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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科6巻12号

1978年12月発行

雑誌目次

評価

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.1133 - P.1134

 何事によらず正しく評価することはむずかしい.古来,枢の蓋をとじてからでないとできないのが人物評価であり,医学論文でさえ著者の没後になってはじめて注目されることもある.われわれの脳神経外科領域でも,新検査法や新治療法が次々と発表されるが,10年後に残っているものは僅かである.もちろん日進月歩の領域なので,必らずしも姿を消したものがすべて悪いわけではないが,少なくともその時点においてはできるだけ正確な評価をしたいものである.しかし学会のプログラム委員や雑誌の編集委員として,多くの論文に接するたびに正しい評価の困難なことを痛感している.
 筆者が永い間専攻してきた悪性脳腫瘍の補助療法についても,未だに正しい評価法の設定に悩まされている.この場合は現在のところ補助療法による延命効果によって評価するのが,もっとも客観的であり,しかも手っ取り早いとされている(Bering, E.A.,Jr, et al.,1967).たしかに速中性子線の照射により,膠芽腫組織が完全に破壊できるようになったが,延命効果に関する限りコバルト照射と大差がないという報告もある(Parker, R.G.,et al.,1976).この論文をみても膠芽腫の治療の難かしさを改めて痛感すると共に,われわれの真の目的は腫瘍を消失させることのみではなくて,患者をできるだけ延命させることであることを再認識させられる.

総説

小脳核の定位脳手術

著者: 駒井則彦

ページ範囲:P.1135 - P.1143

はじめに
 古くより小脳は神経生理学的研究の好個の対象として検索が加えられてきた.1908年,Horsley and Clarke14)がstereotactic techniqueを初めて動物実験に用いたのも小脳機能の研究のためであった.最近に至っては形態的,機能的にも大脳皮質と小脳とのニューロン結合が次第に明らかにされ,姿勢および運動制御にこれらのニューロン回路が強く関与することが判明してきた.
 臨床的にも小脳症状として平衡の障害,運動の障害および筋緊張低下などがよく知られており,小脳は運動協調を司どる重要な器管であると考えられている.即ち小脳は大脳との機能協調により筋緊張,運動制御を行っているのであって,どちらかの機能脱落が起こればこの関係は容易に破綻し姿勢,筋緊張の異常や異常運動が出現するのである.ここに大脳機能の部分的廃絶による筋緊張,姿勢および運動の異常を小脳機能を矯正することにより治療しようとする試みが生れてくるのである.

Case Study

トルコ鞍拡大を伴った頭痛,視力障害および弱視発作—Primary Empty Sella Syndrome

著者: 朝長正道 ,   福島武雄

ページ範囲:P.1145 - P.1154

Ⅰ.症例
 27歳女性(幼稚園保母,主婦),某眼科でうっ血乳頭を発見され,脳腫瘍の診断で紹介された患者,主訴は視力障害,弱視発作,頭痛,嘔吐.
 現病歴:入院の約1年2カ月前より弱視発作が始まった.すなわち右眼が徐々にかすみ,ついには2-3分間全く見えなくなる.安静にし,冷たいタオルで冷やすと徐々に回復するような発作である.右視力も少しずつ悪くなってきた.また時々前頭部から両側頭部に痛みがあり,嘔気,嘔吐を伴うこともあった.自律神経失調症と診断されたが,弱視発作はだんだん頻回になり,2カ月前よりは左眼にも現われ,20-30分ごとに起こるようになってきた.視力障客も進行し,頭痛,嘔吐も頻回かつ強くなり,眠気をよくもよおすようになった.

Current Topics

HLA

著者: 関口進

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 HLAと疾患感受性が臨床家にとって非常に興味深い話題となっている.もっとも高い相関を示す疾患は強直性脊椎症(Ankylosing Spondilitis)で,HLA-B 27をもつ患者がどの報告を見ても90%以上となっている.その相対危険度(relatine risk),即ちHLA-B 27を持つ一般人が,同抗原をもたない人に比べてどの位強直性脊椎症にかかり易いか,を見ると日本人では352.8,白人では101.2と高い値を示している.これは同抗原をもつ人が日本人では352.8倍もこの抗原をもたない人に比べて同疾患にかかり易いという事を示している.
 HLAはその他腎臓移植の型合せに用いられ,特に血縁者間の移植では明らかに適合群と非適合群に差を見ている.血小板輸血,白血球輸血の際にも被輸血者の循環血内の生存にもHLAの適合が関係をもっている.この様に最近の免疫学の発炭の中でHLAはかなり重要な働きをしており現在ではいわゆる免疫応答の座との関係で注目をあつめている.

研究

前交通動脈瘤の流入動脈および動脈瘤柄部位とWillis動脈輪前半部の血流動態

著者: 郭隆璫 ,   大井隆嗣 ,   新妻博 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1159 - P.1163

Ⅰ.緒言
 前交通動脈瘤症例においては他の部の脳動脈瘤症例に比し,脳血管写上Willis動脈輪前半部の血流動態に異常を伴うものが多い.その大部分は一側の前大脳動脈A1部形成不全により,しかも右A1部形成不全が左A1部形成不全の約3倍を占めるということをわれわれはすでに報告した5,6).このWillis動脈輪前半部の血流動態異常,特に脳血管写上でのA1部形成不全が前交通動脈瘤の流入動脈および動脈瘤柄部といかなる関係を有するかを検討したので報告する.

