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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科7巻11号

1979年11月発行

雑誌目次

守備の心

著者: 和賀志郎

ページ範囲:P.1021 - P.1022

 私は草野球の選手です.30代にいかにも草野球らしく下腿骨骨折に見舞われ,もう草野球とはお別れと諦めていました.ところが主だ空地の多い田園地帯に引越して来てにわかに復活しました.今のところ監督,先発投手,4番打者という重責を担っています.草野球と「脳神経外科」の扉とどういう関係があるのか,とまともに質問されると困ってしまうのですが,いろいろに解釈できる面もあると思います.まあ聞いて下さい.
 勝ち負けはどちらでもよい,要は心身の鍛練であるという見方にとくに反対する理由はありませんが,やはり勝負事は勝つ方がずっと爽快ですから,正直なところ心のなかでは必戦必勝の信念に燃えています.草野球はその名の通り,一人一人が心技ともに未熟な者の野球です.勝れた投手が相手の攻撃をピッシャリ抑えてくれたり,内外野の守りが鉄壁であったり,打撃陣が連続安打の可能性をもっていたりということは期待できないのです.一人一人が自分の力量に応じたまずまずの働きをしてくれないと勝利には結びつきません.野球経験のない人にはキャッチボールやバットの振り方を教え,野球を観,野球を知ることを推めなければなりません.大切なことはプロ野球や高校野球でみられる見事なプレーは自分達初心者には真似ることができないことだと知ることかも知れません.野球は投手偏重のゲームですから投手の役割はとくに重要です.

総説

ニューロンとグリアの突起

著者: 平野朝雄

ページ範囲:P.1023 - P.1033

はじめに
 中枢神経を構成する細胞は,神経組織の主要な細胞である神経細胞と支持細胞であるグリアであります.神経系を扱う人々は,臨床家であれ,研究者であれ,誰もがニューロンとグリアに対する1つのimageをもっておりまして,そのimageが解剖,生理,医化学,病理,臨床を問わず,神経系を考える場合に,意識的または無意識的に考え方の中核をなしているものであります.そこで,私の話を始める前にまず,ここにおられる学生の方の一人にニューロンとグリア,即ちastrocyteとoligodendrogliaの略図を黒板に書いていただきたいと思います.
 Fig.1がその略図でありまして,現在一般に通用しております概念をよく表現しております.

Case Study

多飲多尿で発症した症例

著者: 木下和夫 ,   山川勇造 ,   栗林忠信 ,   長嶺元久

ページ範囲:P.1035 - P.1043

症例:13歳男児(AO8208)

Current Topics

腫瘍血管増生因子

著者: 松野治雄 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.1045 - P.1048

Ⅰ.はじめに
 固形腫瘍に血管が豊富に観察されるという事実はよく知られている.しかし,腫瘍の血管増生のメカニズムに関する研究は比較的最近のものである,腫瘍が宿主の血管を刺激し,増生を促進する物質を放出するという考え方がある程度支持されてきているが,その本体についてはまだ不明な点が多い.この血管増生を促進する物質は何か,固形腫瘍の血管増生と創傷治癒や炎症時の血管形成との類似と相違,腫瘍の発生から成長増殖の過程で血管増生の果す役割,さらには腫瘍の血管増生を阻止することによる治療の可能性など,多くの問題がある.

遺伝子操作

著者: 中村桂子

ページ範囲:P.1049 - P.1051

 遺伝研究は,最近の生物学,医学分野での中心課題の1つといえよう.生物学では,分子生物学と呼ばれる分野が,この25年程の間にめざましい発展をしたが,その中でも特筆すべき成果は,遺伝子(DNA)の構造と機能の解明である.生物を,遺伝子というテープに組み込まれた情報に従って動く分子機械としてとらえ,その機能の解析を精力的に行ったのである.一方医学でも,遺伝と病気という問題が重要課題となりつつある.先天性代謝異常のように遺伝子と直接結びつく病気,がんや高血圧・糖尿病などの成人病と遺伝との関係,環境因子の遺伝への影響など問題は多様である.
 このような状況のもと,1970年代になって分子生物学研究の中で,遺伝子操作という技術が開発されるにいたりて,遺伝という問題は,さらに複雑な課題となった.生体の基本物質である遺伝子に人為的操作を加えるという技術は,生命現象解明に大いに役立つであろうという期待と同時にさまざまな危険を感じさせるからである.

