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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科9巻9号

1981年08月発行

雑誌目次

"熟年"と私

著者: 森和夫

ページ範囲:P.991 - P.992

 最初にアメリカに行ったときは,今様"浦島太郎"のようなもの.理解に苦しむことも少なくなかった.
 数千マイルの彼方に即時電話が繋がるなどということは,およそ当時の日本では想像もつかないことであったし,また公園に出かけると,いつも暇そうな初老の人をみかけたが,これなどもよくわからないことの1つであった.

総説

脊髄のCT

著者: 前原忠行

ページ範囲:P.993 - P.1006

I.はじめに
 全身用CT装置の普及に伴い脊髄疾患に対する応用が試みられるようになってきたが,その診断価値は頭蓋内疾患におけるCTのそれと比べると極めて低く,今日のところ一補助診断法の域を出ていない.従来のミエログラフィーではくも膜下腔の偏位変形などの間接的所見から腫瘤性病変の存在を推測せざるを得なかったが,CTでは病巣自体を吸収値の異常として描出しうることもあり,特に周囲の骨組織との関係を含めてその拡がりを横断面として判断できる点ですぐれている.しかしながら縦方向に長い構造物である脊髄を輪切りにする検査であるため,臨床的に疾患の脊髄レベルが限局されている場合以外は極めて非能率的で,少なくともスクリーニング検査としての評価は得られない.また,CT装置はめざましい改良進歩を示しているが,現時点では,ごく一部の高解像力CT装置(high resolusion CT)1,2)を除いた通常の装置では高吸収値骨組織に取り囲まれた脊椎管内の脊髄自体をくも膜下腔などと区別して明瞭に描出することは必ずしも容易ではない.
 本稿では現在一般に使用されているCT装置による脊髄疾患の診断について,検査手技,正常解剖および代表的疾患のCT所見を中心に述べることにする.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前交通動脈瘤の手術手技—両側前頭開頭法について

著者: 鈴木二郎 ,   新妻博

ページ範囲:P.1009 - P.1014

I.はじめに
 前交通動脈瘤の手術方法は,両側前頭開頭による方法2,6)と前頭側頭開頭による方法1,9)の2つに大きく分けられる.著者らは動脈瘤破裂急性期の術中破裂に対処して,流入動脈である両側A1を確保し,術後の脳血管攣縮を防ぐために,大脳半球裂,視交叉部くも膜槽,更に両側シルヴィウス裂内の広範な血腫を除去し,また動脈瘤の柄部のみならず,瘤の全体を剥離でき,流出動脈,穿通動脈をも確保できて広い視野が得られるために,もっぱら前者を用いている.本稿ではこの方法について述べる.
 なお,実際の手術にあたっては,脳表は綿片で被われているが,理解を容易にするためこれを除いて図示した.

研究

Flow cytometryによる脳腫瘍の生長解析—Part 2.ヒト良性脳腫瘍

著者: 河本圭司 ,   西山直志 ,   池田裕 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   平野朝雄 ,   ,  

ページ範囲:P.1017 - P.1022

I.はじめに
 fiow cytometryを用いて,種々の脳腫瘍のDNA量分布を分析すると,G1期の割合がその悪性度の指標となること,また組織学的に同一腫瘍でも種々のパターンを示すことを指摘した.前回は悪性脳腫瘍について述べたが,今回は正常脳組織と,組織学的に異なった種々の良性脳腫瘍について,cell cycleとそのパターンについて分析,検討した.

硬膜下出血より慢性硬膜下血腫へ—CTよりみた慢性硬膜下血腫の生成過程

著者: 吉益倫夫 ,   田村晃 ,   若井晋 ,   吉本智信

ページ範囲:P.1025 - P.1031

I.はじめに
 現在,慢性硬膜下血腫の成因や症状発現にいたる過程については不明の点が多い.慢性硬膜下血腫患者には頭部外傷の既往が多いことは一般によく認められた事実である.CTスキャンの普及とともに,無症状の頭部外傷例においても種々の異常所見をみる機会が多くなった.このような症例で経過を観察するうちに,慢性硬膜下血腫に発展した2例を報告し,その発生機序について私見を述べたい.

