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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻8号

1981年07月発行

雑誌目次

最近思ったこと

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.879 - P.880

 最近の脳神経学の分野における進歩といえば,顕微鏡手術の導入と,CT scanの応用の2つに尽きると思う.
 顕微鏡手術の脳神経外科領域への導入は,手術そのものを非常に容易にし,手術成績も良好となり,今まで適応外とされた種々の疾患も適応内となり,それによって救命される人々の数も年々増加していて,非常に喜ばしいことである.

総説

中枢神経系の海綿状血管腫(Cavernous angiomas)

著者: 和賀志郎

ページ範囲:P.881 - P.895

I.はじめに
 Willis151)は血管腫に関して(1)大部分の血管腫は真の腫瘍ではなく血管奇形(vascular malformation)あるいは過誤腫(hamartoma)である;(2)真性腫瘍と区別が困難であることがある;(3)血管が豊富であることのためにangiomatousという言葉が誤って用いられてきた;(4)間質の増殖能が多様性である;などの特徴を挙げている.
 Zülch(1956)155)は中枢神経系の血管奇形および血管性腫瘍を次のように分類した.

Case Study

Isolated Fourth Ventricle

著者: 松本悟 ,   佐藤博美 ,   増村道雄

ページ範囲:P.897 - P.903

I.はじめに
 CTの出現とその応用によって,髄液腔は機能解剖学的にも,より容易かつ詳細に把握できるようになり,水頭症の診断,治療,病態の検索はもとより,患者の経過観察においても,CTは欠くことのできない補助検査法となった.
 ここに呈示するisolated fourth ventricleは,その存在が,既にDandyの時代より指摘されていたにもかかわらず,主として診断上の困難さにより,従来ともすれば看過されがちであった.

研究

新しい脳保護物質の実験的検討—マンニトール,フルオゾールによる高度虚血脳の機能回復

著者: 溝井和夫 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.905 - P.909

I.はじめに
 脳梗塞に対し種々の治療方法が試みられてきたが,更に有効な治療法の開発が待望されている.われわれはmannitolによる脳梗塞の発現予防効果について検討し24,27,29),既に実際の脳動脈瘤手術の臨床応用の面でも報告してきた21,22,25,26).更に近年,人工血液として開発されたfluorocarbon emulsion(FC)の高い酸素運搬能3)に着目し,FCの虚血能に対する防禦効果についても種々実験的に検討している.本報では,実験動物として最近当教室で独自に開発した,大脳半球の循環血流量を灌流ポンプにより自由に調節できる"完全虚血脳灌流モデル犬"11)を用い,その脳波活動を指標として,これら薬剤を検討したところ,特にmannitolとFCを併用した場合に,優れた脳保護作用を示すことが判明したので報告する.

企図振戦の治療

著者: 村山佳久 ,   津田敏雄 ,   坂本学 ,   曾我部紘一郎 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.911 - P.918

I.はじめに
 多発性硬化症,脊髄小脳変性症,Wilson病,上赤核症候群,家族性本態性振戦,頭部外傷後遺症等にみられる著しい企図振戦は,患者の日常生活に大きな苦痛を強いるものである.企図振戦という概念と用語は古くCharcotまでさかのぼることができるが,その臨床分類,病態生理について,現在でもなお多くの問題点を残している.また企図振戦自体に対する積極的な治療法についての検討も比較的少ないのも現状である.近時交感神経β遮断剤が有効であったとの報告6,12,26,32)もみられるが,この薬剤が有効な例も限られ,普遍的治療法とはなりえないようである.一方,外科的治療法として,視床腹外側核手術が企図振戦に劇的に有効であることが,1959年Cooper4)により報告され,その後多くの追試によりその有効性が確認された.しかもこの手術は,成書17)にも記載されるに至っているが,本邦では一般的な治療法として広く行われるには至っていないように思われる.そこで当教室で,視床腹外側核手術が行われ,症状の消失をみた6例を報告するとともに,病態生理について若干の私見を加えてみたい.

両側前頭開頭術における嗅神経温存症例の嗅覚の機能的予後—前交通動脈瘤症例を基に

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志 ,   溝井和夫 ,   佐藤雅弘

ページ範囲:P.921 - P.924

I.はじめに
 前交通動脈瘤に対するapproachは,諸家によりさまざまな方法がとられているが1,2,4,9),われわれは脳動脈瘤の左右の流入流出動脈4本を確実に確保し,脳動脈瘤の全貌を露出できること,また正常脳の損傷が少ないこと等の理由から,両側前頭開頭で大脳半球間より動脈瘤に接近する方法が最も安全で確実な操作ができると考えて手術を行ってきた3,6).しかし,この方法の唯一の欠点は,嗅神経を損傷せざるを得ないことであった.
 1961年より1979年までに,東北大学脳研脳神経外科で経験した脳動脈瘤頭蓋内直接手術症例は1,500例であり,そのうち前交通動脈瘤は509例であった(Table 1).これらの症例の経験から,両側前頭開頭を用いても,嗅神経の温存が可能であることにある時点で気づいた5,7)
 本報では,1976年以降の前交通動脈瘤症例を基に,嗅神経温存症例の嗅覚の機能的予後について述べる.