研究

特発性脳内血腫—自験36例の検討.特にCTのはたす役割について

著者: 伊達裕昭 ,   細井湧一 ,   渡辺義郎 ,   山浦晶 ,   牧野博安

ページ範囲:P.1053 - P.1060

Ⅰ.はじめに
 脳内血腫の中で,外傷・高血圧・脳動脈瘤・脳動静脈奇形・血液凝固異常など明らかな原因を見出すことのできない,いわゆる特発性脳内血腫は,若年者に多く,出血部位が皮質下の白質内であり,予後が良いなどの特徴を有する1つのclinical entityとして扱われることが多い.近年こうした原因不明の特発性脳内血腫に脳血管写上もしくは病理組織上,small angiomatous malformation (SAM)を証明する例が増加し,この疾患の呼称にも混乱がみられるが,今回は従来からいわれるように外傷・高血圧など明らかな原因を見出し得ない脳内血腫を特発性脳内血腫と解して,自験36例を集計分析し,その臨床像の多彩性を明らかにすると共に従来の補助検査による診断上の問題点,予後などにつき検討を加えた.

133Xe静脈内投与による局所脳血流量測定方法の検討

著者: 馬場啓至 ,   森山忠良 ,   小野博久 ,   森和夫 ,   小野憲爾 ,   佐藤謙助

ページ範囲:P.1061 - P.1065

Ⅰ.はじめに
 局所脳血流量(rCBF)の測定には133Xeの頸動脈内動注法が広く用いられている.しかし,本法は頸動脈に閉塞性病変のある患者には,施行不能あるいは著しく困難であり,かつ高いリスクを伴う.一方,閉塞性脳血管障害患者においては,その治療法の選択や子後の推定に局所脳血流量測定が必要不可欠となることが多く,より安全で手技の簡易な測定法の開発が望まれている.われわれはこの目的のために,133Xe静注による局所脳血流量測定法の開発を試みたので,主として測定装置の概要,血流量計算および,そのコンピューター処理法についてのべ,併せて得られた臨床成績についても報告する.

無縫合微小血管吻合—Soluble PVA tubeとplastic adhesiveによる実験的動脈端一端吻合

著者: 山形専 ,   半田肇 ,   滝和郎 ,   米川泰弘 ,   筏義人 ,   岩田博夫

ページ範囲:P.1067 - P.1073

Ⅰ.はじめに
 微小血管吻合の歴史はまだ浅く,1960年,Jacobson15)らによって開始されたと言ってよい.以後数多くの実験・臨床経験が積み重ねられ,吻合技術とその使用器具の進歩とともに微小血管吻合の適応は脳神経外利・形成外科の分野において大いに拡大されてきている.とくに脳神経外科領域では,1967年,DonaghyおよびYasargil7)により頭蓋外血管の浅側頭動脈と中大脳動脈の皮質枝との吻合術が行われて以来,頭蓋外—頭蓋内血管吻合術は閉塞性脳血管障害に対する外科的治療法の1つとして確立されつつある34).しかしながら外径1mm程度の血管吻合術で高い開存率を得ることは必ずしも容易とは言えず,また深い場所での吻合は困難とされる.そこで吻合操作をより簡単に,しかも短時間で行うことの出来るような従来の手縫法に代わる種々の新しい方法が試みられてきた.藤野8)らはこれらの方法をそれぞれ,stapler法,cuff法,ring Pin接着剤法,電気凝固法,組み合せによる方法24,31)とに分類し,各々の長所短所を指摘している.しかしこれらの方法の多くは外径が3mm以上の血管におけるものであり,外径1mm前後の微小血管吻合法としての報告は未だ少ない13)

閉鎖性重症頭部外傷の機能予後に関する問題点—contingent negative variationよりみた精神機能障害

著者: 片山容一 ,   坪川孝志 ,   山本隆充 ,   北村守彦 ,   西本博 ,   森安信雄

ページ範囲:P.1075 - P.1082

I.緒言
 重症頭部外傷症例の社会復帰に際して,運動麻痺や失語症などがその阻害因子となり得ることは論をまたないが,一見正常人と変らぬ神経活動を有すると思われるまで回復しながら,なお社会復帰が長期にわたり遅れている症例が少なからず認められる.その際にみられる症候は,非積極性,注意散漫,易刺激性など比較的軽微な精神症状が主体となっており,それが器質的脳損傷に由来するものか否か判定に苦慮する場合も少なくない12,25,31,44,45).このような症状は従来外傷後の神経症との関係において論ぜられてきたが,明確な病巣性精神症状を示す場合は別として18,32,33),器質的脳損傷に基づくと考えられる上記のごとき軽微な精神症状の病態に関する記述は少なかった.その主要な原因は,第一に,器質的脳損傷による症状に加えて,年齢,受傷前の職業の特性,病前性格,社会的地位,長期の病悩期間による非特異的反応,さらに外傷神経症,背景反応,詐病,外傷性頸部症候群の合併など,複雑な因子が重なっている場合があること19,25,29,31).第二に,上記のごとき不定の症候を定量的に把握する手段が確立していないこと12,13,23),この二点に求められる.

