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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻5号

1981年04月発行

雑誌目次

零戦

著者: 松本圭蔵

ページ範囲:P.547 - P.548

 現在の日本の繁栄は世界的驚異ともいわれるが,われわれにとってはありがたいことである.また,ある意味ではわれわれ自身,今日の日本の繁栄への一翼を担ってきたともいえよう.戦いに敗れ,しかもその後発展したという国は史上極めて稀であろう.しかし,『断絶の時代』の著者ピーター・ドラッガー氏が「日本よ驕るなかれ」と警告しているごとく,手放しで喜んでばかりはいられない問題も多い.
 日米間の生産性の逆転をとりあげたニューヨークのNBCのテレビ番組"If Japan can, why can't we ?"が米国中の話題を呼び,日本のテレビでもとりあげられたことをご記憶の方もあろう.敗戦当時は「乞食の日本人」「精神年齢12歳の日本人」といわれたわれわれであった.政治・経済・教育・文化等あらゆるものを舶来として憧憬の念をもって欧米先進国から学び,これに追いつき追い越せと走りつづけてきた.

総説

血管内凝固症候群

著者: 田中健蔵 ,   今村司

ページ範囲:P.549 - P.557

I.はじめに
 血管凝固症候群(D1C)は,いくつかの機転で,血管内で凝固系が活性化され,全身の細小血管に多数の微小上血栓が形成され,種々な臓器,特に腎,心,脳,下垂体等に生じた微小血栓のために臓器循環を障害し,巣状,ときにびまん性の虚血性変性,壊死巣が生じ,それらの臓器の機能障害が起こる12,21,22,25,26).多発性に微小血栓が形成されるために血液の凝固過程で消費される因子,例えば血小板フィブリノゲン,プロトロンビン,第Ⅴ因子,第Ⅷ因子等が低下し,また二次的な線溶亢進が起こり,フィブリノゲン,フィブリン,第Ⅴ因子,第Ⅷ因子,第【ⅩⅢ】因子等の凝固因子が分解されて凝固障害を来たし,また抗凝固因子の出現も加わって,著明な出血傾向が起こる25,26),血管内血液凝固を起こす原因となった基礎疾患の種類によって,症状はかなりの差があるが,その成因には血管内血液凝固という共通性がある.
 近時,本症候群においては,単に微小循環系に微小血栓が形成されるというだけではなく,それによる組織障害が起こることが重視されている12,25).また,本症候群におけるキニン系の活性化が病態発現と関連して注目されている.

Case Study

Craniopharyngiomaの術後経過にみられたHyperprolactinemiaの1例

著者: 三輪哲郎 ,   山本征夫 ,   東幸郎

ページ範囲:P.559 - P.566

I.はじめに
 血中プロラクチン値の測定が容易になった現在,下垂体腺腫(chromophobe adenma)──macroおよびmicroadelloma──のhyperprolactinemiaに関する臨床報告は枚挙にいとまのないほどである1,4,10,26,30,32-34,36).しかし頭蓋咽頭腫(craniopharyngioma)2,11,18-20,23,24)におけるそれは極めて少ない.加藤(1978)17)の統計によれば460症例のhyperprolactinemiaを呈ける症例中,chromophobe adenomaは17%であるに対し,craniopharyngiomaは0.7%の発生率とされている.
 しかし頭蓋咽頭腫はしばしば鞍上ないし視床下部への発育を示す傾向をもつので,後述するプロラクチン分泌調節機序から推察して,実際にはもっと多いものと考えられている.

海外だより

米国の脳神経外科卒後教育

著者: 西本詮

ページ範囲:P.568 - P.570

 ニューヨークはこのところ暖かい日が続いておりましたが,12月3日より急に寒くなり,吐く息が白く,街を歩く大多数の人々がオーバーを着,手袋をするようになりました.空っ風がビルの問を吹きぬけ,ごみが舞い上って,街はお世辞にも綺麗だとは申せませんが,古いビルを壊して各所に高層建築が新築されつつあるのを見ると,景気が悪いとはいいながら,米国の経済の底力を見る思いがしております.
 私が出席しましたのは米国の脳神経外科の卒後教育で,名称はCourse#350, Neurosurgery/New York City 1980, Controversies, Complications and Surgical Techniqueと題し,12月1日から4日まで行われました。場所は42番街の中心(Park Ave.)でGrand Hyatt Hotelという建物の外側全部が鏡を張っているような(silver glass facade)新しい超モダンなホテルで,由緒ある名建築として名の高いクライスラービルと道路をはさんで向い合っており,新旧の好対照をなしております.

