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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

或る試み

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.507 - P.508

○ 最近,患者と医師との間の人間関係が悪くなったと,患者サイドからも医師の側からも嘆く声をよく耳にする.医療が近代化され,優秀な各種補助検査法の導入,および専門化が進んでくると,昔のように"脈をとってもらう"とか,"手当をうける"という言葉で表現されるような温かい感じのする医療行為は少なくなってきた.患者の訴えや家族の話をよく聞き,聴診器,ハンマーなどを駆使し,患者の体を"すみからすみまで"たっぷり時間をかけて診察しなければならなかった時代には,はだかになった患者と医師の間がうまくいかないほうが不思議なくらいであったのだろう.
 これに反し,現代の医療はどうだろう.補助検査法といわれたものが"補助的"でなく"決定的"検査法になってきた.このことは患者のほうもよく知っていて,優秀な医師がいるということもさることながら,最新の医療設備を備えた病院に集まる傾向にある.確かに最近の医療は,疾患それ自体に対しては適切なものとなったのであるが,この的確な診断は,"脈をとる"式の方法でなく,機械の関与が大きくなったところに問題があるのである.あの検査,この検査といろいろな部屋を廻っているのでは,患者と医師との人間関係が薄くなり,そこに摩擦が起こったとしても,さして不思議はなかろう.

総説

中枢神経における転移性腫瘍について—病理学よりみた解説—第1部—

著者: 平野朝雄 ,   北條俊太郎

ページ範囲:P.509 - P.518

Ⅰ.はじめに
 毎週Montefiore Hospitalでbraincuttingをして約24年余りになりますが,そのなかでも癌の剖検例は最もよくみられる症例の1つです.この悪性腫瘍の脳転移の病理所見につきましては昔から数々の論文が,当病院より発表されております5-7,15-17,19).そのなかで,多数例をまとめました論文としましてはDr, LesseとDr.Netzkyの研究があります15).これは1938年より1947年の間に癌で死亡した595例の全身解剖症例中,中枢神経およびmeningesに転移した207例について分析したものです,その後1959年に,Dr.Barron,荒木淑郎先生,およびDr.Jerryと一緒に,127例の脊髄に転移した腫瘍の臨床および病理所見を発表したことがあります4).このたび,1950年より1974年に至る最近25年間の全身解剖例中,悪性腫瘍のみられた3,849例につき,資料をまとめることができましたので13),その大要をここに紹介したいと思います.この資料の詳細な成績につきましては,転移性脳腫瘍の単行本に英文にて発表されることになっております14).なお,中枢神経の転移性腫瘍に関する文献としましてはWillisの本23)および脳腫瘍一般につきましての成書の一部に記載されておりますので参考までに紹介しておきます1,3,11,20,21)

Case Study

片麻痺を主症状とした頭蓋咽頭腫

著者: 矢田賢三 ,   宮坂佳男 ,   佐藤健

ページ範囲:P.519 - P.526

Ⅰ.序論
 頭蓋咽頭腫は小児脳腫瘍の代表的なものの1つであり,その臨床像は頭蓋内圧充進,眼症状,内分泌障害および頭蓋レ線上の石灰化像が特徴的である1,16).一方,成人例を含めても本腫瘍が運動麻痺を呈することは極めて少ない1,2,7,18,19).これは頭蓋咽頭腫の発育方向が主として上方進展を示し,第3脳室圧迫の傾向を取るためと理解される19)
 著者らは最近,片麻痺を主訴として来院し,諸検査および手術によって,側方進展を主とした巨大な頭蓋咽頭腫であることを確認した小児例を経験したので,確定診断までの経緯を中心に報告する.

Current Topics

A Microstereotactic Approach to Small CNS Lesions—Part Ⅰ Development of CT Localization and 3-D Reconstruction Techniques

著者: ,   ,   ,  

ページ範囲:P.527 - P.537

 The authors describe a newly designed and utilized stereotactic methodology for the removal of central nervous system lesions as small as a few millimeters in diameter.s, These small lesions are detected and localized by non-invasive computerized axial tomography (GE 8800 scanner) with additional computer processing of the digital data by means of a PDP-1145 computer. Multiple computer algorithms have been developed to enhance regions of interest on CT scans by threedimensional reconstruction and magnification techniques. This same data can then be used to calculate a stereotactic approach to a small CNS lesion.

研究

硬膜下膿瘍—自験9症例と文献的報告55症例の検討

著者: 山川弘 ,   木田恒 ,   日野輝夫 ,   安藤隆 ,   坂井昇

ページ範囲:P.539 - P.544

Ⅰ.はじめに
 硬膜下膿瘍は,頭蓋内感染症のうち,髄膜炎,脳膿瘍に次ぐ位置を占め,その発生頻度は従来,脳膿瘍の1/4-1/5とされてきたが5),脳膿瘍に比して最近その増加傾向が指摘され3),報告例も増加してきている.
 本症に関しては,1974年,教室の大熊ら9)が自験3例と本邦報告53例を集計して検討を行っているが,その後われわれの教室では6例の本症を経験し,その間CTの導入もあり,今回先の3例を含め自験9例を再検討し併せて文献的考察を加えたい.

眼窩腫瘍の手術—発生部位と接近法の検討

著者: 渡辺孝男 ,   児玉南海雄 ,   森照明 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.545 - P.549

Ⅰ.はじめに
 眼窩腫瘍は,高安らの報告12)によれば眼疾患の約0.16%を占めるにすぎず,比較的稀な疾患である.しかもこの数値は,眼窩骨部の腫瘍やmucocele等も含んだものであり,眼窩内腫瘍に限ればその頻度は更に低くなる.眼窩内腫瘍の治療法は腫瘍摘出が基本であり,手術方法としてはanterior approach,lateral approach,transcranial approachなどが主として用いられている.ただし腫瘍が悪性であれば眼窩内容除去術が行われ,薬物療法の無効なpseudotumorには,眼窩のdecompressionの意味で手術が行われる場合がある.
 anterior approachの適応は,腫瘍が眼球赤道線より前方にある場合であり,主として眼科医あるいは耳鼻科医により行われている.

