icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科6巻9号

1978年09月発行

雑誌目次

若い力を信ずる—国際神経外傷会議見聞記

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.833 - P.834

 去る4月17日から3日間カイロで開催された神経外傷に関する国際カンファランスに参加するために,エジプトを訪れた日本人医師10名の一行は,カイロ空港に着いた途端に,われわれが日本人であることを思い知らされることになった.40歳以下の日本人の入国チェックは特別きびしいのである.紀元前5世紀の有名な史家ヘロドトスが,「エジプトはナイルの賜物」と記したその国エジプトは,歴史上の金字塔から想像される神秘とは,全く別の現実を造っていた.
 言葉と文字がわからないのをいいことにして,タクシーが料金をちょろまかす.バザーと称する小売店が地図の値段をつり上げる.ホテルのボーイ…と言ってもいい年をしたアラブ衣裳の男…が,用もないのに何か飲まないかとか,石けんを持って来たとか,はては汚れてもいない靴を勝手に持ち出して磨いたとか言って,チップほしげに部屋に入り込む.

総説

脳腫瘍のLysosome酵素

著者: 阿部弘

ページ範囲:P.835 - P.843

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍組織中の酵素活性の動態を知ることは,腫瘍組織または腫瘍細胞の種々の代謝機構の解明にとって有力な手段の1つである.癌の酵素学的診断は古くから行われてきており,癌組織および血清より各種の酵素活性が測定され早期診断および予後の判定に実用化されてきている.脳腫瘍においても腫瘍組織から各種の酵素活性が測定され,多くの知見がえられてきている.すなわちLactate dehydrogenaseの研究20,22,29,31,48),Aldolaseisozymeの研究36,44),ATPaseの研究37,39),Cytochromeoxidaseの研究7,11)などはすでに報告され腫瘍細胞の代謝機構とのかかわりやそれぞれの意義が認識されている,これらの酵素化学的方面の研究結果を集大成して正常脳組織と異なる腫瘍組織の代謝機構の特色を追究し,制癌剤の作用機序との関係を研究することにより,もっとも有効な化学療法の開発および放射線療法や免疫療法の効果をより増強する方法の開発もやがて可能となってくるであろうと思われる.
 脳腫瘍におけるこれらのあらゆる酵素活性の動態について述べることは余りにも広範囲かつ多岐にわたるので,今回はLysosome酵素活性について主として生化学的分析による知見を述べ,今後の研究の闇題点および展望についても若干ふれてみたい.

Case Study

小脳橋角部動脈瘤と難聴

著者: 森和夫 ,   宮崎久彌 ,   馬場正明 ,   隈上秀伯

ページ範囲:P.845 - P.853

I.症例1
 患者:48歳 男子
 現病歴:8年前(1970年),急に周囲の景色が左から右に流れてみえ,嘔気・嘔吐・蝉のなくような耳鳴を伴った.これは約1時間つづいたが,この間右耳が全く聞えなかったという.

Current Topics

Microcirculation

著者: 江藤胤尚 ,   尾前照雄

ページ範囲:P.855 - P.858

Ⅰ.はじめに
 Microcirculationは循環器系の最終器官であるmicrovasculatureを場とし,基本的な2つの機能を営んでいる1).1つは組織への栄養補給であるが,この原動力は拡散である.拡散は溶質の濃度勾配によって生ずるが,分子の大きさ,脂質溶解性や血管壁の特性によって影響を受ける.もう1つは,血液と組織間液との液体成分の交換にあつかり,組織の滲透圧を維持する機能である.観点を変えると,これらの機能は,粒子や液体が毛細血管壁をどのような機序や法則に従って越えるか,つまり血管透過性の問題としてとらえることができる.本稿では,脳の血管系を含めた血管透過性に関する最近の知見を紹介したい.

海外だより

中国の刺針術について—ある訪中記

著者: 飯塚一

ページ範囲:P.860 - P.862

 出発前2週間「中国行ですって?」中欧に住んで居ながらMont-Blanc(4807m)の登頂すら許可して呉れない恐妻が顔をしかめる.チフス,パラチフス,コレラ,マラリア,流行性肝炎,破傷風,天然痘等,熱の出る程ワクチンを身につける.「ペストとレプラの予防注射はありません」と市衛生局の医官が注意して呉れた.「寄生虫位なら克服して見せるぞ」と悲壮な覚悟をする間もなくドイツ医師協会代表団一行を乗せたルフト・ハンザ機は香港啓徳空港に着陸する.訪中団長はDer Deutsche Arzt誌の編集長で愉快なK君だが,他に脳神経科医の居ない一行20名中片言乍ら中国語を解する私を団長代理に祭り上げた.
 翌日1日は香港見物に費したが,現在の中国を知る為には盆栽的とは云え未だ伝統を停める台北か、せめて資本自由主義のショウケースとしてのこの「臭港」を見て置く必要がある.日本乃至は西欧と中国の直接比較は旧中国の認識無しには無理だ.

