icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻2号

1980年02月発行

雑誌目次

"道"—と題するエッセイ

著者: 内海庄三郎

ページ範囲:P.109 - P.110

 インカ文明よりもまだ古いアンデス文明の遺跡を求めて,アンデスの山並をキャラバンが行く.まだホヤホヤのNHKのTV番組の1コマです.古い文明,滅亡した文明,その遺産の遺跡.果たして見つかるのか,何がみっかるのか,どのような古代人の営みの跡がみつかるのか,静かな興奮を覚えながら画面を追う,見事な石の文明の跡が4000mの高地に3つ,4つと見いだされていく.しかし,この遺跡だけでなく,メソポタミヤ,ペルシャなどなど,どうしてこんな人の住めない所,住みにくい所に古代の文明の跡が見つかるのだろう.だから亡びる文明だったのだろうか.
 亡び去った古い文明に人々がどうしてこう心を惹かれるのだろう.心の中の何が反応しているのだろう.滅びたものへの哀惜か,驚嘆か,知りたい欲か,空しさへの共感か?

総説

臨床脳波のパターン自動認知

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.111 - P.120

Ⅰ.はじめに
 脳波を客観的,計量的に評価するために,電子計算機は早くから脳波の解析に応用され,分析目的に応じてさまざまなシステムがデザインされてきた12,17,59).最近では臨床脳波の自動診断の立場から,従来の理論的,分析的方法に加えて,臨床医の視察的解析に近似する波形の自動認知も行われている.また,電子計算機の発達と普及により,脳波の自動解析は臨床各領域で広く応用されている4,11,24,46,48,67,70,73)
 脳波は基調波形と一過性波形とに大別されるが,病的状態による変化ばかりでなく,年齢,覚醒と睡眠,種々な賦括などにより,それ自体生理的に変動するものであり,また,脳波診断では各種波形の周波数,振幅,それらの出現率と様式,左右差や反応性などが求められるために,自動認知の対象として形態的,状態的および経時的に複雑である.

Case Study

髄液過剰産生による水頭症を呈した第3脳室内choroid plexus papilloma

著者: 駒井則彦 ,   竹綱晟記

ページ範囲:P.121 - P.129

Ⅰ.はじめに
 choroid Plexus papillomaは全脳腫瘍中,0.4-0.6%の頻度6,26,38)を示す比較的稀な腫瘍である.また,この腫瘍は多くの興味ある特徴をもっている.すなわち,1歳未満の小児に多く23,29),ときには胎生期に発生した例も報告され5,7,22),髄液過剰産生を伴い8,11,14,19,23,28,30),交通性または閉塞性水頭症や稀には腫瘍よりの出血によるくも膜下出血で発症し1,10),成人と小児では好発部位が異なり23,29,34),組織学的にはほぼ正常choroid plexusと同様な構造を示すが,髄液腔にseedingしたり3,16,23,34),ときには悪性化7,23,30,35,36)し他臓器に転移35)するなどである.
 われわれは7歳9カ月の男児の第3脳室内choroid plexus papillomaを全剔し完治さすことができたが,この症例は生後6力月より水頭症として治療し,経過中に髄液過剰産生を認めたものである.示唆に富んだ症例であるため,ここに全経過を紹介する.

Current Topics

核磁気共鳴の医学への適用

著者: 西川弘恭 ,   吉崎和男 ,   安里令人

ページ範囲:P.131 - P.136

Ⅰ.はじめに
 生体の原子・分子レベルでの研究法として化学的,物理的方法が種々用いられている.それらの中で電磁波(X線,紫外線,可視光線,赤外線,ラジオ波)を用い従来よりX線回折,光吸収,光散乱,ケイ光,輻射熱などを検出し,物質の物理化学的解析が行われている.核磁気共鳴法(NMR法)とは電磁波のうちラジオ波を用いる方法で,その原子核による吸収を検出する方法といえる.本法はBloch3)やPurcell27)らにより1945年に開発されたものであるが,近年のエレクトロニクスやコンピュータの急速な発展により,S/N比向上のための種々の工夫が加えらた(後述),生体高分子のC,H,Nなどの原子や,相対感度が低くかつ低濃度である生体内化合物の観測や複雑なデータの高速度での解析が可能となった.そして従来有機化学の分野で分子構造解析,も反応解析などに用いられていたNMR法が医学研究に有力な研究手段となり,1978年奈良で行われたVIIIth International Conference on Magnetic Resenance in Biological Systems31)においても,生体膜,ミトコンドリア,神経,NMR Zeugmatography(NMR-CT),生体高分子の動的解析などをあつかった研究が多く見られた.本小文ではNMR法を概観し,医学におけるその適用を中心にまとめた.

