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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科7巻6号

1979年06月発行

雑誌目次

内と外

著者: 山本信二郎

ページ範囲:P.523 - P.524

 戦後のある時期を肉体女優としてうたわれたマルチーヌ・キャロルの「女優ナナ」のラストシーンが印象に残る.美貌をエサに,金持,あるいは貴族の男をわたり歩き,最後にはしめ殺される.愛憎の果の所業に,淋しく玄関を立去る男の後姿を背景に,階段に倒れ,大きく見開いた大写しの女の目は決して死体の目ではなかった.強烈なライトに照されて縮瞳し,息を殺し,まぶしさに堪える目であった.かつてある女優が死ぬより辛いことは死人のまねをすることだと書いていたのを思い出し,何ともおかしかった."目は口程に物を言い","目は心の窓","刺すような目","すわった目","うつろな目"などと目が内的なものを表現するという言葉は多い.しかし,これらの目によって表わされる表情の多くは,眼球そのものではなくむしろ目をとり巻く,皮膚,表情筋および外眼筋によるといってよい.怒りの目,笑う目は顔面神経の働きによる.キョロキョロと落ちつかぬ目は動眼,滑車および外転神経によってつくられる.しからば目そのものが物語るものはないであろうか.
 "belladonnaは?"と聞かれてすぐ答えられる学生は案外少ないが"madonna"なら知らぬ者は先ずいない.私自身この言葉はラテン語だと思っていたが,辞書を引いて,イタリア語であることをはじめて知り,学生とは五十歩百歩だと自ら苦笑した覚えがある.

総説

脳卒中,脳動脈硬化症の研究—モデル動物による研究の進展

著者: 堀江良一 ,   半田肇

ページ範囲:P.525 - P.537

Ⅰ.序論にかえて
 1.「頭のいい人はやりませんよ」
 高血圧自然発症ラット1),Spontaneously Hyperten-sive Rats(略してSHR).今ではおよそ高血圧に興味のある人は誰でも知っている.共産圏も含めて世界50カ国300カ所以上の研究所で,ヒトの本態性高血圧の最良のモデル動物として使われている.1967年米国NIHに寄贈されるや,米国ではこれを「永久保存種」に指定,たとえSHRを使う研究者が一人もいなくなっても,SHRは国家によって永久に系統維持されていくという.SHRの確立に全身企霊うちこまれた岡本耕造博士,その灼熱の太陽のごとき情熱と,その偉業は1974年第1回国際高血圧学会賞をもって全世界の高血圧研究者のひとしく認めるところとなった.そして1976年米国科学アカデミーは「SHRに関するguide lines.2)」を出版,系統維持と使用をより厳格なものとし,より科学的な利用を徹底させるための勧告書を全世界の高血圧研究者に配布した.「こんな系統維持の仕事は頭のいい人はやりませんよ.私は田舎生れの鈍な人間なんですね…….ただ辛抱するのは人一倍強いですよ」,第1回国際高血圧学会賞をうけられた時,岡本博士は新聞紙上でこう述べておられる.その言葉の余音が今でも響いて来る.

Case Study

脳卒中様発作で発症した慢性硬膜下血腫3例

著者: 太田富雄 ,   吉川幸弘 ,   梶川博

ページ範囲:P.539 - P.547

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内血腫をcomputed tomography(CTと略す)で診断するとき,血腫が脳実質内(intracerebral)にある場合と,脳実質外(extracerebral)にある場合では,かなり違ったCT所見を示す.とくに慢性硬膜下血腫は,頭蓋内血腫のCT診断の泣き所6,9,11)であり,診断上色色な特徴的な所見,工夫1,21,23)が報告されている.今回case studyとして慢性硬膜下血腫を呈示する理由は,本症に特徴的なCT所見を論じようとしたからでなく,頭蓋内血腫のなかで,この血腫だけが"何故そのように特異的であるのか?"を考えてみようと思ったからである.そのことにより,慢性硬膜下血腫の維持または増大機序について,新しい糸口を見出しえるかも知れない.

