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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科6巻10号

1978年10月発行

雑誌目次

良将たる条件

著者: 畠中坦

ページ範囲:P.945 - P.946

 六歳頃に習ったので,出典が孫子であったか,六韜・三略であったか記憶がないし,字句も正確にはおぼえていない.とにかく中国の古典に「個人的にすぐれて強い猛将は自分が人並はずれて強過ぎるので部下に対する思いやりがないために真に良い将軍たり得ない」という言葉がある.
 私共の知る有名な欧米の脳神経外科医には「猛将型」が多いように思われる.毎朝5時回診という教授は珍しくもない.助手は最大の敵であるといって助手を遠避けて自分一人で手術する人もある.冬でもザンブとプールに飛込んで一泳ぎしてから病院に出かけ廊下に整列している助教授以下を従えて朝7時回診という人もある.他人を信頼しないのが徹底して,患者の頭の剃毛さえ自分でやる人もある.

総説

中枢神経系の転移性疾患

著者: 生塩之敬 ,   早川徹 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.947 - P.956

Ⅰ.はじめに
 癌患者のおよそ15-20%は,その疾患の経過中に何らかの中枢神経系の合併症を伴うことが報告されているが,そのほとんどのものが癌の転移によるものである.この様な癌の中枢神経系への転移は,頭痛,痙攣,四肢麻痺,尿失禁などの重篤な症状を惹起し,癌患者にされた短い余命をさらに悲惨なものにしているが,その発生頻度は最近の癌治療の進歩によりもたらされた患者の延命により,さらに上昇する傾向にある.またこれらの中には原発巣はよく治療されていながら,中枢神経系に発生した転移性疾患のために失われる例も少なくない,一方,最近一般に採用され始めたCT scanは.これら転移性疾患を容易にしかも早期に診断することを可能にした.これらのことは,今後臨床で扱われる中枢神経系の転移性疾患が確実に増加してくることを示している.この様な傾向に対処するため,すでに多くの施設で,これら疾患の病態を明らかにし,治療の体系を確立することに努力が払われている.
 ここでは,中枢神経系の転移性疾患の実態を総括するとともに,現在これらの疾患に関する研究がどこまで進み,どの様な治療成績が得られているかに視点をおき,文献的考察を加えたいと思う.これらを総合的に把握し,問題点を明らかにすることが,つぎの段階への研究の足がかりになると思われる.

Case Study

腰仙部髄膜瘤の1例—水頭症に対するシャントシステムの感染

著者: 松本圭蔵 ,   日下和昌

ページ範囲:P.957 - P.965

患者:井〇真〇 昭和50年4月15日生れ男児(現在まで4回入院)

Current Topics

除痛物質エンケファリン—エンドルフィン類に関する研究の現況と将来の展望

著者: 天野恵市

ページ範囲:P.967 - P.970

Ⅰ.はじめに
 除痛物質とは聞き馴れないことばと思われる読者も多いことであろう.鎮痛剤も除痛物質にはちがいないのであるが,今月号のカレントトピックスとしてとりあげた除痛物質エンケファリンenkephalinは生体内に存在する物質であり除痛作用と密接な関係を有するものとして最近注目されているものである.ここ数年来エンケファリンに関する発表論文は次第に増加しておりこの謎の物質の本態もあきらかにされつつあるので,現時点でのまとめをつける意味で問題を整理して紹介すると共に簡単に論評を加えてみたい.

研究

髄液中尿酸値の診断学的価値

著者: 角田茂 ,   外賀昭 ,   内海庄三郎 ,   松岡洋一 ,   久保田力

ページ範囲:P.971 - P.974

Ⅰ.緒言
 髄液の化学的成分より,頭蓋内疾患をうかがい知ろうとする研究は,歴史的にかなり古いものである.ところが近年,アイソザイム・パターンを含めた酵素活性の測定や免疫化学的分析の導入により,著しく進歩した.
 しかし現在までのところ,髄液の化学的成分共り,脳細胞における核酸代謝をみようとする試みは,最近cyclic nucleotideの測定1,8,9)が初められたものの,臨床的にはまだあまり行なわれていない.そこで,血清において日常測定されている尿酸が,核酸の構成成分であるプリン体の最終代謝産物であることに注目し,髄液中尿酸値の測定が,脳細胞における核酸のturnoverおよび脳細胞破壊の程度を示す一指標にならないであろうかと考えた.このような観点から,まず髄液中尿酸値の正常範囲設定を行ない,さらに各種神経疾患を対象として研究を進めた.