脳腫瘍の治療的診断におけるCTスキャンの意義

著者: 小松清秀 ,   岡田洽大 ,   藤原敬悟 ,   西元慶治 ,   大畑正大 ,   平塚秀雄 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.1165 - P.1172

Ⅰ.はじめに
 1961年Oldendorfがcomputed tomography(CT)に関する方法論を発表し1),1972年イギリスでHounsfieldとAmbroseによりEMI Scannerが開発されて以来2,3),CTは脳疾患のX線診断機器としてきわめて重要な地位を占めるに至り,1976年春以降わが国においてもその普及はめざましい.ことに脳神経外科領域では,既存の診断機器では得がたい頭蓋内病変の形態,性状,局在を苦痛なしに即座に知り得るので,その有用性は高く評価されている4,5,6,7)
 CTの発達は,単に粗大病変のみならず,小さな病巣や,病変のわずかな変化の検出を可能にした.従って特に脳腫瘍では診断の向上に貢献するだけでなく,脳腫瘍の放射線療法や化学療法の効果をそれらの治療のごく初期にCT上の変化所見から判定しうる点でも画期的である8).脳腫瘍が放射線感受性を有しているかどうかは,従来,照射前に試験開頭により組織診断を行うか,あるいは照射後に脳血管撮影などを反復するか,または照射後の臨床症状軽快を見て治療的診断を行なうかにより判断しているが,前二者は患者に多大の苦痛と危険を伴い,そのための短期間内の反復検査は事実上不可能であるし,後者は照射療法以外の補助療法による対症的治療効果の結果とまぎらわしくなり,不都合な点がある.

Astrocytomaの突起に関する電子顕微鏡学的考察

著者: 河本圭司 ,   平野朝雄 ,   松井孝嘉

ページ範囲:P.1173 - P.1179

Ⅰ.はじめに
 Astrocytomaの電顕的考察については,多くの報告がなされている3-5,9-13,16,18,20,23-27).しかしこれらの報告は,主として腫瘍細胞の細胞体を中心に記載されていることが多く,その細胞突起の形状に関しては,あまり注目されていない.一方,正常のastrocyteの突起の末端に関しては,電顕レベルより,シート状ないしヴェール状の薄い層をなして広がっていることが判明している6,7,17,21),そこでわれわれは14例の良性のastrocytomaにおいて,その腫瘍細胞の突起の形態および分布や結合等について電顕的所見を記載し,それに対しての考察を述べる.

側脳室腫瘍・2—自験30例の神経放射線学的検討

著者: 北岡憲一 ,   田代邦雄 ,   佐藤正治 ,   阿部弘 ,   都留美都雄 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.1181 - P.1192

Ⅰ.はじめに
 われわれは,側脳室腫瘍(その1)において自験30例の臨床像の検討を行なったが,その結論として①主に側脳室内に発育した腫瘍は神経症状のみからではその局在や組織を確定診断できる程の特徴ある症状は見いだせず,そのうえ,②厳密な意味での脳室内腫瘍である固有側脳室腫瘍と,大部分が脳室内に発育した傍側脳室腫瘍の間には神経症状を中心とする臨床像において明らかな差異は認められないことも判明した14).以上の結果をふまえて,今回は側脳室内に主に発育した自験30例の腫瘍について,その診断に重要であると思われる神経放射線学上の所見の検討を行なった.そのうち頭蓋単純撮影と気脳・脳室撮影の所見については従来より多数の文献があり4,6,9,17,20,28),われわれの例からも特に新しい知見は得られなかったため,その成績については省略し,これまで文献上比較的乏しい脳血管撮影とCT scanについて詳細に検討したので報告する.

症例

Slit ventricleによるshunt systemのon-off mechanism

著者: 園部真 ,   児玉南海雄 ,   藤原悟 ,   高久晃 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1193 - P.1196

Ⅰ.はじめに
 乳幼児水頭症のシャント術後に短絡管が閉塞しても,何ら症状を呈さない場合,shunt independent arrest(Holtzer)4)と呼ばれている.本状態には,transependymal absorptionなどにより,髄液の産生吸収のバランスがとれている代償性水頭症の程度の軽いもの,または髄液流通路の閉塞が何らかの機転により解除したcured hydrocephalusの両者が含まれるものと考えられる.この様な症例に対しては,不要となったシャントの抜去術も行われている.
 最近,シャントのチェックバルブを検討した時には作動しているように見えても,その他の診察時には,シャントは非作動状態であり,患者の一般状態も良好であるために,シャント管を遮断してみたところ,極めて強いシャント依存性を呈し,症状の急変をみた2例を経験した.これらの原因となったメカニズム,更に乳幼児水頭症術後における脳外套増大とシャント依存状態との関係について検討考察を加えた.