研究

Syringomyeliaの診断

著者: 山田博是 ,   景山直樹 ,   加藤寿雄 ,   榊原敏正

ページ範囲:P.573 - P.582

I.はじめに
 syringomyelia (またはhydromyelia)は従来よりよく知られた疾患である.以前は変性疾患の1つと考えられていたが,1958年Gardner18)がsyringomyeliaはArnold-Chiari I型奇形と近縁疾患であり,脳脊髄液のdynamic factorによるものであることを発表して以来,この疾患の病態の解明,更には診断,治療面においても,非常な進歩がみられるようになった.しかしながらsyringomyelia腔内への液貯溜の病態,その診断および治療等のいずれについてもいまだ不明また解決されていない問題が多く,かなり稀な疾患のわりには欧米では文献も多く,研究者にも興味を持たれている疾患である.本邦ではこの疾患に関する文献は少ない.その理由ははっきりしないが,本邦ではこの疾患は少ないのかもしれない.またあまりにも知覚解離等の典型的な症状にこだわりすぎ,やや非定型的な症例に対してsyringomyeliaを念頭に置かないことも原因であろう26)
 syringomyeliaは早期治療が極めて重要な疾患である.そのためには早期に診断することが必要である,われわれは最近5年間に7例のsyringomyeliaを経験し手術的治療を加えた38),今回は特に診断面について文献的考察を加えて報告する.

急性硬膜下血腫,脳内血腫に対する広範囲減圧開頭術について—手術前後の頭蓋内圧とCT変化

著者: 重森稔 ,   正島和人 ,   中山顕児 ,   小島猛 ,   緒方武幸 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.585 - P.590

I.はじめに
 高度の脳挫傷を伴う急性硬膜下血腫の手術成績は,減圧開頭術の併用の有無にかかわらず,現在なお極めて不良である1,2,4,5,12).われわれは,十数年前から片側の急性硬膜下血腫や脳内血腫症例に対し積極的に広範囲減圧開頭術9,10)を行っているが,本法の有効性についてはいまだに議論の多いところである3,4,12,17).本法の主月的は,頭蓋内圧亢進に続発する天幕切痕ヘルニアによって生じる二次的脳幹障害を防止,ないし緩和せんとすることにある.しかしながら,術前に手術効果を予測して手術適応を決定することは必ずしも容易ではない.そこで,われわれは本法の有効性や限界を明らかにするために,術前の臨床症状,脳血管写所見等とともに,術後の頭蓋内圧測定結果をもとにして検討を行ってきた14,15).この結果,本手術をうけた症例の術後頭蓋内圧の変動は大きく3型に分類できること,またこれら3種類の圧変動が術後転帰と極めてよく相関していること等から,本法による減圧効果には,症例によって限界があることが明らかになった14,15).そこで今回は,特に手術前後の頭蓋内圧,および経時的CT変化にっいて検討し,今後の問題点についても皆干の考察を行ったので報告する.

頸動脈血栓内膜除去術—われわれの手術術式について

著者: 岩淵隆 ,   畑中光昭 ,   蛯名国彦 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.593 - P.598

I.はじめに
 虚血性脳血管障害の2010)−40%1)は頭蓋外頸動脈の狭窄ないし閉塞に起因するとされ,本邦においては以前は少ないと考えられてきたが,最近は欧米なみの発生であると指摘されている.その歴史は意外に古いにもかかわらず,本邦における普及には,なおもう一歩の感があり,その理由の1つは,手術井にも,文献にも具体的な手術手技の記載がわずかしかないことにもよると思われる7,14).われわれは13例の頸部頸動脈の血栓内膜除去術について,内シャントを用いず,interlacing vascular sutureを行ってきたので,その手術手技を紹介し,諸賢のご批判を仰ぎたい.

症例

Atlanto-axial, atlanto-occipital dislocation, developmental cervical canal stenosis等を伴ったEhlers-Danlos症候群

著者: 長島親男 ,   辻令三 ,   窪田幌 ,   田島公子

ページ範囲:P.601 - P.608

I.はじめに
 Ehlers-Danlos症候群(以下EDSと略)は,関節の過可動性,皮膚の過伸展性,皮膚の脆弱性をTriasとし18),結合組織,特にコラーゲン成熟機構に障害のある15) heritable disorders of connective tissue7,13)の1つである,酵素生化学的2,11,16,23),臨床・遺伝学的見地から2-4,8-10,12,13,19-24),現在,7型に分類されている13,23),箸者らは第3型に属し,かつ環椎後頭変位,環軸変位,頸椎管狭窄症,四肢不全麻輝を伴った症例を経験し,手術を行い,1年3カ月の追跡調査で良好な結果を得た.EDSは本邦で100例余り28-48),欧米では300余例の報告があるが1-6,8-13,15-16-18-25),このような合併例の報告は,本例が最初と思われる.

脳動脈瘤を合併した脈なし病の2例

著者: 熊谷頼佳 ,   杉山弘行 ,   名和田宏 ,   伊関洋 ,   馬場元毅 ,   太田秀一 ,   仁瓶博史 ,   谷島健生 ,   高倉公朋 ,   佐野圭司 ,   斉藤勇

ページ範囲:P.611 - P.615

I.はじめに
 脈なし病は,1948年清水・佐野7)により1つの疾患単位としてその名称が与えられたが,それに先立1908年,第12回日本眼科学会において,高安右人8)が「奇異ナル網膜中心血管ノ変化ノ一例」として報告した症例が歴史的には最初とされ,高安病の名称も用いられている,しかし高安は眼科所見を指摘したにすぎず,その神経症候や病態生理学的な詳細な検討は行われていなかった.1959年那須2)は,閉塞性増殖性幹動脈炎なる名称を提唱し,更に1965年上田・稲田ら9)は大動脈とその分岐基幹動脈の特殊炎症により発生する疾患の総称として,大動炎症候群という名称を提唱した,脈なし病は二の一型と考えられる.
 一般に脈なし病に脳動脈瘤を合併することは極めて稀であるが,今回その2例を経験した.両側総頸動脈閉塞症に両側上小脳動脈動脈瘤を合併し,剖検の結果脈なし病と診断された症例と,脈なし病に脳底動脈分岐部動脈瘤を合併した症例である.そこでこれら症例の詳細とその動脈瘤の発生機序について若干の考察を加え報告する.

