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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻10号

1980年10月発行

雑誌目次

"雑感"

著者: 谷栄一

ページ範囲:P.893 - P.894

 日本経済は歴史上稀にみる高度成長を遂げ,今日では西独と共にしっかりした安定成長の道を歩んでいると,新聞テレビは報道しています.脳神経外科の領域だけとってみても,CT scannerの普及に代表されるように,日本経済の発展と平行して診療研究設備の充実普及化には近年著明なものがあります.わが国の脳神経外科もまさに日本経済の発展と軌を一にして,欧米の脳神経外科に追いつけ,追いこせと先輩達のたゆまない努力により,著しい進歩発展も遂げてきたと思われます.最近,将来の日本の医学研究の発展には注目しなければならないと,これは外交辞令ではなく本当にいう欧米の人がいます.
 日本経済の高度成長花やかなりし頃,仕事の関係上,電子顕微鏡の製造過程を見学したことがあります.その当時より日本の電子顕微鏡は超一流で欧米にも多数の電子顕微鏡が輸出されていました.しかし,その見学の途上,はっと思ったことがあります.というのも,電子顕微鏡の心臓部といわれる重要な部品の製作にはスイス製の工作機械が使用されていたことです.なるほど日本の電子顕微鏡は優秀であったのですが,その重要な部品を製作する機械は日本製でなくて外国製であったのです.身の回りをみても,例えば種々の診断装置,手術器具,薬剤など外国製品が一杯です.外国製品を使用することがけしからんというような国粋主義者的発想は毛頭なく,より優秀な機械であれば,外国製品を使用することは医学の進歩発展のためにも欠くべからざることと信じています.

総説

The Late Effects of Central Nervous System Irradiation in the Monkey

著者:

ページ範囲:P.895 - P.909

Basic Mechanisms
 Basic mechanisms underlying delayed central nervous system destruction by ionizing radiation are not precisely known, but the capillary endothelial cell has been implicated by most serious students of this subject8,14,15,20,21,23,28,37). The thought has been that the cells most sensitive to radiation exposure are those still capable of replication35,36). These include glial elements, particularly in the younger age groups19), and endothelial cells in all age groups15,25).

Case Study

非活動性神経膠腫

著者: 竹内一夫 ,   原充弘 ,   横田仁

ページ範囲:P.911 - P.919

I.はじめに
 CTの導入以来,各種の頭蓋内疾患の診断は著しく進歩した.特に非侵襲的検査法としてのCTは,外来レベルでのスクリーニングにも有用性は高い.一方,成人の脳腫瘍では初発症状として,いわゆる"高年初発てんかん"間が重視されている.われわれはこの高年初発てんかんで発症し,高血圧を合併する成人男子において,当初は脳血管障害を疑い,抗てんかん剤と降圧剤を投与しつつ経過を観察中に,発症後1年以上経過して,ようやく神経膠腫と診断された,いわゆる"非活動性神経膠腫inactive glioma"6)の1症例を経験した.
 CTが普及するにつれて,CT診断における種々のpitfallsが指摘されているが9),なかでも同様に低吸収域として出現する脳梗塞病巣と神経膠腫との鑑別はしばしば困難であるといわれている.そのため腫瘍性病変を疑って開頭し,はじめて梗塞性病変を確認したような症例も珍しくない.しかし本症例のように逆に初めは脳血管障害を疑い内科的治療を続け,のちに神経膠腫として治療されるような症例についても注目を要する.

Current Topics

ピトレッシン(ADH)不応症

著者: 斉藤壽一 ,   岩佐英明

ページ範囲:P.921 - P.924

I.はじめに
 脳外科術後において経験される多尿は,しばしば下耐本後葉系の機能低下によるADH(抗利尿ホルモン)の欠乏に由来している.しかしながら,尿量を中心とした体液の水,電解質代謝を正常化する上で必要なADH製剤,ピトレッシンの最は患者の病態により必ずしも一様ではない.しかも,ピトレッシンの過量は,ときに極めて危険な急性水中毒をひきおこすことから,何を指標として,いかにピトレッシンを使用していくかが臨床上重要なかぎとなる.
 ピトレッシンには,抗利尿作用すなわち尿の濃縮効果のほかに,腸管運動亢進,細小動脈収縮等の平滑筋作用も認められるが,本稿では尿の濃縮に対する不応症を中心に考えてみたい.

海外だより

第71回The Society of Neurological Surgeonsの会合に出席して

著者: 星野孝夫

ページ範囲:P.926 - P.927

 第71回目の集会が今年はSan Franciscoで行われた.この会は創立以来今年が60年目で,北米においては一番歴史の古い脳神経外科関係の学会である.
 第1回目の会合は,1920年3月にPeter Bent Brignam病院がhostとなってBostonで開かれている.この学会は主にCushimgの門下生達が集まって発足させ,発会時にCushingを会長にし,その後約10年の間は年に2回ずつ全米各地,会員の働いている病院を中心にして開かれていた.

