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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻3号

1981年03月発行

雑誌目次

総説

原発性鞍上部Germinoma(Pinealoma)

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.227 - P.239

I.はじめに
 松果体腫瘍は比較的稀な頭蓋内腫瘍であるが,わが国での頻度は欧米の数倍にもなることは広く知られており,その特異な発生部位,生物学的特徴等から,長期間,多方面から研究の対象となっている.
 本腫瘍の国際的名称はKrabbeにより提称され,Bailey and Cushingにも受け継がれたpinealomaであった.しかしその名称,分類もhistopathogenesisに対する見解の相違から,現在も必ずしも統一されているとはいえない.

Colony形成能検定とヒト腫瘍への応用

著者: 星野孝夫

ページ範囲:P.241 - P.246

 17-18年前,私が脳神経外科教室に入局した当時,ナイトロミン,エンドキサン,6−MP, methotrexateをはじめ,数々の抗腫瘍剤が悪性脳腫瘍の治療に使用されだしていた.ほとんどの悪性脳腫瘍が頭蓋内に限局することから,その解剖学的な特微を生かしてさまざまな投与方法が試みられていた.髄腔内注入はもとより,頸動脈内注入,間歇注入,持続注入,灌流等の投与方法を用いて,いろいろな抗腫瘍剤が使われた.
 それら投与方法の開発と同時に,治療の対象になる腫瘍が,数ある抗腫瘍剤のうちでどのようなものに感受性が高いのかを選別する方法もいろいろと考えられていた,ちょうど抗生物質を用いて感染症を治療する時,感受性テストによってあらかじめ有効とわかった薬剤を用いることが重要であったように,脳腫瘍の治療に際しても抗腫瘍剤のスクリーニングテストができればと,誰もが願ったことといえよう.

研究

脳神経外科領域におけるステロイドホルモン投与法の検討—血液中および髄液中濃度と臨床効果よりみて

著者: 楠忠樹 ,   玉木紀彦 ,   藤田勝三 ,   野垣秀和 ,   長嶋達也 ,   松本悟

ページ範囲:P.247 - P.250

I.はじめに
 脳神経外科領域において,脳浮腫の治療および予防を目的として,副腎皮質ホルモンは臨床的に広く用いられ,脳浮腫に対する副腎皮質ホルモンの有効性については疑問のないところである.しかし,その作用機序,投与法および投与量等については,いまだ意見の一致をみない.
 われわれは副腎皮質ホルモンβ−methasone投与後の血液中および脳脊髄液中のβ−methasone濃度をradioimmunoassayにより測定し,また臨床効果と比較検討することにより,脳浮腫に対する副腎皮質ホルモンの投与法について検討した.

CTによる脳内血腫量の測定

著者: 多田明 ,   久田欣一 ,   鈴木尚 ,   角家暁

ページ範囲:P.251 - P.256

I.はじめに
 Computed Tomography (以下CT)の出現は,神経放射線診断に大きな変化をもたらし,高血圧性脳出血にあたっては血腫の存在は100%診断でき,同時にその局在,脳室穿破,水頭症の有無も正確に診断することができる.
 血腫とその進展範囲の正確な診断と経時的な観察によって,新しい知見が多く報告されている.
 われわれは,高血圧性脳出血における脳内血腫体積と,意識レベル,予後との相関について検討しているが4),今回は特にその基本となる血腫量測定法と,プリントアウトデータとCRT上の視覚計測との比較,partial volume effectの補正,血腫長軸と体積の相関,体積測定の簡易法について検討したので報告する.

