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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻11号

1981年10月発行

雑誌目次

効くはずの薬

著者: 米増祐吉

ページ範囲:P.1221 - P.1222

 頭の良くなる薬は不老長寿の薬と同様に人間の切なる望みであるが,現在までのところ,まだまだ儚い夢のようである.
 医療の社会化が進み,特に高齢者の医療費が無料となってから"医師が健康を支給する"かと勘違いする向きもあるようで,医療施設がそのような人で溢れつつあり,医療経済の破綻が心配されているが,必ずしも誇張ではないようである.

総説

脊髄の循環—血管分布を中心とした考察

著者: 萬年徹

ページ範囲:P.1223 - P.1228

I.はじめに
 歴史的に見ると,脳の血管撮影の開発と普及が神経疾患の診断ばかりでなく,脳の血管分布,循環動態に関する研究を促進する大きな要素になったことは周知の事実である.
 最近,脊髄の血行動態が問題となってきた理由の1つとして,脳の場合と同様,その血管造影の実用化を挙げることができよう,脳血管撮影が臨床的に活用されるまでにはかなりの時間を要したが,脊髄の血管造影の手技が確立され,今日のように普及されるまでの時間は,脳の場合と比較すると,かなり短いものであった.脊髄血管造影の技術は脳血管撮影の技術が下地となっていること,放射線機器のめざましい改良があったことを考えれば,両者の時間的な差は容易に理解できる.しかし,大動脈から根動脈を介して脊髄血管を造影するというアイディアの根底には,脊髄の血管分布,血行動態に関する地道な研究が横たわっていたことを忘れてはならない.

解剖を中心とした脳神経手術手技

IC-ophthamic aneurysmの解剖と手術手技

著者: 半田肇 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.1231 - P.1235

I.はじめに
 IC-ophthalmic aneurysmは直達手術が難しく,また,その手術成績も他の部位の動脈瘤に比べて悪い2,4,7,8,11).主な原因は,この部位の解剖学的特殊性による.したがって,IC-ophthalmic aneurysmの直達手術にあたっては,この動脈瘤およびその周辺の解剖,variationについて熟知する必要がある.

研究

頭部外傷におけるCPKアイソザイムの評価

著者: 武岸勝之 ,   桂田菊嗣 ,   田中良枝

ページ範囲:P.1237 - P.1240

I.はじめに
 心臓,肝臓などの疾患,損傷においては,血清酵素学的診断が重要であり,特に臓器特異性を示すアイソザイムの測定が有用となっている,しかし脳においては,酵素学的診断は必ずしも確立されていない.
 CPK (creatine phosphokinase)は組織,特に筋肉に多量に存在し,その病変,損傷をよくあらわす.外傷においては初期に上昇することが多く,病態の推移をある程度反映する.また近年,CPKアイソザでム分離法が確立され,その有用性が認められており,特に急性心筋梗塞において診断的価値が高い.

脳浮腫研究へのSpecific gravimetric techniqueの応用

著者: 高木宏 ,   中山賢司 ,   矢岸賢三 ,   ,  

ページ範囲:P.1243 - P.1248

I.はじめに
 脳浮腫の研究において重要なことは,対象となる脳組織の水分含有量がどの程度正常組織に比べて増加しているかということである1,2,4,5,8).従来の脳組織水分含有量の測定方法としての乾燥重量法では,少なくとも200-300mmgの脳組織が必要であり1),24時間以上乾燥させなくてはならず,その時間の浪費と,正確さに対する不安が常にあった.
 1978年Marmarou4)によって発表されたspeciific gravimetric techniqueによる脳組織の水分含有量測定法は,その特徴として2mm3の小脳組織片で,数分以内に,1%以下の測定誤差で,脳皮質,白質の水分含有量を%g water per g tissueとして表示できる極めて便利な方法である.

