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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科7巻5号

1979年05月発行

雑誌目次

歴史的なこと

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.415 - P.416

 新学期が始まりますと,総論の講義に先立って,教壇に立つ身には,脳神経外科の歴史的な事柄を,多少とも喋ることになります.Peruvian Mochican Ceramicで始まるのは良いのですが,いつもHarvey Cushingの略伝らしき内容でお茶をにごす破目となります,近代外科学の足跡に相応して,脳神経外科学の発展を史的に意義づけるのには,あまりにも不勉強で,歴史を語る年齢ではないと言訳をしながらも,史的劣等感をあじわうのは,毎年桜の花の咲く頃です.
 1936年頃,わが国における脳神経外科学のパイオニアである,今ではもう故人の高名な教授の方々が,留学に際して,Cushing, DandyやTonnisといった人達に接して見聞したことが語り伝えられております.近代脳神経外科学の発展に偉大な業績を残された先人であれば,ある程に,その人柄や背景となる事象に興味をそそられますし,伝聞や随想の域を脱した脳神経外科学の歴史書があればと,かねがね思っておりました.

総説

プライマリ・ケア—脳神経外科との関連で

著者: 植村研一

ページ範囲:P.417 - P.421

はじめに
 最近プライマリ・ケア(primary care)という言葉がよく聞かれるようになったが,適切な日本語訳がないためもあって,その意味は使う人によってかなりのずれがあるようである.殊に高度に細分化された専門医療の担当者や医学教育者が,ややともすれば,自分達とは何か縁遠いもののように感じ,その真意と真価を認識しようとしないところに,他の先進文明国に比し,わが国の医療と医学教育におけるプライマリ・ケアの水準の格段の立遅れがあるように痛感されてならない.
 高度の臨床専門分野の1つである脳神経外科を例にとってみても,その学問や診療技術の水準は国際的に一流のレベルのものではあっても,頭部外傷にしろ脳血管障害にしろ,脳神経外科的問題を持つ患者の大半が一般外科医や一般内科医などより受けている医療の内容は,必ずしも適切なプライマリ・ケアといえないものが多々あるようである.これは,わが国でプライマリ・ケアを担当させられている一般実地臨床医の責任というよりは,脳神経外科医とその教育者の責任といった方が当を得ているように思う.

Case Study

頭部腫瘤を来たす疾患—頭瘤cephaloceleについて

著者: 松村浩 ,   河村悌夫

ページ範囲:P.423 - P.430

Ⅰ.症例
 患者:T.M.生後2カ月の男児.
 主 訴:眉間部の軟性腫瘤.

Current Topics

頭蓋内血管の超選択的血管造影および閉塞治療に対するBalloon catheterの応用

著者: 滝和郎 ,   半田肇 ,   山形専 ,   松田功 ,   米川泰弘 ,   筏義人 ,   岩川博夫

ページ範囲:P.431 - P.435

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤,脳動静脈奇形,脳動静脈瘻などに対する脳血管外科のapproachには,大きくわけて,血管外approachと血管内approachの2つがある.前者は,近年,Microsurgeryの導入などにより著しく進歩したが,未だ,その存在部位とか大きさによっては,手術の難しいものもある.また,かなり危険性を伴う場合もある.後者は最初,主として頸動脈海綿静脈洞瘻の治療に主眼がおかれていた.
 1930年,Brooksが筋肉片を用いて,頸動脈海綿静脈洞瘻を治療して以来1),栓塞材料,catheter,手技等に多くの改良がなされてき,1971年にはProloとHamberyがFogarty catheterを用いて頸動脈海綿静脈洞瘻を治療した4).このballoon catheterの導入は,2つの重要な意味をもっている.1つは栓塞子の大きさを自由に変化できること,もう1つは,より選択性を増すということである.しかしながら,これですべての問題が解決されたわけではなかった.それらの中でも頸動脈血流を保つこと,catheterからのballoonの離脱は大きな問題点である.

海外だより

米合衆国におけるCooperative Studyのもつ意義

著者: 星野孝夫

ページ範囲:P.437 - P.439

 日本とアメリカでは医療体制がやや異なっているため一概には批判できないのであるが,アメリカでは,日本にくらべてよくcooperative studyが育っている.脳神経外科領域でも,古くは,脳動脈瘤に対するcooperative study,近くは悪性脳腫瘍に対するcooperatives tudy,またごく最近は,middle meningialmiddle cerebral anastomosisの効果に関してcooperative studyが始められている.
 日本では大学とか大病院とかの組織が患者との医療の授受を行うのに対してアメリカでは医療が患者とその主治医との個人的な人間関係においてなされることに起因するのかもしれない.もう少し砕いていうと,アメリカではたとえ大学病院の脳神経外科に属していても,講師以上は医者としては全く独立していて,教授は教授,助教授は助教授で異なった治療方法や手術手技を行施しており,通常はその大学病院で統一された医療を行ってもいないし,行なおうともしない.