症例

脳出血で発症した転移性脳腫瘍—CT像と診断・治療上の問題点

著者: 山内康雄 ,   栗本匡久 ,   諏訪純 ,   三木一仁 ,   中島孝之 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   寺浦哲昭 ,   寺野允将

ページ範囲:P.927 - P.933

I.はじめに
 特発性脳出血の原因として,脳腫瘍の占める割合は0.9-10%4,6,8,15,18-20,24)と比較的稀である.そのなかで転移性脳腫瘍が約半数を占めており,種々の型の頭蓋内出血を生じることが知られている.悪性腫瘍の既往歴が明らかな場合,その診断は困難ではないが,そうでない場合には術前診断は必ずしも容易ではない.卒中様発作で発症し,補助検査で脳内血腫が示唆される場合,術前には特発性脳内血腫と診断され,術中あるいは術後に組織診断で初めて転移性脳腫瘍と判明することも少なからずあると思われる.救急患者として来院するこれらの患者の場合,術前診断,手術適応,治療法について種々の問題を提起するものであり,一般の脳腫瘍あるいは脳出血例とは同一に論じられない面を持っている.転移性脳腫瘍の手術適応,治療方針に関してはなお種々議論のあるところであるが,術前のより正確な診断と予後に対する予測とが重要であることはいうまでもない.CT scanは,これらの問題に関してすぐれた情報を提供してくれるが,出血性転移性脳腫瘍について論じた報告は少ない.
 われわれは,最近出血により発症した転移性脳腫瘍3例を経験し,いずれも手術を行い,術前後を通じてCT scanで継時的に観察しえた.その術前CT像の特徴を論じるとともに,追跡CT像を示し,診断,治療上の問題点ならびに手術適応に関し考察を加えて報告する.

胃癌による慢性DICに続発したと思われる硬膜下血腫

著者: 古井倫士 ,   堀汎 ,   景山直樹 ,   河野親夫

ページ範囲:P.935 - P.939

I.はじめに
 硬膜下血腫が悪性腫瘍の患者に外傷の既往もなく発症することが,稀ではあるが報告されている,その成因は主として硬膜の病理所見に基づいて論じられているが3,11),今回われわれは末期胃癌患者に発症した硬膜下血腫で,その発症にdisseminated intravascular coagulation(DIC)を示唆する凝固異常が関与したと思われた症例を経験したので報告し,成因について文献的考察を加える.

早期手術にて救命しえた生後1日目の急性硬膜下血腫の1例

著者: 堀江幸男 ,   甲州啓二 ,   平島豊 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.941 - P.944

I.はじめに
 新生児硬膜下血腫の中で,その原因が出産時の小脳テント裂傷による例は,剖検上比較的頻度が高いとされている4,20).しかしながら,本疾患が術前に正確に診断され,早期に手術を受け,しかも脳神経脱落症状を残さずに救命された例の報告は少ない.われわれは今回,生後24時間以内の緊急手術にて,ほぼ後遺症なく治癒せしめた.小脳テント裂傷に原因する急性硬膜下血腫の1例を経験したので,その症例を報告するとともに,あわせてCT scanの特徴ならびに治療上の問題点につき若干の考察を加えた.

脳動静脈奇形手術後に生じたTrapped fourth ventricleの1例

著者: 大槻泰介 ,   吉本高志 ,   平島豊

ページ範囲:P.947 - P.950

I.はじめに
 trapped fourth ventricleは,Luschka・Magendie孔および中脳水道の髄液通過障害により第4脳室が‘trap’され,嚢腫様に拡大する病態であり,多くは髄膜炎,くも膜下出血あるいは脳室シャントとの関連において報告されている.今回われわれは,側脳室三角部より中脳左側面の動静脈奇形摘出術後CT scanにて第4脳室の嚢腫様拡大を認め,Magendie孔開放術を施行したtrapped fourth ventricleの1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

