アメリカ合衆国の提督Mathew Galbraith Perryが4隻の黒船を率い江戸幕府に開国を求めて姿をあらわいたのは嘉永6年6月3日(1853年7月8日)のことであり,翌年の日米和親条約締結を経て,安政6年(1859)ついに永い鎖国の夢から醒めて開港するに至るのが,港ヨコハマの幕末史であることは皆様よくご存知の通りであるが,文明開化の時代の横浜を語るとき,「ヨコハマ」とカナ書きにしたほうが何となくロマンがあって快く響くと考えるのは小生だけであろうか.さて,そのヨコハマは次第に内外の商人が参集し,活気を呈してきたものの,一方,国内の一般情勢は開国佐幕派と,尊王攘夷派の対立が激しく,決して安定したものではなかったようである.攘夷派による外国人殺傷事件が相つぎ,ついに文久2年8月(1862)英人Lennox Richardsonら4名が薩摩藩主島津久光の行列に馬を乗り入れた結果,殺傷されるという大事件が発生した.いわゆる生麦事件である.
これを契機にイギリスは文久3年(1863)谷戸坂上の山手115番地イギリス領事館付近に外人居留地警備の名目で仮駐屯地の建設を求めてきた.長州戦争に大敗を喫した幕府はこの要求をのみ神奈川奉行を通じて,5万3,000両という大金を支出せざるを得ない羽目となった.フランスもイギリスに遅れをとるまじと,山下橋から谷戸坂を登るときの左手の小山,通称フランス山にこれまた数百名の兵隊を駐留させるに至った.いわばヨコハマ租界の出現である.
雑誌目次
Neurological Surgery 脳神経外科9巻2号
1981年02月発行
雑誌目次
扉
横浜散策に想う
著者: 佐藤修
ページ範囲:P.111 - P.112
総説
血小板機能抑制効果
著者: 塩栄夫 , 亀山正邦
ページ範囲:P.113 - P.122
I.はじめに
虚血性脳血管障害の発症のメカニズムについては既に多くの考察がなされ,心,大血管の内壁に生じたmural thrombusの遊離流出による脳塞栓症を除けば,いわゆる脳血栓症では脳を灌流する動脈系の硬化,特にアテローム硬化がその最も重大な因子と考えられている.動脈硬化の進展には脂質代謝異常,高血圧が密接に関係していることは明らかであり,最近は特に高比重リポ蛋白の抗動脈硬化因子としての意義が提唱されている.
アテローム硬化巣,あるいは求心性の動脈壁肥厚を阻害し,末梢の虚血を起こすというのは最も受け入れられやすい理論であるが,血管撮影上,特別な血管病変の認められない脳血栓症例が少なからず存在することは確かであり,血行力学上の不全,あるいは血液そのものの流動性の低下--凝固--といった機構が局所性脳虚血につながるという考え方も改めて重要視されるようになった.
Case Study
椎骨脳底動脈の解離性動脈瘤
著者: 関野宏明 , 中村紀夫 , 加藤康雄 , 馬杉則彦
ページ範囲:P.125 - P.133
I.はじめに
これまで脳血管の解離性動脈瘤は,頭蓋内外を問わず比較的稀れなものであるとされてきた.特に椎骨脳底動脈領域の解離性動脈瘤の報告は少なく,調査いえた範囲では28例(非外傷性のみ)にすぎない1-7,9,10,13,14,16,17,20-33).最初の報告例はScholenfield(1924)25)による47歳男性の剖検例であった.更にこれら28例のうち25例は剖検により診断されたものであり,臨床診断がなされたものはわずか3例(われわれの2例を含めて5例)にすぎない.このうち,Ouchiら(1965)20)の例は椎骨動脈起始部の動脈瘤と診断され,手術による切除標本から確定され,Wagaら(1978)29)の例はsaccular aneurysmとされ手術所見から診断された.血管撮影により診断された例はFischerら(1978)10)の1例のみである.われわれの2例は血管撮影により診断された第2,3例目にあたる.
