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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻1号

1980年01月発行

雑誌目次

DECISION TREE

著者: 半田譲二

ページ範囲:P.5 - P.6

 コンピュータ断層撮影の開発が各科領域の日常の臨床に際していかに寄与するところが大であるかは今さらいうまでもないが,手術的治療の対象となり得る病変の的確な局在診断のみならず,治療法・手術法の選択,治療効果の判定,手術合併症の診断,などを通して,このテクノロジーの進歩の恩恵を直接体験するところがもっとも大なのはおそらく脳神経外科医であろう.
 第一号機が導入されてからわずか数年の間にわが国が世界第2位のコンピュータ断層撮影装置保有国となったことは,確かに経済力に裏打ちされた,関係者の進歩性と熱意とを示すもので,またこれがわが国の医療技術の水準向上につながるものである,といえようが,最近その様に素直に手放しで喜んでばかりはおられない様なことをまま見聞することがある.

総説

睡眠と脳波

著者: 松岡成明

ページ範囲:P.7 - P.21

はじめに
 目がさめていることと,睡っていることとは何によって分けられるのかというと難しい問題である.昔の睡眠の定義からいうと,静かにして動かないこと,刺激に対する感受性が鈍っているが,刺激を強くすると覚醒にもどることであった、身体的には目をつむって,呼吸が規則正しく,息はすやすやと聞こえて,少しぐらいの刺激では目をさまさず,体に力がなく,ぐったりした状態である.このように昔はヒトの睡眠は身体の観察にのみ頼っていた.しかしBerger(1929)14)が脳波を発見して以来,上記の状態と脳波との相関に関する仕事が多くなり,脳波が睡眠の研究を全くかえてしまったということができる.したがって,睡眠については古くから数多くの研究が行なわれてきた.たとえば睡眠中の自律機能の変動,精神機能,特に夢の研究.また一晩の間に起こる睡眠の深さの変動,さらに睡眠を起こす脳のメカニズムや睡眠中枢の問題も,興味の中心であった.わが国における研究は,おもに睡眠自体に対する興味の観点よりはむしろ衛生学的,労働科学的などの領域ではじめ熱心に行なわれた37,69,97).近代文明が川園的な生活を侵蝕して,睡眠をとる時刻,睡眠(持続)時間などに,いわば不自然な偏りを強いるようになった69).睡眠現象をのせている生物学的リズム,睡眠時間の季節的変化,年齢との関係,夜勤などの労働条件による不自然な睡眠の健康におよぼす影響などから不眠をはじめとする病的な睡眠状態が広く調べられている97)

Case Study

種々の骨奇形を合併し,整復が不可能であり,mandible and tongue-splitting approachを行ったatlanto-axial dislocationの1例

著者: 白馬明 ,   西村周郎

ページ範囲:P.23 - P.30

Ⅰ.はじめに
 環軸関節脱臼(atlanto-axial dislocation)の多くは整復が可能であり,手術的治療法としては,前方あるいは後方よりの固定術が広く行われている.
 しかし,種々の要因により整復不能な場合には,手術的治療法は困難なことが多く,これまでの文献を見ても,整復不能な環軸関節脱臼の治験の報告は比較的少ない3,4,9,16,17,20,23).この場合脊椎管はC1-2のlevelで非常に狭くなり,慢性の圧迫のため脊髄は著明な萎縮に陥っていることが多い.

Current Topics

脳動脈瘤の誘発

著者: 橋本信夫 ,   半田肇 ,   永川泉 ,   挾間章忠

ページ範囲:P.31 - P.34

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤に関する基礎的研究,あるいは根治手術以外の治療法の効果に関する研究は脳動脈瘤の解剖学的,病態生理学的特殊性から多くの制約をうけてきた.すなわち,脳動脈瘤の発生からその終焉に至る経時的観察はほとんど不可能であり,標本採取もautopsyを除けば極めて限られている.さらにヒト以外の動物における脳動脈瘤はきわめて稀とされており,明らかな嚢状脳動脈瘤としては,チンパンジーの数例が報告されているにすぎない1,14).したがって根治手術の術式がほぼ確立された現在においても脳動脈瘤のetiology,増大から破裂,血栓化に至る機序に不明な点が多い.ここに適当な動物モデルの必要性が痛感され,事実多くの試みがなされてきた.
 実験モデルの作製の試みはその着想から2つに大別できる.第Ⅰは,動脈壁自体に直接損傷を加えたり,あるいは外科的に"aneurysm"を作製して局所の動脈瘤様膨隆を企てるものである.これらからは形態的な類似性が期待できるにすぎない.第Ⅱは,動物に何らかの処置を加えることにより,操作と別の部位に動脈瘤を誘発しようとする試みである.

