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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻12号

1980年12月発行

雑誌目次

デッサンのすすめ

著者: 長島親男

ページ範囲:P.1111 - P.1112

 ずいぶん昔のことだと思う.何かの用事で恩師清水健太郎先生のお宅にお邪魔したことがある.先生は一幅の掛け軸をお見せになり,「君,これ,どう思う」と言葉すくなにおききになった.それは,もみじの葉が数片,あたかもそこに落ちているかのように,正確にとらえられ,日本画のような色調で,紅,赤,黄など,いろいろの色彩で克明に描かれてあった.私はとっさに返答に窮し「何だか,非常に新鮮な感じがしますが……」と申し上げると,「君,これは中田瑞穂先生の絵だよ」と仰言ったのである.私は一瞬,先生のお言葉を疑った.それまで私がみてきた中田先生の絵は,先生の名著『脳腫瘍』の中に印刷された手術のスケッチだけであった.それは,たしかに正確ではあるが,いかにも線が細く,霞みでもかかったような,まことに弱弱しい感じの絵だという印象しかなかったからである.それは多分に終戦後の印刷条件の悪い環境で出版されたためであろう(もし原画があって,最近の優秀な技術で再び印刷され出版されれば素晴しいことだと思うのだが).
 その後,植木教授に招かれて新潟大学で講演し,ある料理屋でごちそうになった.そこで中田瑞穂先生がおかきになった桜鯛の絵を拝見した.実に正確な描写で,いま海から釣ってきたと思うほどにリアルで,圧倒される思いであった、絵の下に(これは印刷された別の絵だが)虚子の句「かき正が揃えたりやな桜鯛」が記されてあった.私は俳句のことはよくわからないが,俳句でも「写生」が大事だという.

総説

髄液腔内脳腫瘍転移

著者: 松角康彦 ,   植村正三郎 ,   倉津純一

ページ範囲:P.1113 - P.1123

I.緒言
 脳脊髄液中に見いだされる細胞の種別と意味づけについては,既に今世紀の初めからWidal46)やQuincke33)の研究があり,各種髄膜炎や神経疾患の診断に右用な情報を提供するものとなった.一方,脳脊髄液中に見いだされた腫瘍性細胞の検索についても,1960年以降,数多くの研究があり,脳腫瘍診断に役立てる試みがなされたが,髄液中の腫瘍細胞の1剣目率は報告者により著しく異なるものであって,髄液中細胞の採集方法や,異形細胞の同定にはいまだ未解決の問題を残している.しかしながら髄液腔内に腫瘍細胞が検出されたということは,単に腫瘍の診断が可能となったということに留まらず,腫瘍細胞が髄液中に浮遊し,くも膜下腔に伝播・播種を起こしていることを意味し,脳腫瘍の発育・伸展の度合いが既に原発巣に限局したものでないことを示すものとして,多くの場合,治療対策に著しい困難を伴うことになる.脊髄くも膜下腔への脳腫瘍細胞転移が尿閉や下肢の弛緩性対麻痺の発症により確実となっても,適切な治療対策を持たないというのが現状であり,再照射療法をはじめ,髄液腔内への抗癌剤注人も必ずしも所期の効果を挙げるに至っていない.脳腫瘍治療という課題の中で,原発巣の治療と同様に,髄液腔内転移の予防と処置は極めて重要な問題といえる.

Case Study

術後4年で再発をみた脳動静脈奇形の1治験例—その増大に関する検討

著者: 深井博志 ,   中條節男

ページ範囲:P.1125 - P.1134

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVM)は先天的な血管発生異常に山来する奇形でありて,新生物ではないので,真の意味での増殖はありえず,また令摘出を除くと自然消滅は極めて少ないはずであり,その自然経過中に無症状,もしくは軽症にとどまるものも少なくない.したがって,microsurgery等の.種々なる予術手技の進歩の目ざ主しい現在でも,AVMのすべてが外科的治療の対象になるわけではなく,各症例での機能的解剖学的局在部位,大きさ,臨床症状等が考慮されて手術適応が決められているのが現状である15-17)
 ところで,AVMの自然経過に関して,脳血管撮影上で縮小・消失11,12,14,21,25)をみたり,あるいは逆に著明な増大4,8,10,20,32,33)をみたとの報告が散見されるが,治療上AVMの縮小・増大は重要な問題なので,亜全摘出後に再発・増大した自験例を提示して,特にAVMの増大の機序について考察をしてみたい.

Current Topics

脳の動脈硬化と痴呆

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.1137 - P.1142

痴呆の診断
 痴呆の定義およびその診断基準には,まだ決定的なものはない,アメリカの"Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders II"1)では,痴呆の特徴的な症候として,次の5つをあげている.すなわち,①人格の変化,②記憶障害,③見当識障害,④判断力の障害,⑤他の知的機能の低下.これらの5項目のうち,もっとも初期から出現し,かつ恒常的なのは②と③である.

研究

外頸動脈領域におけるEmbolizationの経験

著者: 伊藤寿介 ,   横山元晴 ,   今村均 ,   吉川誠一 ,   鷲山和雄

ページ範囲:P.1145 - P.1153

I.はじめに
 腹部血管からの出血に対する非手術的止血法としてembolizationが行われており,神経放射線領域でも動静脈奇形に対してかなり以前からembolizationが行われてきている.最近は脳腫瘍または頭頸部腫瘍に対して術中の出血の減少を目的とした術前の処置として,または手術不能例では治療の一手段としてembolizationが行われるようになってきた.われわれも術中の出血を減少させる目的で行ったembolizationの症例を経験したので報告する.

