icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻4号

1980年04月発行

雑誌目次

加藤さんと加藤賞

著者: 牧豊

ページ範囲:P.311 - P.312

 40歳以下の方はあの一風変わった魅力的な加藤俊男教授(1902-1968)をご存じではないと思う.想い出として語るとき加藤先生より「加藤さん」とお呼びしたほうがやはりピッタリとするお人柄であった.
 慶大放射線科教授だった加藤さんの音頭で日本神経放射線懇話会が結成されたのは昭和34年11月である.昭和35年から年1回の研究会が開かれ昭和43年4月に他界されるまで加藤さんは文字通り日本の神経放射線学を育成されてこられた.具体的には,研究会の経費一切は加藤さんが負担されたし,また,神経放射線の諸外国の,特に米国の情報を早く私どもに教えて下さった.学会の動向ばかりでなく先進国の神経放射線の実際が如何に進んだ独立した科の機能をもっているかを機会あるごとに話された.

総説

血行再建と脳のエネルギー代謝—脳虚血と生化学

著者: 小暮久也

ページ範囲:P.313 - P.327

Ⅰ.はじめに
 閉塞性の脳血管障害によって,脳に虚血巣ができた場合,その中心部から辺縁部,そして周囲の正常に還流されている組織にいたる移行部(transitional zone)では部分毎に血流減少の度合いが異なり,組織が傷害される機序も異なる(heterogeneous brain injury in ischemia).また、時間が経てば側副血行の増加による虚血後還流(postischemic circulation)を受ける部分も混在するようになるので,その後の虚血による脳細胞傷害の過程(intraischemic events)は,虚血後の過程(postischemic events)に修飾されながら数時間から数日のあいだ進行する.機化の過程は更に数カ月から数年にもわたって進行するといわれる1).体系化された合理的な治療法(systematized rational therapy)は,このように立体的にも時間的にも拡大し変化する過程(dynamicevolving process)を正しく理解することによって,はじめて可能になる.

Case Study

重症脳外傷に影響した内頸動脈海綿静脈洞瘻

著者: 岩田金治郎 ,   渡部三郎

ページ範囲:P.329 - P.334

I.はじめに
 頭部外傷急性期の治療は,第一に全身の管理,同時に専門的にその病型の分類から始まる.陥凹骨折があれば,脳の損傷を最小にとどめるためにこれを修復し,頭蓋内血腫の発生では脳圧迫が起こらぬようこれを除去し,脳挫傷が考えられれば脳浮腫,脳ヘルニヤを予防,軽減させるため頭蓋内亢進に対する処置を施す.一般にいわゆる重症脳外傷ではこれらは混在し,相乗的に病態を悪化させていることが多く,各方面より慎重な検討,対策が練られている.
 一方,外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻traumatic internal carotid cavernous sinus fistule (ICCF)は,脳神経外科の臨床で誰もが忘れかけた頃に遭遇する程度の,多くはないが決して珍しいものでなく,特に雑音を伴う拍動性眼球突出pulsating exophthalinos with bruitという特異な臨床像でkey word的に診断を思いつき,その根治に工夫を凝らす病態で,本疾患は現在主としてその治療法に脳神経外科医の関心が寄せられている.ICCFは一般に急性期が去ってから対策が講ぜられ,脳循環障害が問題になることは稀であるが,われわれは外傷性脳浮腫がICCFの合併により著しく増悪され,その血流の改善により急速に消退,回復に向かった重症脳外傷例を経験したのでcase studyとして紹介する.

Current Topics

頭部の画像処理—最近の進歩と問題点

著者: 舘野之男

ページ範囲:P.335 - P.338

Ⅰ.はじめに
 医用画像の関係で画像処理技術が最も早くから用いられはじめたのは核医学の分野である.核医学では1950年代初から,放射能の空間的分布状態を画像として描き品して診断に役立てようとする研究が始まった.これは,ラジオアイソトープスキャニングと呼ばれていたが,この画像はそれまでのX線画像に比べると極めて劣悪であったので,これを何とか使えるものにしようとして画質改善のため処理が種々研究された,この研究が比較的スムーズに進んだのは当時時を同じくして発展したミニコンピュータ技術の普及とともに核医学データが本来的にデジタルデータであったことが大きな理由となっている.
 更に1969年,核医学は,医学利用の観点から見た画像処理技術として第1級にランクされる画期的な業績を生んでいる.それは,開原成允氏(現在,東京大学医学部助教授,電算機企画室)によるFunctional Image(機能画像)である1).これは,それまでの2大核医学技術,つまり,時間放射能曲線を描いてその曲線を解析し,それによって各種器官組織の機能を知ろうとする機能診断の分野と,スキャニング法による形態診断の分野とを統合したもので,経時的に取得したスキャニング図から画像処理の技術によりある特定の機能を表わすパラメータを器官組織内の微小単位毎に演算,抽出して分布図として表示するものである.