舌下神経鞘腫の1例

著者: 藤原正昭 ,   尾藤昭二 ,   長谷川洋 ,   中田宗朝

ページ範囲:P.953 - P.958

I.はじめに
 神経鞘腫は末梢神経,脊髄神経後根そして脳神経では聴神経が好発部位である.三叉神経,舌咽神経,迷走神経にも比較的稀に発生するが,舌下神経鞘腫は極めて稀である17).著者の検索した範囲ではわずか16例にすぎない1,6,9,12-15,18,20,22,23).また本腫瘍は舌下神経管がある大後頭孔縁に位置し,その解剖学的特性により複雑な神経症状,いわゆるforamen magnum syndromeを呈し,脱髄疾患,頸椎症等に誤診されることも決して稀ではない9,16).著者らはforamen magnum tumorとしての多彩な臨床像を示した舌下神経鞘腫を全摘出した症例を経験したので報告する.

上矢状洞血栓症の1例—特にComputed tomography像を中心としての検討

著者: 久保田千晴 ,   河村悌夫 ,   山内康雄 ,   栗本匡久 ,   守田和彦 ,   松村浩

ページ範囲:P.961 - P.966

I.はじめに
 近年,computed tomography (以下CTと略す)の普及により,脳神経外科領域において,種々の疾患がより正確,迅速に診断されるようになった.同時に,急速な臨床経過をたどる疾患の病態推移を的確に把握し,その時の状況に応じた治療方針を選択決定できるようになったことも周知の事実である.
 脳静脈洞血栓症は,比較的急速な臨床経過をたどり,二次的にさまざまな修飾増悪要因が加わるために,しばしば病像が複雑化する.したがって,本疾患が疑われる場合には,機に臨み敏速に対応するためには,CTによる経時的追跡が必要と考えられる.

脊髄髄内転移腫瘍の1例

著者: 西尾俊嗣 ,   福井仁士 ,   佐藤雄二 ,   荒木邦治

ページ範囲:P.969 - P.973

I.はじめに
 中枢神経系への転移腫瘍のうち,脊髄髄内への転移は稀であり1,12,15,16),臨床的には転移性脊髄病変による症状が他臓器症状に先行し,臨床診断が困難な場合がある7,17,19).われわれは,上肢痛,四肢脱力等の脊髄症状にて発症し,臨床経過中確定診断が困難で,発症より6カ月後の剖検により脊髄髄内および他臓器への広範な転移を認めた肺癌の1症例を経験した.症例を報告し,脊髄髄内転移腫瘍の診断上の問題点につき考察を述べる.

巨大な頭蓋内線維粘液腫の1治験例

著者: 志村俊郎 ,   上田建志 ,   中沢省三

ページ範囲:P.975 - P.980

I.はじめに
 頭蓋内における間葉性混合腫瘍は,血管やくも膜および硬膜の線維芽細胞を主な発生母細胞とし,かつ粘液,骨あるいは脂肪成分等を有する16)ため多彩な組織像を呈することで知られている.また線維芽細胞腫は,線維性髄膜腫と発生部位において極めて近似しているにもかかわらず,その報告は意外に少ない1-5,7,8,10,11,17)
 著者らは,左側頭頭頂部の硬膜の線維芽細胞を母地として発生したと思われる巨大な線維粘液腫の1治験例を経験したので,臨床病理学的検討を加えて報告する.

先達余聞

Otfrid Foerster

著者: 安田常男

ページ範囲:P.982 - P.985

 Karl Otfrid Foersterは1873年,旧ドイツ国シレジア州ブレスラウ市に教師の子として生まれた.私が彼に師事した1933年頁のブレスラウ市は人口90余万人の大工業都市となり,街を東西に横切ってオーデル河が流れ,北部にはブレスラウ大学,南部にはWenzel-Hanke病院が在った.彼は生来父の才能を承けて外国語,ことにラテン語に秀で,弁論は天才的であった.1892年から1896年の間,医学生としてブレスラウ,フライブルグ,キールの各大学に学び,ブレスラウで国家試験に及第した.助手時代の彼はCarl WernickeがいたLeubusの療養所で実習し,そのすすめで約2カ年をフランス,スイスですごした,冬にはパリにてDejerine, Pierre-MarieやBabinskiの講義を聞き,夏にはスイスのFrenkel-Heidenで神経病患者の訓練療法を学んだ.その後ブレスラウ大学で彼を教えた外科のv. Mikuliczが彼の手先の器用さを見て外科医となるようすすめたが,彼の分析的な気性がこれを肯じなかった.この頃の彼はいつも明朗快活で音楽観劇など社交的であったという.再び郷里の両親の許に帰ると,当時16歳の美少女,のちのMartha夫人と親しくテニスやスケートをともにした.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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