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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科7巻12号

1979年12月発行

雑誌目次

卒前教育について

著者: 石川進

ページ範囲:P.1121 - P.1122

 大学の臨床医学講座のstaffには教育,研究,診療の3つの義務があることは周知の通りである.本来この3つはすべて同一の重みを持ち,どれひとつとしてゆるがせに出来るものではないが,現実には研究が最も重視され,多くの場合著書,論文の数によってその人の評価が決まってしまう傾向がある.従って研究・著作活動が極めて重要になるのは言うまでもないが,同時に脳神経外科医は手術に多大の時間とエネルギーを注ぎ込まなくてはならず,こうなると少数の超人を除き,卒前教育が相当負担になってくるのも無理からぬことである.3つの義務のそれぞれに費やす時間とエネルギーは,staffの職種,年齢によって相当異なってこようが,卒前教育に思う存分の時間とエネルギーをさき得る人が果してどれ程あるであろうか.
 この4月に新設医大に赴任し,既に作られていたカリキュラムに従って4年生(6か年一貫教育の4年目で既設の大学の学部2年生に当たる.)に脳神経外科学全般を,しかもかなり少ない時間数で教えさせられるはめになった.前任地では長年の間卒前教育に当たってきたが,これらはいずれも臨床医学にかなり習熟した学部4年ないし3年を対象としたものであり,臨床医学は始めてという学生を前にして,少なからずとまどっているのがいつわらざる心境である.しかし付属病院開院のための雑用に追いまくられながらも,脳神経外科学の卒前教育はどうあるべきかを,真剣に考えてみるのにはよい機会であろう.

総説

Metrizamideによる脳室,脳槽および頸部脊髄撮影

著者: 小林直紀 ,   斎藤由子

ページ範囲:P.1123 - P.1132

Ⅰ.はじめに
 脳槽撮影あるいは脊髄撮影には,これまで,lipiodolやmyodilなどの油溶性造影剤および空気あるいは酸素などの気体(陰性造影剤)が用いられてきた.油溶性造影剤はその吸収不良性とともに,髄膜炎あるいはくも膜炎の原因となり得ることは古くから知られており,気脳撮影はこれによる激しい頭痛が障害となり,gasmyelographyは患者を長時間,術中術後にわたり,不自然な体位に置くことを余儀なくさせ,神経根あるいは根嚢の造影が悪いという欠点を有している.これらの点より,粘稠性が低く,拡散性の大きい,吸収性の良好な水溶性造影剤の開発が待たれていた.1931年にArnells7)によって使用された水溶性のabrodilは刺激性が強く,腰部に限って,腰椎麻酔下に使用しなければならない欠点があった.1964年にはCampbellら12)が刺激性の比較的少ないmethylglucamine iothalamate(conray)を脳室撮影および脊髄撮影に用いて以来,これがヨーロッパおよび北欧を中心に広く用いられてきた.さらに1970年にはmethylglucamine iocarmate (dimer-X,dirax)がさらに刺激性の少ない造影剤として開発されるに到った9,17)

Case Study

肝機能障害を伴った脳室内出血の1例

著者: 永井肇 ,   若林繁夫 ,   高木卓爾

ページ範囲:P.1133 - P.1138

Ⅰ.はじめに
 脳室内出血は高血圧性脳内血腫に合併する事が多く,予後不良である.次いで脳室壁および周囲の脳動静脈奇形の破裂による,いわゆるprimary intraventricular hemorrhage,更には脳動脈瘤の破裂による脳室内出血などが知られている.
 未熟児では脳室上衣下に存在するgerminal matrixの血管破綻に起因する脳室内出血が主な死因の1つに挙げられている.この他比較的稀な原因として白血病,紫斑病,再生不良性貧血などの血液疾患,脳室内およびその近傍の脳腫瘍,全身の血管炎,抗凝固剤使用などが挙げられる.

Current Topics

Hereditary Asplenic-Athymic Mouse—Heterotransplantation of Human Glioma

著者: 山下正文 ,   竹下岩男 ,   大田典也 ,   高木東介 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.1139 - P.1144

Ⅰ.はじめに
 先天性無脾臓無胸腺(hereditary asplenic-athymic)マウス8,10,11,12)は,無胸腺ヌードマウス3,15,17)におけるT細胞機能不全に加え,無脾臓マウス1,4,5,6,8,11,12,16)のB細胞機能低下を合わせ持つマウスで,Lozzioらにより最初に報告され"Lasat"(ラサット)マウスと呼ばれている.このマウスは免疫学や血液学の分野において基礎的研究の対象として興味を持たれているばかりでなく,無胸腺ヌードマウスにおいて満足な移植成績の得られなかったヒト良性および悪性腫瘍,あるいはヒト正常組織の移植実験においても有用性が期待されている.ここに無脾臓マウスの由来,Lasatマウスの作出,特徴さらにこのマウスへのヒト神経膠腫の移植応用の実例について述べる.

