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文献詳細

雑誌文献

検査と技術11巻6号

1983年06月発行

文献概要

けんさアラカルト

PAM染色—ホウ酸とホウ砂

著者: 林範子1

所属機関: 1東邦大学大森病院中検病理

ページ範囲:P.514 - P.514

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 それはまだ私が検査室に入りたてのころでした.やっとの思いで出来あがった剖検標本を提出してから数日後,腎糸球体基底膜を目的としたPAM染色の依頼を受けたのであります.学生時代の病院実習で染色したことはあるものの,病理検査室に入ってからこの染色は初めて行うものの一つでもありました.本を横に試薬すべてを調整し終えて染色を始めたのですが,成書に記載のある時間を過ぎても切片は真っ白けで全然鍍銀されず,さらに時間をかけても変化がないため,募る不安を先輩に打ち明けてみました."酸化はしたか,液はちゃんと作ったか,高温孵卵器に入れたか"と尋ねる先輩の言葉のゴロ合わせに,不謹慎にも私は,さだまさしの"寂しかないか,お金はあるか,友達出来たか……"というあの「案山子」の歌をなんとなく連想したのであります.
 だんだん自分の行った操作が定かでなくなり,再度染色をやり直してもやはりその結果は同じで真っ白け.そのことを先輩に告げると,腕組みして暫し考え,試薬棚の前で"あなたはこれではなく,こちらのほうを使ったのでしょう?"と,先輩の指はラベルにホウ酸と書かれた試薬瓶を示していました.そしてその横にはゴシック体で四ホウ酸ナトリウム,その下にかっこして小さな字でホウ砂と印刷してある瓶があるではありませんか.考えてみれば,ぱっとホウの二文字しか読まずにホウ酸を使ってしまったようです.先輩は一人でうなずいて,これに違いないと言っており,やり直しの染色はまさしく先輩の一言を裏づける結果となりました.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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