グリオーマに対するACNUおよび放射線の治療効果

著者: 峯浦一喜 ,   森照明 ,   片倉隆一 ,   佐々木武仁

ページ範囲:P.257 - P.265

I.はじめに
 脳腫瘍,ことに悪性グリオーマの治療において手術療法単独では限界があり,放射線療法,化学療法,免疫療法との併用がぜひとも必要な現況であることは脳神経外科医誰しもが痛感している.しかし,これらのどの組み合わせがよりよい治療効果をあげるかに関しては一定の結論に達していない.
 併用療法の目的とは,①1つの療法で抗腫瘍効果に限界があるとき,他の療法がこれを補う形で抗腫瘍効果を発揮すること,すなわち効果作用が異なること,②作用の重複する方法では相乗的抗腫瘍効果を発揮すること,③副作用が重複せずに正常細胞を保護できること,である.これらが満足されれば治療効果の向上は明確である.われわれは今回,これらの点に留意してニトロソウレア系制癌剤1-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidinyl)methyl-3-(2-chloroethyl)-3-nitrosourea hydrochloride(ACNU)1)と放射線の併用について検討を加えた.すなわちACNUと放射線併用では腫瘍細胞に対して相乗効果が発揮されるか,効果はACNU投与と放射線照射との時間的関係で変動するか,正常細胞に対する影響はどうか,という観点からin vitro, in vivoの実験を行った.

頭蓋内海綿状血管腫の9例

著者: 魏秀復 ,   森惟明 ,   半田肇

ページ範囲:P.267 - P.276

I.はじめに
 頭蓋内海綿状血管腫は稀な疾患で,数年前までは術前に診断が確実につけられた症例はほとんどなかった.しかしCT導入後,術前に診断される症例も多くなり,必ずしも稀な疾患とは考えられなくなった.
 われわれは過去38年間に,中頭蓋窩に発生した4例,剖検で確認された橋部の1例,同じく剖検で確認された頭皮下と中脳に多発した1例,CTにより発見された天幕上脳内の2例,第3脳室内の1例の合計9例を経験している.そこで自験例9例と文献報告例をもとに,頭蓋内海綿状血管腫の術前診断の可脳性と手術上の問題点,特に発生部位と手術難易度につき検討を加える.

Cerebellar HemangioblastomaのCT所見に関する検討

著者: 中尾哲 ,   菊池晴彦 ,   松本皓 ,   唐沢淳 ,   有光哲雄 ,   坂下善治

ページ範囲:P.277 - P.283

I.はじめに
 hemangioblastomaは全脳腫瘍の1-2.5%を占める比較的稀な腫瘍であるが3,5,6),良性腫瘍のため手術により腫瘍全摘が行われれば完治も可能である.したがって術前に行われる他の後頭蓋窩腫瘍との鑑別診断は極めて重要となる.ところで,後頭蓋窩腫瘍の補助診断法として,従来から行われてきた,椎骨動脈撮影をはじめとする神経放射線学的診断法は,必ずしも非侵襲的検査とはいえないその点,computed tomography(以下CT)は非侵襲的な検査法であるばかりでなく,腫瘍とその周辺の重要脳組織との関係をも正確に把握でき,すぐれた補助診断法といえる.しかし反面,CTでは血管走行に関する詳細な情報を得ることはできず,必ずしも本法のみで確定診断が可能なわけでもない.最近,われわれはcerebellar hemangioblastomaの6症例を経験したので,その術前CT所見を解析し,本症診断に対する本検査法の有用性について若干の検討を加えたので報告する.

