icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科8巻8号

1980年08月発行

雑誌目次

医師過剰時代と自治医科大学

著者: 佐藤文明

ページ範囲:P.689 - P.690

 「お宅の大学は欠陥大学だね」といわれたことがある.卒業生が残らないからである.自治医科大学は各自治体との約束によって,卒業生を卒後直ちに各都道府県にお返しすることになっている.卒業生は9年間出身県の地域医療に従事する契約があるから,9年間は,建て前の上では母校に帰ることができない.9年後に母校に帰ってきた時,優れた教育者,研究者になれるかという疑問が残る.
 われわれの後継者は,さしあたりよそ様が育てて下さった卒業生に来ていただくということになる.米作農家がせっかく作った米を全部売って,自分が食べるために米を買うようなものである.ササニシキを売りはらって,等外米を買うこともあるし,その逆のこともあるから,悪いとは言い切れないが,せっかく育てたものをすべて手離すのは何ともさびしいことである.良い面は,私の教室でもいろいろな大学の卒業生が切磋琢磨しているし,私としても教えられることが多い.しかし地域医療に専念する医師を育てるには,やはり僻地医療を経験した自治医大の卒業生も何人かは帰ってきて後輩を指導してくれることが望ましい.

総説

成長ホルモン—脳神経外科との関連で

著者: 武田成正 ,   戸金隆三 ,   難波修 ,   中村公一 ,   兵頭常一 ,   井上和子 ,   入江実

ページ範囲:P.691 - P.699

Ⅰ.はじめに
 成長ホルモンgrowth hormone(GH)は,下垂体前葉の好酸性細胞から分泌されるホルモンで,191個のアミノ酸からなる,分子量約22,000のポリペプチドホルモンである1).このGHの作用は,身長および体重増加を促進する成長促進作用のほかに,蛋白質代謝,脂質代謝,糖質代謝,水・電解質代謝等の物質代謝調節に広く関与していることはよく知られている(Table 1).このようにGHは多彩な代謝作用を有するために,何らかの原因により過剰に分泌されたり,また異常に分泌低下を来たしたような場合,さまざまな病的状態として現われるのである.しかし,GHの分泌異常により病的状態が惹起されることが真の意味で明らかにされたのは,1962年Bersonら2)の研究グループがGHのRadioimmunoassay(RIA)による測定法を確立してからである.
 本稿では,GHの過剰分泌による疾患として末端肥大症および下垂体性巨人症を,GHの分泌低下による疾患として下垂体性小人症を,その病因,症状,診断,治療について述べることにする.

Case Study

2個の巨大aneurysmsを伴う,優位側半球深部のGrade IV,Arteriovenous malformation—自験脳血管奇形37例のGrade,Microsurgeryによる手術可能性,術前後の作業能力の評価

著者: 畠中坦 ,   ,   鎌野秀嗣

ページ範囲:P.701 - P.716

Ⅰ.症例
 患者:M.T.25歳男性.高校卒,祖父母は老衰死,父母同胞3人いずれも健康.虫垂炎(切除)以外,著患としては本病のみ.
 現病歴:中学2年の時くも膜下出血といわれて20日間入院したことがあり,その後脳神経外科医が血管撮影を行い手術をすすめられたが,入院予約後,医師からの連絡がないままになったという.26歳の年の11月1日,土建会社の作業員として働いている時,突然頭痛,嘔吐があり,某病院を受診頭痛が続き,右眼に白いものがちらつくように見え,複視もあったため11月12目に入院,11月14日のCTで脳腫瘍を疑われ当科へ紹介された.腰椎穿刺で髄液は圧が200mm水柱以上,その他の所見は正常であったという.

Current Topics

血小板凝集と内因性プロスタグランジン

著者: 鹿取信

ページ範囲:P.717 - P.722

I.はじめに
 血栓症は心筋梗塞や脳卒中,一過性脳虚血(TIA)など目常診療に極めて重要な疾患の原因となり,広く治療の対象となっている.更に手術後や血管縫合後などにおいても,血栓は無視しえない種々の症状を起こす.
 血栓は本来,止血に作働する系—血小板と血液凝固系—が何らかの原因で血管壁において活性化されたものであると考えられる.

