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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻7号

1981年06月発行

雑誌目次

プロとアマ

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.769 - P.770

 東中洲は博多の歓楽街です.その密集度はおそらく日本一ではないかと思います.名のように南北およそ1,000m,東西200mの中洲で,約0.2km2の面積です.この狭い中にたべもの屋やのみ屋が1,800以上ひしめきあっており,トルコが60近く,ゲイバーやノーパン喫茶,ストリップ劇場もあります.そのほか映画館が十数館,ホテルや旅館が10近く,ちゃんとした料亭が5つ,デパートが1つに交番も1つ,とにかく遊ぶことなら何でもまにあいます.ないものは産婦人科医院だそうです.昼間人口800人が夜になると約10万人にふくれ上り,午前3時,4時でも通りは大変な人で,タクシーをひろうにも苦労します.
 私もときにはでかけます,一流の下といわれるバーでの出来事です.比較的早い時刻に数人で立ち寄りました.ちょっとした年増ですが,顔かたちも服装も洗練された女性達が目にとまり,new faceかと思い,同じ席に坐り,ママや顔みしりの女の子ともども楽しく過ごしておりました.10時近くなったら,「今晩は本当に楽しうございました.私達はお先に失礼します」と彼女達は立ち上りました.きけば全くの素人女性でクラス会の流れだとのこと,「失礼の数々まことに申しわけありません」とわれわれは唖然とし,ママを責めました.「どちら様もお楽しみのご様子でしたので調子を合せました」との返事です.

総説

抗生物質—髄膜炎を中心に

著者: 小林裕 ,   春田恒和

ページ範囲:P.771 - P.783

I.はじめに
 化膿性髄膜炎は現在でも難治である.その理由として,電撃型の存在,診断が難しく治療開始が遅れやすいこと,耐性菌の出現等とともに,中枢神経系が抗生剤の非常に移行し難い臓器であることがあげられる.
 第三世代の抗生剤は恐らく革命的ともいえるほど事態を改善し,教科書の本症化学療法に関する記述は近い将来大幅に書き変えられると思われるが,基礎的な面では不明の点が極めて多く,残された問題も少なくない.

Case study

若年者中頭蓋窩Fibrosarcoma

著者: 松本清 ,   沖野秀麿 ,   劉弘文 ,   沢寿男 ,   宇佐美信乃 ,   松井将

ページ範囲:P.785 - P.792

I.はじめに
 中枢神経系のsarcomaには,硬膜,軟膜,くも膜,脳実質内にprimaryに発生したもの2,9,11,12,17),腫瘍剔出後照射によってsecondaryに発生したpost irradiation sarcoma4,5,14),他臓器より転移したもの8)等がある.
 Butlerらの研究によれば,頭蓋内腫瘍としてのsarcomaの発生率は頭蓋内腫瘍27,487例中0.5-2.7%,平均1.5%とみられている3)

海外だより

中国における脳神経外科—最近15年間の進歩

著者: 王忠誠 ,   薛慶澄 ,   鄭曼凱

ページ範囲:P.794 - P.797

 中国と日本とは,古くよりお互いに文化的に深いかかわり合いを持ってきたが,最近の半世紀間のみは一時的に不幸な関係にあった.現代の中国において,脳神経外科の臨床はどのように発達しているのか知りたいと思っている人は決して少なくないと思われる.最近,京都に半田肇教授を訪問された天津大学脳神経外科の薛慶澄教授よりもたらされた資料の中に,最近の中国における脳神経外科の現状を紹介する一文があり,その和訳を試みた.意外に感じられたことは,同じく漢字を用いておりながらも,両国語において医学用語が著しく異なることであった.例えば,脳ヘルニアに対する脳疝,レンズ核線条体動脈に対する豆紋動脈,グリオーマに対する晈質瘤,聴神経に対する听神経,視床に対する丘脳,クッシング症候群に対する伴発柯興氏綜合症,等を解読できるたびに,新鮮な驚きを味わったのである.薛教授からは,和訳に関する懇切な御助言とともに,立派な英漢医学辞書を1冊贈与していただいた.情報交流の場を目的とする本誌に拙訳を紹介することが,両国間の友好親善と文化交流の促進のためにいささかでも役立つことができれば幸いである.

