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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻10号

1981年09月発行

雑誌目次

「耳学問」のすすめ

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.1107 - P.1108

 最近の医療情報の速さは,めざましいものがある.外国の専門雑誌は,現在では航空貨物便で,発行後3週間以内に,われわれの手元に届くようになった.私が大学の医局に入った頃は,外国雑誌は,まだ船便で送られてくる時代で,3か月遅れの‘J.Neurosurgery’が,脳神経外科に関する最も新しい情報源であった.
 しかし,雑誌がより速く入手できるようになったからといって,最新号に,現時点で最も進歩した情報が載っていると考えるのは早計である.試みに,手元にある脳神経外科関係の雑誌から,その中に掲載されている論文の受稿日から,それが活字になるまでの期間を調べてみた.意外なことに,‘J.Neurosurgery’は,1972年のVol.36,No.3を最後に,受稿日を記載しなくなった.この最後の号に掲載されている論文の,受稿から発行までの期間は,11か月から1年3か月で,平均1年1か月と遅れている.‘Neurosurgery’は,比較的新しい雑誌のせいか,受稿から発行までが5か月から9か月で,平均6か月と短い.日本の雑誌では,「脳神経外科」は9か月から1年で,平均10か月,‘Neurologia medico-chirurgica’は,9か月から1年9か月で,平均11か月と比較的遅れている.つまり,最新号で読んだ内容が,実は約1年前に書かれた古いものであったということになる.

総説

脊髄疾患における誘発電位

著者: 柴崎浩

ページ範囲:P.1109 - P.1122

I.沿革と緒論
 脊髄の感覚機能を電気生理学的に検索し,それを臨床的に応用する方法は,従来は中心後回に相当する頭皮上に電極をおいて皮質体性感覚誘発電位(cortical somatosensory evoked potential,cortical SEP,本稿では皮質SEPと呼ぶ)を記録し,それから脊髄の状態を推測するものであった.そのような時にJewettら33,34)(1970)は,ヒトの耳にclick刺激を与え,頭皮上脳波を1,000回以上加算平均すると,刺激の10msec以内に7成分が記録され,それが聴神経や脳幹などの深部構造で生じた電位が容積伝導(volume conduction)の結果頭皮上に広く分布したもの(far field potential)であることを証明した.これがきっかけとなって,Cracco6)(1972)はヒトの正中神経を手根部で電気刺激した時に,約15msecの潜時で頭皮上から記録される陽性波が深部起源であり,同じく容積伝導の結果,頭皮上に広く分布したもので,あると唱えた.のちにCraccoら9)は潜時がそれぞれ10,12,15-16msecの3つの陽性頂点を頭皮上に認め,鎖骨上窩Erb点や頸椎棘突起上に表面電極をおいて記録した誘発電位と比較することによって,その3つの陽性頂点がそれぞれ末梢神経,脳幹,視床で発生した誘発電位であつて,頭皮上からfar field SEPとして記録されたものであると発表した.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前大脳動脈動脈瘤の手術

著者: 北村勝俊

ページ範囲:P.1125 - P.1129

I.前大脳動脈の位置関係のあらまし
 普通のsubfrontal approachで視神経に到達すると,すぐその外側に内頸動脈の床状突起上部supraclinoid portion(FischerのC2,C1)がみえる.Sylvius裂のくも膜を切開し,前頭葉を更に圧排すると,内側に向かう前大脳動脈と,外側に向かう中大脳動脈に分かれるのがみえる(Fig.1).前大脳動脈のほうが中大脳動脈よりやや細い,内頸動脈分岐部は,脳でいえばちょうど前有孔質anterior perforate substanceの直下に相当する(Fig.2).前大脳動脈はこの分岐部から,前交通動脈が分岐している部分までが水平部horizontal portion,更にその遠位側が脳梁周囲動脈pericallosal arteryと呼ばれる.

研究

海綿静脈洞

著者: 宮崎久彌

ページ範囲:P.1131 - P.1138

和文抄録
 23症例,計37個の海綿静脈洞を採集し,その血管構築像について検索を行った.まず,12個の海綿静脈洞を液体窒素を用いて零下150℃に凍結し,海綿静脈洞の中央部でcoronalに切断して海綿静脈洞の内部構造を観察した,更に,25個の海綿静脈洞を10%ホルマリンで固定後,厚さ10-15μの海綿静脈洞の連続組織切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施してmicroscopicに検索した.
 海綿静脈洞の外壁は最外層のdense connective tissueと,その内側のloose connective tissueよりなっており,神経,小動静脈ならびに脂肪組織を内包している上第Ⅲ,ⅣならびにⅤ脳神経は,標本すべてにおいて外壁中を走行しているが,第Ⅵ脳神経では,外壁中を走行しているものは全標本の48%に過ぎない.一方,内頸動脈は,その72%が全周をvenous sinusに取り囲まれて走行している上venous sinusの内面は内皮細胞によって被われている,venous自体の形態ならびにその大きさは,かなりの個体差があるが,ほぼ3群に分けられる.①梁柱の密生しているbroken venous channel(58%),②梁柱の少ないunbroken venous channel(33%),③残り9%が梁柱が存在せず,venous sinusが数個のbranchに分かれたsmall scattered venous channelsである.

