するには著者としての主張が必要で,その主張をサポートするための論拠を示す必要があります.前回提示した表(Vol 52 No.5, Table 1参照)の中でも示しましたが,ナラティブレビュー論文では,網羅的に論文を引用しませんので,著者のバイアスが大きくなります.逆に,システマティックレビューでは網羅的に論文を引用するので,バイアスが小さくなるのが大きな特徴です.
 国内(日本語)のレビュー論文は依頼原稿であることが多いのですが,海外のジャーナルには驚くほどたくさんのシステマティックレビュー論文が投稿されており,その数は増加傾向にあります1).その背景には,基礎実験や臨床研究と異なり,検索データベースを用いれば論文執筆の材料を揃えることができるという手軽さがあります.そのため,海外には「お手軽に増やせる論文業績」と考える研究者や学生も多くいるようです.その点において,第一線で活躍する研究者によるナラティブレビューも存在価値が高く,どちらが優れている,というものではありません.

書評

—著:加藤 甲—『実践イラスト脳神経外科手術100』(電子版) フリーアクセス

著者: 野田公寿茂

ページ範囲:P.1303 - P.1303

1.内容概要
 『実践イラスト脳神経外科手術100』は,加藤甲先生が豊富な臨床経験を基に厳選した100症例を,詳細なイラストとともに紹介する一冊です.読み始めてすぐに,若い頃にぜひ手に取りたかったという思いが湧きました.Skillful neurosurgeonを目指す若い脳神経外科医にとって,非常に有益なリソースとなるでしょう.
 加藤先生は「地方の医科大学や関連病院の臨床最前線で奮闘した記録の一部」と謙遜されていますが,実際には「過酷な臨床の第一線で活躍し続けた脳神経外科医による最高峰の臨床記録」です.1979年に金沢医科大学に入局し,1996年に開業するまで,スケッチブック30冊,400症例分の記録が詰まっています.

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ページ範囲:P.1100 - P.1101

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ページ範囲:P.1102 - P.1103

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1312 - P.1312

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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