CTスキャナ開発とノーベル医学・生理学賞

著者: 松井孝嘉

ページ範囲:P.339 - P.342

Ⅰ.はじめに
 1979年度ノーベル医学・生理学賞は,A.M.Cormackと,G.N.Hounsfieldに決定したが,以前からよく知られているW.H.Oldendorfが入らなくて,一般的には比較的知名度の低かったCormackが入っているので,奇異に感じられた方も多いと思う.筆者はこのCTスキャナの開発の渦中にあったので,CTスキャナ開発をその初期の頃から比較的長い目で見てきている.また,Cormackとの私的な関係もあり,この辺の事情とCTスキャナの開発の歴史をたどってみようと思う.
 CTスキャナの開発には2つの大きな流れがあり,その開発の端緒は,1960年代初頭に,ロサンゼルスの神経内科医Oldendorfの実験と,ボストンのTuft大学物理学教室のCormack教授の実験モデルによる.

研究

長期クリッピング,結紮による頭蓋内血管壁の経時的,組織学的変化—第2報 臨床剖検例における検討

著者: 蛯名国彦

ページ範囲:P.343 - P.354

Ⅰ.緒言
 脳動脈瘤柄部クリッピングに用いられているクリップについて機械工学的性状に関する研究はいくつか報告5,11,19,23,30,34)が見られ,また,temporary clippingによる血管壁の変化に関する研究も近年相次いで報告7,14,17,34,37)されているが,permanent clippingあるいは結紮による動脈瘤柄部血管壁の変化に関する検索はあまり行われていないようである.この点について,先に第1報においてはspring type clip, non spring type clip,および結紮による血管壁の変化について雑種成犬を用いた動物実験を行い,クリッピングあるいは結紮部位に高率に血管壁の壊死が発生するが,同時に周囲に反応性の肉芽組織が形成され,また,隣接血管の内膜肥厚が起こることによって,血管すなわち動脈瘤柄の脱落は免がれるといった縞論を得た.今回は同様の検索を臨床例において行うべく脳動脈瘤根治手術後に死亡した臨床剖検例を対象とし,クリッピングによる血管壁の経時的,組織学的検索を行い,クリップの至適条件などについても考察を加え,検討を行った.

重症頭部外傷における脳幹損傷—脳幹損傷の客観的診断法としてのFar Field Acoustic Responseの意義

著者: 西本博 ,   坪川孝志 ,   山本隆充 ,   北村守彦 ,   片山容一 ,   森安信雄

ページ範囲:P.355 - P.362

Ⅰ.序論
 重症頭部外傷患者の予後を決定する因子として,合併する一次的あるいは二次的な脳幹損傷の程度が重要となる.重症頭部外傷患者の管理に際しては,この脳幹損傷の程度を早期に,より客観的にとらえることが必要となるが,従来意識障害の程度,眼症状,除脳硬直等,脳神経学的所見に頼らざるを得なかった.Glasgow coma scale12,133)のように,意識障害患者でも施行しうる簡単な脳神経学的検査結果より,頭部外傷患者の予後を推定しようとする試みは数多く報告2間されているが,検査結果が必ずしも正確に脳幹損傷の程度を反映しているとはいえない.更に頭部外傷患者における脳幹損傷が,臨床的には一次脳幹損傷と考えられる症例でさえも,特殊な実験的脳損傷21,34,35)を除き,病理学的には多くの場合脳幹部以外の損傷を合併している事実1,3,6,16,17)を考慮すると,脳幹機能そのものを直接反映する検査法が必要となる.
 このためcaloric vestibulo-ocular response4,18,20,25,39),orbicularis oculi reflex14,27),各種頭皮上誘発電位(特にlate component)10,11)等が応用されているが,その反射弓が必ずしも明確でなかったり,天幕上に合併する病変により影響を受けるなど問題が残されていた22)

脳腫瘍に対するレーザ手術の評価

著者: 原充弘 ,   岡田純一郎 ,   竹内一夫 ,   滝沢利明 ,   松本正久

ページ範囲:P.363 - P.369

Ⅰ.はじめに
 1960年にlaser(LASERはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationの略)が出現して以来,ruby laser,He-Ne laser,argon laser,CO2 laser,YAG laser等種々の型のlaser機が開発されてきた.しかしこの中で,現在脳腫瘍手術に対し最も利用価値のあるのは,滝沢らにより脳神経外科用として開発されたCO2 laser(以下Laserと略)と考えられる.
 われわれは1977年以来,各種腫脳瘍の手術に際しLaserを用いている.その経験から,現在なお高価な本装置が脳腫瘍手術にどれほど有用であり,しかも必要であるかをできるだけ客観的に検討してみた.

