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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科6巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

反省—論文著者と校閲者の立場から

著者: 三輪哲郎

ページ範囲:P.411 - P.412

 毎日の新聞のどこかに,文字,文章,読み方,あるいは読書に関する記事が目につく.たとえば10何年も学校生活についやしていながら,自分の考えを満足に文章に表現できない学生が多いとか,受験戦争で参考書にくくりつけられ,文章の美しさを知らない気の毒な学生たちとか,また国語の実力の一端をみるために入社試験に短文を課す会社がふえているとか,きりがないくらい国語教育の現状の一駒がうかがわれる.また1年ほど前の新聞記事に閣議中,閣僚方が国を守るキガイを"気概"か"気慨"かで漢字論争をやり,けっきょく文部省に問い合わせて木偏に落ちついたという事件と,校正に詳しい加藤康司氏の「辞書の話」の中に故吉川英治氏は常々"気慨"を用いていることが対比されていた.
 後者では「大言海」に気概と気慨は同じであると記され,またこれは心の問題であるから木偏では感じが出ないと理由をあげている.

総説

Histiocytosis

著者: 所安夫

ページ範囲:P.413 - P.424

 Ⅰ.
 脳外科領域の疾患としてHistiocytosis (以下H病)の具像をたずねると,人はすべてとくに頭蓋骨を侵した骨の好酸球性肉芽腫(以下EGB, Finzi1929)に想到し,間髪を容れず小児科域と重合したHand-Schuller-Christian病(以下HSC)や,むしろ脳外科とは遠く隔った世界のAbt-Letterer-Siwe病(以下ALS)にまで思いを拡げる.それもこれもいっさいは,Jaffe(1944—);Lichtenstein(1953-1964)1,2)に忠実な証に他ならぬ).かりに,Farber3)の疾患相互類似の示唆(1941)などを別にして,Lichtensteinの記載を知らないかまたは,その考えに不審を抱く人がいたら,脳外科を専攻すると否とによらず,EGBとALSとがそんなにやすやすと密着はしないはず.申すにおよばない.かえってたとえばALSは,奇妙なしかしよくみるとALSににた臨床と病理領域とを示す細網内皮系または細網内皮組織球系(以下RES.RHS.RHES)の増殖症の側面から,本格的良心的に眺め,解析されはしまいか.

Case Study

椎骨・硬膜上・血管腫による脊髄障害の外科的治療—その問題点と対策

著者: 松角康彦 ,   横田晃 ,   小阪英幸

ページ範囲:P.425 - P.430

Ⅰ.はじめに
 椎骨血管腫による上位胸椎の椎体・椎弓の変形・肥厚と,硬膜外血管腫の合併のため,胸髄のcompressionをきたし,急速に対麻痺が進行した.某医にて減圧のための椎弓切除が行われたが,大量の動脈性出血に遭遇して,不完全に終わり,また止血のために使用したoxycelと創部の血腫が感染を併発して,麻痺の手術療法に複雑な問題を残すこととなった.この状態であたら前途を身障として終わるかと,憂慮された高校生が入院してきた.
 問題解決の第一歩として,脊髄の虚血を招くことなく,椎骨血管腫のembolizationが可能であるか否かが検討された.感染の処理を含め徹底してdecompressive laminectomyを成功させるまでの経過は,はなはだ興味深い問題であった.

Current Topics

聴覚性脳幹反応—記録法と臨床応用

著者: 橋本勲 ,   石山陽事 ,   戸塚元吉 ,   江部充

ページ範囲:P.431 - P.436

I.はじめに
 近年,ヒト頭皮上より検出される聴覚性誘発反応について潜時が10msec以内のきわめて小さな一連の電位変動が注目されている.この電位変動は7つの波成分より構成され,再現性に富み,意識水準の変化や麻酔の影響を受けにくい,きわめて安定した反応であることが知られている.この反応の起源が脳幹聴覚路にあると推測されることから,一般には聴覚性脳幹反(brainstem auditory evoked responses,BERあるいはBSR)と呼ばれているが,far field acoustic response1)あるいはfas vertex responseeと呼ぶ研究者もいる.いずれにせよ,本反応が最近注目されるようになったのは,すでにいくつかの臨床報告から,本反応を用いた脳幹障害の診断への期待であり,その有用性について余り異論はない.しかし本反応は発見されてからまだ日も浅く,その電気生理学的基礎について,未解決な多くの問題が残されている.本論文では,この反応を理解する土で必要な記録法,生理学的な基礎および臨床応用について,われわれの得た知見を中心として述べる.