研究

Flow cytometryによる脳腫瘍の生長解析—1.ヒト悪性脳腫瘍

著者: 河本圭司 ,   西山直志 ,   池田裕 ,   山内康雄 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   平野朝雄 ,   ,  

ページ範囲:P.723 - P.728

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍のDNA量についての検索は,初期の頃はHellerら(1954年)6)が生化学的方法により測定し,腫瘍細胞は正常組織よりDNA量が高いと指摘した.その後,cytophotometerを用いて種々の脳腫瘍のDNA量が測定されるようになった(Scarlato & Müller;195923),Pevznerら;196422),Müller;197218),197719)).しかしこの方法は,1個1個の細胞について顕微鏡下でDNA量を測定するので,時間のかかる欠点があった.最近では,細胞のDNA量を瞬時にして測定できるflow cytometry,flow microfiuorotnetryの開発,研究3,12,17)により,DNA量測定に関して画期的進歩が成され,臨床的分野にも広く応用されつつある24,25).このflow cytometryを用いての脳腫瘍の研究に関しては,1976および78年,星野ら7,9)がacriflavin-Feulgen法を用い,1978年,Frederiksenら4)がethidium bromide染色を用いた報告があるにすぎない.われわれは,1975年Krishan15)が開発したpropidium iodideを用いて種々の脳腫瘍について検索してきた.

Moyamoya病におけるTransdural anastomosis—Vault moyamoya

著者: 児玉南海雄 ,   藤原悟 ,   堀江幸男 ,   嘉山孝正 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.729 - P.737

Ⅰ.はじめに
 Moyamoya病16)に関し,われわれは1963年に1つの疾患単位となるのではないかと提唱し,その後各方面から検討を行い,脳底部moyamoya血管(以下basalmoyamoyaと呼称)の小児・成人間における消長の相違16,19)や,その母体となる脳底部穿通動脈の血管構築上の特徴6,9),小児・成人間の症状発現の差異19)および症状発現機序7,10,11,13,21),ethmoidal moyamoya17,20),小児におけ脳波所見1,18),CT所見3),そして外科的治療法12,18)等につき報告してきた.
 さて,本疾患においては,脳血管写上basal moyamoyaおよびethmoidal moyamoyaと類似のmoyamoya血管が頭蓋穹隆部にも認められていたが(以下vaultmoyamoya),これまで未検討であった.今回はこのvault moyamoyaの出現部位,構成血管,basal moyamoyaの期相との相関等につき検討したので,若干の考察を加え報告する.

虚血性脳血管障害における頸部交感神経切除術の効果—矩形波電磁血流計による血流量と臨床経過の観察

著者: 蕎麦田英治

ページ範囲:P.739 - P.748

Ⅰ.はじめに
 脳卒中における脳血管閉塞性疾患の占める割合は,頸部内頸動脈病変も含め,欧米に比し,本邦では比較的少ないといわれてきた4,35).しかし近年,高血圧症管理の改善,生活環境,特に食生活の欧米化に伴う血液組成の変化等により,閉塞性疾患の割合が増加し,外科的治療への関心が高まってきている.
 頸部および脳血管閉塞性疾患に対する外科的治療は,Henschen17)が脳虚血部への微小血管の発育新生を目的として,両側内頸動脈閉塞例の脳表に側頭筋を置き,encephalo-myo-synangiosisを試みたのが始まりとされている.以後,脳血管閉塞部に対する血栓,塞栓および肥厚内膜切除術48),頸部頸動脈内膜切除術23),頭蓋外,内動脈吻合術10)等,多くの方法が考案され,積極的に試みられてきた。なかでも,頸部頸動脈内膜切除術と頭蓋外・内動脈吻合術は飛躍的に症例数が伸び,成績もある程度確立されたものとなりつつある感がある24,45)

症例

Prolonged injection angiographyにより診断された巨大内頸動脈瘤の1例

著者: 三壁敏雄 ,   荻原隆二 ,   冨田伸 ,   金弘 ,   唐沢秀治 ,   渡辺三郎 ,   相羽正

ページ範囲:P.749 - P.753

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤のparent arteryが完全に閉塞されることは極めて稀であり,現在まで中大脳動脈閉塞の1例10)と後大脳動脈閉塞の2例4)8),計3例のみが報告されているにすぎない.
 最近著者らは,parasellar syndromeを呈し,通常の脳血管撮影では内頸動脈がほぼ完全に閉塞された所見のみが認められ,prolonged injection angiographyによりはじめて巨大脳動脈瘤が造影され,それが内頸動脈の完全に近い閉塞の原因と考えられた1例を経験したので報告する.