文献例を渉猟すると内頸動脈領域を含めても脳血管の解離性動脈瘤の報告はたしかに少ないのであるが,従来考えられているほど少ないものではないという報告もある.Ehrenfeld & Wylie(1976)8)は10年間に19例(いずれも頸動脈領域)を,Fischerら(1978)10)は,22例(うち1例は椎骨動脈)をいずれも脳血管撮影上発見したと報告い血管撮影上の所見を詳細に述べている.
研究
いわゆる正常圧水頭症のCT所見と短絡術効果との相関について
著者: 藤田勝三 , 野垣秀和 , 野田真也 , 楠忠樹 , 玉木紀彦 , 松本悟
ページ範囲:P.135 - P.140
I.はじめに
1965年Adams1)らにより初めて正常圧水頭症なる概念が報告されて以来,数多くの報告が見られるが2,4-6,9,10,12,16,17),本症候群の病態生理についてはなお未解決な問題点が残されているといえる.正常圧水頭症の診断には,詳細な臨床症状の分析,cisternography,気脳写,CTおよび持続脳室内圧の測定等が有力な補助診断法である.特にCTは,脳室系,脳表くも膜下空の形態および脳実質障害の程度を表わすのに侵襲の少ない画期的な検査法であることが認められ2,5,8),現在では気脳写に代わって水頭症,脳萎縮等の診断に広く用いられている.われわれは,臨床症状,cisternographyおよびCT所見により正常圧水頭症(以下NPHと略す)と診断された33症例について,CT所見を詳細に分析し,NPHのCT所見の特徴およびCT所見と短絡術効果との相関について調べ,CT所見より術前に短絡術効果をどの程度予見可能かどうかを検討した.
Encephaloceleの予後
著者: 土田正 , 岡田耕坪 , 植木幸明
ページ範囲:P.143 - P.150
I.はじめに
encephaloceleの予後は,myelomenigoceleのそれに比して一般に悪くないとされる5,9).予後を左右する因子としては,腫瘤の中に脳組織が含まれているかどうか,その他の合併奇形の有無,水頭症の合併,encephaloceleの発生部位とその大きさ等があげられる4,6).これの多数例について長期にわたって追跡した成績の報告はMealey6)による64例の報告をみるのみであり,本邦におけるこのような報告はいまだみられない.
1940年から1979年までの40年間に新潟大学脳研究所脳神経外科にて経験したencephaloceleは39例ある.2例を除いて追跡可能であり,37例の長期予後が判明している.死亡例についてはその原因,生存例ではその内容,更に知能程度等について調査し,上記の予後を左右すると思われる因子との関連について言及したい.
CT所見よりみた破裂脳動脈瘤早期手術の検討
著者: 高橋慎一郎 , 園部真 , 長嶺義秀
ページ範囲:P.151 - P.156
I.はじめに
破裂脳動脈瘤直達手術の目的は,いうまでもなく再出血防止にある.しかしながら,従来くも膜下出血(以下,SAHと略す)発症早期の手術成績は悪く,SAH発症2週以内の手術群と2週以後の手術群とでは,その結果に明らかな差がある1,14,15).反面,晩期手術待機中に再出血あるいは血管攣縮による悪化,死亡の例をみることもまた事実である.このdilemmaを解決するため,現在まで破裂脳動脈瘤の早期手術の適応がHuntのsurgical risk grading4)を指標に種々論じられてきた2,4,6,10,14,16).
一方,CT (Computed Tomography)導入以来,SAHおよび破裂脳動脈瘤についての知見が数多く得られるようになり3,5,8,9,12),最近ではCT所見より血管攣縮の可能性を指摘する論文もみられるようになったが5,11,17),早期手術の結果とCT所見との関連を論じたものは数少ない.