症例

内頸動脈・後交通動脈分岐部漏斗状拡張を思わせる小動脈瘤破裂の2例

著者: 桑原健次 ,   遠藤俊郎 ,   岡田仁 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.551 - P.555

Ⅰ.はじめに
 直径3mm以下の脳動脈瘤の破裂は稀であり,特に内頸動脈・後交通動脈分岐部のものではjunctional dilatationとまちがわれやすく,破裂かどうかの判定が難しく,直接手術の決断に不安を感ずる.今回われわれはそのような破裂動脈瘤を経験したので,診断,手術適応に関し若干の考察を加えた.

側頭骨に原発したEwing肉腫の1例

著者: 原直行 ,   金子博 ,   井上啓一 ,   渡辺正雄

ページ範囲:P.557 - P.562

Ⅰ.はじめに
 Ewing肉腫は1921年にJames Ewingが初めて記載した悪性骨腫瘍である3).比較的若年者,主に5-25歳に好発し,男に約2倍多く発生する.5年生存率8%と極めて悪性な腫瘍であり5),主な死因は肺転移である.その他,全身骨へ転移する13).骨髄の未熟な細網細胞から発生するとされ9,16),大腿骨,上腕骨,脛骨等の長管骨に多く,扁平骨では骨盤骨に多く発生する13,15),頭蓋骨,特に脳蓋骨に原発することは極めて稀であるが2,7),今回,われわれは左側頭骨鱗部に発生し,局所再発を繰返すが,遠隔転移なく,摘出術と高線量照射により,発症後3年経過した現在,経過良好な症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

全身転移を示した頭蓋内Germinomaの1例

著者: 元持雅男 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   青山育弘 ,   市島国雄 ,   山辺博彦 ,   小橋陽一郎

ページ範囲:P.563 - P.570

Ⅰ.はじめに
 原発性頭蓋内腫瘍の頭蓋外転移は稀なものであり,間葉性腫瘍,小脳髄芽腫,膠芽腫等がその報告の大部分を占める.germinomaの頭蓋外転移は,髄腔内播種性転移を除くと,その遠隔転移は極めて稀であり,これまで8例の報告を見るのみである.このような1例を経験し剖検の機会を得たので報告する.

腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma)の小脳転移の1手術例

著者: 新村富士夫 ,   榊原常緑 ,   高安研治 ,   高木偉 ,   有輪六朗

ページ範囲:P.571 - P.576

Ⅰ.はじめに
 腺様嚢胞癌は大唾液腺,小唾液腺,涙腺,気管あるいは乳腺等から発生する発育緩慢な悪性腫瘍である.局所再発や神経周囲のリンパ腔,神経組織に沿って浸潤性に発育したり,血行性に遠隔転移する.
 今回,われわれは右側顎下腺原発の腺様嚢胞癌根治術後約6年経過して左側小脳半球に転移した症例を経験した.脳神経外科領域での報告は極めて少ないので文献的考察を加えて報告する.

巨大な前頭葉皮質下のGerminomaの1例

著者: 河本圭司 ,   谷定泰 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   染田邦幸

ページ範囲:P.577 - P.582

Ⅰ.はじめに
 われわれは両側前頭葉皮質下の巨大なgermlnomaを経験し,PEG上,松果体部に原発巣を認めなかった.この部位の腫瘍は,現在まで著者らの知る限り10例しか報告されていないので,電顕的検索を加えて報告する.

脊椎内Epidermoid cyst—腰椎穿刺の合併症として

著者: 工藤玄恵 ,   大河原重久

ページ範囲:P.583 - P.586

Ⅰ.はじめに
 脊椎内epidermoid cystは稀な疾患であるが,実は,その多くが腰椎穿刺と因果関係を有することが知られている1-4,10,11,14,15). われわれも腰椎穿刺後に発生した脊椎内epidermoid cystの1例を経験したので,文献考察を併せ報告する.
 腰椎穿刺に起因したと思われる脊椎内epidermoidcystの1例を報告した.患者は57歳の男性で,第4腰椎椎間板ヘルニアの精査のため,脊髄造影術を受けた.穿刺は第2腰椎間で行われた.診断確定後,椎間板ヘルニア切除術を施した.術後2年目,前回の穿刺部位,第2腰椎間を中心にepidermoid cystの発生が認められた.
 腰椎穿刺による医原性epidermoid cystの発生頻度や機序についての文献考察を加え,その発生防止のため,内針のよく適合した腰椎穿刺針を正しく用いることが肝要であることを述べた.

同一血管に併存した脳動脈瘤および脳動静脈奇形両者の動脈瘤包埋術後消失例

著者: 高良英一 ,   井上憲夫 ,   河野宏

ページ範囲:P.587 - P.591

I.はじめに
 脳動脈瘤と脳動静脈奇形(AVM)の合併例において,同一動脈に発生する頻度は37%18)−44.4%26)と報告されている.
 著者らは前下小脳動脈内耳孔部の動脈瘤と,その末梢部のAVMの合併例において,動脈瘤に対してwrappingを行い,術後脳血管撮影にて経過観察中,動脈瘤,AVMともに血栓化したと考えられる極めて稀な症例を経験した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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