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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻4号

1981年03月発行

雑誌目次

足下を掘れ,そこに泉がある

著者: 青木秀夫

ページ範囲:P.437 - P.438

 "足下を掘れ,そこに泉がある"とは古い格言で,以前に本欄にも書いたことがある.哲学者の天野貞祐先生が京都大学におられた当時,昭和10年代中頃の数年間,私の在学していた高等学校に関係しておられたことがあった.毎週のようにおいでになって,よく言われた言葉でもあったので,特に印象に残っている.日常の診療の時でも,あるいは実験の時でも,常に心に留めておきたい言葉と思う.
 さて,これも相当古いことであるが,昭和30年代に教室から「脳室灌流冷却」という題で,シリーズとして脳神経外科学会や精神神経学会に報告していたことがある.この仕事が始まったのが昭和30年であった.当時われわれの大学は県立医科大学で,建物はほとんど全部木造モルタルの二階建,廊下は波打ち,手術室には蟹や蛙が出没するといった有様で,古い大学の医学部の風格はなく,また最近の新しい医科大学の立派な建物からは想像もできないような代物であった.はじめのテーマが低体温時の髄液循環で,犬をつかって実験しようということになったが,なにぶん教室ができて日も浅く,動物実験などは全く行っていない状態だったので,犬を飼う場所もなかった.そこで横山助教授(現熊本大学第一外科教授)以下全員で材木や板を集め,犬小屋を造った.犬の餌は残飯で,男子禁制の看護婦宿舎の食堂に入り込んで残飯を集めた.

総説

神経線維腫症—脳神経外科の立場から

著者: 半田譲二 ,   小山素麿

ページ範囲:P.439 - P.452

 神経線維腫症(neurofibromatosis)は,神経皮膚症候群(neurocutaneous.syndrome)のうちでも結節硬化症,Sturge-Weber病,v.Hippel-Lindau病とともに脳神経外科医にとって最も関係が深いものの1つに属する3,78)
 本症の記載は極めて古いが,1882年にv.Recklinghausen132,138)が過去の報告例に自験例を加えて詳細に報告してから,彼の名を冠して通常v.Recklinghausen病と呼称されている.当時は,皮膚,末梢神経,自律神経の多発性腫瘍と,皮膚のcafe-au-lait spotsを伴う,家族性,遺伝性(autosomal dominant)96)の疾患と理解されていたが,その後,脳・脊髄・脳神経・脊髄神経・脳膜の腫瘍や発生異常,血管系の病変,知能障害あるいは痙攣発作の合併等があいついで報告され,その表現は多彩を極める3)

Case Study

膵疾患と誤まられた興味ある症例の検討

著者: 忍頂寺紀彰 ,   泉屋嘉昭 ,   中島正二 ,   植村研一

ページ範囲:P.455 - P.462

I.はじめに
 これから呈示する症例は,症状発現より最終診断にいたる1年間,主として,その局在と性質の異なる疼痛を訴えた.初発の疼痛が心窩部痛であり,尿中アミラーゼの上昇があったため,慢性膵炎の診断のもとに治療を受けていた,このほかに,既往歴の消化性潰瘍の治療歴や,慢性肝炎を示唆する血液生化学の所見や肝腫大の理学的所見,加えて超音波診断による総胆管拡張の所見等,すべてが腹部内臓器の異常を指していた,わずかに間欲性心窩部痛は運動で増悪したこと,食欲は障害されることなく,食餌の摂取と全く無関係の疼痛だったことが納得し難い点であった,したがってこの初期の段階では,慢性膵炎の診断は無理からぬものであった.しかし初発症状出現より5カ月後には,疼通の局在も性質も変化してきて,もはやその診断名では説明がつかなくってきている.臨床像の症候論的分析が正しい診断への道であることを示すよい例と思われるので,CPC的な形で提示する.

Current Topics

脳梗塞の新しい治療法の開発—Mannitolとperfluorochemicalsの併用療法

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志 ,   田中悟 ,   溝井和夫 ,   香川茂樹

ページ範囲:P.465 - P.470

I.はじめに
 脳梗塞に対し,現在までさまざまな治療方法が試みられてきたが,いずれも十分とはいえず,更に有効な治療方法の開発が待たれている.
 われわれは脳手術に際し,流入および流出血管の一時的血流遮断のもとに手術を行う,いわゆる無血手術という観点より,脳血管遮断後の脳乏血による脳梗塞の発現抑制について種々の脳梗塞の実験モデルを開拓し研究してきた15,22).その結果,脳圧下降剤であるmannitolには脳梗塞発現に対する抑制効果があることを発見し,実験的13,18,19,23),臨床的14,21)な面より報告した.その後,人工血液1,5,8,11)として開発されたperfluorochemicals(20%Fluosol DA.ミドリ十字社製,以下FCと略す)の酸素運搬能と微細粒子に注目し,実験動物の脳梗塞の治療に用いたところ,mannitolとFCの併用療法は,おのおのの単独投与に比し脳梗塞の発現を明らかに抑制することが判明した.

