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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻12号

1981年11月発行

雑誌目次

仏性or物性,Shuntの夜の夢

著者: 松角康彦

ページ範囲:P.1337 - P.1338

 いわゆる正常圧水頭症の診断のもとに,シャント手術を施行した患者が示す知能回復の過程をみて,素朴な驚きを経験していない人はあるまい,とりわけ手術適応に十分な得心がゆかず,半信半疑の手術であった場合などには,予想に反した素晴らしい経過を示した症例をみると,一体どうなっているのだろうかと感嘆久しくせざるを得ずということになる.もちろんCT cisternographyやpressure monitoringなど最近の進んだ検査法と,その所見の解読により,まぐれ当りのような成績ではなく,かなりの確実さを持って適応を決定することができるようになったのだが,それでも一夜にして患者が正気をとり戻す有様には,これを頭蓋内圧亢進を伴う閉塞性水頭症と同列にみなして,間歇的慢性圧亢進症状の解除による単純明快な現象とはちょっととらえ難いような何物かがあるように思われる.シャント手術によりもたらされた圧の低下は,あくまでひとつの方便であって,脳組織はどのように対応しているのだろうかと,しばしば空想に耽ることも一再ならずである.
 圧亢進の著しい水頭症の知能低下は,むしろその基盤に意識障害を持ち,いわゆる正常圧水頭症が示す痴呆の様相を示さないし,いわゆる正常圧水頭症ではむしろ大脳の持つ道具的機能の凹凸不均等な障害が目立つ.あまり注目されていない症状も数少なくないし,特にParkinsonismと誤診されるような例は極めて特徴的であろう.

総説

聴覚脳幹誘発電位の起源と臨床応用

著者: 橋本勲

ページ範囲:P.1339 - P.1351

I.はじめに
 聴覚脳幹誘発電位brainstem auditory evoked potentials (以下BAEPと略す)は脳幹の機能検査法として,また脳幹障害の部位診断法として今日広く用いられている.本誌のcurrent topicsとしてBAEPが取り上げられてから3年以上になる(橋本ら1978)17).その間に多くの研究が発表され,臨床応用も物珍しさの時期を過ぎて評価が定まり,日常生理検査として一般に定着しつつある.しかし頭皮上から記録されるこの短潜時の反応(10msec以内)の発生機序についてはいまだ不明の部分が少なくない22).本稿ではこの反応の本態が現在どこまで明らかにされたのかを考えてみたい.またBAEPの臨床応用については,まず刺激条件や記録条件によって,この反応がどのような影響を受けるのかを検討した上で,臨床応用の範囲,それぞれの分野におけるBAEPの有効性および限界について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

中大脳動脈瘤

著者: 西本詮 ,   難波真平

ページ範囲:P.1353 - P.1358

I.はじめに
 中大脳動脈は,前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉の広範囲の脳を栄養しているか,この領域における動脈瘤のほとんどは,その主幹部(trifurcationまたはbifurcation)に発生するため,不適当な手術操作によって,片麻痺,失語症などの重大な合併症を起しやすい.更にこの部位の動脈瘤は,その発生部位,進展方向などが他部位のそれよりも変化に富んでいるため,またM1,M2などの主幹動脈と強く癒着していて剥離の容易でない症例も多く,その直達手術の成績は必ずしも満足すべきものではなかった5,13,14).しかし現在ではmicrosurgeryの進歩により,ほとんどの症例では合併症なく動脈瘤柄部処理が可能となっている1,7,15)

海外だより

Mayo Clinicにおけるレジデント生活余話

著者: 安岡正蔵

ページ範囲:P.1360 - P.1363

 今回はMayo Clinicで4年間レジデント生活を送られた安岡正蔵先生に,Mayoでの経験を書いて頂いた.
(編集室)

研究

高血圧性脳出血に対する定位脳手術的血腫除去

著者: 林実 ,   長谷川健 ,   古林秀則 ,   宗本滋 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.1365 - P.1371

I.はじめに
 高血圧性脳出血はCT scanの導入により,血腫の局在,進展方向,血腫量,脳室穿破の有無などが極めて正確に把握できるようになった.その治療において,われわれは主として視床や被殻に限局した出血,脳室穿破を伴う視床出血に対し,CT scanによる計測をもとに定位脳手術装置を用い,血腫の吸引除去を10例に試みた.この方法は手術侵襲が極めて小さく,かつ手術適応を吟味すれば有力な治療法の1つとなりうると考えられたので報告する.