CTによる大後頭孔部—上位頸椎部疾患の診断

著者: 井須豊彦 ,   伊藤輝史 ,   岩崎喜信 ,   都留美都雄 ,   北岡憲一 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.1251 - P.1258

I.はじめに
 大後頭孔部周辺疾患は,多彩な神経症状を呈し,診断に難渋することが多い1).しかも,従来より施行されてきたair myelugraphy,myodil myelographyなどの諸検査では,患者に対する侵襲が強く,その上,手技上の難しさも加わり,確定診断が困難な場合もある1).CTの登場にて,同領域の診断がnon-invasiveに可能となった今回われわれは,CTによる大後頭孔部—上位頸椎部疾患の診断につき検討を加えたので報告する.特にC1レベルにおけるplain CT所見に注目してみた.

電気分解法により発生させた水素ガスを利用しての局所脳血流量測定の試み

著者: 甲州啓二 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃 ,   斉藤建夫

ページ範囲:P.1261 - P.1266

I.はじめに
 局所血流量を測定する一方法として,1964年Auklandら1)は,水素ガスクリアランス法を報告した.本法は,装置が比較的簡便であること,複数の部位にて同時に測定が可能なことなどの長所を有しており,ことに動物実験において広く利用されているのが現況である.
 一方,この水素クリアランス法の変法として,電気分解を応用し,生体に付着した2個の電極間に直流霜流を通電することにより,水素ガスを発生させ,これにより局所血流量を求めようとした試みが報告されている4).この方法により得られる値は,従来の水素ガスを吸入させる方法(以下,吸入法と略)と異なり,より狭い範囲の血流量を反映しているとし,Stosseckら4)は"mlicroflow"という概念を提唱した.しかしながら,彼らの方法により得られる値は,吸入法に比べ高い値となり,また,その値の変動も多いことが報告されており,実用化するにはなお問題があったと考えられる.

上咽頭悪性腫瘍による神経障害

著者: 石川進 ,   佐和弘基 ,   安東誠一 ,   古瀬清次 ,   田中泰明 ,   松本茂男 ,   迫田勝明 ,   魚住徹

ページ範囲:P.1269 - P.1276

I.はじめに
 上咽頭悪性腫瘍はわが国では比較的少なく,Sawakiら25)によれば年間の発生率は人口10万人につき0.1-0.2以下である.しかし一般に約30%の例が神経症候を呈し7,29), しかも16-17%が神経症候で発症することから7,13),原因の明らかでない単発性あるいは多発性脳神経障害では,必ず本症の可能性を考えなければならない.
 この論文では神経症候を伴った5症例(Table 1)を報告するとともに,本腫瘍でみられる神経症候を中心に考察を加える.

症例

脳内原発性悪性リンパ腫—病理学的,免疫学的検討

著者: 鈴木倫保 ,   佐藤智彦 ,   小松伸郎 ,   木村伯子 ,   和田徳男

ページ範囲:P.1279 - P.1284

I.はじめに
 脳内に原発する悪性リンパ腫の報告は最近ではcomputed tomography(CT),診断技術の進歩,免疫学的な関心の深まりなどから症例報告が増加してきている5,6,10).今回われわれは,はじめ頭頂葉に孤立性の結節を呈し,摘出手術や種々の治療にもかかわらず,CT scan上,第4脳室天蓋部,側脳室へと進展し,更に脳回のびまん性の浸潤へと多彩な所見を示した脳内原発性悪性リンパ腫の1例を経験した.しかもこの症例に対して,髄液中腫瘍細胞の光顕,電顕,および免疫学的な検討を行い,従来の細胞形態学的な分類に代り,surface markerを用いた分類の検討を加えることができたので,臨床上,治療上の問題点を含め,若干の文献的考察を加え報告する.

Dumbbell形頸部神経鞘腫の椎骨動脈撮影の特徴

著者: 佐伯直勝 ,   佐藤章 ,   北原聰樹 ,   辛秀雄 ,   山浦晶 ,   末吉貫爾 ,   牧野博安

ページ範囲:P.1287 - P.1294

I.はじめに
 頸部脊髄腫瘍の診断には,従来,頸椎単純撮影,myelography,血管撮影などがあり,最近ではspinal CTが登場し,その診断技術は大きく進歩している.
 頸部Dumbbell(以下ダンベル)形神経鞘腫の椎骨動脈撮影の重要性は,1952年のLoveに始まり10),以来,いくつかの症例報告により強調されてきた1-5,8,9,13,17).他の診断法と比較した場合,この種の腫瘍における血管撮影の診断価値は,椎骨動脈の閉塞,圧排編位の有無とその方向,腫瘍のvascularityなどの手術時に不可欠な情報を得られることに要約される.

