文献詳細
文献概要
先達余聞
Herbert Olivecrona
著者: 相羽正1
所属機関: 1虎の門病院脳神経外科
ページ範囲:P.1212 - P.1214
文献購入ページに移動 1966年の秋,薄日のさしこんだ医局のロビーでは,30人ばかりの脳外科医がコーヒーを手にしながら,あちこちにかたまって雑談に興じていた.Göteborgで開催されたスカンジナビア脳神経上外科学会のscientific meetingが終ったばかりで,夕方の懇親会を待ちながら,学会の世話をしたSahlgrenska病院の脳外科医や,スウェーデン各地から集まった脳外科医達がソファーや図書室から持ち出した椅子にくつろいで旧交をあたためありていた時でありた.なかには机のかどに腰掛けているものもいた.部屋の中は,声高な会話と,笑い声と,たばこの煙で満たされていた,ばたんと廊下側のドアがあいて,長身の,見事な禿頭(とくとう)の老人が杖をついて,少しよろめきがちに部屋に入ってきた.部屋の中ほどにすわっていたUppsalaのBohm教授がつと立って,小走りに近づき,老人をかかえこむようにしながら真ん中の椅上子に腰掛けさせた.これを見た医師達は,皆さっと立ち上って無言でこの老人に目礼し,一瞬のうちに部屋の中は静かになった,別室で懇談していたNorlén教授とLeksell教授が反対側の扉から急いだ様子であらわれ,この老人に小声で丁重な物腰で挨拶をした.やがて老人のまわりから会話の渦がまきはじめ,部屋はふたたび話し声や,控え目な笑い声で満たされていった.
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