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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科7巻10号

1979年10月発行

雑誌目次

「良医」

著者: 神野哲夫

ページ範囲:P.921 - P.922

 最近,身の程も弁えず,学生の講義とやらに時間をとられる事が多い.それだけ忙しくなるが,新設大学なので,教育の方法にも随分と従来のものと異なる事があり楽しい.ただ現代流と言うか,国試対策のような授業が多くなるのは寂しい.その寂しさを紛らわすため,正規の授業外で,ふと学生に尋ねる.「いい医者って何んだい?」「良医の条件とは何だろう?」,多くの学生が第一に知力(学力,医学的知識,つまり良く勉強する事),第二に体力が必要とまでは躊躇なく答える.そこで重ねて問う「知力,体力のみでは良い医師にはなれないのではないか?何か第三のαが必要なのではないか?」.するとその第三のαとは,誠実,献身,人格,親切,人徳……と実に千差万別の答えが返ってくる.
 いろいろ答えがあるのが当然で,私自身も未だ答えを得ていない.誠実,親切,人格等,どれもが必要であると思う反面,何かもう一つ足りない気がしてならない.つまり絶対条件ではないように思われる.では何かと尋ねられても困るが,私自身の現時点の答えは,教祖的性格,つまりカリマス的性格が大切かもしれないというところであろうか.日本でも,いくつかある新興宗教の教祖の方々に医学的知識と体力を与えたら,すばらしい臨床医になられるであろうと思えてならない.いずれにせよ,この第三の因子αが,一人の脳神経外科医をして,どのような脳神経外科医であらしめるかという事を決定していると思える.

総説

中枢けいれんの生化学的機構—とくに神経伝達物質に関係して

著者: 森昭胤

ページ範囲:P.923 - P.931

Ⅰ.はじめに
 けいれんの中枢神経系における発現機構の生化学的研究は,最初脳神経外科医とその共同研究者らによって緒についたように思われる.20-30年前,てんかんの外科的療法として,皮質焦点切除術が推奨された時期があったが,Canadaの Penfield博士によって,てんかん治療のために剔出された患者脳皮質焦点組織は,彼の共同研究者ら1,2)により分析され,焦点組織においてはacetylcholineや,Na,Kの代謝異常が存在することを示唆するような重要な知見がえられていた.
 わが国においても,陣内門下のわれわれにより,同様な研究が開始され,てんかん焦点組織にはChE活性の低下やアミノ酸含有量の異常があることが明らかにされた3,4,5).しかし,その後,焦点組織切除後の瘢痕が再び焦点となる例のあることや,定位脳手術によるけいれん伝導路の破壊術などが発達したことなどの理由により,特殊な場合を除いて,このような手術がほとんど行われなくなったけれども,種々の実験的けいれんモデル動物を使用して,けいれん発現機構に関する生化学的検索が精力的に続けられてきた.そのさい,これらの研究の原動力となったものは,最近における化学分析技術の進歩と,脳内代謝過程などの生化学的知見の集積であった.

Case Study

外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻と外傷性頭蓋内内頸動脈瘤との合併

著者: 和賀志郎 ,   小島精

ページ範囲:P.933 - P.938

Ⅰ.緒言
 頭部外傷による外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCFと略す)や外傷性内頸動脈瘤の発生はよく知られている.しかし両者の合併例の報告例は少ない1,6,7,9,11,13).われわれは両者の合併した2症例を経験した.2症例とも術前の脳血管撮影ではCCFのみが診断され,塞栓術によってCCFの瘻孔が閉塞された後の血管撮影で外傷性内頸動脈瘤の存在がはじめて診断された.症例1の経験にもかかわらず,症例2においても両者の合併をCCFの瘻孔閉塞以前に診断し得なかった.両症例を呈示し,主に診断につき考察したい.なお症例1はすでに発表した症例である19)

Current Topics

高圧電子線照射動脈管による頸部内頸動脈再建に関する実験的研究

著者: 松村浩 ,   森脇祥文

ページ範囲:P.939 - P.944

Ⅰ.はじめに
 この一連の研究を行った研究者をまず紹介する.
  池田公行(前講師,現兵庫医大助教授)

研究

視交叉部髄膜腫の診断

著者: 北野郁夫 ,   横田晃 ,   前原史明 ,   益満務 ,   松角康彦

ページ範囲:P.945 - P.951

Ⅰ.はじめに
 視交叉部症候群を呈する脳腫瘍のうち代表的なものとして下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,髄膜腫が挙げられるが,これらの腫瘍の鑑別診断に関してこれまで神経眼科的所見6,9,15),あるいは神経放射線学的検討1,2,5,11,12)などが数多くなされてきた.しかしながら,実際の診療にあたってはこれらの腫瘍の鑑別診断は決して容易なものではない.われわれは過去9年間に経験した視交叉部髄膜腫7例を検討し,他の視交叉部腫瘍,とくに下重体腺腫および頭蓋咽頭腫との鑑別点に若干の知見を得たので,文献的考察を加え報告する.