研究

三叉神経痛および顔面痙攣におけるVascular compressionの臨床的意義

著者: 佐々木亮 ,   早川勲 ,   土田富穂 ,   渡辺英寿 ,   鈴木一郎 ,   小林武夫

ページ範囲:P.473 - P.481

I.はじめに
 三叉神経痛と顔面半側痙攣(以下,顔面痙攣)とは,それぞれ知覚系と運動系の異常で全く異なった現象である.しかしこれら両者の共通の病因としてGardner8,9)らは三叉,顔面神経根に対する脳血管.腫瘍等の機械的圧迫により髄鞘が損傷し,transaxonal short circuitが形成されるという説を提唱した.1966年よりJannetta14)は,これらの疾患ばかりでなく,第Ⅷ脳神経機能障害,舌咽神経痛の病因が脳幹部における各脳神経根に対する血管の圧迫であると考え,hyperactive-hypoactive dysfunction syndromesと総称し,後頭下開頭術によりvascular decompressionを行い,永久的神経欠落症状を残さないすぐれた手術効果を得ている.著者ら21)も1977年の本邦第1報告例より(Fig.1),三叉神経痛と顔面痙攣に対して同様の手術を行い著効を認めたので,手術所見を中心に症状の発現機序,手術適応,方針について述べる.

CT metrizamide myelographyの経験

著者: 井須豊彦 ,   伊藤輝史 ,   岩崎喜信 ,   都留美都雄 ,   北岡憲一 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.483 - P.490

I.はじめに
 われわれは既に本誌第7巻と第12号において,脊髄および脊椎疾患の診断にspinal CTが有用であることを報告したが5),問題点として,現在使用されているCT scannerでは,第1頸椎付近以外では脊髄およびくも膜下腔を同定することが困難であることを指摘した.したがって.脊髄くも膜下腔を造影し,脊髄を間接的に描出するCT metrizamide myelographyが病変と脊髄との位置関係を把握するために有用であると思われる,今回われわれは,最近経験したCT metrizamide myelographyにつき検討を加えたので報告する.

巨大脳動脈瘤の直接手術

著者: 佐藤智彦 ,   小沼武英 ,   小松伸郎 ,   桜井芳明 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.493 - P.500

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤に対する直接手術は脳血管写,CT scan等の診断技術の向上やmicrosurgical techniqueの発達した今日においても,その手術成績はおもわしくなく,carotid ligationや保存的療法を余儀なくさせられる場合が多い1,10,16).当教室では積極的に直接手術を施行し,その直接手術率は62.8%に及んでいる.そこでこれら症例の部位,手術法,手術結果および追跡調査の結果等から,その治療法,手術手技を,おのおのの部位の脳動脈瘤について検討報告する.

実験的脳腫瘍ラットにおける細胞性免疫抑制の機序

著者: 上出利光 ,   佐藤修 ,   井口進 ,   菊地浩吉

ページ範囲:P.503 - P.508

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の治療に種々の化学療法,免疫療法が導入されたとはいえ,従来の手術,放射線併用療法に比べ,その生存期間の延長は微々たる現状である38).しかも不注意な免疫療法は逆に腫瘍の増大をもたらすという報告もみられる32).一方,中枢神経系は生体の免疫監視機構の及ばないimmunologically privileged site16)と考えられてきており,免疫学的には未知の分野も多く残されている.しかし脳腫瘍患者において種々の細胞性免疫能の低下4,18,27,37,45)が報告され,この低下が病期および予後と相関があること,更に悪性脳腫瘍のなかに箸しいリンパ球浸潤を示す例26)があり,これらの予後が非常に良好なこと等,免疫反応と脳腫瘍との関連が少しずつ明らかになってきている,このような状況をふまえ,脳腫瘍患者の細胞性免疫能の低下の機序を明らかにすることは,今後の免疫療法の向上に対する最初のステップと考え,実験的脳腫瘍ラットを用いて細胞性免疫能の低下の機序について検討したので報告する.

症例

Hangman's fractureと,動脈瘤へと経過した椎骨動脈動静脈瘻の合併した1例

著者: 秋岡達郎 ,   奥村修三 ,   宮田伊知郎 ,   本間温

ページ範囲:P.511 - P.515

I.はじめに
 最近,われわれは交通事故により閉鎖性頭頸部外傷を受け,呼吸停止,心停止の状態で搬入された患者を救急蘇生し,X線検査で第2頸椎椎弓根部骨折と右椎骨動脈C2部の動静脈瘻の合併が証明された症例を経験した.Schneiderらは1965年,交通災害患者にみられた第2頸椎椎弓根部骨折が,絞首刑によって起こる頸椎の骨折と基本的に類似性があるとして,これらの頸椎骨折に"Hangman's fracture"という名称を用い,8例の報告を行っている15).その後hangman's fractureの報告は散見されるが3,16),CT像で椎骨弓の骨折像が明示され,かつ椎骨動脈の動静脈瘻を合併した症例の記載は,われわれの渉猟しえた限りでは見られない.この稀な症例を受傷直後より現在まで約1年半にわたって観察することができ,この間,動静脈瘻が動脈瘤へと経過していくのを確認したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Rathke's cleft cystの1症例