特発性脳内血腫の臨床病理学的検討

著者: 池田幸穂 ,   志村俊郎 ,   樋口皓史 ,   辻之英 ,   矢鳴浩三 ,   中沢省三

ページ範囲:P.1373 - P.1381

I.緒言
 特発脳脳内血腫は臨床的に,出血傾向や高血圧の既往ならびに外傷,腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形など明らかな原因を認めない脳内血腫をさすが,従来原因不明と考えられていたもののなかに脳血管写上あるいは病理組織学的に小さな血管腫様奇形つまりsmall angiomatous malformation (以下SAMと略す)からの出血を証明する例が注日されており,SAMを含めた原因不明の脳内血腫を特発性脳内血腫として定義している.しかし,現在までの報告例のなかには,その定義内容・呼称が多少異なり,若干の混乱を招いていることも事実である.
 われわれは過去7年間に当教室で経験した手術症例のうち,高血圧(収縮期血圧160mmHg以上および拡張期血圧95mmHg以上を高血圧として扱った)の既往なども含め,出血の誘因,原因につき充分な検索を行い,原因不明であった脳内血腫例を集計したところ計17例であった.そのうち手術時および組織学的に3例のSAMを証明したので,今回これらの臨床像を中心に検討し,若干の文献的考察を加え報告する.なお,われわれはSAMを脳動静脈奇形(AVM)と区別する意味で,脳血管写所見を特に重視し,明らかな導入動脈nidus,導出血管を備えていないものを本検討の対象とし,その鑑別点とした.

一側性眼球突出症の病型分類と治療方針

著者: 田村勝 ,   山崎弘道 ,   川淵純一

ページ範囲:P.1383 - P.1390

I.はじめに
 一側性眼球突出は眼科,耳鼻科,内科,脳神経外科領域のさまざまな腫瘍性,非腫瘍性病変が含まれ,臨床診断は必ずしも容易でない.しかしながら,眼窩およびその近傍の解剖学的位置関係を現解し,臨床経過,眼球突出の方向,神経眼科的所見に加え,単純X線撮影,CT scanなどの補助検査を施行すれば,診断はより正確につくものと思われる.
 今回われわれは当教室で診断および加療を行った37症例につき,疾患別に整理し,各疾患群の特徴を検討し,手術法についても言及した.

脳室—脳槽および脳槽ドレナージ併用による脳血管れん縮の予防効果

著者: 園部真 ,   高橋慎一郎 ,   大槻泰介 ,   久保田康子

ページ範囲:P.1393 - P.1397

I.はじめに
 急性期破裂脳動脈瘤の治療には,その後に発現してくる脳血管れん縮を如何にして克服するかということが未解決の問題である.その際の血管れん縮惹起物質については種々報告されているが,われわれは血管周囲のoxyHbが最も有力物質と考え,既に報告してきた16).一方Roost(1972)らは10),くも膜下腔に血液を注入すると髄液中のhem oxygenaseが数倍に増加すると報告しているが,われわれも臨床的に,くも膜下出血後髄液中hem oxygenaseの増加を確認している.そこで今回は,急性期破裂脳動脈瘤手術後の脳血管れん縮を予防するために,くも膜下膣oxyHbの分解を促進すべく,脳室からの髄液をくも膜下腔に流し,そこで産生されるhem oxygenaseによってoxyHbの分解を期待して脳室—脳槽ドレナージを試みたので,その効果について報告する.

脳腫瘍ラットの拡大脳血管撮影

著者: 宇都宮隆一

ページ範囲:P.1399 - P.1406

I.はじめに
 ラットは実験動物として最も広い分野にわたって使用されている.しかしながら,ラットのin vivoにおける脳血管の描出の試みは,その脳の大きさや血管の太さのために制限され,それゆえvital dyeやバリウムなどによるpremortemやpostmortemの実験が中心となっている7).今回,微小焦点を有するX線管球による拡大撮影で正常ラットおよび脳腫瘍ラットの脳血管の描出を試みるとともに,実験後もラットをひき続き生存させた.また,頭蓋内血管造影に必要な造影剤量および腫瘍検出の限界を検索した.

