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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻1号

1981年01月発行

雑誌目次

専門医の理想像に関する随想

著者: 松村浩

ページ範囲:P.5 - P.6

 医学書院から,2回目の「扉」を書くようにとのことであるが,今もって特に考えていることもないため,教室での卒後教育について,平素考えていることを,整理する意味で文章にして述べてみたいと思う.
 何科の卒後教育であっても,医師として完成するためには,自己の専門領域の修業のみでは不十分であると考える.もちろん,専門領域(ここでは脳神経外科ということになる)に関しては,すべての疾患を細大もらさず常に頭の中に整理し,新しい知識を追加していかねばならない.その上に,その領域の中の自分の研究領域がある.この領域に関することは,常に文献に目を通し,自分の老えを積み重ね,常に最高レベルを維持すべく努力を続けなければならない.

総説

Positron emission tomographyによる脳循環測定法

著者: 山本(ルカス)八十一 ,   柴崎尚 ,   松永政幸 ,   ,  

ページ範囲:P.7 - P.21

I.緒言
 脳循環に対する歴史的回顧および方法論の検討について,著者の1人である山本は1974年に当誌の総説に既述した27).そのなかで,われわれが新しいpositronの原理を利用したthree dimensionalの脳血流測定法を開発しつつあることを説明した,過去20年間,頭部表面に概かれたγ線検出装置を利用したXe−133 clearance法は,局所脳循環を評価する方法として1960年初期にLassen, Ingvarにより紹介されて以来,臨床分野に広く用いられてきた4,7,15,35).しかしながら,この旧来の81keVという弱いγ線を利用したXe−133 clearance法は,致命的な以下の欠点を持っている.
 1)皮質,皮質下での測定値の差が非常に大きい.

Case Study

Neurinoma of the trigeminal rootの診断,治療

著者: 六鹿直視 ,   景山直樹

ページ範囲:P.23 - P.30

I.はじめに
 三叉神経は橋腹外側より出て,テント下面よりMeckel腔に入るが,この都位に腫瘍が生じた場合,小脳橋角部はいろいろな腫瘍の好発部位でもあるので,他の腫瘍との鑑別が必要となる.三叉神経腫瘍は,腫瘍が三叉神経より出るにもかかわらず,大きくなるまで症状が出現せず,かなり大きくなりてから発見される場合が多い.CT scan出現以前でも中頭蓋窩にみられるGasserian ganglion neurinoma, dumbbell型neurinomaは容易に発見されたが,trigeminal rootneurinomaは診断が困難であった.後頭蓋窩neurinomaはCT scan上よく造影されるので発見は容易になったが,頻度の高い聴神経腫瘍他のcp angle tumorとの鑑別が必要である.われわれは従来の神経放射線検査のほかに神経耳科検査を補助手段として総合的に鑑別診断,障害の部位診断も行っているので報告する.

先達余聞

Harvey Williams Cushing

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.32 - P.35

 1910年の1月か2月の冬のある日の話である.BahimoreのJohns Hopkins Hospitalの外科棟のMonument streetに面した出口を今しもふたりの医師が出てくるところである.午後のおそい目射しがにぶくふたりを照らしている.ひとりは41歳,中肉,中背,きちんとした,凝りたみなりをしている,やや眼尻の下った,しかしするどい目と,意志の強そうな大きな口とあごを持っている.他のひとりは27歳,前者より背が高く,人の好さそうな,しかも若さにあふれた顔をしている.ふたりとも外科医で,回診をすませたばかりのところである.実をいうと若いほうは年上のほうの,この病院でただひとりの助手なのである.ふたりは熱心に患者のことを話している.年上のほうはこれからどこかへ出かけるらしい.皆いほうにあとはどうこうしろと指示を与えて別れかける.2,3歩行って,ふと思い出して,患者のX夫人に「ほうれんそう」を出すようにオーダーしたかと訊く.若いほうは赤面して,実は忘れていましたという.年上のほうはものすごい形相になって,口ぎたなく相手をののしる.若いほうはやや唖然としていたが,あまりの悪口雑言にたまりかねて,自分はこれまであなたの手助けになろうと一所懸命努力してきた,随分と無理な指示にもしたがってきた,けれどもう沢山,すぐにでも荷物をまとめてJohns Hopkins HospitalにもBaltimoreにもおさらばするという.