研究

くも膜下出血後の脳室拡大と髄液循環障害

著者: 東健一郎 ,   波多野光紀 ,   岡村知實 ,   山下哲男

ページ範囲:P.1145 - P.1154

Ⅰ.緒言
 くも膜下腔における出血が無菌性髄膜炎をひき起こし,その結果髄膜の肥厚・癒着を来すことは,Bagley2,3)によって1928年に初めて実験的,臨床的に認められたが,このような髄膜の反応は,当然くも膜下腔における髄液の循環を妨げ,交通性水頭症の原因となるもので,Krayenbuhl & Luthy19)によって1948年に初めてくも膜下出血(SAH)後の水頭症の発生が臨床的および病理学的に示されて以来,数多くの報告がなされている.一方Hakimら12),Adamsら1)によって正常髄液圧水頭症の概念が導入されて以来,SAH後の髄液循環障害の発生機序について,次第に関心が高まって来た.とくに最近になって,RI-cisternographyやinfusion manometric testによって髄液循環動態が形態的,機能的に把握できるようになり,さらにCTの開現によって,脳の形態をも含めて,髄液腔の検索が可能となったため,この方面の研究は長足の進歩を遂げた.このような新しい方法を駆使しての,髄液循環の病態生理の研究も数多くなされているが,SAHに続発する水頭症の診断と治療に際しては,実際上脳室の拡大と臨床症状の不一致や,検査所見と治療成績が一致しない場合も多い.

脳底動脈におけるレ線学的検討およびその臨床的意義について—脳血管撮影像について

著者: 秋本宏

ページ範囲:P.1155 - P.1162

Ⅰ.はじめに
 脳底動脈のnormal variationに関する論文は,比較的多く,外国ではTaveras & Wood(1964)15),Krayenbuhl & Yasargil(1968)8),Scialfa(1976)13)などや,国内では足立,長谷川(1928)6より引用),向井(1961)10),亀山(1961)5)などが代表的なものである.しかし多くは,剖検例によるものや,レ線学的検討であっても部分的なものが多い.著者は,臨床診断に役立てる目的で通常もちいられている椎骨動脈撮影写真上で,脳底動脈の正常走行の検討を行った.

RatにおけるCompression cerebral ischemia—その2.脳波の回復について

著者: 川上千之 ,  

ページ範囲:P.1163 - P.1169

Ⅰ.はじめに
 脳虚血後の脳機能の回復については議論の多いところである6,20).脳波は脳機能を示す某本的なparameterの1つであり5,23),実験動物で最も観察が容易なものの1つであるため従来から脳虚血後の脳波の回復についての研究は多いが,それらのほとんどは視覚的な分析によるものである3,19,21).これらの研究の結果,脳虚血後の脳再循環開始以後初めて脳波が出現するまでの時間(latency of recovery)が脳虚血による脳の損傷の程度を反映しているということがわかって来た2,4)
 著者らは白鼠において機能回復が良好なcompression ischemia modelを作製し,第1報でこのmodelの紹介と,脳機能回復におよぼす全身的要素の影響について報告した10).この筆者らのmodelは類似の方法で同程度の時間にわたる脳虚血を行った他の報告よりも脳波の回復が良好であると思われるので13,14),この脳波について詳細に分析することは脳虚血からの回復の過程や限界を知るうえで有意義なことであろう.

Spinal C.T.の経験

著者: 井須豊彦 ,   伊藤輝史 ,   岩崎喜信 ,   都留美都雄 ,   中川端午 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.1171 - P.1178

Ⅰ.はじめに
 頭部疾患に対するComputed Tomography(コンピューター断層撮影.以下C.T.と略す)の有用性は,既に周知のこととなったが,近年,脊髄疾患におけるspinal C.T.の重要性も認識され始めてきた5,7,8,13,14,16).われわれは,最近経験したspinal C.T.を供覧し,種々の問題点につき検討を加えた.