正常圧水頭症と高血圧性脳血管障害—臨床例の検討

著者: 野田真也 ,   藤田勝三 ,   楠忠樹 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.1033 - P.1039

I.はじめに
 1965年に,treatable dementiaとしてHakim11)とAdam1)によって初めて提唱された正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus,NPH)の診断手段として,近年,次々に新しい検査法が導入されている.この結果,種々の判断基準が提示され,一方ではNPHの病態の個々の側面が明らかになりつつあると同時に,他方では,その一疾患単位としての本質的な理解が困難になってきている面も否定できない.NPHの臨床徴候および診断基準を満たしていながら,shunt手術に反応しない一連の患者群や,逆に,臨床徴候,診断基準を満たさないのに,shunt手術により症状の改善がみられる患者群が存在することも経験される.
 このような事実を前にして,その定義に「髄液排除により寛解する」という1項目を付け加えることが妥当であるかどうか,更には「NPHとは何か」という定義そのものの問い直しが迫られているのが現状である.

症例

慢性硬膜下血腫を合併した前交通動脈瘤の1例

著者: 平島豊 ,   遠藤俊郎 ,   堀江幸男 ,   甲州啓二 ,   高久晃

ページ範囲:P.1041 - P.1045

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂に起因する硬膜下血腫の発生頻度は剖検例においてはほぼ1.9-17%5,15,17,19),臨床例では0.5-7.9%1,7,11,13,18)といわれている.そのなかでいわゆる慢性硬膜下血腫型の血腫を伴う例は少なく,理在まで9例の報告をみるのみである1,2,4,8,11,14,16).今回われわれは慢性硬膜下血腫を合併した破裂前交通動脈瘤症例を経験したが,これまでの9例の報告には前交通動脈瘤症例はなく,興味ある症例と考え,若干の文献的考察を加えて報告する.

4年後に一側性眼球突出で発症した眼窩内異物の1治験例

著者: 竹村潔 ,   大西英之 ,   二階堂雄次 ,   松浦啓之

ページ範囲:P.1047 - P.1051

I.はじめに
 通常,眼窩内異物の症状としては,炎症,感染などに起因するものが多いが,われわれは,眼球後方への異物刺入により,4年後に一側性眼球突出を来たした症例を経験した.transcranial superolateral approachにより,眼球後方の異物を摘出するとともに,眼窩のlateral decompressionを併用し,眼球突出の軽減を計った.
 本症例の眼球突出は,4年を経過した異物の刺激による眼窩上壁の肥厚が原因と考えられ,非常に稀な症例であるので,若干の考察を加えて報告する.

大脳縦裂を含む多発性硬膜下膿瘍の1治験例

著者: 畑中光昭 ,   石井正三 ,   尾田宣仁 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.1053 - P.1058

I.はじめに
 硬膜下膿瘍は全頭蓋内感染症の13-20%16,24)を占め,臨床的にも既に各方向から検討されてきた1,3,6,16,24),しかし,大脳縦裂膿瘍はその報告も少なく,病態の把握および治療は必ずしも容易でなく,他部位の硬膜下膿瘍と様相を異にするといわれている10,12,13,24).硬膜下膿瘍の診断は従来,脳血管撮影,isotope brain scanに頼る以外になかった4,5,19,20,22,23)が,CT scanの導入以後,他検査では得られぬ,より多くの正確な情報が得られ,侵襲も少なく,手術適応の決定,術後の追跡観察に最も有用であることが指摘されている7,8,9).しかし,大脳縦裂膿瘍に関するCT scanの報告は少なく7,8,11,15,17,21).本邦では和賀の1例のみである21).われわれは最近,CT scanで大脳縦裂膿瘍を主とした多発性硬膜下膿瘍の1例を診断し,手術によってこれを確認,治癒せしめ,CT scanで術前術後の経過観察をなしえた.

頭部腫瘤を形成した骨髄腫の1例

著者: 藤原繁 ,   蜂須賀庄次

ページ範囲:P.1061 - P.1064

I.緒言
 多発性骨髄腫による骨病変は,椎骨,肋骨を主に侵し,頭蓋骨を侵すことは比較的稀とされている.X線像の上ではpunched out lesionと呼ばれる多数の透亮像を示すことが広く知られている10),最近われわれは66歳女性に,骨欠損を伴い頭部腫瘤を形成した骨髄腫の例を経験したので,症例を提示し,若干の文献学的考察を加える.

頭蓋内原発の横紋筋肉腫の1例

著者: 千葉康洋 ,   藤野英世 ,   柳下三郎 ,   伊藤洋二 ,   塩沢堯夫

ページ範囲:P.1067 - P.1072

I.はじめに
 横紋筋肉腫は小児期および思春期に好発する極めて悪性の腫瘍であり,その好発部位は頭頸部,泌尿生殖器,四肢等があげられている.しかし,脳神経外科医にとって頭頸部に原発して頭蓋内に浸潤増大する続発性腫瘍と頭蓋内に原発する横紋筋肉腫は,その稀なゆえにあまり知られていない,また,病理学的にもなお議論を要する腫瘍の1つである.最近,われわれは頭蓋内原発の横紋筋肉腫の1例を経験したので,その臨床経過ならびに電子顕微鏡を用いて,その細胞発生面について検討したので報告する.