造影剤血管外漏出を認めた破裂脳動脈瘤症例の検討

著者: 原口庄二郎 ,   坪内隆佳 ,   蝦名一夫 ,   鈴木和雄 ,   滝田杏児 ,   向後雄大

ページ範囲:P.285 - P.293

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤患者に脳血管撮影を施行し,X線的に造影剤の血管外漏出(Extravasation以下EVと略す)を認めたという報告は,Jenkinsonら19)(1954年)の最初の報告以来,少なくはない.著者らの渉猟しえた限りでは,文献または学会での報告例は77例であるが1,2,4,6,7,9-11,13,14,16-28,30-32,34,36-49),くも膜下出血患者に対し,発症後比較的早期に積極的に血管撮影が施行されるようになった今日,このようなEVを認める脳動脈瘤症例は報告された以外にも,かなりの数にのぼると思われる.また,このような症例の血管撮影上の所見は,脳動脈瘤破裂後の出血の進展様式や持続時間,脳循環動態等を示唆するものとして興味がもたれる.
 著者らは第一線の救急病院として急性期脳卒中患者に遭遇する機会が多く,発症後早期に脳動脈瘤患者に血管撮影を施行してきたが,X線的にEVを認めた症例は劇症型破裂動脈瘤が大部分であり,それらは血管撮影の合併症ではなく,破裂後ひきつづき起こっている動脈瘤からの出血が,血管撮影時にたまたま写し出されるのではないかとの印象をもっていた.

髄膜腫の動脈塞栓術—技術的検討

著者: 御供政紀 ,   河合隆治 ,   三浦尚 ,   西窪良彦 ,   原田貢士 ,   池田卓也 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.295 - P.304

I.はじめに
 頭頸部領域の人工動脈塞栓術は選択的血管造影法の発達に伴って急速に普及しつつある.この領域の人工塞栓術では,より有効な塞栓技術の開発と同時に,副作用をいかに最小限に抑えるかが重要な課題である.外頸動脈領域の人工塞栓術の副作用には,必ず避けなければならない内頸動脈への栓子逆流と,塞栓領域の潰瘍形成,浮腫,疼痛等があげられる.安全でしかも有効な塞栓をできるだけ簡便な方法で遂行するための技術的検討を行い,この技術的改良を髄膜腫症例に応用したので報告する.

いわゆる「もやもや病」への血行再建術とその問題点

著者: 中川翼 ,   下山三夫 ,   柏葉武 ,   鈴木大和 ,   後藤壮一郎 ,   宮坂和男 ,   竹井秀敏 ,   後藤聡 ,   大塚邦夫 ,   阿部弘 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.305 - P.314

I.はじめに
 いわゆる「もやもや病」に対する浅側頭動脈—中大脳動脈吻合(STA-MCA吻合),encephalo-myo synangiosis等の血行再建術は,唐澤,菊地らの詳細な報告9-12)があり,その手術療法の価値は認められてきている1,2,6,13,20,21,23)
 本症に対する血行再建術の意図するところは,TIA, RIND,知能低下等の虚血症状に対しては血流増加を,脳室内あるいは脳内出血症例に対しては,人為的側副血行路作成により,出血源と考えられるもやもや血管を縮小させ,自然にできた側副血行路としての負担を少なくすること,の2点にある.
 しかしながら,その手術術式の選択,虚血症状に対する血小板凝集抑制剤併用の可否の問題等,今後解決すべき問題も少なくない17).われわれは,過去1年半に6例の本症の手術例を経験した.本稿ではその間に遭遇した2つの問題点について述べる.

正常圧水頭症における精神症状の神経生理学的研究—手術適応の選択におけるContingent negative variationの応用

著者: 片山容一 ,   坪川孝志 ,   築山節 ,   西本博 ,   森安信雄

ページ範囲:P.315 - P.323

I.緒言
 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus, NPH)にみられる精神症状は,その三主徴のひとつとして診断上重要な症状である1,9,13,20,25-27,46).その症候は,記憶障害とslowness and paucity of thought andaction, laek of spontaneity and initiative, faulty concentration, distractability, lack of interest, apathy, inertia1)等と記述される無為的状態9)とが主体となっているが,このような状態はbehavioralにはmood depressionと類似しており,なかでもdementiaにdepressionが伴っているものやdepressive pseudodementiaとの鑑別が必要であることがしばしば指摘されてきた1,3,9,25,34,37,38,40,45)