研究

実験脳腫瘍におけるAdriamycin局所注入療法の病理学的研究

著者: 志村俊郎 ,   中沢省三 ,   伊藤保博 ,   小林士郎 ,   佐藤茂 ,   相原薫

ページ範囲:P.799 - P.806

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の化学療法は,近年ニトロソウレア系の新しい抗癌剤の開発および腫瘍細胞の生長解析3)を取り入れた抗癌剤の投与治療計画7,17)等により,著しい進歩をとげてきている.
 しかしながら,抗癌剤の投与方法に関しては,脳に特有な血液脳関門が存在することから,投与抗癌剤の腫瘍組織への透過性の程度や各臓器への副作用の問題等があり,いまだ確立されていない現状である.また抗癌剤の脳腫瘍内への取り込みについての実験的研究12,19,30)は意外と少なく,とりわけautoradiographyによる標識抗癌剤の腫瘍組織内分布を検討した報告22,23,25-27)は極めて少ない.

Meningiomaの血管内皮細胞の微細構造に関する電子顕微鏡学的研究

著者: 大杉保

ページ範囲:P.807 - P.817

I.はじめに
 脳腫瘍の微細構造に関する研究は数多くなされてきたが,その多くは腫瘍細胞に対する研究であり,腫瘍を栄養する血管についての研究報告は少なかった.meningiomaにおいても同様なことがいえる.
 正常の中枢神経系の血管構造は,基本的には全身の他のorganを栄養する血管と類似している.しかし,微細構造にはかなりの相違が存在し,その大部分は血管内皮細胞にあることが認められている.まず第一に重要な相違は,B.B.B.つまりblood brain barrierの存在,血管内皮細胞の透過性の問題である.次に,Weibel & Paladeにより,skin, lung等,全身の一般のorganを栄養する血管内皮細胞に認められたtubular bodyであり40),これが正常の中枢神経系を栄養する血管内皮細胞に認められることは非常に珍しい所見であると考えられている9,10,12,15).この中枢神経系に特異的に存在する2種類の微細構造,すなわちblood brain barrierの形態,およびtubular bodyも,多くの病的状態のもとでは著しい変化を示す.

Subtemporal transtentorial approachのPitfalls—脳圧排・静脈路遮断による側頭葉損傷

著者: 阿部弘 ,   都留美都雄 ,   伊藤輝史 ,   金子貞男 ,   中川翼 ,   岩崎喜信 ,   会田敏光 ,   上山博康 ,   越前谷幸平

ページ範囲:P.819 - P.827

I.はじめに
 側頭葉深部やテント切痕部の病変の手術の際に大切なことは,いかにして適切なアプローチおよび脳縮小を行い,十分な視野を得るかという点である.テント・テント切痕部,錐体部,小脳橋角部の腫瘍や後頭蓋窩の前上方部の動脈瘤等,種々の病変に対するsubtemporal transtentorial approachの報告は多くみられるが,そのpitfallsとしての側頭葉損傷に関する報告は極めて少ない.著者らは最近経験した6例のsubtemporal transtentorial aproachを行った症例について,側頭葉損傷をみた例とみなかった例を比較検討し,脳損傷を起こす要因について考察を加えたので報告する.

症例

頸静脈孔神経鞘腫の1手術例

著者: 菅原厚 ,   古和田正悦 ,   西野克寛 ,   坂本哲也

ページ範囲:P.829 - P.833

I.はじめに
 頸静脈孔神経鞘腫は比較的稀であり,Gerhardt6)の報告をはじめとして,文献上現在までに57例報告され,わが国では7例の報告があるに過ぎない.
 最近,難聴を主訴とする右頸静脈孔神経鞘腫で,全摘出術後7カ月で聴力が改善された症例を経験したので,若干の文献的考察を行い報告する.

術後6年目に頭蓋外(レジン板上)に再発を来たした髄膜腫の1例

著者: 角南典生 ,   木下公吾 ,   原田泰弘 ,   柳生康徳

ページ範囲:P.835 - P.840

I.はじめに
 髄膜腫は,一般的に生物学的には良性腫瘍であり,手術によって完全に摘出できれば再発を免れるはずである.しかし,全摘出されたと考えられる症例からの再発も稀でなく,諸家の報告によれば,組織診断上悪性像を示さないものの完全摘出後も,一般にその5-15%の症例において再発がみられる.
 最近,われわれは,左頭蓋穹窿部で頭蓋内外にわたって発育した髄膜腫剔出手術から約6年間を経過した後,初回手術前と同じ左頭頂部に腫瘤を生じ,検索の結果,頭蓋外のみの腫瘤で,しかも前回手術の際に代用骨として使用したレジン板上の皮下に生じたものであり,組織検査にて髄膜腫の再発と確認した症例を経験したので報告する.