聴神経の易傷性と回復能

著者: 関谷徹治

ページ範囲:P.1141 - P.1150

I.はじめに
 聴神経腫瘍手術の究極の目標は,顔面神経機能のみならず,可能ならば聴覚機能をも温存しつつ,腫瘍を全摘することにあるとされ,このことは,近年の診断,治療技術の進歩に支えられて次第に具体化しつつある10,32,42,51)
 一方,聴神経,蝸平およびその栄養血管系が手術などの侵襲に対して極めて易傷性(vulnerability)に富み,聴力温存手術(operation for hearing preservation)が困難であることは多くの臨床的事実が示しているところでもある26,27,45.48)

症例

視力障害と動眼神経麻痺を呈した中頭蓋窩神経鞘腫の1例

著者: 佐古和廣 ,   阿部弘 ,   金子貞男 ,   都留美都雄 ,   中野宏

ページ範囲:P.1153 - P.1158

I.はじめに
 頭蓋内神経鞘腫は全頭蓋内腫瘍の約8%を占めるといわれている16).von Recklinghausen病を合併しない頭蓋内神経鞘腫の発生部位は聴神経に圧倒的に多く,稀に三叉神経にも見られる.その他,動眼神経18),滑車神経3,17),顔面神経11),舌咽・迷走・副神経7,19),舌下神経20)が報告されているが,これらは極めて少ない上今回われわれは,眼球突出と動眼神経麻痺を呈した中頭蓋窩の神経鞘腫を経験したので,その発生部位に関して文献的考察を加えて報告する.

脳幹部Cryptic AVMの1手術治験例

著者: 笠井直人 ,   藤原悟 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1161 - P.1165

I.はじめに
 脳幹部に発生した脳動静脈奇形(AVM)については,剖検脳における詳細な報告18)は認められるものの,脳外科的直接手術例の報告は稀である5,22,28).われわれは,第4脳室底部の内側隆起の外側部に存在するCT上high density,一部contrast enhancement陽性の占拠病変の症例を経験し,その全摘出に成功した,病理標本ではAVMの所見であった.本報では自験例を若干の文献的考察とともに報告する.

Tortuous vertebro-basilar systemによる三叉神経痛とHemifacial spasmの合併例

著者: 新妻博 ,   池田俊一郎 ,   大山秀樹

ページ範囲:P.1167 - P.1170

I.はじめに
 今回われわれは左三叉神経痛に同側のhemifacial spasmを伴った1例を経験し,椎骨動脈写にてtortuous vertebrobasilar systemが左方偏位し,小脳橋角部で屈曲し,この部で三叉神経および顔面神経を圧迫しているものと推定される所見を得た.本例ではneurovasscular decompressionの施行を考えたが,患者自身が開頭手術を望まず,除痛のみが得られればよいとの希望であったため,経皮的にGasser神経節のcontrolled thermo coagulationのみが施行された.
 最近,三叉神経痛やhemifacial spasmの病因として,それぞれの神経が血管により圧迫されて生ずるのではないかとの説が注目されているが10,11),その多くは血管写で確認できないような小動脈あるいは稀に静脈による圧迫とされ,本例のように,椎骨—脳底動脈系による直接の圧迫により三叉神経痛とhemifacial spasmを合併したと考えられる例は稀であると思われるので報告する.

眼窩と頭蓋内に特異な連続性をもった髄膜腫と多発性脳動脈瘤合併の1治験例

著者: 中尾哲 ,   福光太郎 ,   尾形誠宏

ページ範囲:P.1173 - P.1179

I.はじめに
 CTスキャンの導入により,頭蓋内や眼窩内腫瘍の術前診断はその伸展や拡がりまで正確に行えるようになったが,なお困難な場合もある,われわれは術前CTスキャンで多発性腫瘍と考えられたが,実際は眼窩内と頭蓋内腫瘍が視束管を通して特異な連続を持った稀な髄膜腫を経験したので,本腫瘍の原発部位と伸展について若干の文献的考察を加え報告する.

"真"の後交通動脈瘤の1例

著者: 阿美古征生 ,   織田哲至

ページ範囲:P.1181 - P.1185

I.はじめに
 頭蓋内動脈瘤のうち,後交通動脈瘤として報告されている動脈瘤の大部分は内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤である,われわれは最近,非常に特異な形をした真の後交通動脈瘤を経験したので報告し,手術の問題点について簡単に考察した.