研究

小脳Hemangioblastomaの脳血管造影—特に濃染像,血行動態の所見,更に脳血管造影とCTとの所見の対比

著者: 北岡憲一 ,   伊藤輝史 ,   田代邦雄 ,   阿部弘 ,   都留美都雄 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.37 - P.49

I.はじめに
 脳(テント上,後頭蓋窩を含む)の血管芽腫hemangioblastoinaは,その頻度が,全脳腫瘍の1-2%で,後頭蓋窩腫瘍の7-8%といわれ40,42,46),われわれの教室でも後頭蓋腫瘍250例のうち,小脳のhemangioblastomaに限ると16例(6.4%)であり,比較的稀なものである.しかしながらこの腫瘍は褐色細胞腫の合併37),赤血球増多症の合併33),家族発生1,4),多発性20),奇形の合併等52),多彩で特徴ある所見を呈することがあるため67),これまでに報告の多い腫瘍でもある.脳血管造影所見についても,その濃染像の特徴を有することが知られており,文献も少なくない23,36,38,59,65)
 しかし神経放射線学上の,まとまった症例での詳細な報告は意外に乏しい.最近われわれは小脳hemangioblasternaを8例経験した.それら自験例の脳血管造影所見の検討を行ったが,今回はそのなかでまず第一に濃染像について再検討を加え,腫瘍の肉眼的性状との相関を通じて濃染像の新たな分類も試み,次いでこれまで非常に報告の乏しかった血行動態については若干の新たな知見を得たので報告し,更に脳血管造影とCTとの所見の対比も行ったので,それらの結果について文献的考察を加えて報告したい.

成人と比較した小児急性外傷性頭蓋内血腫の臨床的検討—特に意識障害パターンを中心として

著者: 高橋弘 ,   中沢省三

ページ範囲:P.51 - P.57

I.はじめに
 小児の頭蓋内血腫の予後は一般に良好とされており,それ故に小児の頭蓋内血腫を早期に発見することの必要性が痛感されている.小児急性外傷性頭蓋内血腫の特徴については既にいくつかの報告7,14,15-18-21)がみられ,小児の意識障害発現の特徴について触れている論文も少なくない.しかし,意識障害の発現から消長の過程を,血腫の種類および予後と対応して論じた報告は意外に少ない.小児では当然成人と異なる意識障害のパターンを呈するものと考え,これを小児と成人で対比してみたところ,極めて興味ある知見が得られたので報告する.

上肢筋の萎縮を主徴とするCervical spondylosis

著者: 角家暁 ,   大橋雅広 ,   広瀬源二郎 ,   山本悌司

ページ範囲:P.59 - P.64

I.はじめに
 cervical spondylosisによるradiculomyelopathyは多種多様な病像を呈するが,なかでも運動麻痺が主症状で他覚的な知覚症状を欠くためmotor syndromeと分類される症例は4,6),進行性変性疾患であるmotor neurondiseaseとの鑑別が特にむずかしく,手術適応を考える際問題になることが多い.特に上位近位筋群の萎縮を主徴とし,腱反射の低下があり,錐体路症状を欠く症例の場合,診断の決め手のないまま経過観察される間に不可逆性の病変に追い込まれることがある.
 われわれがこれまでにcervical spondylotic radiculomyelopathyとして前方手術を行った症例は53例であるが,このなかでmotor syndromeと分類した症例は7例であり,このうち3例が三角筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋等のC5−C7髄節支配筋の萎縮を伴った筋力低下のみで知覚症状は令くなく,2例は術前progressive spinalinuscle atrophy,およびWohlfart-Kugelberg-Wellander病と疑診されていた.

症例

脳動脈瘤,脳動静脈奇形,肺動静脈瘻を合併したOsler-Weber-Rendu diseaseと思われる1症例

著者: 神山和世 ,   岡田仁 ,   新妻博 ,   樋口紘

ページ範囲:P.67 - P.72

I.はじめに
 Osler-Weber-Rendu diseaseは,皮膚,粘膜の多発性毛細血管拡張,その部からの頻回の出血,および家族内発生をtriasとする疾患として知られている一本疾患において,肺,消化管,肝等,種々の臓器に血管形成異常を伴うことの多いこともよく知られている.われわれは,鼻,口腔粘膜に多発性毛細血管拡張を認め,繰返す鼻出血により小球性低色素性貧血を来たして来院した本疾患と思われた1症例に,頭部および体部CTスキャン,肺動脈撮影,脳血管撮影を施行し,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,肺動静脈瘻を認めたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