症例

外傷性椎骨動脈硬膜枝偽動脈瘤の1例

著者: 熊谷頼佳 ,   山川健太 ,   辻田喜比古 ,   杉山弘行 ,   名和田宏

ページ範囲:P.325 - P.329

I.はじめに
 外傷性脳動脈瘤は稀とされながらも,近年その報告が増加している.本疾患は,1928年Birley2)によって初めて報告され,前大脳動脈末梢の偽動脈瘤が1949年Krauland7)により,中硬膜動静脈瘻が1951年Fincher6)により,中硬膜動脈偽動脈瘤が1954年Lindgren9)により,それぞれ初めて記載されている.しかし椎骨動脈系の外傷性脳動脈瘤の報告は今日でも稀であり,文献上2例を数えるにすぎない.われわれは椎骨動脈硬膜枝に生じた外傷性偽動脈瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

重症頭部外傷によるNeurogenic pulmonary edema—症例報告と発生機序に関する考察

著者: 重森稔 ,   緒方武幸 ,   白浜盛久 ,   徳富孝志 ,   草野則文 ,   中嶋修

ページ範囲:P.331 - P.335

I.はじめに
 頭部外傷,脳血管障害,その他種々の中枢神経障害に伴って急性肺水腫が発生することは古くからよく知られている2,16,17,19).また,その発生機序についても以前から種々検討がなされてきている4,6,7,11).しかしながら,臨床上遭遇する大部分の症例では,原疾患発症前後の身体的要因や治療過程での諸要素等の複雑な因子が,直接,関接の原因と考えられることが多いようである.したがって,Grafら8)の報告のように古典的ないわゆるneurogenic pulmonary edemaと考えられる症例は実際には極めて少ないと思われる.
 最近,われわれは重症頭部外傷後,極めて短時期で急性肺水腫の臨床症状を発現した小児例を経験した.本例は厳重な呼吸循環管理にもかかわらず,受傷後約8時間で死亡したが,その臨床経過や検査所見等から頭部外傷に起因したneurogenic pulmonary edemaと考えられるため,症例を呈示し,その発生機序につき若干の考察を加えて報告する.

妊娠中期に破裂した重複中大脳動脈を伴った内頸動脈瘤の1例

著者: 尹清市 ,   尹清吉 ,   草野則文 ,   水木仁 ,   宮城潤 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.337 - P.341

I.はじめに
 妊娠中における脳出血症例(特にくも膜下出血)に対する外科的治療に関しては,2つの生命を守るという特殊な条件のために,従来脳神経外科医と産科医との間で意見の相違をみることがあった.しかし,現在では非妊娠中の脳出血に対する治療方針と何ら変ることなく,また胎児も自然経腟分娩が可能だとする意見が一般に認められている12).また一方,重複中大脳動脈は中大脳動脈の奇形の1つとして副中大脳動脈,窓形成,early bifurcationとともに注目されており,その報告例もしばしば散見される4,7,9-11,13,14,17-21).しかし,これらの中大脳動脈奇形に動脈瘤を合併することは稀であり,これまで15例の報告に留まる4,9,10,13,14,16-18,20,21)
 最近,われわれは妊娠中にくも膜下出血で発症し,脳血管撮影にて重複中大脳動脈を伴った同側の内頸動脈瘤を見いだした1例を経験したので,ここに若干の文献的考察を加えて報告する.

脳底動脈瘤術後に中脳型Foville症候群を呈した1例

著者: 高瀬学 ,   佐伯直勝 ,   岡信男 ,   小滝勝 ,   佐藤章 ,   山浦晶

ページ範囲:P.343 - P.347

I.はじめに
 近年microsurgeryの進歩により,脳底動脈分岐部動脈(aneurysm of bifurcation of basilar artery)の直達手術成績は向上しつつある.いかしこの部の動脈瘤は中脳の腹側部に位置しており,後交通動脈や後大脳動脈から脳幹部へ多数の穿通枝が入っているために,手術の際はこれらを保存することに細心の注意が必要である.脳底動脈瘤の手術手技と手術成績については,これまで多くの報告がなされているが3,6,8,10,12,13,15,16),上述した中脳穿通枝の障害によると思われる神経症状の報告は少ない3,6,8)
 われわれは最近脳底動脈瘤の術後に,手術側の反対側の後大脳動脈正中部穿通枝(P1 parforating arteries)の一過性の血流障害に起因すると思われる,中脳型Foville症候群とWeber症侯群の合併例を経験したので,その発生機序について若干の文献的考察を加えて報告する.