Current Topics

脳保護物質

著者: 浅野孝雄 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.549 - P.554

Ⅰ.はじめに
 脳乏血(cerebral ischemia)は,脳虚血発作(TIAs),脳梗塞等に限らず脳出血,脳外傷,腫瘍等の占拠性病変による頭蓋内圧亢進など,多くの脳組織障害において重要な役割りを果たすと考えられている.従って脳乏血は脳神経外科で治療するほとんどすべての疾患において極めて普遍的な病態であり,それによる組織障害の発生機序を解明することは,有効な治療法を開発する上できわめて大きな意義を有する.現在脳乏血に対して,外科的な血行再建術,脳循環改善を目的とした各種の薬剤の投与などが行なわれている.しかしそのいずれをとってみても,十分な成果を上げていないことは衆知の事実であり,さらに脳乏血急性期における急激な血行再開が技術的に可能であったとしても,それが果して期待された治療効果をもつか否かは,現在もなお疑問視されている.このような脳乏血に対する治療法の現状に対応して,脳乏血による組織障害の発生機序の解明を目的とする基礎的な研究が広汎な分野で積み重ねられてきた.この小論文では,最近注目されつつあるBarbituratesの脳保護作用(cerebral protection)に焦点をしぼり,その作用機序,臨床応用の可能性,また類似の効果をもつ他の薬剤との比較等について以下に論じたい.

研究

小脳梗塞と減圧術の適応選択

著者: 種子田護 ,   金田平夫 ,   前田泰孝 ,   門田永治 ,   渡辺学 ,   南卓男 ,   入野忠芳

ページ範囲:P.555 - P.561

Ⅰ.はじめに
 脳の虚血性病変により,急性期に一過性の浮腫が発生するのは周知の事実である.そして,浮腫の発生,進展は病像の増悪に関与するとされている8).この病態に対する外科的アプローチとして,減圧術が提唱されているが4),天幕上病変に関しては必ずしも広くコンセンサスが得られていない.天幕下病変に関しては,1956年Fairburnら2)およびLindgren6)が小脳梗塞に対する減圧術の効果を報告して以来,散発的な報告がみられる1,3,5,7,9).これらは減圧術の効果が著明であるとしていることにおいては見解が一致しているが,あくまでも梗塞巣が小脳に限局している症例についてのみ触れており,脳幹を一部含んだ場合,即ち,後頭蓋窩全体を包含した情況下での検討が十分ではない.
 本検討は,小脳,脳幹を共に含んだ後頭蓋窩全体の立場より,虚血を原因としてそこに発生する浮腫の臨床上の問題点を吟味し,手術適応症例の選択基準の目安を定めることを目的とする.

定位視床手術による破壊巣のCT像

著者: 村山佳久 ,   津田敏雄 ,   曾我部紘一郎 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.563 - P.570

Ⅰ.はじめに
 近年開発されたCT(Computed tomography)は,脳神経外科領城の診断において画期的な進歩をもたらした.脳腫瘍,脳血管障害,外傷などに対するその診断的価値は疑う余地のないところである.われわれは最近CTを定位脳手術の破壊巣の検索にも応用し,CTの有用性をあらためて認識した.従来定位脳手術の破壊巣の大きさの同定手段としては,剖検によるほかに手段をもたなかったが,CTの導入により,術後急性期においては視床内の破壊巣の状態と範囲を生体内において知ることができることを経験した3).そこで当教室で過去約2年間に行なった48例の視床手術例のうち,術後CTを行った26例につきCT所見を検討し,その特徴について述べてみたい.

水頭症を伴った脳室炎の治療—特にTobramycin脳室内注入による治療について

著者: 山田博是 ,   景山直樹 ,   中村茂俊

ページ範囲:P.571 - P.578

Ⅰ.はじめに
 水頭症の治療上予後を大きく左右する因子の1つは感染の有無である.感染はかなりの率にみられ,Schoenbaumら15)は短絡管手術後27%に感染がみられたとのべている.水頭症に伴う感染は種々のものがみられ17),脳室心房短絡術(V-A shunt)には菌血症,肺炎など,また脳室腹腔短絡術(V-P shunt)に伴うものとしては腹膜炎などが多いが,いずれの手術にもみられ,特に治療が困難であり,死亡率の高いものは髄膜炎,脳室炎の合併である.小児水頭症で脳室拡大をみる症例では脳脊髄液(CSF)感染に対する防禦機構も弱く感染を来し易く,また治療も困難なことが多い.
 また最近はOpportunistと呼ばれるGram陰性桿菌による脳室炎,髄膜炎の発生も増加してきており,多剤耐性を示す起炎菌もみられるようになってきている14,21).特にGram陰性桿菌に感受性のある抗生剤の多くは全身投与による方法では充分にCSFへ移行しないもの,また副作用の点から大量投与出来ないものも少なくない.このような症例に対しては脳室内または髄膣内投与が不可欠である.現在のところGram陰性桿菌に対して最も有効な抗生剤として知られているのはAmino-glycoside系薬剤である.

