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手術室での一言から
著者: 倉本進賢1
所属機関: 1久留米大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.655 - P.656
文献購入ページに移動 近頃の世の中の移り変りの激しさは目をみはるものがある.脳神経外科手術手技もその1つである.先日,天幕上下に発育した髄膜腫の手術に際して手術用顕微鏡にレーザー装置をつけて手術をした.手術助手をしてくれた若い研修医も,私の横で側視鏡を覗きながら,一所懸命に手伝ってくれた.ところが操作が一段落したところで,ふと横を見ると,手術助手は手洗いしてゴム手袋をはめた両手を膝の上において側視鏡を覗いているのである.私は手術を中断して,外科医は手術中に手を肘より下にさげてはならない,このことは外科手術手技の基本である,ときびしく注意して,改めて手洗いを命じた.もちろん研修医に悪気があったわけではない.どちらかといえば教える側の私に手落ちがあったのであるから,外科学の発達の歴史から説明しなければならないことになった.
近世の歴史をみると,中世紀の宗教支配からルネッサンスで人々は自然の真相に触れ,人間の本性を覚知するのに眼醒める.そして19世紀に入ると自然科学は急速に進歩するのである.しかし1850年頃の医療の実情は,クリミヤ戦争についてのフランス軍の衛生状態に関する報告書によると,30万人の軍隊に約1万人の戦死者があったが,病気や戦傷による死者は約8万5,000人というように,創傷や伝染病に対して全く無力であった.
近世の歴史をみると,中世紀の宗教支配からルネッサンスで人々は自然の真相に触れ,人間の本性を覚知するのに眼醒める.そして19世紀に入ると自然科学は急速に進歩するのである.しかし1850年頃の医療の実情は,クリミヤ戦争についてのフランス軍の衛生状態に関する報告書によると,30万人の軍隊に約1万人の戦死者があったが,病気や戦傷による死者は約8万5,000人というように,創傷や伝染病に対して全く無力であった.
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