正常圧水頭症におけるInfusion testとその意義
著者: 近藤勉 , 坪川孝志 , 土居暢庸 , 菅原武仁 , 森安信雄
ページ範囲:P.157 - P.162
I.はじめに
Hakim, Adamsら(1964,1965)によって正常圧水頭症の概念が提唱されて以来,正常圧水頭症は多くの人々の注目を浴びてきた.しかし,その原因疾患は,くも膜下出血,頭部外傷,脳腫瘍,髄膜炎,脳手術後状態等,種々であり,したがってその頭蓋内病態も種々のものが含まれ,shunt術の効果も症例によって異なる.正常圧水頭症に対するshunt術の効果を術前に判定するための種々の工夫が行われてきたが,いまだ手術効果を的確に予知することはできない.そこでわれわれは,正常圧水頭症に対する病態把握とshunt術効果の判定法の1つとして,脳室内infusion testを施行し,volume-pressure relationshipの種々なる検討を行い,いくらかの知見を得たので報告する.
SHR両側総頸動脈閉塞および血行再開の局所脳血流量,皮質脳波に与える影響
著者: 岡田芳和 , 島健 , 魚住徹
ページ範囲:P.165 - P.172
I.はじめに
Okamoto & Aoki21)によりWister系ラットの選択的交配から分離された自然発症高血圧ラットspontaneously hypertensive rat(以下SHR)は,本態性高血圧のすぐれたモデルとして用いられている.
SHRの両側総頸動脈結紮による脳虚血実験では,正常血圧Wister rat(以下NTR)と比較して明らかに高いmortalityを示し,過呼吸,irritabilityの亢進,全身けいれん等異常な神経症状が生じることが報告されて以来,SHRとNTRの虚血の差異について,脳代謝,循環生理,形態学の面から研究がなされている4,9-11,17,22,23,28,30).しかし,脳血流と脳機能との関連を生理学的に検索した報告はみられない.そこで本実験では,SHRおよびNTRの両側総頸動脈結紮後,経時的に脳血流と皮質脳波の変化を追跡した.また,SHRの両側総頸動脈閉塞後,約1時間,3時間後に血行再開を行い,脳血流,脳波に及ぼす影響等についても検討を試みた.
症例
脳マンソン孤虫症
著者: 峯浦一喜 , 森照明 , 和田徳男 , 山口富雄
ページ範囲:P.175 - P.178
I.はじめに
マンソン裂頭条虫の幼虫であるマンソン孤虫の人体寄生部位は,通常,四肢体幹の皮下組織,筋肉内であり,脳寄生の報告はこれまで2例の剖検例3,7)がみられるのみである.われわれは今回,けいれんで発症した脳マンソン孤虫症を経験した.これは頭蓋内から生きたマンソン孤虫の摘出例としては,文献上初めての報告と思われる.
組織分類困難であった脳腫瘍の1例
著者: 谷本邦彦 , 中川義信 , 津田敏雄 , 曽我部紘一郎 , 上田伸 , 松本圭蔵
ページ範囲:P.181 - P.188
I.はじめに
脳腫瘍,ことにglioma糸の腫瘍の組織学的診断は,標本の採取部位による所見の相違,あるいは分類上の見解の相違等によって多少不安定な点があることは否定できない.
しかし,最近われわれはこれらの問題点をはるかに越え,1つの腫瘍塊に,neuroglial,neuroepithelial,mesodermal,更にepithelial originを思わせるような組織像をもった脳腫瘍例を経験した.幸いZulch教授にもこの例を提示する機会をもったが,結局"unclassified"とすべきであるとの結論に達した.興味ある症例であったのでここに報告する.
C7椎弓骨折,硬膜外血腫を伴った急性中心性頸髄損傷の1例
著者: 元持雅男 , 牧田泰正 , 鍋島祥男 , 板垣徹也 , 鄭台頊
ページ範囲:P.191 - P.194
I.はじめに
急性中心性頸髄損傷症候群syndrome of acute central cervical spinal cord injuryは,Schneider10)(1954年)の命名による.主に,頸部の過伸展外傷により起こるが,椎骨動脈不全症に起因することもある12).上肢筋麻痺が下肢筋麻痺より強いこと,膀胱障害(通常は尿閉),および病巣以下の知覚障害が,その特徴とされる.頭側,尾側に伸展する,脊髄内出血を伴う中心性脊髄破壊の際には,完全四肢麻痺または死亡をも来たしうる.しかしながら,浮腫型の中心性脊髄病変を有する震盪,挫傷によるものでは,一定の順序で機能回復を期待しうる.回復の程度は,出血の拡がりに対する浮腫の程度による.下肢筋力が最初に戻り,次いで膀胱機能,のちに上肢筋力が回復するが,手指筋の巧緻運動障害が最後まで残る.知覚障害の回復には,一定の決まった型はないという.われわれは,C7椎弓骨折,硬膜外血腫を伴う急性中心性頸髄損傷の1例を経験したので,文献考察を加え報告する.