著者: 木矢克造 ,   原川廉 ,   森信太郎 ,   魚住徹 ,   井藤久雄

ページ範囲:P.517 - P.521

I.はじめに
 Rathke's cleftは正常な下垂体にも13-22%8,24,25)の頻度でみられるといわれている.ところがそれが増大し嚢腫として見つかった例は稀で,1913年Goldzieher9)が剖検例で報告して以来,現在まで少なくとも45例の報告がなされている.本邦では1977年Yoshidaら31),1979年伊関ら13),斎藤ら23)の3例が報告されているにすぎない.
 ところで無症状で発見されたRathke's cleft cystは剖検時偶然見つかったものがほとんどであるが,われわれはsubclinical pituitary adenomaの疑いで手術をしたところRathke's cleft cystと診断した1症例を経験したので報告する.

後頭蓋窩急性硬膜下水腫の1例

著者: 安東誠一 ,   石川進 ,   宮崎正毅 ,   石原博文

ページ範囲:P.523 - P.528

I.はじめに
 外傷性後頭蓋窩硬膜下水腫の報告は少なく,わが国では城後ら9)の1例,平井ら7)の7例(後頭蓋窩血腫との合併例2例を含む),三浦らの4例12),林ら6)の1例(硬膜外血腫との合併例)等が記載されているに過ぎない.特に急性例のみをとり上げると,その数は更に限られてくる,しかし三浦ら12)が指摘しているように,臨床的にあるいは剖検時に見のがされている可能性が少なくない.一方,本症は急激な経過をとりて著明な呼吸障害あるいは無呼吸に陥っても,排液によって劇的に好転する場合が多いことから4,6,12),重要な頭部外傷合併症の1つといえよう.
 われわれは,交通事故による受傷後約2時間で急激に発症し無呼吸となったが,手術により救命され良好な経過をたどった幼児例を経験したので,この症例を報告するとともに本症の重要性を強調したい.

脳腫瘍摘出術後に発生し,自然治癒した外傷性脳動脈瘤

著者: 宮崎紳一郎 ,   大森英俊 ,   宗像克治 ,   福嶋廣己 ,   鎌田健一

ページ範囲:P.531 - P.537

I.はじめに
 頭部外傷に続発する外傷性脳動脈瘤の報告が多数なされてきたが.近年,脳動脈瘤,脳腫瘍等,頭蓋内直達手術の機会が急増し,手術手技による動脈損傷に続発する外傷性脳動脈瘤の存在も無視できぬものとなっている25).特に,術後検査としてCT scanが脳血管写にとって代ることが多くなったため,その診断が遅れることもありうると思われる.
 今回,著者らは,脳腫瘍摘出術後,慢性期に紡錘状脳動脈瘤を脳血管写上認めた1例を経験した.経過を追跡したところ,発見8カ月後に動脈瘤は自然消失した.

先達余聞

Percival Bailey

著者: 半田肇

ページ範囲:P.538 - P.541

 疎水を渡って大鳥居をくぐると早朝のしじまに砂利道を踏みくだく音がこだまし,透明に晴れわたった紺青の空に応天門の碧瑠璃の瓦があでやかに輝いて見えた.京都大学外科の荒木千里教授が,彼のシカゴ留学時代の師であるPercival Bailey教授を10年ぶりに迎え,京都滞在の一日,まず平安神宮へ伴った日のことである.終戦後4年目を迎え,ようやく世の中が落着きはじめた1948年の初秋の日曜日であった.
 神苑へ入る門がまだ閉されていたので困惑した表情で二人は暫く佇んでいたが,ふと思いつきBailey教授を促して裏門へ廻った.くぐり戸を開けると,逍遙式庭園が早朝のやわらかい日射しに包まれて眼の前に展開した.春の紅枝垂桜のあでやかさと5月の白虎池の菖蒲の見事さを説明していると,灌木の蔭に何か白い物が見えた.Bailey教授はつかつかと歩み寄り,"これはアメリカ兵の弁当の包紙だ,アメリカ兵が棄てたものだ"と,渋面をし,つぶやいた.午後は洛西方面へドライブを企画し,竜安寺の石庭を見た後,嵐山の苔寺に降りた.門前にジープが1台停っていた.庭内は静寂がたちこめ,緑の濃淡がアラベスク模様を描いていた.Bailey教授はこの庭が一番気に入った風であった.背後にカン高い声が聞こえ,ふりむくと米兵とパンパン娘とがふざけあっていた.彼は世にも情けなそうな表情で詑びるように弟子の顔をみつめた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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