先達余聞
Egas Moniz(António Caetano de Abreu Freire Egas Moniz)
著者:
佐野圭司12
所属機関:
1東京大学
2帝京大学
ページ範囲:P.1328 - P.1331
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この日フランスの老虎とうたわれたClemenceau(1841-1929)は機嫌がよかった.この日というのは1919年6月28日.ところはヴェルサイユ.第一次大戦の平和条約の結ばれた日である.このヴェルサイユ条約の主役は米国のWilson大統領,英国のLloyd George首相とこのClemenceauであったが,老練なかれは米英の首脳をたくみにあやつりてフランスに有利のように事をはこんだのである.各国の代表(このなかにはわが国の西園寺公望も入っていたが)の署名が終わって,控の間でのくつろぎのひととき,Clemenceauはかれに流暢なフランス語で挨拶した小柄だが端麗なポルトガル代表に話しかけた.「大使閣下,閣下は貴国の建国時の英雄と同名ですが,もしや御一族では」.ポルトガル大使は,はにかみながら答えた.「はい閣下,わたくしはかれの三十数代の子孫に当ります」.
1130年のある日,ほぼ現在のスペインに当るLeonとCastileとGaliciaの王を兼ねているAlfonso 7世のToledoの宮廷には怒りと緊張の気が満ちみちていた.王は重臣たちと朝早くから協議しているし,伝令は方々に馬を駈けさせていた.