新生児脊髄々膜瘤,脳瘤におけるCraniolacunia

著者: 田島正孝 ,   山田博是 ,   景山直樹 ,   中村茂俊

ページ範囲:P.975 - P.979

Ⅰ.緒言
 Craniolaeuniaは新生児期に認められる主として頭蓋冠の内板の骨欠損である.そしてそれはまれには正常新生児にも認められるが,通常は脊髄々膜瘤,脳瘤を伴った新生児に多く存在する骨の変化である事が認められている.わが国におけるcraniolacuniaに関する報告は極めて少ない2,4,10,11).また脊髄々膜瘤および脳瘤を持つ症例におけるcraniolacuniaの出現頻度に関する報告もまれである.
 われわれは生後7日以内に治療を受けた脊髄々膜瘤,脳瘤症例におけるcraniolacuniaについて生下時の頭囲,Arnold-Chiari奇形合併の有無,髄膜瘤の部位や大きさ,水頭症などとcraniolacuniaとの関係について検討を加えたのでここに報告する.

False lateralizing signに関する臨床的および実験的研究

著者: 石山隆三

ページ範囲:P.981 - P.988

Ⅰ.緒言
 頭蓋内に腫瘍が発生し成長していく過程で種々の症候を呈するが,それらは一般に頭蓋内圧亢進症状と局所症候に分けられる.前者は,古くから脳腫瘍の3主徴と称せられる頭痛,嘔気,うっ血乳頭などが挙げられ,腫瘍の存在を疑わせる症候である.一方,後者については,いわゆるsilent areaに存在する場合を除き,腫瘍の局在部位に一致する神経学的所見を呈ける.すなわち,正確な神経学的観察を行うことにより,障害部位の科学的推定が可能である.それ故,脳腫瘍を含め神経疾患一般において,その局在診断には詳細な神経学的観察が重要である.勿論,神経放射線学を始めとする補助検査法も重要であるが,診断上の本質的な基盤を作っているものはやはり臨床神経学的な諸検査であろう.
 しかるに,時に腫瘍の局在部位から離れた遠隔部位の症候が認められることがあり,局在診断上,惑わされる場合がある.すなわち,従来よりfalse localizing sign(以上F.Lo.Sと略す)として報告されている症候が存在する.著者は教室における臨床経験から,F.Lo.Sが,後頭蓋窩腫瘍に比較的多く認められるとの印象をもっている.それ故,後頭蓋窩腫瘍に限定して,そのF.Lo.Sを臨床的に検討し,その頻度およびその発生機序について推論を加えた論文を発表した19)

妊娠中における脳出血の外科的治療

著者: 藤田勝三 ,   山崎駿 ,   玉木紀彦 ,   藤田稠清 ,   白方誠弥 ,   松本悟

ページ範囲:P.989 - P.995

Ⅰ.はじめに
 妊娠中における脳出血(特にくも膜下出血)の報告は,文献上散見されるが1,2,3,4,5),本邦における報告は稀れである.特にその外科的治療については,妊娠という特殊な状況下のため,治療上種々の制約があり,また産科医と脳外科医との間で,妊娠を継続し出産を優先すべきか,あるいは,脳出血の治療を優先すべきか,その意見を異にすることがある.従って,脳外科医として,この種の症例に遭遇した場合,産科医の意見を求めるのは当然であるとしてもこの治療に際しては,脳外科医として一貫した治療方針が要求されるものと考えられる.われわれは過去5年間に5例の妊娠中における脳出血症例を経験したので,その5例の臨床所見,外科的治療,および妊娠と脳出血との関係について文献的考察を加えて報告すると共に,5例の経験をもとにして,われわれ脳外科医がかかる症例にいかに対処すべきかを論じてみたい.