研究

悪性脳腫瘍における抗癌剤腫瘍内局所注入療法の臨床病理学的研究

著者: 志村俊郎 ,   中沢省三

ページ範囲:P.35 - P.42

Ⅰ.はじめに
 近年悪性脳腫瘍に対しては種々の治療方法が試みられるようになり,中にはBailey,Kernohanらの平均生存月数をはるかにしのぐ症例が報告12)されるようになった.しかし一方では脳の深部や反対側に浸潤性に発育した症例では,手術療法による全別出は不可能で,そのほとんどが再発を来たし,不幸な転帰を辿っている.
 悪性脳腫瘍の治療上の進歩には,放射線療法24),化学療法6,9,17,23,24,28,29,32),免疫療法27)など種々の補助療法の改善があげられている.佐野らは,放射線療法とハロゲン化ピリミジン誘導体を同時に併用するいわゆるBar療法を行い良好な治療成績を報告23)している.しかし薬剤の血脳関門の透過性の有無や程度19),更には薬剤の全身的28,29,31),頸動脈内28),髄腔内28,31,32)などの投与方法をめぐって,今尚論議がつきない現状である.

脳室腹腔吻合機能不全例に対するshunt function testの撰択

著者: 松岡好美 ,   端和夫

ページ範囲:P.43 - P.48

Ⅰ.はじめに
 水頭症の治療には現在,脳室腹腔吻合術(V-P shunt)が広く行われている方法であるが,設置されたshuntが正常に働いているかどうかを判定し,follow upしてゆくことが,その治療上大切なことである.
 Shuntの機能状態は従来,臨床症状ならびにflushing deviceの触診所見によって判定されてきた.しかしながら,flushing deviceの所見が正常でありながら,臨床的にshunt機能不全症状をみる例や,逆にflushing deviceの所見は異常であるのに,臨床的に問題のないものがあり,flushing deviceの触診所見だけでは,shuntの機能を判定するうえで困難を感ずることが少なくない6)

RI-ventriculographyによるOmmaya reservoirの機能診断—とくに脳室内抗癌剤投与による合併症予防のため

著者: 山田和雄 ,   生塩之敬 ,   最上平太郎 ,   早川徹 ,   ,  

ページ範囲:P.49 - P.54

Ⅰ.はじめに
 Ommaya reservori11)を用いた脳室内抗癌剤投与は髄膜白血病meningeal leukemiaや癌の脳軟膜転移meningeal carcinomatosisに対して非常に有効な治療法であることが知られている5,12,14).また白血病の中でもmeningeal disseminationを起こす可能性の高い症例に対してはOmmaya reservoirを用いた予防的脳室内化学療法が行われている7).しかしながら時に見られるreservoir設置術および抗癌剤の脳室内投与による合併症の発生はこの治療法の有効性を減少させている.とくにmethotrexate (以後MTXと略す)注入後のnecrotizing encephalopathyは重篤な合併症として多く報告されている1,4,10,13).この合併症は注入されたMTXが正常な脳.脊髄液(以後CSFと略す)の流れに乗らず,脳室内局所に貯留し脳実質内へ浸入することが主な原因と考えれている4,10,13).このような合併症を防ぐためには脳室内へ注入された薬剤の流れを正しく把握することが重要である.私達は最近Ommaya reservoirを設置した全症例こradioisotope(以後RIと略す)ventriculographyを行い,Ommaya reservoirから脳室内へ注入した物質の流れを正しく把握することにより合併症の予防と早期診断,治療を行い得たので報告する.

小脳astrocytomaの臨床的研究—小児例と成人例の比較

著者: 北岡憲一 ,   田代邦雄 ,   阿部弘 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.55 - P.64

Ⅰ.はじめに
 小脳astrocytomaは脳腫瘍のなかで,病理組織学的にも臨床経過の面からも,もっとも良性の腫瘍の部類に入ることは数多い報告9,14,31,33,34,43,44)で一致している.しかしこれまでの報告は小児に限られていることが多く,成人についての発表は意外に少ないといえる.これは小児ではテント下腫瘍がテント上腫瘍に比べて多く,なかでも発生部位としてもっとも頻度が高いのが小脳である9,14,16,21,33,34,43,44)ことから当然のことと思われる.今回私達が経験した小脳astrocytomaにつき遠隔調査を行ったところ全例の成績が判明し,その成績が小児と成人で若干の相違があることも明らかになった.そこで私達は自験例の小脳astrocytomaの病理組織所見も含めた臨床像について小児と成人で比較しながら再検討を加え,それから得られた所見と遠隔成績との関連も追求した.