研究

短期間に再発したRathke's cleft cyst—臨床経過,病理学的検索,および文献例によるその本態の検討

著者: 小林達也 ,   吉田純 ,   景山直樹

ページ範囲:P.437 - P.444

Ⅰ.はじめに
 Rathke's,cleft cystは1913年,Goldzicherが剖検より偶然発見した第1例を報告15)して以来,現在まで少なくとも36例の報告があるが,本邦ではわれわれの知る限りその報告は見当らない.
 本症は,ほとんどが鞍内に限局する良性の嚢腫で,白色〜淡黄色の粘調な液を含み,多くの症例が嚢腫の排液のみで再発が起こらないと考えられている.

RI ventricular clearance法による水頭症患児の髄液循環動態の研究—特にmild and slowly progressive hydrocephalusを中心に

著者: 松森邦昭 ,   喜多村孝一 ,   山崎統四郎

ページ範囲:P.445 - P.452

Ⅰ.緒言
 髄液のdynamicsを捕える方法として今日広くRI cisternographyが用いられている.しかしRI cisternographyは,脊髄くも膜下腔より上行する髄液流をみており,脳室系より脊髄,脳表くも膜下腔に至る生理的髄液流を直接知ることはできない.脳室系よりのこの生理的髄液流を捕える方法としてRI ventriculographyが知られている4,5,6,9).しかし脳室へ直接RIを注入するという操作を伴うこと,およびscintigramで経時的変化の概略を追うのみで細かいあるいは数値的な情報量が得難いことから,現在一般に普及している検査法ではない.そこで大泉門が開大し脳室穿刺が容易な乳児を対象として,連続脳室scintigraphyを1時間のRI ventricular clearanceとして定量化する試みを行った.
 本法を小頭症患児に施行した結果はすでに報告した3,13)

実験的脳梗塞(第2報)—視床梗塞モデル犬の局所脳波の変化とその応用

著者: 坂本哲也 ,   田中悟 ,   吉本高志 ,   渡辺孝男 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.453 - P.457

Ⅰ.はじめに
 従来,犬では実験的に脳梗塞巣を作製することは非常に困難とされていたが14),著者の一人,吉本の開発した方法によれば15,16),視床部に限局した梗塞巣を約70%の動物において作製することができた.そこで実験モデルとしてさらに確実なものにするために,脳波的技法を併せ用いたところ,視床梗塞巣の発現をあらかじめ予知でき,その作製頻度をほぼ100%にまで高めることができた,さらに,この実験モデルの作製によって,乏血病巣あるいは梗塞病巣脳波を経時的に検討することにより,病巣部の組織学的変化あるいは生化学的変化の経時的推移を推測することができ,また種々の薬剤の梗塞などに対する効果も観察し得るものと考えられる10).本稿では,これら視床梗塞モデル犬の脳波応用の意義について述べる.

破裂脳動脈瘤の手術—その適応とタイミング

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.459 - P.471

はじめに
 一度破裂した脳動脈瘤は再び破裂しやすく,その再破裂を防ぐためにいろいろな脳神経外科的治療が開拓されてきた.すなわち,流入動脈の結紮から始まり,流入流出動脈の結紮,開頭して脳動脈瘤を筋肉や重合物質によって被覆して破裂しないように固めてしまう方法,動脈瘤柄部の遮断,あるいは窮余の一策として動脈瘤に馬毛を刺したり,銅線を刺して電流を流して動脈瘤を凝固させる方法や血流中に微細鉄粉を注入して磁石によって,それを動脈瘤内に集める方法,あるいは計測によって動脈瘤に細いX線ビームを照射して,動脈瘤を凝固してしまう方法,または脳血管内にカテーテルを導き動脈瘤内に入れてその先端のバルンを残してくる方法などが開発されてきている.しかし直接脳動脈瘤に到達して,この柄部を処置することがもっとも確実であり,有効な手段であることは事実であり,この方法が現在の主流であることは間違いない.しかし一方,脳動脈瘤の直接手術の成績は,以前はその報告者によって手術死亡率が40%から20%台とあまり感心できたものではなく12),またその追跡成績を論じている論文もきわめて少なかった.したがって確かに,内科的治療よりはまさるけれども,頸部頸動脈結紮手術よりも劣る.あるいは流入動脈だけの遮断の成績よりも悪いとする報告もみられた.

症例

Tethered Cord Syndrome—自験3症例と文献的考察

著者: 溝井和夫 ,   児玉南海雄 ,   高久晃

ページ範囲:P.473 - P.478

Ⅰ.はじめに
 幼小児期に,何らかの原因により脊髄下端が脊椎腔下端,あるいはその周囲組織につながれた状態になると,身体の発育につれ脊髄は尾側に牽引され,その結果様々な神経症状を呈してくる.このような病態は腰仙部にdysraphismが存在する場合に高頻度にみられ,すでにcord traction syndrome4),film terminal syndrome4),tight filumi11),tethered conus3),tethered cord syndrome,low conusなど,様々な名称で呼ばれている.しかし,本邦では文献を渉猟し得た限りでは学会報告例16)を除き未だ報告例をみていない.最近,われわれはspina bifida occultaを伴い本状態を呈した3症例を経験したので,本症の歴史などについて若干の文献的考察を加え報告する.