Contrast enhancementに及ぼす高張Glycerolの意義

著者: 森山隆志 ,   斉藤和子 ,  

ページ範囲:P.1155 - P.1162

I.はじめに
 computed tomography(CT)が開発されてまもなく,ヨード系血管造影剤使用によるcontrast enhancement(CE)効果が報告されたが1),その効果を左右する因子としては,造影剤の種類,量,投与方法あるいは投与後のCT scan開始までの時間等,造影剤に関連した因子のほかに,被検者側の因子として,血液中の造影剤濃度,vascularity12,25,29),および造影剤の血管外漏出(extravasation)10,11,21,24)が考えられている.
 今回われわれは,通常のCEでは比較的enhanceされにくいといわれる良性gliomaに対して15,18,24,30,33),造影剤投与後の時間経過に伴うCE効果の変化を調べたところ,delayed scanにおけるCE効果は,主として造影剤のextravasationによる15)という結論に至った.そこでこの考えに基づき,CE効果の増強を目的として,高浸透圧剤(glycerol)をあらかじめ投与したのちに,CE scanを行ったところ,有意と思われる結果を得たので,その方法等について報告する.

外傷性脳幹部損傷—CT scan上high densityを呈した症例より

著者: 小林上郎 ,   中沢省三 ,   有賀徹 ,   矢埜正実 ,   大塚敏文 ,   西邑信男 ,   本多一義

ページ範囲:P.1165 - P.1174

I.はじめに
 頭部外傷急性期の剖検時に,mass lesionを有しない一次性の脳幹部損傷(著者らの用いる脳幹部とは,corpus striatum,diencephalon,mesencephalon,Ponsおよびmedulla oblongataまでを総括する広義の脳幹部を指す19))が存在する.事実は,既に諸家の述べるとおりである1,6,20,21,24,33,34).しかしながらCT scanが頭部外傷の診断に広く用いられ,絶大な威力を発揮するようになった昨今でも,これにより確かめられた脳幹部損傷の報告は極めて少なく,その詳細な解析はほとんどなされていない.最近著者らは,CT scan上でhigh densityとして確認しえた6例の外傷性脳幹部損傷を経験し,これらのCT所見および発生機序,更に予後との関係を中心に検討したので報告する.

症例

第4脳室原発と思われるEndodermal sinus tumor(Yolk sac tumor)の1例

著者: 中川義信 ,   岡川雅博 ,   谷本邦彦 ,   曽我部紘一郎 ,   松本圭蔵 ,   古谷敬三

ページ範囲:P.1177 - P.1182

I.はじめに
 germ cell originの腫瘍は卵巣,睾丸の両性腺に最も多く発生し,次いで仙尾部,後腹膜,前縦隔,胸腺部といった正中線上に多く発生している.頭蓋内においても,松果体部,次いで鞍上部ないしはその近傍に発生しているが,その頻度は本邦のものでは全脳腫瘍中の8.8%10)(pinealoma)を占めている.
 最近われわれは血清alpha-fetoprotein(AFP)が陽性であり,酵素抗体法により腫瘍組織内にAFPを証明しえた,第4脳室原発と思われるendodermal sinus tumor(Yolk sac tumor)を経験したので,若干の文献的考察を行い報告する.

一卵性双生児にみられた"Moyamoya"病

著者: 園部真 ,   高橋慎一郎 ,   浦川陽一 ,   長嶺義秀 ,   児玉南海雄 ,   深沢仁

ページ範囲:P.1183 - P.1188

I.はじめに
 "Moyamoya"病における同胞例,親子例および家系発生例はこれまで十数組の報告がみられるが,一卵性双生児の発症例は1組にすぎない.最近われわれは,一卵性双生児に本症を経験し,1例は剖検所見を検討することができ,他の1例には浅側頭動脈一中大脳動脈吻合術,およびencephalo-myo synangiosisを施行し,症状を軽快しえたので,若干の考察を加えて報告する.

両側内頸動脈欠損症の1例

著者: 植村正三郎 ,   益満務 ,   松角康彦 ,   丸林徹

ページ範囲:P.1191 - P.1196

I.はじめに
 内頸動脈欠損症の報告は比較的少ない.われわれは,軽微外傷後ケイレン発作で発症し,後頸部に血管性雑音を聴取したことにより脳血管撮影を施行し,両側内頸動脈欠損を認めた症例を経験したので,文献的検討を加えて報告する.

結節性硬化症における嚢胞を伴った脳腫瘍の1手術例—正常知能の家族発生例

著者: 横尾昭 ,   小林茂昭 ,   京島和彦 ,   中川福夫 ,   松尾宏一 ,   杉田虔一郎

ページ範囲:P.1197 - P.1202

I.はじめに
 結節性硬化症はvoll Recklinghausen (1862)の報告以来,既に多数の報告がなされ,臨床症状として精神発育障害,てんかん,脂腺腫の3徴候があげられている.しかしこの3徴候のいずれかを欠く非定型的な症例も多く,臨床所見のみからは診断が困難なこともある.本症に特徴的な脳内の結節ないし石灰化像を頭部X線単純写および気脳写で証明することにより診断は確定的となるが,その描出率には限界があった.CTスキャンはその脳内石灰化部の高い検出力によって,旧来のX線診断に代って本症診断のために必須のものになっている.われわれは小児科にて正常知能の結節性硬化症の患者を追跡中,嚢胞形成を伴った脳室内腫瘍を発見し,この嚢胞の拡大によって局所脳症状を呈するに至った手術例と,その兄と母にも本症のみられた家族発生例を報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第8巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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