研究

ヒト下垂体腺腫の超微形態—腺腫によるホルモン産生と分泌顆粒との相関

著者: 清水庸夫 ,   川村勝 ,   藤井卓 ,   三隅修三 ,   武田文和

ページ範囲:P.441 - P.453

Ⅰ.はじめに
 ヒト下垂体腺腫に関する電顕的研究3,8,10,12,17,18)や組織培養7)における近年の成果は従来non-functioningとみなされていた下垂体腺腫が少量ながらホルモンを産生する可能性を示し,臨床内分泌学の進歩とあいまって下垂体腺腫の分類や形態学的問題点の再検討の必要性を示唆し,また下垂体腺腫の外科治療に対しても大きな影響をおよぼしつつある.しかしながら文献上,下垂体腺腫の電顕像は腺腫の光顕的所見8,17,18)や,ヒトや動物の下垂体前葉の電顕像9,12,21),あるいはその腺腫例が示した臨床内分泌学的所見5,10,11,15)などとの対比のもとに解析されるにとどまっている.われわれは手術によって得たヒト下垂体腺腫組織を用いたin vitroの実験を行い,腺腫組織によるホルモン産生を合成と分泌にわけて定量的に測定し,同時に同一腺腫組織の電顕的観察を行い,検討した結果を報告した19).ここにその後の研究成績を加え,下垂体腺腫の電顕像について述べ,腺腫細胞の分泌顆粒とそのホルモン産生との相関について考察したい.

高血圧性脳出血におけるCT所見の経時的検討

著者: 秋本宏 ,   牧豊

ページ範囲:P.455 - P.464

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内出血巣の広がりの正確な診断には,最早やcomputed tomography(以下CT)は欠かせない.新鮮な出血巣はCTでは高X線吸収域として描出されるが,出血後,ある程度時間が経過した場合は必ずしも診断は容易ではない.
 高血圧性脳出血のまとまったCTの報告は必ずしも多くはなく,経時的観察ですぐれているのは,本邦における.上林ら6),三浦ら11),西嶌ら17)の報告が代表的なものといえる.

頭蓋内原発germ cell tumor

著者: 有田憲生 ,   生塩之敬 ,   早川徹 ,   渡辺優 ,   前田泰孝 ,   金井信博 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.465 - P.474

Ⅰ.はじめに
 睾丸に発生するgerm cell tumorは,Dixon and Moore9)による分類以来,seminoma,teratoma,choriccarcinoma,embyonal carcinomaの4基本型に基づく分類が試みられてきた.一方,松果体腫瘍では最も頻度が高く,"pinealoma"と呼ばれてきた腫瘍が睾丸に発生するseminomaと同一の病理組織像を示すことがRussell27)により指摘され,さらにFriedmann10)はこの腫瘍に対し"germinoma"という名称を提唱した.その後,seminomaのみならず睾丸に発生するすべての型のgerm cell tumorが頭蓋内にも原発性に発生することが確認されている.従来,頭蓋内原発germ cell tumorは松果体部に多発するため,pineocytoma, pineoblastomaなどとともに松果体腫瘍として扱われることが多かった.しかし,頭蓋内原発germ cell tumorは松果体部に限らず視交叉部などにも原発する点や,病理組織学的に特異な組織像を呈すること,腫瘍のあるものはhumanchorionic gonadotropin(HCG)を産生すること,また臨床的には尿崩症,思春期早発症を伴うなどきわめて特徴のある腫瘍であり,松果体部腫瘍としてよりもむしろgerm cell turnorという概念を重視すべきであると考えられる.

最近の髄液循環に関する知見に立脚した水頭症再分類の試み

著者: 苧坂邦彦 ,   森惟明 ,   半田肇

ページ範囲:P.475 - P.485

Ⅰ.はじめに
 19世紀末から今日にいたるまで「髄液は脈絡叢から産生されくも膜顆粒より吸収される」と一般に考えられてきた3,25,76).水頭症の病因もこの考えにしたがって考察され,大部分の水頭症は脳室系またはくも膜下腔など脳をとりまく髄液循環路の閉塞によって生ずるとの考えから74,99,100),閉塞部の開放術(中脳水道のcatheterization,第4脳室孔開放術)あるいは閉塞部に対するby-pass設置(Torkildsen手術,third ventriculostomy)などの治療法が試みられた18,23,24,64,74,106,112).このように水頭症の原因を主として脳をとりまく髄液循環路の障害におく考えは現在も水頭症の分類および治療指針の根底をなしている44,74)
 しかし近年髄液の産生吸収が脳室壁およびくも膜下腔においてもなされていることが指摘され髄液循環の概念は大きく変わりつつあり75,105),当然水頭症の病因およびその分類も新しい概念にそって再検討されるべきである.