くも膜下出血と髄液循環障害—臨床,剖検例における走査電顕学的研究

著者: 石井正三

ページ範囲:P.579 - P.588

Ⅰ.緒論
 くも膜下出血(SAH)に続発する交通性水頭症についてBagley(1928)6,7)が光学顕微鏡を用いた動物実験および臨床例の検討を行ない,線維増殖その他のmeningealreactionを伴ったくも膜下腔の閉塞による髄液循環障害の存在を指摘して以来,くも膜の肥厚・癒着およびくも膜下腔のfibrosisなどの変化を光学顕微鏡下に観察した報告が諸家5,21,28,42)によりなされてきたが,どの部位の髄液循環障害が実際に交通性水頭症を惹起するかという点に関しては現在なお必ずしも一致した見解を得るには至っていない.
 一方,透過型電子顕微鏡の導入はくも膜自体あるいはくも膜絨毛などの詳細な観察を可能とし,その結果単にそれらの形態学的追究に止まらず髄液吸収機構に関しても興味深い報告がなされているが2,17,24,36,38,39,45),くも膜下腔そのものについては対象が空間であるという特殊性もあってかむしろ見過ごされてきた感さえあった.

症例

脳室腹腔吻合術後の腹腔内嚢腫形成—CT scanおよび超音波による診断

著者: 山本義介 ,   和賀志郎 ,   岡田昌彦

ページ範囲:P.589 - P.592

I.はじめに
 種々の原因によって起こる水頭症に対する外科的療法としての脳室腹腔吻合術(V-P shunt)は現在広く用いられている方法であり,これに付随する腹部合併症も数多く報告されている1,5,7).そのうち比較的まれなものとされているものにlarge abdominal pseudocystがある.すでにわれわれは2歳女児の例を報告したが12),今回28歳の症例を経験した.V-P shuntの合併症としてのlarge abdominal pseudocystの術前診断にultrasonoto-mography, abdominal computed tomographyが有用であったので,若干の文献的考察を加えて報告する.

経蝶形骨洞下垂体腫瘍別出術後に起こったOptic Systemの鞍内陥入の1例

著者: 岩佐英明 ,   宮城航一 ,   石島武一 ,   佐藤文明 ,   水野正浩

ページ範囲:P.593 - P.597

Ⅰ.はじめに
 下垂体腺腫剔出術後,または,放射線療法後の非常にまれな合併症として"Empty Sella"がある事は1962年Colbyらの報告以来よく知られており文献も多数報告されているが,経蝶形骨洞下垂体腺腫剔出術後に視交叉のトルコ鞍内陥人をひき起こし,頭痛,視力・視野障害などの合併症をひき起こす例は余り知られていない上に文献も少ない.
 今回,われわれは,アクロメガリーの症例において経蝶形骨洞下垂体腺腫剔除後,放射線療法を行い約1年の経過で,頭痛,視力・視野障害が再発し,第2回目の手術は,前頭開頭術を行なったところトルコ鞍内に視交叉の陥入が認められたので,文献的考察も含めて報告する.

Azygos Anterior Cerebral Artery Aneurysmの2例

著者: 新妻博 ,   郭隆燦 ,   内田桂太

ページ範囲:P.599 - P.602

Ⅰ.はじめに
 下等哺乳動物の前大脳動脈は1本のazygos anteriorcerebral artery(以下azygos ACAと略す)からなっている.Baptista1)の集計によれば,ヒトにおいても2,153例中23例(1.1%)にazygos ACAが認められている.一方,本動脈はしばしば中枢神経系の奇形や,脳動脈瘤と合併して認められている.われわれは,両側頸動脈写あるいは他側頸部圧迫による一側頸動脈写により,明確な前大脳動脈の造影が得られた末梢部前大脳動脈瘤症例37例中(うち多発動脈瘤18例)2例にazygos ACAを認めたので報告する.

正常圧水頭症の症状を呈した脳底動脈尖端部未破裂巨大動脈瘤

著者: 木下公吾 ,   角南典生

ページ範囲:P.603 - P.608

I.はじめに
 1964年Hakimが成人における水頭症で髄液圧が正常な症候群を記載し,1965年Adamsらによって正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus)(以下,NPHと略す)の概念が提唱され,以後,本疾患に関して多くの報告がみられる.
 NPHの発生には,原因不明な一次性のものと,くも膜下出血,頭部外傷などの明らかな原因疾患がみられる二次性のものとがある.

頭頂部congenital dermal sinusの1例

著者: 吉田滋 ,   織田哲至 ,   上条裕朗 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.609 - P.613

Ⅰ.はじめに
 テント上congenital dermal sinusは,比較的,稀である3,11).しかも,その大部分は頭頂後頭部と,後頭蓋窩との間に関係をもっている.さらに大脳鎌内に認められるものは,きわめて稀れである3,11).われわれは,3歳女児で,頭頂部正中線上で,しかも大脳鎌内のcon-genital dermal sinusの症例を,経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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