海外だより

アメリカでの悪性腫瘍治療の現況

著者: 星野孝夫

ページ範囲:P.138 - P.139

 1978年の5月号にアメリカでのco-operative studyについて書いたのを記憶しているが,その際にも触れたが,一番この種のstudyが盛んなのは悪性腫瘍に対するものである.
 脳神経外科関係では,もちろんのこと,十数年前よりMichael Walkerを中心にBrain Tumor Study Group(BTSG)が結成され,今でもその活発な活動を続けている.人脳腫瘍のhetemgenicityしかも個人差などがからみ合って,それぞれの考え出された治療法を検討するためにはどうしても大きな母集団が必要になる,いまや単一の施設では,統計的に有意義な結果を得るのは不可能といってもよいくらいである.

研究

閉塞性脳血管障害の脳脊髄液循環動態—Radioisotope cisternographyとcomputed tomography cisternographyとの対比

著者: 野垣秀和 ,   楠忠樹 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.141 - P.145

Ⅰ.はじめに
 閉塞性脳血管障害例の脳脊髄液(CSF)循環動態を検討した報告は今までに少なく,しかもこれらに関する知見は主としてRadioisotope cisternography(RIC)を用いて得られてきた.一方Computed Tomography(CT)の導入,ならびに水溶性ヨード剤であるmetrizamideの開発により,Computed tomography cititernegraphy(CTC)が臨床的に応用されるようになり,その有用性が諸家により報告されている.
 われわれは今同,RIC,CTCの両検査法を用い,閉塞性脳血管障害例のCSF循環動態を検討し,若干の知見を得たので報告する.

脳動静脈奇形の循環動態

著者: 竹山英二 ,   上野一朗 ,   高良英一 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.147 - P.153

Ⅰ.はじめに
 形態学的な面はさておき,脳動静脈奇形の循環動態に関して,脳血管撮影により得られる情報は少ない.しかし当該疾患の循環動態に関する把握は外科的治療の是非,その内容を検討する観点からも重要であろう.
 われわれは脳動静脈奇形の循環動態に関して,核医学的手法を用いて検討してきた.1つはRI-MAAを内頸動脈に注入して相対的脳短絡血流量(relative shunting bloo flow:RSF)を測定することであり,もう1つはRI静注法により,脳循環時間と脳血管床量左右差を測定する方法である.いままでにRSFは13例で,脳循環時間および脳血管床量左右差は14例で検討している.その結果,脳動静脈奇形の存在が周辺脳組織の循環動態におよぼす影響について若干の知見を得たので報告する.

剖検所見からみた頸髄損傷の初期治療

著者: 木下博

ページ範囲:P.155 - P.166

Ⅰ.はじめに
 頸髄損傷の治療は正しい病理学的知見に基づいてなさるべきであり,著者の行った23例の剖検所見から,頸髄損傷別に代表例を呈示して,脊髄損傷の実態を明らかにし,治療との関連について考察する.

症例

乳幼児硬膜下膿瘍の2症例—とくにCT所見の推移について

著者: 本田英一郎 ,   重森稔 ,   林隆士 ,   倉富明彦 ,   倉本進賢 ,   高木繁幸 ,   宍戸豊史

ページ範囲:P.167 - P.172

Ⅰ.はじめに
 一般に乳幼児の硬膜下膿瘍は,年長児や成人と異なり,その発生原因が不明のことや髄膜炎に続発するものが多いといわれ3,4,13),現在なお予後不良の疾患として知られている.CTスキャンの導入以来,本症の診断はかなり容易になったと考えられるが,CT所見についての詳細な記載はきわめて少ないようである2,6,7,9,16).また,外科的療法の選択についてもいまだ議論の多いところである.今回,著者らは乳幼児硬膜下膿瘍の2症例を経験したので,とくにこれら症例の病因,感染経路について考察し,さらに外科的治療前後のCT所見の推移について検討したので報告する.