研究

脳腫瘍に合併した脳内出血症例の臨床病理学的検討

著者: 藤田勝三 ,   松本悟

ページ範囲:P.929 - P.934

I.はじめに
 脳腫瘍に脳内出血を合併する症例は稀であり,CTの導入前では術前診断が困難でありたが,CTにより脳内病変が正確に把握できるようになり,脳腫瘍に脳内出血を合併する症例も比較的診断が容易になったといえる.一般に脳内出血を合併する脳腫瘍は悪性脳腫瘍が多く,また良性腫瘍においても,脳内出血を合併する症例では症状が急速に悪化するため予後不良な症例が多いので,迅速かつ的確な治療が望まれる.われわれは,脳内出血を合併した16例について,臨床所見,病理所見および予後等について検討を加え,脳腫瘍に合併する脳出血の出血原因について考察を加えた.

CT scanによる脳腫瘍のperitumoral edemaとcontrast enhancementの分析—ステロイド投与の適応の検討

著者: 大井静雄 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.935 - P.940

和文抄録
 CT scanは,脳腫瘍の診断とそのfollow upに不可欠の補助診断法であると同時に,脳腫瘍に付随するperitumoral edemaに関する情報を得るうえで重要な検査法である.このPeritumol edemaに対するGalicichらのdexamethasoneを用いた画期的か非観血的治療法の研究発表(1961年)以来,ステロイド療法は脳腫瘍の治療の一環をなしてきた.しかし,このステロイドの臨床的効果は常に満足できるものではなく,ときに重篤な合併症により患者を死に至らしめることもある.類似した神経学的所見を呈する脳腫瘍の症例で,ステロイドの効果は一方では劇的であり,一方では全く反応を示さない現象を如何に解釈すべきか.われわれはこの観点より,ステロイド投与の適応につき腫瘍のGT scan所見を分析し,peritmnoral edemaのpathogenesis,および想像されるステロイドの作用機序の検討を試みた.
 合計201例の脳腫瘍(グリオーマ,メニンジオーマ,転移陸脳腫瘍)につき,そのperitumoral edemaとcontrast enhancementの程度およびその相関性を分析した.転移性脳腫瘍の59%,グリオーマの46%,メニンジオーマの34%に有意義なperitumoral edemaしが認められた.

Schaltenbrand-Bailey人脳図譜応用によるCT上の大脳基底核部解剖学的同定法

著者: 伊関洋 ,   天野恵市 ,   能谷正雄 ,   川畠弘子 ,   谷川達也 ,   宮崎崇 ,   河村弘福 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.943 - P.949

I.はじめに
 新しい診断装置であるコンピュータ断層撮影(Computed tomography,以下CTと略す)の導入により.従来の補助診断法では診断が困難とされた大脳基底核領域の小さな病巣も,剖検所見をまつまでもなく容易に確認できるようになった3,5,8,9,12)
 そこで著者らは,CT像とSchaltenbrand-Baileyの人脳図譜13)とを対比することによるCT像水平断の解剖学的解析法を考案したので報告する.

各種glucocorticoid剤における脳浮腫抑制効果の比較検討

著者: 石光宏 ,   松本皓 ,   武本本久 ,   有光哲雄 ,   西本詮

ページ範囲:P.951 - P.957

I.はじめに
 各重頭蓋内病変に随伴して生じてくる脳浮腫は,その予防や治療の如何によりその後の患者の病態を大きく左右することが多いため,脳神経外科医にとりて常に頭を悩ます問題である.
 このため種々の脳浮腫治療法が試みられているが,glucocorticoid剤(Gl)の使用もその1つである.脳浮腫に対するGlの有効性については,Prados24)をはじめとする種々の動物実験,Galicich7),Rasmussen25),佐野27)らの臨床応用の結果,現在では異論をはさむものはいない.

急性期頭部外傷におけるCT像の検討—臨床分類(荒木分類)との関連について

著者: 秋本宏 ,   牧豊 ,   能勢忠男 ,   小野幸雄 ,   江頭泰平

ページ範囲:P.959 - P.964

I.はじめに
 頭部外傷の重症度の分類には,臨床症状による分類(荒木2),Ommaya7),Kehlberg4))と,病理解剖学的変化を主幹としたもの(Denny Brown3),清水11),国際疾病分類)とがある.いずれにも一長一短があり,できれば初期外力を示す臨床分類と,ひきつづき惹起される病理解剖的分類を加えて考えるのが最も適当であろう.CT出現以来,肉眼的レベルでの病理所見の経時的変化が視覚化され,臨床予後の把握は極めて容易になったといえる.
 今回は,最も実用的で広くなじみ使用されている臨床分類である荒木の分類と急性期のCT所見の対比を行い.