Intracranial mesenchymal chondrosarcoma—CTにて観察された放射線治療前後の変化ならびに文献的考察

著者: 星野正美 ,   丹治裕幸 ,   渡部政和 ,   有壁譲 ,   川口吉洋 ,   枡一彦 ,   杉本光郎 ,   山尾展正 ,   古川冨士弥 ,   渡辺岩雄 ,   遠藤辰一郎 ,   木村和衛 ,   高橋潔

ページ範囲:P.843 - P.848

I.緒言
 未分化間葉細胞内に成熟した軟骨組織が島状に出現するという特徴的な組織像を持った腫瘍を,1959年Lichtensteinら12)はmesenchvmal chondrosarcomaと命名した.それ以来,この腫瘍についての報告は散見されるが,頭蓋内原発の報告は非常に少なく,欧米にしても15例報告されているに過ぎない.
 今回われわれは,その1例を経験し,文献的考察を加え報告するとともに,治療の面から本腫瘍のradiationsensitivityに関してCT scanの立場から言及してみた.

CTでDiffuse high densityと一過性反復性動揺視を示した小脳橋角部類上皮腫

著者: 長島親男 ,   坂口新 ,   高浜素秀 ,   坂田英治 ,   金沢致吉 ,   入野靖子 ,   大関家行

ページ範囲:P.851 - P.859

I.はじめに
 一般に頭蓋内硬膜内の類上皮腫epidermoid or epidermal cystの(CT像は,均等なlow densityが特徴とされてきた2,5,6,8-13,16,17,22,23).われわれは病理組織学的に類上皮腫であるのにdiffuse high density (EMI units +21ないし+49)を示した症例を経験した.このような類上皮腫は極めて稀であり,文献上CT所見の明らかな41例中4例をみるに過ぎない4,10).しかし少数ではあっても小脳橋角(以下CPAと略す)腫瘍のCTの鑑別上無視することはできない,特にplain CTでhigh densityを示す髄膜腫や,ある種の聴神経鞘腫22)との鑑別は重要である.しかも,本例は動揺視のなかでも特異な病態の1つである「一過性反復性動揺視」を示し,これを記録することに成功した.
 最近Deeらは,CPAの類上皮腫でhighでもlowでもないためCTでは診断できず,気脳写,血管写によって診断しえた症例を報告し,Isodensityの症例があることを示した7),そこで文献上,CT所見の明らかな42例を硬膜内,硬膜外,板間の各群に分け,CT所見を集計し文献的考察を行った.また,一過性反復性動揺視の発現機序についても考察した.

Shunt tubeを経由したPineal germinomaの神経管外転移—症例報告と文献的考察

著者: 園田寛 ,   佐野吉徳 ,   植村正三郎 ,   松角康彦

ページ範囲:P.861 - P.867

I.はじめに
 脳腫瘍が神経管外に転移しにくいとする見解は近年少なからず修正を必要とするもののようであり,最近,転移例の報告はとみに増えつつある現状といえる.われわれはpineal originのgerminomaの患者で部分摘除および照射療法から4年を経て,神経症状,CT scan,髄液検査等,いずれにも原発巣の再発を否定できた症例に偶然腹腔内にgerminomaの転移が発見され,V-P shuntを介する転移と考えるべき経験をしたので文献的考察を加えて報告する.

先達余聞

Alfonso Asenjo Gómez(1906.6.17-1980.5.19)

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.870 - P.873

 1959年の2月の初旬,窓外には雪があり,寒い日だった.桂先生がお呼びだという.34歳の私はその頃,脳研究班のチーフとして,手術の大部分をまかされていた.
 「君,私の南米のチリの友人でアッセンホという男(Fig.1)がいるけれども,第8回のラテンアメリカの脳神経外科学会の会長になったから来いといってよこしたんだ.私のかわりに銭を工面して行ってこないか,演題は私がドイツに行っているときに君が経験したPinealomaの3手術成功例でいいんじゃないか」

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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