入院時CT像からは予測しえない病態を呈した急性期頭部外傷3剖検例

著者: 深町彰 ,   若尾哲夫 ,   川淵純一

ページ範囲:P.349 - P.355

I.はじめに
 急性期頭部外傷例の診断にCTが有用であることは既に周知のことである.しかしわれわれは,入院時CT像からは予測しえない経過をとった3剖検例を経験した.これらはそれぞれ,硬膜外血腫術後に発生した外傷性脳内血腫,小脳挫傷,大脳縦裂硬膜下血腫という比較的特異なものであった.そこで,各病態に関し文献的考察を加え,ここに報告する.

CT所見より見た後頭蓋窩硬膜外血腫の検討

著者: 長嶺義秀 ,   園部真 ,   高橋慎一郎

ページ範囲:P.357 - P.363

I.はじめに
 後頭蓋窩硬膜外血腫は従来稀な疾患とされ,金頭部外傷のわずか0.3%3,7,10)を占めるにすぎず,また天幕上の硬膜外血腫と比較しても全硬膜外血腫の約7%7,12)といわれる.しかしながらこれらの統計は,すべてcomputed tomography (CT)導入以前のものであり,CT導入以後はそれほど珍しいものではないと思われる.事実われわれの施設では,CT導入以前の3年間には1例の経験ももたなかったが,CT導入後1979年3月から1980年2月までの1年間に5例の後頭蓋窩硬膜外血腫を経験している.このことはまさにCT scanの後頭蓋窩血腫診断における有用性を物語っていると思われる.
 われわれは自験例5例(手術群3例,非手術群2例)のCT所見を中心に述べ,文献上CT所見の記載のある後頭蓋窩硬膜外血腫の14例を合わせて検討し,手術適応に関連して若干の考察を加えて報告する.

"Moyamoya"病に合併した脳底動脈瘤

著者: 井沢正博 ,   仙頭茂

ページ範囲:P.365 - P.370

I.はじめに
 Moyamoya病に脳動脈瘤を合併した症例の報告は比較的稀で,現在までに26例の報告がなされている1,2,5-7,9,10,12,14,15,17-19).これらのなかでは,通常の脳動脈瘤発生部位に脳動脈瘤が認められた例は17例と,過半数以上を占めている.一方,Moyamoya血管に脳動脈瘤が認められた例は9例と少ない.著者らはMoyamoya病に脳底動脈瘤を合併した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

Cis-platinumを含む多剤併用療法が奏効した—Alpha-fetoprotein産生原発性頭蓋内胎児性癌の1例

著者: 中島麓 ,   朴信史 ,   藤津和彦 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.371 - P.375

I.はじめに
 原発性頭蓋内胎児性癌は外科的治療がむずかしく放射線治療も無効なことが多いため予後の悪い脳腫瘍とされている.私たちはalpha-fetoprotein (AFP)産生原発性頭蓋内胎児性癌の1例にcis-plalinumを含む多剤併用療法を行い,CTスキャンでの腫瘍の消失,血中および髄液中におけるAFPの著明な低下,臨床症状の改善を得たので報告する.

