文献詳細
私たちの本棚
—D.モリス「人間動物園」/岸田秀「ものぐさ精神分析」/延島信也「迷路の中の女たち」—心のメカニズム−3冊の本
著者: 松本佶也1
所属機関: 1東大病院中央検査部
ページ範囲:P.330 - P.330
文献概要
もはやお読みになった方もあるかと思うが,最近出版された岸田秀の「ものぐさ精神分析」ではわれわれが生きているこの世界,社会も風俗もはたまた男も女も,親子関係や恋愛も"思い込み"や"幻想"のうえで成り立っていて,他者との関係のなかで,自分の存在を確認して安定させているという.それらの幻想の中では,エゴイズムや私的幻想をその成員が平均化して持っているもので,極端にいえば"共同幻想"を構成させているものは,狂った幻想の側面を共同化しているのである.その集団は,その中の賢明な人はもちろんさらに平均的な個人よりも愚かになることすらあり,それを他の共同幻想をもとにしない人からみれば,狂っているか異常としか見えないというわけである.遠くはドイツのアウシュビッツ,近くはわが国の圧力団体などをあげている.先の動物のノイローゼも共同幻想の異常化も,少しずつ進むから気付かず,あまりにも普遍化していると異常とは感じなくなる.私はこのあたりに怖さを感ずる.
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