高血圧性小脳出血のCT像

著者: 能勢忠男 ,   牧豊 ,   小野幸雄 ,   吉澤卓 ,   坪井康次

ページ範囲:P.1409 - P.1415

I.はじめに
 computed tomography (以下CTと略す)が出現する以前の小脳出血.に関する報告は.
 ①その頻度は剖検脳では0.9-16%という2,3,5,15,19,24)

出血性脳梗塞の抑制—Mannitolと人工血液Perfluorochemicalsの効果

著者: 香川茂樹 ,   甲州啓二 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1417 - P.1422

I.はじめに
 脳梗塞発現後の急性期における血行再開は,しばしば出血性梗塞を引き起こし,これが本疾患に対する外科的治療を妨げる1つの大きな原因となっていた8,30).しかし現在まで,この出血性梗塞の抑制について論じた報告は,実験的にも臨床的にも少ない.これは,脳の一定部位に高頻度に出血性梗塞を発現させる実験モデルの作製が困難であったことが原因と思われる.
 われわれは既に,イヌの頭蓋内4主幹動脈(内頸,中大脳,前大脳,後交通動脈)を遮断することにより,遮断側視床前半部に限局した梗塞巣が得られる視床梗塞モデル犬31)を報告し,更に本モデルを用い,6時間から12時間の血流遮断後に血流を再開させると,視床に限局した出血性梗塞巣が発現することを報告した14)

症例

上位頸髄神経根より発生し,後頭蓋窩に進展した嚢胞性神経鞘腫の3症例

著者: 澤田浩次 ,   中垣博之 ,   北村勝俊 ,   岸川高 ,   沼口雄治

ページ範囲:P.1425 - P.1430

I.はじめに
 大後頭孔部の腫瘍は,症状の多彩さ,不明瞭さのために,他の変性疾患などと誤られて手術的治療が遅れがちである.同部の30%が良性髄外腫瘍であることから,foramen magnum syndromeを呈する患者に対しては,常に同部の腫瘍を念頭において検索すべきことが強調されてきた.われわれは,上位頸髄神経から発生し大後頭孔を通って,後頭蓋窩に進展した嚢胞性神経鞘腫を3例経験したので,臨床症状,X線学的所見を述べ,従来の報告とあわせて,診断と治療について考察する.

脳血管写上,消失し,再出現した脳動脈瘤の1例

著者: 鈴木健一 ,   戸根修 ,   米村尚晃 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.1433 - P.1436

I.はじめに
 脳血管写上,当初造影されていた動脈瘤がその後の検査で消失したとする報告は散見するが1,3-5,7-9),いったん消失した動脈瘤が再び完全に出現したとする報告は少なく2,10),稀なことと思われる.更に重要なことは,このことは脳血管写上の動脈瘤の消失が必ずしも永久的な治癒を意味していないことである.私たちは最近このような例を経験したので報告する.

頭蓋内(硬膜外)腫瘤を形成したPlasmacytomaの1症例

著者: 難波真平 ,   石光宏 ,   西本健 ,   本田千穂 ,   仲宗根進

ページ範囲:P.1439 - P.1445

I.はじめに
 形質細胞腫(plasmacytoma,以下PLと略)は,通常多発性の骨髄内増殖すなわち多発性骨髄腫(multiple myeloma,以下MMと略)という形をとるが,ときには髄外(軟部組織)で増殖(extramedullary plasmacytoma)することがある1,3,20).この場合,髄外増殖の部位としては,そのほとんど(約90%)が鼻咽腔,上気道であり,耳鼻科領域での報告は比較的多い.一方,頭蓋骨はMMの好発部の1つであるが,PLが主に頭蓋内に発育伸展し,あるいは頭蓋内に原発(髄外増殖)し,脳腫瘍症状を呈してくることは稀である1,3,5,10,12,20,21).われわれは最近かかる症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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