脳神経外科的疾患患者の脳組織抗原による自己感作—白血球遊走阻止,白血球吸着阻止現象を利用して

著者: 織田祥史 ,   徳力康彦 ,   武内重二 ,   半田肇

ページ範囲:P.953 - P.959

Ⅰ.緒言
 近年cytotoxicity testに対する問題点が数多く提起され,加えて各種のin vitroの細胞免疫学的テスト法が,その感度の面から,抗原性の弱い人の腫瘍に対して応用しうるかどうかに多くの疑問がなげかけられている.他方白血球遊走阻止(LMI)試験,白血球吸着阻止(LAI)試験は,比較的感度が高く,また非特異的反応の余地が少ないものと理解されている.従来より私達はLMI試験を用いて脳腫瘍患者の免疫反応を調べてきたが,その過程で対照群として用いた,他の脳神経外科的疾患患者の白血球が,正常脳組織抗原によって感作されていることを知ったので,LAI試験と比較検討を加えて報告する.

CTによる破裂脳動脈瘤の診断と病態分析

著者: 栗田勇 ,   小林啓志

ページ範囲:P.961 - P.968

Ⅰ.はじめに
 1972年Hounsfieldにより発表されて以来のCT scan (以下 CT)の普及はめざましく,今日ではCTのない脳神経外科の診療は老えられない程重要な補助検査法となり,破裂脳動脈瘤におけるCTの意義も強調されつつある6,11,12,17,21)
 一方,近年の手術用顕微鏡の普及で,脳動脈瘤の直達手術の成績は飛躍的に向上した.しかしこの直達手術は,術前Gradeの不良例,手術時期の選択,くも膜下出血に続発する脳血管攣縮や脳梗塞,あるいは髄液循環不全に伴う急性脳室拡大,正常圧水頭症など検討すべき幾多の問題をかかえており,その病態解明が治療方針の選択に直結すると考えられる1,11)

転移性脳腫瘍および癌性髄膜炎のComputed Tomography像

著者: 能勢忠男 ,   秋本宏 ,   伴野悠士 ,   牧豊

ページ範囲:P.969 - P.975

Ⅰ.緒言
 頭蓋内腫瘍のうち転移性脳腫瘍のしめる割合は,従来18%(Baker)1),7%(Zulch)16),17%(所)15),23%(Butler)2)などと報告されているが,高齢者社会へと変遷してゆく今後はその頻度も増し,ますます重要な疾患となろう.
 Computed Tomography (以下CTと略す)の出現により,神経系疾患の診断は,より非侵襲的に,また,より正確になって来ている.本疾患群に対するCTの診断率に関しては100%(New)10),98%(Elkeら)5),97%(前原)9),62%(Deckら)4)などと報告されている.

脳動脈瘤術後消化管出血

著者: 田中悟 ,   森照明 ,   大原宏夫 ,   高久晃 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.977 - P.981

Ⅰ.はじめに
 脳疾患に併発する消化管出血はCushing ulcerとも呼ばれ,一般に予後不良を示している.
 さて現在迄高血圧性脳出血の際の消化管出血に関しての報告は多いが,一方破裂脳動脈瘤の際に発生する消化管出血に関する報告は少ない.今回は自験1,000例の嚢状動脈瘤の直接手術例を母集団として,消化管出血を合併した症例について,術後重症度,手術所見などの臨床的見地から種々検討した.

症例

小児脳動脈瘤の2例—症例報告および年齢と好発部位に関する考察

著者: 伊藤保博 ,   田崎寿人 ,   樋口皓史 ,   中沢省三

ページ範囲:P.983 - P.988

Ⅰ.はじめに
 小児脳動脈瘤は近年その症例報告が増えつつあるが,決して多いものではない.本邦における鈴木ら30)の集計でも10歳以下が0.1%,11歳から20歳までが1.9%で小児例はきわめて少ない.また小児脳動脈瘤は,成人のものと比べ好発部位が若干異なっている事が指摘されているが1),中には成人例に見られるごとく動脈瘤頸部にアテローム硬化を有しているものも報告されている18,24,35)
 われわれは昨今,2例の小児脳動脈瘤を経験した.症例1は中大脳動脈遠位部に発生し脳内血腫を合併した重症例であり,症例2は前交通動脈に発生し,かつその頸部にアテローム硬化が認められた症例で,いずれも手術により全治退院した.以上2症例につき病因の推察と若干の文献的考察を加えて報告する.