頭蓋内脊索腫の1例—そのCT所見を中心に

著者: 門田紘輝 ,   笹平正廣 ,   浜田博文 ,   粟博志 ,   松田一己 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.173 - P.179

Ⅰ.緒言
 脊索腫の頭蓋内発生頻度は,統計により種々異なるが,一般的には頭蓋内脊索腫(intracranial Chordoma)は,全脳腫瘍の0.1−0.3%を占めるといわれている25).最近の脳腫瘍全国集計調査報告Vol.221)によると,本邦では4年間の令脳腫瘍例中33例が記録されており,0.5%の頻度で,前記よりやや高くなっているが,それでも稀な脳腫瘍の1つである.
 近年臨床に導入され,かつ急速に普及したComputed Tomography(CT)により,脳腫瘍の臨床においても数多くの知見が寄せられ,腫瘍の局在や拡がりはもとより,その病理組織学的性質も,かなりの程度まで推定し得る段階となってきた18).しかし「CT時代」といえる現在でも,本来稀な腫瘍であるがために,脊索腫のCT所見を解析した報告は少ない7,8,19,30).最近私共は,頭蓋内脊索腫の1例を経験したので,その臨床経過にCT所見を併せ,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳Moyamoya血管内に生じた動脈瘤の1例—脳血管写中破裂および自然消失

著者: 大熊晟夫 ,   大下裕夫 ,   船越孝 ,   敷波晃 ,   山田弘

ページ範囲:P.181 - P.185

Ⅰ.はじめに
 脳血管Moyamoya病と脳動脈瘤の合併は稀に認められ現在までに14例の報告がある1-8,10-12).このうちMoyamoya血管を構成する血管内に動脈瘤が認められた症例は7例であった2,4,8,1,12).これらの報告がなされるにおよび脳血管Moyamoya病におけるくも膜下出血(以下SAHと略す)の1原因を合併した動脈瘤の破裂に求めようとする考え方が出てきた.
 著者らは脳Moyamoya血管内に生じた動脈瘤の破裂を脳血管写にてはじめて確認し,追跡血管写にてその自然消夫を認めたので,脳血管Moyamoya病における動脈瘤の発生機序とSAHと動脈瘤の関係について検討を加える.

肺に転移した髄芽腫の1例—症例報告と文献的検討

著者: 小松伸郎 ,   佐藤智彦 ,   片倉隆一 ,   桜井芳明 ,   和田徳男 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.187 - P.191

Ⅰ.はじめに
 medulloblastomaの頭蓋外への遠隔転移は稀であり,Chartty7)は201例中の4例(1.99%)に,著者らの日本剖検輯報での集計でも100例中の6例(6%)に認められたにすぎず,また転移巣の大部分は骨とリンパ節であって,肺転移の報告は少ない.著者らはmedulloblastomaで肺への転移を認めた1例を経験し,更にこの腫瘍の頭蓋外遠隔転移に関して文献的検討を加えたので報告する.

腫瘍内大量出血をきたした聴神経鞘腫の1例

著者: 馬場元毅 ,   伊関洋 ,   熊谷頼佳 ,   杉山弘行 ,   名和田宏

ページ範囲:P.193 - P.197

Ⅰ.はじめに
 ある種の良性腫瘍において,くも膜下出血をはじめとする頭蓋内出血をきたすことは稀ながら,これまでにもいくつかの報告1,2,4,6-8,10,13,15,20)がある.しかし,聴神経鞘腫においては,組織像の観察にては血管床が豊富であったり,ヘモジデリン沈着が著しかったりすることから,腫瘍内出血の既往をうかがい知る程度のことはあっても,症状の急激な悪化を招来せしめるような大量出血や腫瘍被膜を破ってくも膜下出血をひき起こすような出血は意外に少ないようである.特に,くも膜下出血にて発症した聴神経鞘腫は現在までに2例3,13)の報告をみるにすぎない.
 著者らは最近,臨床症状,CTスキャンなどから聴神経鞘腫と診断され,入院観察中に突然の臨床症状の悪化をきたした症例を経験した.症状悪化後のCTスキャンにて急激な腫瘍陰影の増大を認め,緊急手術の結果,聴神経鞘腫の被膜内大量出血であることを認めた.

特異な経過をとった橋出血の1手術例

著者: 内藤正志 ,   魚住徹 ,   北岡保 ,   冨原健司

ページ範囲:P.199 - P.203

Ⅰ.はじめに
 橋部の出血は,突然起こる昏睡,著明な呼吸障害,四肢麻痺,瞳孔異常を呈し,急速な経過をとり死に至る症例が多く,たとえ手術により血腫除去を行っても社会復帰できる症例は稀である.われわれは約6カ月に及ぶ慢性の経過をとり,橋部の腫瘍と鑑別が困難であった原発性橋出血の36歳の女性に,後頭下開頭により血腫の吸引を行い,多彩な神経症状をほぼ完治することができた.原発性橋出血にて,直接手術により治癒した症例は非常に稀であるので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?