先天性心疾患を合併した脳動静脈奇形—脳血管奇形と心肺機能に関する考察

著者: 植村正三郎 ,   高本憲治 ,   松角康彦 ,   石橋健治朗

ページ範囲:P.377 - P.383

I.はじめに
 先天性心疾患(以下CHD)と脳動脈瘤の合併についての報告は多く,特に大動脈縮窄と動脈瘤合併の頻度が高いことは脳動脈瘤発生の原因を先天性とするひとつのよりどころとなっている17).しかし一方では大動脈縮窄および合併したpolycystic kidney等に伴う高血圧と早期から現れる高度のアテローム変性が二次的に脳動脈瘤発生に関係しているに過ぎないとする意見もある22)
 一方,脳動静脈奇形(以下AVM)の発生を先天的な脳血管発生途上の錯誤形成であるとする考え方には論議の余地はない7,9,15,20).しかし脳血管発生のいかなる時期にかかる奇形が発生し,心・大動脈の奇形発生とどのような相関を示すかについては,いまだ一致した見解をみない.今回われわれの調査の結果,Galen動脈瘤を除くAVMとCHDが合併した症例の報告は極めて少ないことが判明した.ここにくも膜下出血を起こしたAVMと心室中隔欠損症(以下VSD)を合併した症例を報告しその興味ある急性期心肺循環系変化につき文献的考察を加えた.

悪性黒色腫のCT所見

著者: 横井和麻呂 ,   片田和広 ,   佐野公俊 ,   神野哲夫

ページ範囲:P.384 - P.388

I.緒言
 近年,黒色腫は比較的多く見られる疾患であるが,中枢神経系原発の黒色腫はいまだに稀なものとされている.加えて,この転移性でない場合の診断は比較的困難であり,その治療にいたってはいまだ確かなものがないというのが現実であろう.しかし,この診断の面においては,最近のCT登場は大きな進歩であることは論をまたない.著者らは最近2例の中枢神経系の黒色腫を経験し,そのCT所見を検討する機会を得たので,ここに報告する.

脳腫瘍を疑わせた局所痙攣の1例—CT所見を中心として

著者: 伊勢博 ,   渡辺攻

ページ範囲:P.389 - P.394

I.はじめに
 1973年にcomputerized tomography (以下CTと略)が世に出て以来,多くの研究がなされ,その診断学における重要性は計り知れない.しかし一方ではCTに頼りすぎて,神経学的所見,臨床所見等を軽視しがちになることもいなめない.CTによる診断と,臨床所見あるいはその他の神経学的な補助診断法による診断との不一致は日常多々経験するところである.われわれは臨床所見およびCTを含む神経放射線学的検査において脳腫瘍と診断し,開頭術を施行したが,組織学的に腫瘍は証明されず,1カ月後と3カ月後のCTでは正常像を呈し,抗痙攣剤投与により無症状となった症例を経験したので,今後のCTによる診断学の発展に何らかの役に立つことを願い報告する.

脳内血腫を伴ったDeep sylvian meningiomaの1例

著者: 土田正 ,   伊藤寿介 ,   関口賢太郎 ,   本多拓 ,   植木幸明

ページ範囲:P.395 - P.400

I.はじめに
 くも膜細胞由来である髄膜腫は,中枢神経系のほぼすべての部位に発生しうることが知られている.多くの場合は硬膜に附着して存在するが,硬膜とは関係のない部位に発生する髄膜腫として,intraventricularのものと,deep sylvianのものとが知られている3).後者は発生頻度が極めて低く,文献上の報告例は20例に満たない12,15).しかもこれの血管写所見の詳しい記載は余りみられない6,14,16)
 われわれは脳内血腫をもって発症したdeep sylvian meningiomaの1例を経験したので,本例の血管写所見を中心にして,臨床経過,手術所見,組織所見とともに報告する.

外傷性後頭蓋窩硬膜外血腫—特にCT scanの有用性について

著者: 池田幸穂 ,   中沢省三 ,   山川和臣 ,   小林士郎 ,   辻之英 ,   西邑信男

ページ範囲:P.401 - P.406

I.はじめに
 外傷性後頭蓋窩血腫は,テント上血腫に比し頻度が少なく,CT scan出現以前はその診断が極めて困難であり,かつ急激な転帰をとりやすいため適切な治療時期を逸することが多かった.最近われわれはCT scanにより診断を下し,手術を施行し,良好な経過をみた外傷性後頭蓋窩硬膜外血腫5例を経験した.本疾患の診断におけるCT scanの有用性は今さら強調するまでもないが,それらに関する報告は意外に少ない.今回われわれは自験例を中心に本邦文献例を加え,CT scan上の特徴と予後について若干の検討を行ったので報告する.