研究

脳動脈瘤破裂に伴う脳血管攣縮に関する脳血管写上の検討(第2報)—動脈瘤部位と脳血管攣縮

著者: 新妻博 ,   郭隆璫 ,   大井隆嗣 ,   片倉隆一 ,   溝井和夫 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.863 - P.869

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂に伴って発生する脳血管横縮(以下spasmと略す)は,破裂動脈瘤の周辺の血管に起きやすいとされている5,9).一方,動脈瘤の部位別のSpasmの起こり方の特徴については,報告によりかなりの差が認められる1,3,6,8,9,10)
 著者らは前回,脳動脈瘤頭蓋内直接手術例797例の術前血管写をもとに,くも膜下出血発作から血管写施行までの期間とspasmとの関係について検討し,くも膜下出血発作後0-3日目のSpasmは稀で,spasmのピークは発作後10-17日目にあることを明らかにしたが7),今回はさらに破裂動脈瘤の部位とspasmとの関係について検討したので報告する.

脳神経外科領域におけるプロラクチンの分泌動態—その測定の臨床的意義

著者: 武田文和 ,   藤井卓

ページ範囲:P.871 - P.880

Ⅰ.はじめに
 下垂体およびその付近に生じる病変は脳神経外科領域において主要な位置を占めており,その臨床症候は眼症状と視床下部下垂体機能異常に基づく様々な症候群によって代表されている.近年,radioimmunoassay(RIA)が普及し,下垂体の各ホルモンの血中濃度を容易かつ頻回に測定することが臨床的に可能となり,視床下部や下垂体の病変における内分泌機能の変動が前葉機能異常を中心に解明されつつあり,脳神経外科の治療成績の向上に大きく貢献している.またホルモン依存性悪性腫瘍や重症糖尿病などの治療を目的とした下垂体への外科的侵襲の効果が評価されているが1,2,8,9,16),その際にも視床下部下垂体機能の正確な追跡が必要となっている.
 われわれはこれらの病態におけるホルモンの分泌動態の障害を成長ホルモン(HGH)を中心に数年来検討してきたが3,12,19,19,20,21,22,23),最近,国産されたプロラクチン(PRL)測定用のRIA kitを使用して下乖体部の外科におけるPRL分泌動態をも同時に検討している.ここにその成績を報告し,血中PRL測定の臨床的意義について考察したい.

腰部脊椎管狭窄症のミエログラフィー—神経原性間歇性跛行との関連

著者: 小山素麿 ,   石川純一郎 ,   岩城和男 ,   近藤明悳

ページ範囲:P.881 - P.890

Ⅰ.はじめに
 Verbiest56,57)が腰部脊椎管の狭小化のため,種々の馬尾神経障害,ことに間歇性跛行がおこる疾患を初めて紹介してから20年余になる.その間,多くの研究者によりまちまちの定義,分類が発表され,その名称のみを挙げてもlumbar spinal stenosis3,39,41),developmental narrowing of the lumbar vertebral canal16,56,57),neurogenic intermittent claudication20,63)intermittent cauda equina compression syndrome15,65),pseudoclaudication syndrome33),small lumbar spinal canal1,8,13,14,62),intermittent claudication of the cauda eyuina5),stenosis of the lumbar spine40),intermittent ischemia of the cauda equina29)などと枚挙にいとまがない.

硬膜外腫瘍による脊髄圧迫—実験モデルの作製と病態に関する研究

著者: 池田宏也 ,   生塩之敬 ,   早川徹 ,   清水恵司 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.891 - P.898

I.緒言
 転移性硬膜外腫瘍による脊髄圧迫はneurological emergencyの1つであり,放置すれば速やかに極めて悲惨な状態を惹起する.剖検によれば癌患者の約5%に発生していると報告されているが3),近年悪性腫瘍に対する治療が進歩し患者の生存日数が延長するとともにこの神経系合併症の頻度は高くなる傾向にある.しかしこの疾患の治療法については議論が多く,いずれの方法によっても未だ満足すべき結果は得られていない5,14,24).その主な理由として臨床的研究が困難であり,また実験的にも今迄適当な実験モデルがなかったことなどにより系統的研究が少なく.この疾患の病態に不明な点が多いことがあげられる.
 最近Ushioら21)はラットの第12または第13胸椎椎体前面に経皮的にWaker 256腫瘍を注入移植する方法で硬膜外腫瘍の実験モデルを作製することに成功した.彼らはそれを用い腫瘍による脊髄圧迫の病態の一部を明らかにし,さらにステロイド,化学療法,放射線療法,減圧椎弓切除術などの治療効果につき比較検討した22).しかしこの実験モデルは小動物であるラットを使用したため種々の操作,観察に制限があり,また実験腫瘍として使用したWalker 256 carcinosarcomaは,化学療法によく反応する腫瘍であり,必ずしも臨床にみられる各種の転移性腫瘍を代表していない.