定位脳手術法により脳内異物(弾丸片)を剔出した1例

著者: 吉嶋淳生 ,   村山佳久 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.989 - P.994

Ⅰ.緒言
 従来より脳の深部に存在する異物の剔出は,脳血管写あるいは立体撮影などのレ線学的補助検査を行って,そのおよその位置を知り,開頭術を行って脳の深部でその異物を探しあてて剔出する方法が一般に行われてきた.このような手術法では脳内で異物を探す操作により異物近辺の健常脳組織を不必要に損傷する危険があり,手術侵襲も大きくならざるをえない.したがって,その異物がさしたる神経学的障害を惹起していなければ,むしろ剔出は断念した方がよいとする意見すらみられる.しかし,その異物への安全かつ確実な到達路が決定でき,手術中具体的にその路を知ることができれば,異物剔出操作による脳の副損傷は最小限度となり,かつ手術も簡単となるため,このような異物剔出手術の適応はかなり拡大できると考えられる.
 さて最近われわれは右後頭葉深部に18年間残遺していた弾丸片を定位脳手術により到達路を定め,手術用顕微鏡下にその到達路をたどり,安全に弾丸片を剔出しえた1例を経験したので報告する.

静脈片移植により血行再建を行った頭蓋内巨大内頸動脈瘤根治手術の1例

著者: 岩淵隆 ,   石井正三 ,   蕎麦田英治 ,   関谷徹治 ,   熊坂義裕 ,   武部和夫

ページ範囲:P.995 - P.999

Ⅰ.はじめに
 直達手術の困難な内頸動脈サイフォン部巨大紛錘形動脈瘤を内頸動脈循環から遊離,同時に動脈瘤体部を切開吸引後縫縮し,更に25cmにおよぶ遊離自家静脈片により頭蓋内血行を再建して根治せしめ得た症例を最近経験したので,本手術法の要点ならびに術後経過と術前後の諸検査結果に基づく検討を併せて報告する.

脳血管写上自然消失を示した後頭蓋窩硬膜動静脈奇形の1例

著者: 遠藤俊郎 ,   甲州啓二 ,   児玉南海雄 ,   岡田仁

ページ範囲:P.1001 - P.1004

Ⅰ.はじめに
 硬膜動静脈奇形は,近年注目を浴びており,その成因ならびに治療法に関し種々の検討がなされている.
 今回われわれは,29歳の女性で脳虚血発作にて発症し,脳血管撮影にて後頭蓋窩硬膜動静脈奇形を認め,対症療法のみで経過観察を行っていたところ,2年1カ月後の脳血管撮影では動静脈奇形がほぼ完全に消失していた症例を経験した.この様な硬膜動静脈奇形のいわゆる自然治癒に関しては文献上われわれの知り得た限りでは2例の報告をみるのみであり,若干の考察と共に本症例を報告する.

頭蓋外転移を生じたMedulloblastoma—症例報告

著者: 成瀬昭二 ,   堀川義治 ,   山木垂水 ,   小竹源也 ,   遠山光郎 ,   平川公義

ページ範囲:P.1005 - P.1010

Ⅰ.緒言
 原発性脳腫瘍が,中枢神経系外へ転移することは非常に少なく,meningioma, glioblastoma, medulloblastomaなどでその報告例が,時々みられるにすぎない.そのため,転移の原因,経路などに関しては不明の部分が多く,その実態は明らかでない.
 最近,われわれは小脳のmedulloblastoma剔出3年6カ月後に局所再発が生じ,再別出2年後に,リンパ節,骨などの全身性転移の認められた症例を経験したので,その詳細を報告し,転移を生じる要因について考察を加る.

頭蓋内病巣を伴ったMaffucci症候群の1例

著者: 元持雅男 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   増田彰夫 ,   青山育弘

ページ範囲:P.1011 - P.1015

Ⅰ.はじめに
 Maffucci症候群とは先天性,非遺伝性の,中胚葉性形成不全症であり,内軟骨腫症および多発性血管腫を合併する稀れな症候群である.
 諸外国で,せいぜい150例程度の報告があったと思われるが,本邦での神経内科または脳神経外科関係の雑誌への報告は未だなく,整形外科,皮膚科からのものが主で,頭蓋内病巣が少ない事が,この一因かとも思われる.われわれは,頭蓋内軟骨腫を伴うMaffucci症候群を経験したので,文献考察を加えて報告したい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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