後頭動脈多発動脈瘤を伴った頭皮動静脈奇形の1例

著者: 大野喜久郎 ,   戸根修 ,   稲葉穣 ,   寺崎平

ページ範囲:P.1187 - P.1191

I.はじめに
 頭皮の先天性動静脈奇形および非外傷性動脈瘤は,頭蓋内のそれぞれに比して両者とも稀である.PerretおよびNishioka6)は510例の頭蓋および脳の動静脈奇形の中にわずか4例の頭蓋外頭部にのみ局在した動静脈奇形を見出し,Wagaら14)は同様に75例中に3例を報告した.一方,SchechterおよびGutstein9)は131例の浅側頭動脈の動脈瘤で非外傷性のものはわずかに11例であったとしている.このように症例数としては稀ではあるものの,頭皮あるいは顔面の動静脈奇形ならびに動脈瘤は種々の臨床症状を生ずることが知られ,またときにその治療が困難なことがある.
 われわれは,頭皮の先天性動静脈奇形とその主たるfeederである後頭動脈に多発性動脈瘤を合併し,steal現象と考えられるめまいを主訴として来院した稀な1例を経験したので,その外科的治療とともに報告する.

中脳被蓋部に限局した外傷性血腫の1例

著者: 佐伯直勝 ,   小滝勝 ,   岡信男 ,   高瀬学

ページ範囲:P.1193 - P.1197

I.はじめに
 従来,頭部外傷による一次性脳幹部損傷の診断は,主に臨床所見と剖検所見によって決定され,大多数において転帰不良例である2,6,10,13,16,17).最近,急性期頭部外傷において,CT上確認された一次性脳幹損傷の報告例が散見される7,9,23).しかしそのなかには,転帰の良かった脳幹部損傷例は意外と少ない.今回われわれは,CT上確認しえた中脳被蓋部に限局した外傷性血腫の1例を経験したので,臨床所見,その発生機序を中心に,文献的考察を加え報告する.

悪性脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 杉浦誠 ,   氷室博 ,   谷川達也 ,   別府俊男 ,   沖野光彦

ページ範囲:P.1199 - P.1204

I.はじめに
 脈絡叢乳頭腫は成人原発性脳腫瘍の約0.6%,小児脳腫瘍中の1.0-3.0%を占める比較的稀な腫瘍である.更に,悪性脈絡叢乳頭腫となると,その報告は極めて少ない.
 著者らは,11歳の女児に発生し,その発育様式がmultifocalと考えられた興味ある悪性脈絡叢乳頭腫を経験したので報告し,若干の文献的考察を加える.

急性特発性硬膜下血腫の1症例

著者: 山中正美 ,   築家新司 ,   佐々木潮

ページ範囲:P.1207 - P.1211

I.はじめに
 急性硬膜下血調重の原因は,頭部外傷によるもの,動脈瘤・動静脈奇形の破裂など基礎疾患に起因するものが大部分を占めている.一方,明らかな外傷はもちろん,基礎疾患の認められない脳表動脈からの出血に起因する急性硬膜下血種が,1971年Talallaらにより急性特発性硬膜下血腫として報告されている.しかし,回様の報告はいまだ散見されるに過ぎない.われわれは急性特発性硬膜下血腫と考えられる1症例を経験したので,これを報告するとともに今までの文献例をまとめ考察を加える.

先達余聞

Herbert Olivecrona

著者: 相羽正

ページ範囲:P.1212 - P.1214

 1966年の秋,薄日のさしこんだ医局のロビーでは,30人ばかりの脳外科医がコーヒーを手にしながら,あちこちにかたまって雑談に興じていた.Göteborgで開催されたスカンジナビア脳神経上外科学会のscientific meetingが終ったばかりで,夕方の懇親会を待ちながら,学会の世話をしたSahlgrenska病院の脳外科医や,スウェーデン各地から集まった脳外科医達がソファーや図書室から持ち出した椅子にくつろいで旧交をあたためありていた時でありた.なかには机のかどに腰掛けているものもいた.部屋の中は,声高な会話と,笑い声と,たばこの煙で満たされていた,ばたんと廊下側のドアがあいて,長身の,見事な禿頭(とくとう)の老人が杖をついて,少しよろめきがちに部屋に入ってきた.部屋の中ほどにすわっていたUppsalaのBohm教授がつと立って,小走りに近づき,老人をかかえこむようにしながら真ん中の椅上子に腰掛けさせた.これを見た医師達は,皆さっと立ち上って無言でこの老人に目礼し,一瞬のうちに部屋の中は静かになった,別室で懇談していたNorlén教授とLeksell教授が反対側の扉から急いだ様子であらわれ,この老人に小声で丁重な物腰で挨拶をした.やがて老人のまわりから会話の渦がまきはじめ,部屋はふたたび話し声や,控え目な笑い声で満たされていった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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