実験脊髄損傷におけるMyelotomyの効果

著者: 岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   伊藤輝史 ,   田代邦雄 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.65 - P.72

Ⅰ.はじめに
 外傷性脊髄損傷に対し,現在まで,種々の治療法がこころみられているが,いずれも満足すべき結果は得られていない.しかし実験上はAllen3)が脊髄損傷モデル犬を作製して以来,多数の研究者の努力により,その病態生理学的面のみならず,治療においても徐々にではあるが新知見が解明されつつある.
 現在,広くおこなわれている外科的治療としては,脊椎の整復固定,および外減圧が主な処置であるが,現実には,椎弓切除術,硬膜切開などでは充分な効果が得られないことも事実である.

症例

乳児paraventricular cerebral cystの1例

著者: 竹下幹彦 ,   宮崎崇 ,   久保長生 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.73 - P.78

Ⅰ.はじめに
 脳内に発生するのう胞には,その発生起源,組織学的特徴から種々のものがみられる.しかし,正確な起源およびのう胞を構成する細胞の詳細については,必ずしも明白ではない.近年,電子顕微鏡の導人により,その発生起源,組織学的特徴が明白にされつつある.
 われわれは,脳梁前半部の欠損を伴い,一側側脳室拡大を呈したparaventricular cerebral cystの乳児例を経験した.本症例ののう胞壁について光学顕微鏡および電子顕微鏡にて検索を行ったのでその詳細について報告する.

巨大動脈瘤—1例報告と文献的考察

著者: 越川法子 ,   神尾正己 ,   関野宏明 ,   中村紀夫 ,   持尾聰一郎 ,   城謙輔 ,   小森亮

ページ範囲:P.79 - P.88

Ⅰ.緒言
 頭蓋内巨大動脈瘤は全頭蓋内動脈瘤の約5%と比較的少なく51),椎骨脳底動脈あるいは内頚動脈などに発生し易いと言われている.さらに,巨大動脈瘤はくも膜下出血をもって発症することも勿論あるが,頭蓋内占拠性病変としての症状をもって発症することが多く49,58,78),殊に椎骨脳底動脈系動脈席においては多彩な神経症状を呈する点でよく知られている6,45,49,78)
 著者らは脳底動脈本幹部に発生した6.5×6.0×3.5cmの巨大動脈瘤で,これ虫で報告された最大級の大きさを示した1例を経験した.本症例は両側内側縦束症候(以下MLF症候)その他の多彩な神経症状を進行性に示した後に動脈瘤破裂により死亡したが,この最後の2年間の動脈瘤の形態変化を椎骨動脈撮影によって観察しえた.この巨大動脈瘤の成長過程をその病理解剖所見と対比して興味ある知見を得たので文献的考察を併せて報告する.

外傷により内頸動脈狭窄を示した1症例

著者: 片倉隆一 ,   吉本高志 ,   和田徳男

ページ範囲:P.89 - P.91

Ⅰ.はじめに
 閉鎖性頭部外傷に起因する脳血管性障害のうち,内頸動脈の狭窄および閉塞については少なからず報告されている.しかし,その狭窄部位が改善されていく治癒過程を脳血管写で経時的に追跡し得た報告は少ない.
 われわれは,頭部外傷後の脳血管写で内頸動脈に広範な狭窄が認められた症例を経験した.この症例に対し受傷後6ヵ月にわたり経過を観察したところ,血管写上狭窄部位の改善を証明し得た.本報告では,本症例を血管写と共に呈示し,さらに外傷後の脳血管写について若干の文献的考察を加えた.

巨大前交通動脈瘤の直接手術治験例

著者: 佐藤智彦 ,   小松伸郎 ,   桜井芳明 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.93 - P.98

Ⅰ.はじめに
 巨大脳動脈瘤に対する直接手術はmicrosurgical techniqueの発達した今日においても,その手術成績はおもわしくなく,特に鞍内鞍上部巨大脳動脈瘤はuntouchableとさえいわれ,carotid ligationや保存的療法を余儀なくさせられる場合が多い1,7,11)
 今回,われわれは40×40×35mmにもおよぶ鞍内鞍上部巨大前交通動脈瘤に対し,その根治手術に成功したので,症例を呈示し手術法の要点について報告する.

ボクシング中パンチをうけ死亡した1症例の検討

著者: 池田俊一郎 ,   佐藤智彦 ,   小松伸郎 ,   和田徳男 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.99 - P.103

Ⅰ.はじめに
 われわれはボクシング中にパンチを受け,直後より昏睡に陥り約3日間の経過で死亡した症例を経験した.この症例はたまたま試合中ビデオテープをとっており,その受傷機転,剖検所見などから外力と脳損傷との関係を知る上で興味深い症例であったので若干の考察を加え,報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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