Diencephalic syndromeを呈した2例

著者: 元持雅男 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   板垣徹山 ,   鄭台頊 ,   欅篤 ,   吉政康直 ,   浜川哲 ,   青山育弘

ページ範囲:P.617 - P.624

I.はじめに
 1951年Russellが初のdiencephalic syndromcを報告したが,その後約85例の報告がある.diencephalic syndromeとは,るいそうと血中成長ホルモン(以下HGHと略)の異常高埴を示し,主に視床下部を占める脳腫瘍によりひきおこされ,通常乳児期,幼児期早期に発症するものである。われわれは2例のdiencephalic syndmmeを経験し,症例1は術後経過観察中に思春期早発症を合併した視床下部のpilocytic astrocytomaであった.症例2は松果体部ならびに視交叉部のgerminomaであった.内分泌学的検索を加え,この2例の症例報告を行いたい.

脳血管撮影により脳室内へ造影剤漏出のみられた原発性脳室内出血の1例

著者: 竹山英二 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.627 - P.630

I.はじめに
 脳室内出血は,Butler1)によると原発性脳室内出血と二次性脳室内出血とに分けられている.原発性のそれは,脈絡叢および脳室表面そして表面から1.5cm以内の脳実質内から出血するものとされているが,二次性のそれと比較すると稀である.われわれは最近原発性脳室内出血の症例で,脳血管撮影により造影剤漏出像のみられた症例を経験した.脳室内の造影剤漏出像は,原因の明らかな脳動脈瘤3,5),頭部外傷8)の症例,すなわち二次性の脳室内出血症例には報告があるが,原発性脳室内出血の症例に関しては,われわれが渉猟した範囲ではない.稀有な症例と思われるので報告する.

肺・脳転移をみたAlveolar soft-part sarcomaの1例

著者: 山下茂 ,   行天徹矢 ,   津田敏雄 ,   蔭山武文 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.633 - P.638

I.はじめに
 alveolar soft-part sarcomaはChristophersonら1)により,その組織学的特徴をとらえられ,はじめて記載されたものである.しかしその組織発生についてはいまだ不明である.最近われわれは右下腿に発生したalveolar soft-part sarcoma摘出後,肺,脳,更に脳へと3度にわたる転移をみたが,いずれも全摘出し軽快をみた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Cervical spondylolisthesisの女性例

著者: 小山素麿 ,   五十嵐正至 ,   花北順哉

ページ範囲:P.639 - P.642

I.はじめに
 腰椎すべり症(lumbar spondylolisthesis)は腰痛の主要な原因の1つで人口の約5%にみられるという報告4)さえある.これに対し頸椎すべり症(cervical spondy lolisthesis)は極めて稀な病態といわれ,PerlmanとHawes10)が1951年に第1例を発表して以来,約20症例を数えるのみである.
 好発部位はC6/7であり,頭痛,項部痛,ときに根性痛を主訴としている.

先達余聞

Wilder Penfield

著者: 北村勝俊

ページ範囲:P.644 - P.647

 "Marley was dead, to begin with"モントリオールのPenfield家ではクリスマスイヴにPenfield自身クリスマスキャロルを朗読するのが恒例であった.1916年,まだOxfordの学生であった彼は内科のOsler教授宅に下肢骨折の静養がてら居候していた.彼はいう,"私はOsler夫人とともに彼が翌日の講演の最終稿を読み上げるのに耳を傾けた.ちょうど指物師が自分の作品を撫でまわして出来栄えを確かめるかのようであった.若い頃はお世辞にもよい書き手とはいえなかった彼が,後年あれほどの文章を書くようになったのはあの不断の努力の賜である"と,Oslerは彼の心中のヒーローであった.彼はSherrington,Jackson,ListerそれにHippocratesと多くのヒーローを持ったが,すべて唯のCopyistでなくcreatorであった.同時に彼のヒーローは,医師たるものは専門の学問以外の文をも学ぶべきことを教えた.文は人を作るという思いから,Penfieldはシェクスピアやディキンズを愛読した,文を練ることは創造的思考にさえ通じるといい,科学論文にさえリズムを尊重した,彼はよき医師であるとともに,creatorであり,writerであることを目指した.
 Wilder Penfieldは1891年,ワシントン州,ロッキー山脈寄りのSpokaneに生まれた.祖父は英国西南部Cornwallからアメリカに移住した医師であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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