特発性脳内血腫を合併した先天性頸部動静脈瘻の1例

著者: 穀内隆 ,   佐藤修 ,   神谷博 ,   金沢至 ,   佐藤仁一

ページ範囲:P.479 - P.483

Ⅰ.はじめに
 頸部動静脈疲は大部分,外傷性に発生し,先天性と考えられる例は少ない.さらに,特発性脳内血腫を合併するという報告例は,極めて稀である.われわれは,上行咽頭動脈と内頸静脈との交通を有し,特発性脳内血腫を合併した症例を経験したので,若干の治療法に対する考察を加え報告する.

頭蓋骨血管腫の2例

著者: 浅利正二 ,   吉岡純二 ,   片木良典 ,   土井章弘 ,   上田伸 ,   藤田甫

ページ範囲:P.485 - P.490

Ⅰ.はじめに
 1845年Toynbee20)により最初に報告された頭蓋骨血管腫は,全骨腫瘍の0.2%を占めるにすぎず21)稀な疾患であり,本邦においては未だ詳細な報告はほとんどみられていない.
 このたびわれわれは,それぞれ左頭頂骨および右前頭骨に発生した頭蓋骨血管腫の2例を経験したので,これらを提示し,あわせて若干の考察を加えて報告する.

Cerebral Polyuric Hyponatremiaの1例

著者: 宍戸豊史 ,   郷間徹 ,   善家迪彦 ,   本崎孝彦 ,   森洋二 ,   榊三郎 ,   松岡健三

ページ範囲:P.491 - P.497

Ⅰ.はじめに
 第3脳室近傍や視床下部下垂体部の病変によって水分電解質の代謝異常が招来されることはよく知られている.この水分電解質異常を血清Na値よりみると,いわゆる尿崩症に代表される高Na血症をきたす疾患群とSyndrome of Inappropriate Secretion of Antidiuretic Hormone(以下SIADH)に代表される低Na血症をきたす疾患群に大別される,しかしながらこの両群に分類されがたいものとして最近新たな中枢性の低Na血症を示す中枢性多尿性低Na血症(Cerebral Polyuric Hyponatremia)なる病態が提唱されている9)
 今回われわれは鞍結節部髄膜腫の術後に40l/day以上に及ぶ著しい多尿,pitressinの奏効困難,尿中Na排泄増加に伴う一過性可逆性の低Na血症および口喝感を伴った1例を経験した,その病態は,いわゆる中枢性多尿性低Na血症に一応合致すると考えられるので報告する.

第3脳室Colloid cystの1例

著者: 若井晋 ,   久保田勝 ,   青木信彦 ,   中原明 ,   水谷弘 ,   小川浩美

ページ範囲:P.499 - P.503

Ⅰ.はじめに
 第3脳室colloid cystは,諸外国においてはWallmann(1858)27)の報告以来,約300例が報告されており,全脳腫瘍の約0.5%を占めると言われているが,本邦では極めてまれな腫瘍で,現在まで文献上報告されているのは7例31,32,35,36,37,38)のみである.われわれは最近,間融性頭痛で発症し,CTスキャン,脳血管写,気脳写により,本症と診断,手術にて軽快せしめえた症例を経験したので報告する.

脳動脈瘤手術後,反対側に硬膜外血腫の発生した1例

著者: 岡信男 ,   渡辺義郎 ,   佐藤章 ,   牧野博安

ページ範囲:P.505 - P.508

Ⅰ.はじめに
 硬膜外血腫は,その大部分は外傷性であり,非外傷性のものとしては頭蓋周囲の炎症に伴うもの7,8),血液疾患や心血管系の手術などに伴う凝固機能の異常によるもの4),などが報告されている.開頭術の合併症として,開頭部位より隔った部位に硬膜外血腫の発生することは従来より文献上に報告されている.しかし,それらの例は,術中に脳の退縮を図るためにburr holeより脳室穿刺を行っている場合が大部分で,硬膜外血腫とburr holeとの関係を示唆する例も少なくない1,2,3,9).また,硬膜外血腫による症状の発現も,術中に起こる急激かつ不明の脳腫脹として5),または,術後早期の神経症状の悪化として起こる場合6)のように,比較的早期にみられている.今回われわれは,左内頸動脈—後交通動脈の動脈瘤に対し低体温麻酔下でクリッピングを施行し,術後約2週間目に,軽度の左片麻痺を伴って発症した術後硬膜外血腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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