術野外硬膜外血腫—天幕上開頭術にて反対側に硬膜外血腫を来たした5症例

著者: 佐藤学 ,   森惟明 ,   半田肇

ページ範囲:P.1297 - P.1302

I.はじめに
 脳室腹腔シャント術,脳室ドレナージあるいは後頭下開頭術後急激な脳圧の低下を来たし,その手術部位と異なる部位に硬膜外血腫を発生することが文献上に散見される1-9,13,16,18-20,22-25).これに対して,天幕上開頭術において手術野と直接関係のない反対側に硬膜外血腫が生じることは非常に稀と考えられる14,15,17).われわれは過去15年間に,このような症例を5例経験したので,ここに報告する.

くも膜下出血様発作を呈した聴神経腫瘍の1例

著者: 米満勤 ,   新妻博 ,   児玉南海雄 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1305 - P.1310

I.はじめに
 脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍からの出血により症状増悪を来たす症例は,それほど稀なものではないが,最近われわれは聴神経鞘腫から出血し,くも膜下出血様症状を呈した稀有な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

頭蓋穿通創—特異な2症例の報告と文献的考察

著者: 永広信治 ,   賀来素之 ,   松角康彦 ,   小川寿幸 ,   小阪英幸 ,   和田秀隆

ページ範囲:P.1313 - P.1318

I.はじめに
 頭蓋穿通創は戦時下に多く発生し,一般市民生活には比較的稀な外傷であるが,ときに特異な刺入物や穿通経路の報告がみられる.成人では犯罪や自殺行為,労務災害が主な原因となり,ことに近年釘打機による受傷が散見される5,11,13,16,21,22).銃創を除く頭蓋穿通創では,通常脳組織の損傷が軽度であるため,症状が予想外に軽微である場合が多く特徴的といえるが,主要脳血管を損傷したり感染を引き起こしたため重篤となることもあり,治療上いくつかの難しい問題を含んでいる.
 著者らは,頭蓋穿通創の特異な2症例を経験したので報告し,この種の頭部外傷について文献的考察を行った.

大脳鎌内に進展した巨大前頭洞Pyoceleの1例

著者: 澤田浩次 ,   北村勝俊 ,   森岸孝二

ページ範囲:P.1321 - P.1325

I.はじめに
 前頭洞mucocele,pyoceleは,本邦では耳鼻科領域における日常診療上しばしばみられる.前頭洞後壁の破壊により,脳硬膜が前頭洞内に広く露出しているものも稀ではない.われわれは頭蓋内に大きく進展した前頭洞pyoceleの1例を経験した.

先達余聞

Egas Moniz(António Caetano de Abreu Freire Egas Moniz)

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.1328 - P.1331

 この日フランスの老虎とうたわれたClemenceau(1841-1929)は機嫌がよかった.この日というのは1919年6月28日.ところはヴェルサイユ.第一次大戦の平和条約の結ばれた日である.このヴェルサイユ条約の主役は米国のWilson大統領,英国のLloyd George首相とこのClemenceauであったが,老練なかれは米英の首脳をたくみにあやつりてフランスに有利のように事をはこんだのである.各国の代表(このなかにはわが国の西園寺公望も入っていたが)の署名が終わって,控の間でのくつろぎのひととき,Clemenceauはかれに流暢なフランス語で挨拶した小柄だが端麗なポルトガル代表に話しかけた.「大使閣下,閣下は貴国の建国時の英雄と同名ですが,もしや御一族では」.ポルトガル大使は,はにかみながら答えた.「はい閣下,わたくしはかれの三十数代の子孫に当ります」.
 1130年のある日,ほぼ現在のスペインに当るLeonとCastileとGaliciaの王を兼ねているAlfonso 7世のToledoの宮廷には怒りと緊張の気が満ちみちていた.王は重臣たちと朝早くから協議しているし,伝令は方々に馬を駈けさせていた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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