症例

脳血管閉塞を唯一の初期血管造影所見とした乏突起神経膠腫の1例

著者: 深田忠次 ,   藤本一夫 ,   斎藤義一

ページ範囲:P.487 - P.492

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍が急性増悪をもって発症して,脳卒中と間違われる場合のあることはすでに指摘されている9,11,12)
 また一般に,脳腫瘍が血管攣縮のような変化を示すことはないとされているが3),血管造影法の進歩発達につれて,血管炎に類似する脳血管変化を脳腫瘍の場合にも経験することが明白にされつつある1,2,4-7,10)

シリコンゴム栓塞術による脊髄動静脈奇形の1治験例

著者: 柴田尚武 ,   安永暁生 ,   森山忠良 ,   森和夫

ページ範囲:P.493 - P.497

Ⅰ.緒言
 脊髄の動静脈奇形(以下AVMと略す)は選択的脊髄動脈撮影の進歩と手術用顕微鏡の使用により全剔出が可能となってきたが,脊髄内あるいは脊髄前面のものや,広範にひろがり,多数の導入動脈をもつものは依然として剔出が困難である.栓塞術が別出不能例の次善の策として用いられたり,全剔出の事前処置として行われているが,本邦では報告もきわめて少ない.
 最近,私共は直達手術を試みたが,硬膜外腔からの出血多量のため手術を中断した胸髄AVMの患者に,シリコンゴム栓子による栓塞術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

脊髄硬膜外膿瘍の2症例

著者: 大塚邦夫 ,   角田実 ,   中川翼 ,   田代邦雄

ページ範囲:P.499 - P.504

I.はじめに
 脊髄硬膜外膿瘍は他の感染巣から血行性または浸潤性に硬膜外腔へ膿瘍が形成され,背部痛を初発症状として始まり,急速に脊髄圧迫症状が進行し,脊髄や神経根の不可逆性変化を来し易いために,早期診断および早期減圧術の重要性が指摘されている2-4,7,9,10,12,15,17,25)
 一方,化学療法の進歩により膿瘍形成が慢性に経過し,典型的な黄色ブドウ状球菌による急性例は少なくなる傾向にあり3,7,13,16),代ってペニシリン耐性菌や嫌気性菌による報告がみられている3,13,15)

一卵性双生児の第1子にみられた側頭部くも膜嚢腫

著者: 小原進 ,   中川義信 ,   上田伸 ,   松本圭蔵 ,   谷本邦彦

ページ範囲:P.505 - P.512

Ⅰ.はじめに
 側頭部くも膜嚢腫はさほどまれな疾患ではないが,その成因に関して先天説,炎症説,外傷説等があり,その病態,治療に関しても意見の一致をみず未解決な問題が多い.最近では,Robinson8,9)に代表されるごとく先天性奇形によるものが多いとする説が優勢のようである.われわれは一卵性双生児の1児(姉)で,全身痙攣発作を主訴として来院し,開頭によるくも膜嚢腫剔出術後の長期観察を経て,後天性の原因によると思われた1例を経験した.また本例は双生児の1児にみられたものとしておそらく最初の報告例と考えられ,本疾患の成因をさぐる上で意義あるものと考え,臨床所見を呈示すると共に若干の文献的考察を試みた.

下部脳底動脈幹動脈瘤に対するPosterior subtemporal transtentorial approach

著者: 江口恒良 ,   渕之上徳郎 ,   矢作保治

ページ範囲:P.513 - P.517

Ⅰ.はじめに
 下部脳底動脈幹動脈瘤の頻度は高くなく,従来noman's landといわれたこの領域の脳動脈瘤に対する直達手術は,容易ではない.
 このたび,著者らは,くも膜下出血(以下SAHと記す)後,左外転神経不全麻痺を呈した下部脳底動脈幹動脈瘤を,Posterior subtemporal transtentorial approachで手術し,治癒せしめ得たので,ここに,手術方法,ならびに,一過性に出現した健忘性失語(amnesstic aphasia)に対する考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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