Metrizamideの脳脊髄液腔造影効果とその副作用

著者: 藤原潔 ,   玉木紀彦 ,   山下英行 ,   江原一雅 ,   大洞慶郎 ,   塩見壮司 ,   頃末和良 ,   楠忠樹 ,   野垣秀和 ,   松本悟

ページ範囲:P.371 - P.378

Ⅰ.はじめに
 脳脊髄液腔の造影には空気,油性造影剤,水溶性造影剤,RISA,169Yb-DTPA等が用いられているが,いずれも造影効果や副作用に関して難点が多く診断価値は充分とはいえない.そこで神経系の特殊性を考慮し,副作用のより少なく診断価値のより高い造影剤の開発が常に求められてきた.非イオン性水溶性造影剤であるmetrizamidc(AmipaqueR)はこの神経放射線学領域の要望に呼応するかのように開発され,北欧では既に膨大な動物実験や臨床治験を経て実用に付されている3,10,17).わが国においてもようやく臨床治験の報告が散見されはじめたが,その安全性はいまだ充分に検討されていない2,8,10,15,19-22)
 われわれも1976年よりmetrizamideを用いて現在までに169回の臨床治験を行い,その副作用を詳細に検討したところ,頭蓋内外の脳脊髄液腔の造影剤としてすぐれた造影効果と安全性を有するという結論を得たので報告する.

症例

破裂脳動脈瘤と下垂体腺腫の合併例

著者: 岡田仁 ,   児玉南海雄 ,   峯浦一喜 ,   坂本哲也 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.379 - P.381

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤と脳腫瘍との合併例は,文献上少なからず認められ,われわれもこれまで4例を経験している.しかしその大部分は,脳腫瘍の精査中に発見された非破裂動脈瘤であり,動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて発症した合併症例の報告は少ない.最近われわれは,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて発症し,下垂体腺腫を合併していた1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

両側前頭葉内嚢腫—Suprasellar germinomaの一形

著者: 小竹源也 ,   堀川義治 ,   吉野英二 ,   平川公義

ページ範囲:P.383 - P.388

Ⅰ.はじめに
 Suprasellar germinomaは尿崩症,視力視野障害,下垂体前葉機能不全を三主徴として発現すると知られている13,31).しかしこれらの症状が明らかでなく,痙攣発作を初発症状として発現した両側前頭葉内にcystを形成する稀なsuprasellar germinomaの1症例を経験したので報告する.

脳動脈瘤クリップ由来と思われる術後内頸動脈一過性閉塞

著者: 畑中光昭 ,   田中輝彦

ページ範囲:P.389 - P.393

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤のクリップとしては従来のV型,U型のsilver,またはtantalum clipに代わって着脱が可能でかつクリッピングに際して力の加減の容易な点などから種種のspring typeのクリップが多く用いられるようになっている.しかし近年,クリップの破損,滑脱などの報告も散見されるようになり,spring clipにおいても種々の問題点が指摘されるようになったが,その1つとして,いずれのspring clipにも共通なクリップ頭部の大きさが挙げられる.最近,巨大脳動脈瘤に対して柄部クリッピングおよび動脈瘤切除を行ったところ,術後クリップ頭部が脳により圧排され変位したため頭蓋内内頸動脈が屈曲し,一過性に完全閉塞をきたした症例を経験した,これを報告し,spring typeの大きな頭部がもたらす問題点とその対策についても述べる.

脳原発と思われる,広汎な頭蓋外転移をきたした肉腫の1剖検例

著者: 志村俊郎 ,   伊藤保博 ,   上田建志 ,   中沢省三 ,   矢島権八

ページ範囲:P.395 - P.400

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍の頭蓋外転移は,化学療法や放射線療法の発達およびステロイド剤の大量投与に由来する生体の免疫感作機構の抑制等により,近年増加の傾向にあることが注目されている6,8,9,16)
 脳腫瘍の頭蓋外転移症例のうち,悪性神経膠腫については,転移巣との発生母地の相違を中心に多くの検討がなされてきたが3,8,16,25),間葉性起源である脳原発性肉腫の頭蓋外転移の報告については意外に少ない2,4,6,7,9,13,14,18,24)
 著者らは左頭頂葉に発生した脳原発性肉腫が,手術,放射線および化学療法等の治療中に,マントー反応陰性化をきたした後,広汎な遠隔転移を示した1剖検例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?