症例

晩発性Arnold-Chiari奇形(2型)—CT所見を中心に

著者: 江頭泰平 ,   吉井与志彦 ,   牧豊

ページ範囲:P.1083 - P.1087

Ⅰ.はじめに
 成人で発症するArnold-Chiari奇形について,その晩発性についての原因は不明である.診断については,Applebyら1)は,背臥位にてのmyelographyの有効性を述べているが,一方Nortonら10)は,高齢者での危険性を指摘している.手術については,脊髄空洞症の合併の有無が問題とされている1).脊髄空洞症合併例では,それが髄液循環障害による,hydromyelia5)ないしは,交通性脊髄空洞症3)であるとの考えから,脊髄空洞症の症状が出現したらできるだけ早期に手術すべきであり1,3),第1,第2頸椎々弓切除術を含む後頭蓋窩減圧術のみとするもの1),あるいは脊髄中心管の髄液貯溜を妨げる諸方法を加えるのが良いとするものがある3-5,7,12)
 今回,著者らは,50歳と比較的高齢で発症し,CTスキャンにて交通性延髄空洞症の合併を診断でき,後頭蓋窩減圧術に脳室・腹腔短絡術を加える事により術後良好な成績を得たArnold-Chiari奇形2型の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

脊髄損傷における遅発性交代性ホルネル徴候

著者: 乙供通則 ,  

ページ範囲:P.1089 - P.1094

Ⅰ.はじめに
 脊髄損傷の患者に,遅発性の一過性交代性ホルネル徴候を認める事があり,その原因は脊髄内の空洞形成で,その中の液体の移動による自律神経系の刺激によると言われている4,18)
 今回われわれは,同様の症状を訴え来院した患者に,手術時,硬膜と損傷脊髄との強い癒着以外に,穿刺によっても空洞形成を認めなかった症例を経験した.そのため,手術では癒着剥離以外には何も行わなかったのに,術後著明な症状の改善を認めた.

Intraspinal enterogenous cystの1治験例

著者: 尹清市 ,   重森稔 ,   石井睦 ,   草野則文 ,   高木繁幸

ページ範囲:P.1095 - P.1099

Ⅰ.はじめに
 脊椎管内にあって,内面が腸管系あるいは呼吸器系上皮細胞によって覆われた嚢腫は,1928年Kubie and Fulton17)が脊髄のteratomatous cystとして2症例を報告して以来,enterogenous cyst4,15,18,29,30),ependymal,cyst12,21),teratoid or teratomatous cyst26,27,31)さらにneurenteric cyst10,19,23,33)などの名称で報告されている.この嚢腫の報告例は,今回著者らが調べた範囲では現在まで72例で,本邦での報告例は未だきわめて少ない5,14,15,23,24,31).最近著者らは,.下位頸髄—上位胸髄部に発生したenterogeneous cystで,手術により箸明な症状の改善を得た症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内進展を呈した頭蓋骨巨細胞腫瘍の1例

著者: 上野一朗 ,   豊島駿 ,   淵之上徳郎 ,   矢作保治 ,   中村俊彦 ,   久保長生

ページ範囲:P.1101 - P.1108

Ⅰ.はじめに
 1818年Cooperの記載以来巨細胞腫瘍に関しては数数の報告がみられるが,本腫瘍は骨原発腫瘍の4%を占めるにすぎず,長管骨特に膝関節部に好発する.頭蓋骨での発生はきわめて稀であり,現在までにわずかに27例の文献的報告をみるだけである2).われわれは前頭骨原発の巨細胞腫瘍が硬膜に浸潤し,さらに脳内にまで侵入した1例を経験したので報告する.

破裂脳動脈瘤症例に対するLiliequist膜切開術

著者: 東健一郎 ,   波多野光紀 ,   岡村知實 ,   山下哲男

ページ範囲:P.1109 - P.1114

Ⅰ.緒言
 くも膜下出血(SAH)後に髄膜の肥厚,癒着により髄液循環障害を来し,交通性水頭症が発生する症例のあることは,よく知られている.SAH後に水頭症の発生する頻度は,10-43%と報告されているが5,6,15),われわれは185例のSAH連続症例で検討した結果,水頭症の発生率は16.8%であった9).このようなSAH後の水頭症の予防法に関しては,従来は全く未開拓の分野であったが,最近坂本ら14)は,破裂脳動脈瘤症例に対して,髄液循環障害改善の目的で第3脳室造瘻術を試み,shunt手術を要する症例が減少したことを報告している,われわれは同様の目的でLiliequist膜切開術を試みたので,その結果を報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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