軽症頭部外傷後に発生した幼児の一過性閉塞性水頭症の1例

著者: 佐々木修 ,   古沢善文 ,   高原淑夫

ページ範囲:P.407 - P.409

I.緒言
 幼小児は比較的軽い頭部外傷でもしばしば嘔吐するが,頭蓋内血腫や脳挫傷を否定するためにはCT scanが非常に有用である.最近われわれは,外傷後4日目に急性頭蓋内血腫の発症を疑い,CT scanを施行したところ,頭蓋内血腫は存在しなかったが,微小な血腫が中脳水道を閉塞し急性水頭症を併発しているのを認め,受傷後7日目のCT scanでは,中脳水道内血腫の消失とともに水頭症の自然寛解を認めるという興味ある症例を経験した.われわれの調べた限り本例のような症例の報告はない.ここに本症例とCT scanを呈示するとともに,本症例における水頭症の発生と自然寛解の機序について若干の考察を加える.

成人期に初発したLumbo-sacral lipomaの1例

著者: 根来真 ,   ,   山田博是 ,   景山直樹

ページ範囲:P.410 - P.414

I.はじめに
 小児におけるlumbo-sacral lipomaは広くその存在が知られ4,17),それに伴う種々の奇形およびtethering cordの存在についても従来からその報告がみられる24)
 しかし成人期になってはじめて症状が発現する皮下腫瘤を伴わないlumbo-sacral lipomaについての記載は少なく,広く知られることが少ないため,長期間にわたって診断のつかないままに,いたずらに対症的な治療を重ねている症例も少なくない.
 成人期におけるlumbo-sacral lipomaは尿失禁が前景となり泌尿器科で治療をうけていることが多く,この点でも注意を喚起するために,自験例とともに,その診断,治療について文献的考察を加え,あわせてこれらの疾患における最近急速に進歩したCTスキャンの有用性についても言及する.

眼窩悪性リンパ腫の1例—特に,そのCT所見と外科的治療に関して

著者: 松田一己 ,   前田美樹 ,   川井田秀文 ,   浜田博文 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.415 - P.421

I.はじめに
 眼科領域における悪性リンパ腫としては,球結膜および眼窩悪性リンパ腫が挙げられている.前者の頻度が極めて稀であるのに対し,後者は全眼窩腫瘍の約10%を占め,それほど珍しい疾患とはいえない14).しかし,この悪性リンパ腫が眼窩に原発し,更に眼窩内に限局している場合,その診断は非常に困難であり,生検や腫瘍摘出後の組織学的検索により初めて確定診断がなされるものが大部分である.一方,外科的治療についても,Kronlein's operation, anterior orbitotomy, nasal orbitotomy, transcranial operation等,その腫瘍の局在と手術目的により手術方法が異なり問題となっている.更に眼窩悪性リンパ腫は全身への移行を示すものもあり,かつ近年進歩した免疫学の観点からも新たな関心を集めている.
 このたび,われわれは一側性眼球突出を主訴とした症例において,CT scanで発見した眼窩悪性リンパ腫をtranscranial approachにより摘出し,術後の放射線療法により著明な改善が得られた,原発性と思われる1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳静脈性血管腫の2例—神経放射線学的所見を中心に

著者: 小林一夫 ,   中村恒夫 ,   安芸都司雄 ,   岩田隆信 ,   戸谷重雄 ,   志賀逸夫

ページ範囲:P.424 - P.431

I.はじめに
 脳静脈性血管腫は脳血管奇形の一型であり,極めて稀なものである.調べえた限りでは31例の報告1-3,5-9,11-15)があり,われわれは,それらの報告の神経放射線学的所見と一致する2例を経験したので報告し,若干の文献的考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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