頭蓋骨Aneurysmal Bone Cystの1例

著者: 沖修一 ,   島健 ,   魚住徹 ,   児玉哲郎

ページ範囲:P.1197 - P.1201

Ⅰ.緒言
 Aneurysmal bone cystは通常長管骨に発生し,頭蓋骨での発生は稀である.
 最近われわれは4歳男児の右頭頂骨に発生したaneurysmal bone cystの1例を経験したので症例を報告し,若干の文献的考察を加える.

CT scanにより診断できた腰仙部lipomeningoceleの1例

著者: 藤本正人 ,   小竹源也 ,   矢野一郎 ,   成瀬昭二 ,   水川典彦 ,   佐伯祐志

ページ範囲:P.1203 - P.1206

Ⅰ.はじめに
 脊椎および脊髄奇形に対するcomputed tomographyの使用は,1975年のDi Chiroら3)によるsyringomyelia以来, diastematomyelia14,16),bifid spine and meningocele8),anterior meningocele and spinal lipomas2),spinal dysraphism10)などで報告され次第にその有用性が高まっている.われわれもCT scanによりlipomeningoceleを診断し得たので若干の文献的考察を加え報告する.

椎骨脳底動脈系の走行異常を伴ったHemifacial Spasmの手術経験例

著者: 鈴木一郎 ,   佐々木亮 ,   柳橋萬之 ,   土田富穂 ,   早川勲 ,   小林武夫

ページ範囲:P.1207 - P.1212

Ⅰ.緒言
 片側の顔面神経領域のみに限局し,発作的に起きる顔面筋の不随意的収縮をhemifacial spasmと言う.Hemifacial Spasmには,末梢性の顔面神経麻痺後に出現するpostparalytic hemifacial spasmと,眼輪筋より始まり,徐々に進行し片側顔面全体に拡がるcryptogenic hemifacial spasmとがある.このcryptogenic hemifacial spasmの病因に関しては,Schultze(1875)16)が椎骨動脈の動脈瘤を合併した剖検例を報告して以来,顔面神経の頭蓋内での種々の病的組織による圧迫が注目されている.また,Jannetta(1977)10,11)は,開頭手術により顔面神経を観察し,全例に何らかの病的組織による圧迫を認め,減圧を図ることにより良い結果を得たと報告している.
 私共は最近,hemifacial spasmに対し椎骨動脈撮影を行っているが,延長屈曲した椎骨動脈の本幹が内耳口近くまで突出している1例を経験した.これに対し手術を行い椎骨動脈が顔面神経を圧迫しているのを確認し,減圧術を施行したので若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内結核腫の2手術治験例

著者: 秋山武仁 ,   市来崎潔 ,   上田守三 ,   志澤寿郎 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.1213 - P.1218

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内結核腫は1790年Ford24)により初めて記載されて以来,数多くの報告がなされている.しかし近年公衆衛生の発展と抗結核剤の進歩に伴い,結核性病変自体の減少とともに本疾患の報告はきわめて稀なものとなってきた.
 われわれは昭和38年および昭和52年に後頭葉および前頭葉に発生し,摘出手術により良好な結果を得た頭蓋内結核腫の2症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

Automatismをもって発症したactinomycotic brain abscess—症例と文献的考察

著者: 野中信仁 ,   高本憲治 ,   丸林徹 ,   松角康彦

ページ範囲:P.1219 - P.1223

Ⅰ.はじめに
 ヒトにおけるactinomycosisの最初の報告は,lsrael(1878)9)によるといわれるが現今稀な疾患となった.その中でも,中枢神経系の罹患は更に少なく,Cope5)の統計によると,全症例中わずか1%にすぎない.多くは,他臓器感染巣からの,血行性あるいは直接進展による二次性のものであり,原発性脳アクチノマイコーシスはきわめて少ない.
 本疾患は,細菌とかびの中間の性質を有する放線菌により発症する真菌症で,抗生物質が有効であり,外科的に全摘することにより高い治癒率を示す.今回,われわれは,約11年前の頭部外傷に起因する原発性のactinomycotie brain abscessがautomatism様の発作で発症し,外科的に全摘し術後良好な経過を示した症例を経験したので報告する.

新生児脳腫瘍の1治験例

著者: 佐藤倫子 ,   坂本敬三

ページ範囲:P.1225 - P.1230

Ⅰ.はじめに
 小児脳腫瘍の中で新生児脳腫瘍は非常にまれである.しかしその腫瘍の発生部位や組織像が特異的であること,すでに胎生期に発生していること,先天奇形との合併率が高いことなどから,脳腫瘍の発生過程に興味をもって報告されている2,26).一方,新生児脳腫瘍の予後はかなり悲観視され,満足な外科的治療にいたる報告は少ない.このたび,脳室内出血にて発症し,生後25日目の新生児脳腫瘍を亜全摘し,術後17カ月の現在も経過良好な症例を経験したので報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第6巻総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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