巨大脳動脈瘤の外科的治療

著者: 小沼武英 ,   坂本哲山 ,   奥平欣伸 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.899 - P.905

Ⅰ.緒言
 1961年より1975年末迄に当教室で経験した1,080例のsaccular aneurysmのうち,手術所見または脳血管写上で最大径が2.5cm以上のものをgiant aneurysmとすると,その症例数は32(3.0%)である.一般にgiant aneurysmはその直接手術が困難でcarotid ligationが部位により適宜行なわれているのが現状であるが,当教室では積極的に直接手術を施行しその手術率は75%におよぶ.そこでこれら症例の症状,部位,手術法,手術成績および予後調査の結果等を呈示し,その治療法,手術適応につき検討報告する.

症例

後大脳動脈巨大動脈瘤の1症例

著者: 近藤勉 ,   東裕文 ,   村上哲夫 ,   後藤利和 ,   菅原武仁 ,   坪川孝志 ,   森安信雄

ページ範囲:P.907 - P.911

Ⅰ.緒言
 巨大脳動脈瘤は従来,内頸動脈,椎骨・脳底動脈に好発するとされているが,前交通動脈,中大脳動脈に発生した報告も多い1,14).しかし後大脳動脈に発生した巨大動脈瘤の報告は,現在虫で数例をみるにすぎない(Table 1).最近,私達は,後大脳動脈の巨大動脈瘤の1例を経験し,手術を施行したので,その臨床経過とともに報告する.

頸部内頸動脈完全閉塞症に対する直達手術—Fogartyカテーテルを用いた血栓内膜剔除術を行った1例

著者: 金一宇 ,   稲田良宜 ,   金和子

ページ範囲:P.913 - P.917

Ⅰ.はじめに
 頸部内頸動脈完全閉塞症の1例の発症早期に,頸部内頸動脈血栓内膜剔除術とFogartyカテーテル7)を用いた内頸動脈内血栓剔出術を行って,何ら合併症もなく血行を再開させることに成功し,著しい臨床症状の改善を認めたので,症例の概略と手術手技を述べ,手術の適応について考察する.

上部頸椎脊索腫の外科的治療

著者: 木田義久 ,   古瀬和寛 ,   景山直樹 ,   杉浦勲

ページ範囲:P.919 - P.923

Ⅰ.はじめに
 脊索腫chordomaは,胎生期の遺残物であるembryonic chorda dorsalisより発生する腫瘍と考えられ,頭部においては,斜台部,蝶形骨洞部に好発する.仙椎,尾椎部の発生は,頭部とほぼ同頻度であるが,その他の脊椎での発生は少なく,令脊索腫の10-20%と推定される2,5,6,7,9)(Table 1).
 1970年以降,当脳神経外科で治療した脊索腫は,男性6例,女性2例の計8例であり,7例は頭蓋底に発生し,他の1例が上部頸椎に発生した.

原発心臓粘液肉腫の脳転移例

著者: 嘉山孝正 ,   堀重昭

ページ範囲:P.925 - P.930

Ⅰ.はじめに
 心臓原発腫瘍は稀なものであるが5,11,19),そのうちでも,粘液肉腫は非常に稀である3,5,16,21).一方,転移性脳腫瘍の原発巣を心臓と確認した報告もまた極めて稀である.今回われわれは,心臓原発粘液肉腫の脳転移例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

小脳橋角部に発生した脈絡乳頭腫の1症例

著者: 米倉正大 ,   上ノ郷真木雄 ,   藤田雄三 ,   森和夫 ,   横山繁生

ページ範囲:P.931 - P.934

Ⅰ.はじめに
 脈絡乳頭腫(choroid plexus papilloma)は,原発性頭蓋内腫瘍の1%以下といわれ3,10),特に脳室外に発生した乳頭腫は,非常に稀である.著者らは,最近右小脳橋角部に発生した1症例を経験したので,腫瘍の電顕像とともに,若干の文献的検討を加え報告する.

放射線療法後発生したと思われるMalignant meningiomaの1例

著者: 片倉隆一 ,   大原宏夫 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.935 - P.939

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍治療において放射線療法は重要な役割を占めている.しかし,同時にradiation necrosisなどの放射線障害の問題があり,また放射線治療後数年を経て,組織学的に全く異なった脳腫瘍が発生するという報告も少数ながら見られている2,4,5,7,10,11,12,13,14,15)
 今回われわれは,ependylnomaの術後放射線療法を行い,9年後照射部位に一致してmalignant meningiomaの発生を見た1例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?