症例

脳梁脂肪腫の1手術例

著者: 清水恵司 ,   近藤孝 ,   岩田吉一 ,   六川二郎 ,   最上平太郎 ,   西窪良彦 ,   三浦尚 ,   御供政紀

ページ範囲:P.1179 - P.1183

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内脂肪腫は,脳腫瘍の中でも頻度の少ない腫瘍であり,その大半は脳梁部に発生するといわれている18).1939年Sosman13)が頭蓋単純写上の特徴ある所見を報告して以来,診断学的には興味ある対象ではあるが,外科手術の対象としては批判的な報告が占めてきた4,5,12,13,14,17)
 私どもは,自動症を伴う意識消失発作を有し,頭蓋単純写でも典型的な所見を示した脳梁脂肪腫を亜全剔出し,症状を消失させることに成功した1例を報告する.

テント切痕ヘルニアによる同名側半盲

著者: 大塚邦夫 ,   中川翼 ,   阿部弘 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.1185 - P.1191

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内テント上病変により生じた下向性テント切痕ヘルニアにより病理学的変化の1つとして後頭葉の梗塞を生ずることは,Meyer7)(1929)の報告以来知られていることである.しかし,テント切痕ヘルニアの臨床症状として同名側半盲を認めた報告2,4,5,8,11)は比較的少ない.
 筆者らはテント切痕ヘルニアより回復した急性外傷性頭蓋内血腫例の術後に,同名側半盲を確認した2症例を経験し,5年から7年間の経過観察を行った.この視野障害の特徴を示すとともに,1症例について術後早期に繰り返し施行した脳血管写と術後7年目のCT scanの所見より,その発生機序に関して興味ある知見を得たので文献的考察を加えて報告する.

くも膜下出血に起因する硝子体出血(Terson症候群)

著者: 藤本清成 ,   和賀志郎 ,   小島精 ,   山本義介

ページ範囲:P.1193 - P.1196

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血に伴う眼底出血のうち,網膜出血および前網膜出血は比較的多いが,硝子体出血は稀である5,7,11,12,16).1900年,Tersonが最初にくも膜下出血に硝子体出血が合併する事を記載したといわれ,以後報告例は散見される.その発生機序については,議論の多い所であるが,現在,基本的には急激に上昇した頭蓋内圧が,硝子体出血の誘因となると考えられている2,3,7,9,16).今回,われわれは右椎骨動脈動脈瘤の破裂によるくも膜下出血後,両側硝子体出血を来した1例を経験したので,その発生機序を中心に文献的考察を加えて報告する.

頸部回転による外傷性椎骨動脈閉塞症

著者: 呉屋朝和 ,   木下和夫 ,   三原桂吉

ページ範囲:P.1197 - P.1202

Ⅰ.はじめに
 椎骨脳底動脈循環障害の原因を頸部にもとめると,環軸偏位2,28),頸部の過伸展,屈曲,回転による椎骨動脈の圧迫23,25),頸部脊椎症のためosteophyteによる椎骨動脈への圧迫1,8,24,26,27),さらに中枢側でPowers症候群,頸肋など15,19)のように椎骨動脈起始部付近における圧迫など,その走行中,種々のレベルでの障害が報告されている.
 また外傷による類椎の骨折脱臼を伴う椎骨脳底動脈循環障害は臨床的にしばしば遭遇する病態である.動脈硬化性変化の存在はこれらの原因による循環障害を促進させる要因でもある27)

副中大脳動脈に合併した内頸動脈瘤の1例

著者: 宗像克治 ,   大森英俊 ,   金沢泰雄 ,   宮崎紳一郎 ,   福嶋廣己 ,   鎌開健一

ページ範囲:P.1203 - P.1207

Ⅰ.はじめに
 副中大脳動脈とは,内頸動脈や前大脳動脈から起こり,中大脳動脈主幹と平行に側方に走り中大脳動脈領域の一部に分布する異常動脈を言う.
 1962年Crompton2)により初めて記載されたこの異常動脈は,現在までに文献上約50例を見るに過ぎない2,4-9,11-17).更に脳動脈瘤との合併は8例2,5,9,11,12,14,16)と,はなはだ珍らしいものである.

Spontaneous Hematomyeliaの1手術例

著者: 浅野良夫 ,   古瀬和寛 ,   山田博是 ,   景山直樹

ページ範囲:P.1209 - P.1212

Ⅰ.はじめに
 脊髄内出血はその大部分が外傷に起因し12),いわゆる特発性脊髄内出血"spontaneous hematomyelia"の発生は稀なものとされている.文献上,本邦報告例はわれわれの調べた範囲では,加藤ら9)の1例のみと思われる.われわれは最近,突然の背部から上肢にかけての痛みで発症し,その後急激に四肢麻痺・知覚解離などの症状を呈したspontaneous hematomyeliaの1手術例を経験し良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第7巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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