Blow-out fracture—3自験例のMultiprojection CT所見と術後経過との関連

著者: 山本祐司 ,   桜井勝 ,   浅利正二

ページ範囲:P.1075 - P.1080

I.はじめに
 Blow-out fractureは,1957年Smith and Reganにより最初に報告された特異な眼球運動障害を主徴とする疾患である15).本疾患の診断としては,これまで外傷機転,眼球運動障害などの臨床症状に加えて,補助診断法としてWaters法などによる頭蓋単純および断層撮影が行われてきた,一方,computed tomography(CT)を用いることにより,眼窩内の軟部組織,すなわち眼球,視神経,外眼筋,眼窩内脂肪,更には眼動派,上眼静脈などの形態を詳細に把握することが可能となり14,16),本疾患の診断においてもCTの果たす役割は大きい.
 最近われわれは3例の本疾患を経験し,いずれも手術的に処置したが,この診断過程において,従来の検査法に加えてaxial,coronal,Towne(half axial).semisagittalなど種々の方向からmultiprojection CTを行うことにより,洞内に陥入した骨折片や軟部組織の状態,および外眼筋との関係をより詳細に把握することができた.今回,各症例ごとに,これらのCT所見と,術後の経過や予後と対比して検討することにより若干の新しい知見を得ることができたので報告する.

一側頸動脈結紮術を施行した巨大脳動脈瘤のCT scanによる追跡

著者: 吉田誠一 ,   江塚勇 ,   大塚顕

ページ範囲:P.1083 - P.1086

I.はじめに
 microsurgeryの導入により,脳動脈瘤の手術成績は著しく向上したが,直径25mm以上の巨大脳動脈瘤に関しては,動脈瘤とparent arteryとの正確な位置関係の把握が困難なために,直達手術を断念せざるを得ない場合も多い.われわれは,比較的稀とされている直径25mm近くの巨大前交通動脈動脈瘤に対して,総頸動脈結紮術を施行し,この巨大脳動脈瘤のhemodynamic stressに対する変化をCT scanで追跡し,その病理解剖所見と対比する機会を得たので,症例を報告し,巨大前交通動脈動脈瘤に対する総頸動脈結紮術の効果について考察を行った.

先天性頭皮動静脈奇形の2治験例

著者: 呉屋朝和 ,   北野郁夫 ,   木下利夫 ,   三原桂吉

ページ範囲:P.1089 - P.1097

I.はじめに
 頭皮上にみられる動静脈奇形(arteriovenous malformation)はその分類と病因に種々の問題がある7,10).頭蓋内動静脈奇形に比べて極めて稀であり,その1/20ともいわれている11)
 最近,われわれは先天性頭皮動静脈奇形の2例を経験し,巨大な1例については治療上困難な点があったが,小さい1例については容易に切除しえた.ここではそれらの症例を報告するとともに,治療方針について若干の意見を述べてみたい.

先達余聞

James L.Poppen

著者: 牧野博安

ページ範囲:P.1098 - P.1101

 私の半世紀にもわたる人生行脚のうちの1/4世紀はいわゆる外科系の修業であった.その間にいろいろの手術を実際に見学し,一緒に手術のお手伝いをさせていただいたが,本当に手術が上手で,全くの練達の士と思った人は3人しかいなかった.最近では手術法そのものが緻密となり,その上,麻酔・管理法が発達したため,手術そのものを手速くしかも要領よく行う必要がなくなってきたので,見た眼にも華麗な迅速な手順を踏んだ手術法は必要ではなくなった,であるから昔の本当に庭しい芸術を思わせる手術は見られなくなったのではなかろうか?一部の例外を除いて,迅速な脳神経外科はかえって危険視される趨勢にあるように思われる.3人の練達の士とは,中山恒明教授,Dr.Richard B.CattellとDr.James L.Poppenである,このなかでDr.Poppenは唯一の脳神経外科医である,しかもmicrosurgeryは全く行っていなかったので,macroneurosurgeonである.
 Dr.Poppenはもともとはオランダからの移民の子孫で,シカゴのRush Medical Schoolの出身である.Dr.Oldsbergの下で1-2年脳神経外科の手ほどきは受けていたが,Lahey Clinicに来たときは,一般外科,胸部外科そのものに興味を有していて,脳神経外科にはあまり関心がなかったようである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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