Persistent primitive hypoglossal arteryを伴った脳動脈瘤の1例
著者: 平原一穂 , 朝倉哲彦 , 上津原甲一
ページ範囲:P.197 - P.202
I.はじめに
1889年にBatujeffによって発見された胎生期における内頸動脈脳底動脈吻合遺残の1つであるpersistent primitive hypoglossal artery(以下PHAと略す)の発生率は比較的稀とされていたが,脳血管撮影の普及により,近年その報告例が増加している.われわれが調べえた範囲では現在までに95例が報告されている.遺残動脈が臨床上問題とされ出したのは,動脈瘤の原因の1つとして論じられるに及んだためであるが,PHAと脳動脈瘤が併存する例は極めて稀であり,今までに19例が報告されているに過ぎない.最近われわれは,右内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤に左側のPHAが併存した例を経験したので,動脈瘤発生機序の問題も含め若干の文献的考察を加えて報告する.
外傷性両側中硬膜動静脈瘻の1例
著者: 甲州啓二 , 岡田仁 , 溝井和夫 , 小沼武英
ページ範囲:P.205 - P.209
I.はじめに
外傷性中硬膜動静脈瘻は約40例の文献上の報告があるが2,4-7),これらはすべて一側性に発生した例である.最近われわれ,extravasationを伴った,外傷性中硬膜動静脈瘻が両側に発生した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
中頭蓋窩海綿状血管腫に対する術前照射とCT
著者: 柴田尚武 , 栗原正紀 , 森和夫 , 天本祐平
ページ範囲:P.211 - P.215
I.緒言
頭蓋内で脳実質外の海綿状血管腫は,脳内に発生したものと異なり,その著しい出血のため全摘が困難である.著者らは最近,右中頭蓋窩を満たす巨大な海綿状血管腫の1症例において,部分摘出後,放射線照射を行ったところ,腫瘍は著明に縮小し,2回目の手術では出血が少なく,ほぼ全摘することができたので報告する.
先達余聞
Walter Edward Dandyの思い出
著者: 近藤駿四郎
ページ範囲:P.216 - P.219
筆者が東大の青山徹蔵先生の許で外科学を勉強したのは昭和11年までであった.先生が眼を悪くされて隠退の決意をされたのが同年6月であったが,その前後,教室の図書室で新着のKirscher-Nordmannの外科手術書を読んでいた時,この教科書のなかに脳外科に関する項目があり,毎日これを読んでいるうちに,わが国における脳外科がアメリカのそれと比較して著しくおくれているのに気がついた.そこで筆者は,それまでに習得した一般外科学にひとつの区切りをつけて,このわが国における未開発の外科分野--脳外科の勉強に足を踏み入れることを考えたのである.
しかし,この目的のためにはアメリカに行くのがよいということはわかったにしても,そのアメリカの何処に行ったらいいかということは全く不明であった.そこで筆者なりにいろいろ調べたところ,彼の国で最も名声が高かったのはH.W. CushingとW.E. Dandyであるらしいということがおぼろげながらわかった.DandyはCushingより17歳若いということ,Cushingはもしかしたらもう隠退しているかもしれないという心配もあり,筆者は勉学の目的地にMarylandのBaltimore市Johns Hopkins大学附属病院の脳外科を選んだわけである.いろいろつてを求めてDandy教授(associate professor)からの許可をもらって出かけたのである.
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3巻6号(1975年6月発行)
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