Mannitol製剤投与による代謝性アシドーシスの成因

著者: 安本和正 ,   稲田豊

ページ範囲:P.965 - P.973

I.はじめに
 脳神経外科麻酔における最も重要な課題は,脳圧の管理であろう.したがって麻酔の実施に当っては脳圧上昇作用を有する麻酔薬の使用を控えることは当然のことであるが,少しでも脳圧を低下せしめるように積極的に過換気を行い,mannitol製剤や副腎皮質ホルモンを投与し,更に体位にも各種の配慮を行っている32)
 その麻酔中の過換気がおおむね良好なレベルであるか否かを知る目的で,術中動脈血のガス分析を行ったところ,順調な麻酔経過をたどっていたにもかかわらず,思いもかけない強い代謝性アシドーシスを呈する2,3の症例に遭遇した,しかし,その代謝性アシドーシスを来たす原因を知ることができなかったので,数例の症例において麻酔導入後時間を追って血液ガスを測定したところ,base excessの低下はmannitol製剤投与後に発生することが判明した.

症例

老人における原発性くも膜のう腫の1例

著者: 津田敏雄 ,   中川義信 ,   増田勉 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.975 - P.980

I.はじめに
 くも膜のう腫は,その成因から,外傷,炎症,頭蓋内出血等,明らかな原因があるものと,原因不明の原発性くも膜のう腫に分けられているが,その発生機序に関しては不明である.しかし,若年者に多いということ等から,これを先天性と考えるものが多い.われわれは,若年者で一卵性双生児の第1児のみにみられた中頭蓋窩くも膜のう腫で,おそらく外傷性のものと思われる1例を報告したが11),最近,68歳の老人例において,左前頭部に発生し,おそらく原発性と思われるくも膜のう腫の1例を経験し,開頭術(のう腫開放術)により良好な結果を得たので,その組織所見等から本症の発生原因に関し若干の考察を加えて報告する.

Bromocriptine投与によるprolactin産生下垂体腫瘍の消失

著者: 宗光博文 ,   松田昌之 ,   平井収 ,   川村純一郎 ,   松林公蔵 ,   福山秀直

ページ範囲:P.981 - P.986

I.はじめに
 脳下垂体腫瘍の治療法として,従来は手術による摘出や放射線治療等が行われてきたが,腫瘍の完全除去が困難で放射線治療も奏効しない例があり,再発による再手術が必要となる場合もみうけられる.さて,最近下垂体ホルモンの分泌を抑制する薬物が出現し,機能性下垂体腫瘍に応用した薬物療法が試みられている.私達は下垂体ホルモンのうち,human growth hormone(HGH)とprolactinの分泌を抑制するといわれるbromocriptineをprolactin産生下垂体腫瘍に使用し,prolactin分泌抑制のみならず,CT scan上,腫瘍自体の消失をみた著効例を経験したので報告する.

上眼瞼向き垂直性自発眼振を呈したChiari奇形I型の1例

著者: 畑下鎮男 ,   下地武義 ,   清水昭 ,   石沢敦 ,   田中幹夫

ページ範囲:P.989 - P.994

I.はじめに
 cervico-medullary junction部の病変に伴う水平性または垂直性眼振については古くより記載がある1,2).1954年CoganおよびBarrows5)により思春期以降のArnold-Chiari malformationやbasilar impressionの症例についても下眼瞼向き垂直性自発眼振が報告され,更に1968年Cogan6)はdown beat nystagmusを同部病変の特異的眼振として提唱している.以後この意見を支持する多くの報告があり,下眼瞼向き垂直性自発眼振は,下部脳幹髄内障害または小脳正中部障害により発生するとされている13).しかし小児期に発症したChiari malformation I型に伴う上眼瞼向き垂直性自発眼振の報告例は,われわれが調べえた範囲では発見されず,同眼振の責任病巣についてもいまだ結論が出ていないようである.われわれはこのような症例に後頭蓋窩減圧術を行い,眼振の消失をみた症例を経験したので文献的考察を加えここに報告する.

近接動脈に動脈瘤を合併し周辺に脳実質内出血を合併したmalignant meningiomaの1手術治験例

著者: 西鳥美知春 ,   大石光 ,   小沼武英

ページ範囲:P.995 - P.998

I.はじめに
 脳腫瘍から出血を来たす症例はそれほど稀なものではないが,多くはglioblastomaや転移性脳腫瘍であり,meningiomaでは稀である.われわれは近接する中大脳動脈末梢に動脈瘤を伴った,頭頂,後頭葉convexitymalignant meningiomaからの出血により脳実質内血腫を形成した1症例を経験し,手術的に治癒せしめたので,若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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