症例

Aneurysm Developingを示唆すると思われる前交通動脈瘤の1例

著者: 粟博志 ,   小林栄喜 ,   大山満 ,   朝倉哲彦 ,   猪鹿倉武

ページ範囲:P.997 - P.1003

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤は成人期に比較的多くみられるが,小児期および青春期に発見されることは稀である.これは動脈瘤がある時期に何らかの要因のために増大し,破裂するまでに一定の期間を必要とすることによると推測される.しかし,いつ,どのようにして増大するかということは,現在,いくつかの研究が進行しているものの,ほとんど知られていない.今回,われわれはaneurysm developing(new aneurysm formation)を示唆すると思われる1症例を経験したので,その臨床経過を中心に報告し,若干の文献的考察を加える.

破裂脳動脈瘤急性期脳血管撮影において脳室造影が認められた2症例

著者: 神山和世 ,   小沼武英 ,   坂本哲山 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1005 - P.1013

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤患者の血管写における血管外漏出は,1945年Jenkinson5)の報告以来20数例の報告がある.そしてそのいずれも脳血管写によって動脈瘤の破裂をきたしたものであり,脳血管写の合併症として報告されている.最近,われわれが経験した動脈瘤の血管外漏出の2例はいずれも動脈瘤破裂数時間後に血管写を施行し症状,血管写の時期等より血管写の施行により破裂したものではなく,むしろ発作からの出血が断続的にくり返しおこっていた為とも考えられ,しかも1例においては経時的血管写によって内頸動脈の一時的狭窄,および動脈瘤の増大等の興昧ある所見が得られたので若干の考察を加えて報告する.

頭蓋内巨大脳底動脈瘤の1例

著者: 片倉隆一 ,   吉本高志 ,   大和田健司 ,   旭方旗

ページ範囲:P.1015 - P.1018

はじめに
 頭蓋内脳動脈瘤は,その破裂に起因するくも膜下出血で発症する場合がほとんどであるが,なかにはくも膜下出血を来さず,徐々に進行するmass signとして発症し,脳血管写で始めて巨大な動脈瘤が発見されることがある.
 頭蓋内巨大脳動脈瘤の定義は,諸家により多少の相違が見られるが,最大径25mm以上のものを巨大脳動脈瘤とする場合が多い.巨大脳動脈瘤は,発生部位,症状の発現様式では,一般にそれ以下の大きさの脳動脈瘤とは異なり,また直接手術が困難なことが多い.

Fogarty Balloon Catheterによる頸動脈海綿静脈洞瘻の1治験例

著者: 中埜賢 ,   福森豊和 ,   谷栄一

ページ範囲:P.1019 - P.1024

Ⅰ.はじめに
 頸動脈海綿静脈洞瘻(Carotid-cavernous fistula,以下CCFと略す)の治療は現在まで頸動脈結紮術1,14,15,26,28),各種の栓塞形成術4,5,9,20,23,24,30,38,43),trapping法15,23),electrothrombosis法19,29),および直達手術32-34)が報告されている.
 1971年Prolo and HanberyがCCFの治療としてFogarty arterial enibolectonly catheter(以下Fogarty catheterと略す)によるintraluminal occiusionに成功し,簡単かつ安全な手術法として報告して以来,多くの人が追従している1,2,12,18,25,35,37,41).われわれも彼等の方法によりCCFを治癒せしめたので報告すると共に,いささか文献的考察を行いたいと思う.

眼窩穿通創による末梢性外傷性脳動脈瘤の1治験例

著者: 島健 ,   魚住徹 ,   西村茂 ,   西田正博 ,   田尾茂

ページ範囲:P.1025 - P.1030

Ⅰ.はじめに
 最近外傷による末梢性脳動脈瘤発生の報告は次第に増加しているが2,12,16),直接外力による脳動脈瘤の記載は極めて少ない.われわれは竹による眼窩穿通創で,前大脳動脈に仮性動脈瘤が発生した症例を経験し,治癒せしめることが出来たので報告し,若干の文献的考察を加えたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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