一側性眼球突出を呈した流動性慢性硬膜外血腫の1例

著者: 竹村潔 ,   大西英之 ,   二階堂雄次

ページ範囲:P.755 - P.759

I.はじめに
 外傷性頭蓋内血腫は,硬膜外血腫,硬膜下血腫および脳内血腫に大別される.そのうち硬膜外血腫は,定型的には,1885年Jacobson12)によって初めて報告されたように,中硬膜動脈破綻に基づく動脈性出血によって形成され,その経過は通常急性であり,放置すれば短期間で死の転機をとるとされている.
 しかし一方,少数ではあるが慢性硬膜外血腫,もしくは遅発性硬膜外血腫も報告されている.しかし,その場合にも内容が流動性である症例は稀である.

Meningomyeloceleを併発した"cri-du-chat" syndromeの1症例

著者: 三田禮造 ,   森山隆志 ,   関谷徹治 ,   武部幸侃

ページ範囲:P.761 - P.765

Ⅰ.はじめに
 "cri-du-Chat" syndrome(猫泣き症候群)は奇異な泣き声と特有な顔貌を是することで知られ,身体各部の異常を伴い,その発生に関しては常染色体の異常が関与することも明らかにされている.本邦においても浦野ら36)が第1例を報告して以来,多くの症例が知られており,種々の検討も加えられてきた.これまで多くの身体奇形の合併が報告されてきたが,meningolnyeloceleを併発した症例は今のところ見いだすことができないようである.
 私達は"Cri-du-chat" syndromeにmeningomyeloceleを併発した極めて特異的といえる症例を経験したので報告する.

脈絡叢血管腫の2例—症例報告とCT診断

著者: 斎藤義一 ,   高見政美 ,   宍戸尚 ,   酒井竜雄

ページ範囲:P.767 - P.772

Ⅰ.はじめに
 脈絡叢血管腫の記載は古くにみられるが,現在なお稀である.私遠はその2例を経験し,手術的治療に成功した.1例においては術前CT検査でほぼ診断し,術後組織学的にも確認しえた.甚だ稀な症例であるとともに,診断的,治療的にも興味あるものと考え,ここに報告し,いささか考察を試みたい.

Coating手術後8年間で巨大に発育し,かつ多くの血管異常を合併した脳動脈瘤の1例

著者: 福田光典 ,   杉山義昭 ,   川崎昭一 ,   本道洋昭

ページ範囲:P.773 - P.779

Ⅰ.はじめに
 嚢状動脈瘤に対する一手術法として,動脈瘤柄部結紮(あるいはclipping)がなされているが,それの困難な症例に対してcoatingが行われている.当科において過去10年間に127例の脳動脈瘤の手術を経験し,11例にcoatingを行った.その中の1例が8年後に巨大に発育し,更に内腔およびparent arteryの閉塞と多数の動脈瘤の出現をみたので,その症例を報告し,若干の文献的考察を加える.

学会印象記

A. A. N. S. 年次総会印象記

著者: 水上公宏

ページ範囲:P.780 - P.781

初めて参加して
 1980年のAmerican Association of Neurological Surgeons(A. A. N. S.)の年次総会がさる4月21日から4日間,ニューヨークで行われた.筆者は急遽このmeetingに参加することとなったが,それは本年2月にAmerican Heart Association,Stroke Councilのmeeting(フロリダ,オーランド)に出席した折,Georgetown大学のA. Leussenhop教授から,彼がmoderatorをつとめるA. A. N. S.のHypertensive Intracranial Hemorrhageのsessionにパネリストとして参加するよう依頼されたからであった.
 学会期間中のニューヨークは近来にない快晴で,ニューヨークっ子も驚くほど澄みわたった空をバックにした高層ビルの林立が印象的であった.これまでの,灰色でどことなく薄汚れた街というニューヨークの印象はたちまち消し飛んで,筆者の好きな大都市の一つとなった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?