中枢神経系サルコイドーシスの1例

著者: 大家一夫 ,   谷川公一 ,   菅沼康雄 ,   松島善治 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.75 - P.78

I.緒言
 サルコイドーシスは本来全身のあらゆる器官を侵す系統的疾患であるが,神経症状を伴うものは5%前後とする報告が多い5,10,18,20).一疾患単位としてサルコイドーシスが最初に報告されたのは1899年Boeckによってであるが,彼の報告した28例中,神経系罹患を指摘されているものはない.1905年Winklerが末梢神経系罹患例を報告して以来,諸家により神経症状の罹患例が報告されている1,6,11,14).しかし,そうした神経症状の合併例は,胸部X線上,両側肺門リンパ節腫脹や,虹彩炎による視力障害,肺換気能低下による易疲労性,咳嗽等の症状を認めることから,既にサルコイドーシスの診断がついている者に神経症状が発現してきた場合が大部分で,神経症状および神経学的検査所見そのものから本疾患が疑われたという報告は少ない20)
 われわれは,閉塞性水頭症による脳圧亢進症状のあった患者に,脳室外誘導を施して脳圧亢進の危機を脱し,その後の検査で脳室,特に第4脳室の著しい拡大と,Luschka, Magendie孔の閉塞を認めたことからサルコイドーシスを疑い8,9),リンパ節生検,Kveim反応により診断を確定し,ステロイドの投与により著明な症状の改善をみた1例を経験したので報告し,文献的考察を加える.

Shunt手術による腹腔内合併症—腸穿孔例と文献的検討

著者: 伊藤正治 ,   津金隆一 ,   大矢昌紀 ,   野尻健 ,   佐藤修 ,   三石洋一

ページ範囲:P.81 - P.88

I.はじめに
 水頭症に対するシャント手術術式は,歴史的にみると,20世紀のはじめから約20種類にも達している.それらはシャントシステムの改良とあいまって変遷し,現在主に用いられているのは,脳室腹腔吻合術(以下V-P shunt),脳室心耳吻合術(以下V-A shunt),腰椎くも膜下腔腹腔吻合術(以下L-P shunt)の3種類であり,シャントチューブの材質はシリコンゴムである,これらの中で最も頻用されているのはV-P shuntであり,これは1955年Scott et al.の記載以後が主なものである.以来二十数年の歳月とともに多くの改良がなされ,その一般的な有用性については論を待たないが,この間に,これ特有な種々の合併症の報告も多数なされている.わが国でも,多くの脳神経外科医が腹腔側での合併症例を少なからず経験していることと考えるが,しかし,日本の文献を渉猟するかぎりその報告例は極めて少ない.そこでわれわれは,今回経験したシャントチューブの腸穿孔例を略述するとともに,報告例を文献的に集計し,若干の検討を加えた.

脊髄硬膜外血管腫—3例の報告と文献的考察,特に硬膜外血腫との関連について

著者: 小山素麿 ,   花北順哉 ,   半田譲二

ページ範囲:P.91 - P.96

I.はじめに
 脊髄硬膜外血管腫(extradural vascular malformation〔angioma〕)は全脊髄血管奇形の15-20%,全脊髄空間占拠性疾患の4.7%にみられるといわれるが2,19),純粋な硬膜外血管腫(solitary epidural angioma)の報告は少ない.
 硬膜外血管腫への導入動脈は通常脊髄の動脈と関係がなく,血管腫が脊髄の血流に直接影響を及ぼすことが少ないため,臨床的にこれをはじめから推定することは困難であるとされている21).また,血管腫の破裂により硬膜外血腫が起これば当然重篤な症状が発現するが,いわゆるspontaneous spinal epidural hematomaといわれるもので,組織学的に血管腫が証明された報告は極めてわずかである6,7,12,14,15,17)

小児視交叉部腫瘍全摘術後に合併した硬膜下水腫—自験4例の検討

著者: 構井和夫 ,   嘉山孝正 ,   高久晃 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.99 - P.105

I.はじめに
 小児に好発する頭蓋咽頭腫,視神経膠腫等の視交叉部腫瘍は,その発生部位の特性により,術後,尿崩症等の重篤な内分泌系の合併症を来たしやすく,術前術後管理の困難な腫瘍とされている.
 われわれは,これらの腫瘍に対して積極的に全摘術を施行し,良好な成績を収めてきたが,最近,これらの症例のなかには,かなりの高頻度で,術後,硬膜下水腫を合併してくるものが多いことに気づいた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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